「えっ?ヒノカミくんは冒険者じゃないんだろ?
恩恵がなくて当然じゃないのかい?」
「ヒノカミ様はリリの目の前で、冒険者を一撃で倒しました!
相手はレベル2です!恩恵もない人間がそんなことできるはずがありません!」
「うぇぇっ!?」
「恩恵とは別の力を使っておるからですよ」
上着を脱いだままヒノカミが振り向く。
彼女の胸元は左腕に巻き付いているものと繋がる帯に覆われており、不自然に背中と肩が露出している。
「儂の力の起源はかつて力無き人から生まれ、人により鍛え上げられ、また次の人へ受け継がれてを繰り返してきたもの。
言わば『弱き人々が培ってきた力の結晶』。
受け入れた者に多大な力を与えるという点では神の恩恵と似ておりますが、生い立ちはまるで異なる」
「神が降りてくる前の、古代の話かい?」
「違いますが、そこは今説明せねばならぬものでもないから話を戻しましょう。
この力は儂が受け継ぎ鍛え上げる過程で変質し、その一部を火種として他の人間に譲渡できるようになった。いよいよ擬似的な恩恵ですな。
しかしもちろん恩恵との差異はある。
レベルアップのような急激なステップアップはなく、坂を上るようになだらかな成長を続けます。
また、元が人の力であるが故に神の恩恵以上に人に馴染みやすく、適性による成長速度の差が激しい」
「う、嘘じゃない……!?下界にそんな力があったなんて知らなかった……!」
「あ、神さまは知ってるはずですよ。
僕のスキルになってる二つがそれです」
「そうなの!?……あ、『天神武装』ってやつかい!?
『身体能力を向上』ってあったけど、神の恩恵並の強化倍率だったの!?」
「ヘルメスを除いて、オラリオにこれを知るものは他におらぬでしょう。
そんで今肝心なのはこの力の適性の話。
これは生まれついての強者からではなく、力無き弱者の祈りと覚悟から生じたもの。
この力に最も適合する者とは『才能のない落ちこぼれの凡人』なのですよ」
「なっ、なんだいそりゃ!?」
「幾度も死線を彷徨いながらも諦めず挑み続ける気概があれば尚良し。
例えば『己を弱者と自覚しながらも生きるためにと危険なダンジョンにひたすら潜り続ける』ような。
……さて、つい先程同じような自己紹介をした者がいたな?」
「っ……!」
「待った!そんな力……都合が良すぎる!
何かデメリットがあるはずだ!!」
「たしかに幾つかあります。ですが今のところリリに影響するのは一つだけでしょう」
ヒノカミの力の起源は『ワン・フォー・オール』。
その残り火がベースとなり、歴代最低レベルの才能無しだったヒノカミの中で長い年月をかけ様々な要素を取り込んで変化したもの。
対して神とはそれぞれが特化した権能を持つ、いわば才能の塊だ。
故に『人が積み重ねてきた力の結晶』である火種と『人の秘められた才能を強引に引き出す』神の恩恵は対極に位置する。
「よって二つを同時に宿すと互いの力が反発しあって弱体化し、最悪の場合は死に至る」
「致命的じゃないか!……ってそれじゃあまさかベルくんは、ボクの恩恵のせいで!?」
「ダンジョンに入るには恩恵を受けねばなりませぬ。
それが規則であり、ベルは弱くなることも覚悟の上で恩恵を望んだ。
……まさか反発するどころか更に劇的に強くなるのは予想外でしたが」
「なんでさ!?」
「推測となりますがおそらく貴女のせいかと。『炎を守る炉の女神』殿」
ヒノカミの力は『火種』。そしてヘスティアの権能は『聖火』。
彼女は炎を維持し燃え上がらせることに特化した神だ。
ゼウスにも、ヘラにも、ヘルメスの眷属にも火種を渡して試したが駄目だった。与えた火種を即座に消さねばならなかった。
だがおそらくヒノカミの火種すらも『己が守り育てるべき炎』だと、ヘスティアの恩恵は認識している。
反発するどころかヘスティアの恩恵が火種を守り、更に燃え上がらせているのだ。
「つまり儂とヘスティア殿が組めば、疑似的に『二重に恩恵を与える』ことができる。
そして相乗効果により成長率と強化倍率が跳ね上がる」
「んがっ……ち、ちなみにベルくんの強さって、今どれくらい……?」
「オラリオに来る前はレベル5くらいじゃったが、今はレベル7くらいですかな」
「……都市最強と同じじゃないか!!」
「えっ!?僕そんなに強いんですか!?」
「そしてリリにはそれを超える早さで大成する可能性があります。
ベルも才能はない方じゃったがリリはそれ以上……いやそれ以下ですからな。
……わかるかリリ。儂から見ればお主は至上の輝きを秘めた原石なんじゃよ。
何しろ『最強の冒険者』に至る可能性を持つ逸材。
一千万や二千万どころか億を支払ってもヘスティアファミリアに欲しいと思える価値が、リリルカ・アーデにはある」
「リリに、価値が……最強……!?」
「あくまで可能性じゃ。相応の努力は必要になる……だがワクワクせんか?
虐げられてきた小人族のサポーターが、世界の中心とも言われるオラリオの頂点に立ったなら。
日銭稼ぎが精一杯のくせに、小人族というだけで馬鹿にしてきた万年底辺冒険者共を置き去りにして駆け上がり、上から見下ろしてやるのは。
小人族の誇りだなんだはロキんとこの若作りにでも任せておけば良い。
ただの『リリルカ・アーデ』としてお主の思うがままに世界を振り回すがいい……きっと爽快じゃぞ?」
「……お願い、します!」
「ではヘスティア殿。早速我らの恩恵を彼女に刻むとしようか」
「うわーーーーん!頭が痛いーーーー!!」
娯楽に飢えている神々に知られれば絶対に大騒ぎになる。
しかもヘスティア自身に非はなくとも、ヘスティアだけが特別に恵まれている状況なのだ。
『下界で神の力を使う』というルール違反をしている訳ではないので強制送還までは至らないと思うが、神々の声次第ではギルドからのファミリア解散命令くらいはあり得る。
何としてもこの秘密を守り抜かねば。ベルとリリルカにもしっかりと言い聞かせなければ。
とか思ってたら恩恵と火種を受け取ったリリルカがいきなり全身に炎を巡らせ力を使いこなし、ヒノカミにより推定レベル4相当と判断された。
そして重ねて言うがベルは推定レベル7。二人とも背中の恩恵はレベル1でステータスは底辺値なのに。
一人ならば当人のスキルや素質と押し通す選択肢もあった。
だが二人となれば。しかもヒノカミの仮説が正しい可能性が高まり、今後眷属が増える度に全員が並外れた強さに至るとすれば。
「隠し通せるかこんなもーーーん!!!」
残念ながらヘスティアの叫びは改装により強化された地下の防音壁を貫くことは出来なかった。
そして女神である彼女は祈りを聞き届ける側であり、女神の祈りを聞き届けてくれる存在はいなかった。
これからはただファミリアを強く大きくするだけでなく、都市に貢献し、他の神々と交流を深め、全てが明るみになった時に味方してくれる神が増えるように努めなければと、ヘスティアは決意した。
だが彼女は大切なことを聞き忘れていた。
いや、無意識に尋ねるのを避けたのかもしれない。
ベルがレベル7相当なら、その師であるヒノカミはどれくらいの強さなのかを。