新たなファミリアメンバーが増えたことを祝ってヒノカミがご馳走でも振舞おうとしたが、どうやらベルは今朝ダンジョンに向かう前に客引きに引っかかったらしく、今日の夕食は『豊穣の女主人』という酒場で取る約束をそこの店員としていたらしい。
街に詳しいリリルカによれば高位冒険者に人気の店でありぼったくりの類ではないらしいので、彼女の歓迎会はそちらで行うことにした。
4人で店に入ると、ベルはシルという美人のウェイトレスに親し気に話しかけられ無意識に鼻の下を伸ばしていた。
どうやら彼女が客引きであり、ヘスティアが強引に間に入り露骨に威嚇し始めた。
ヒノカミはぐるりと店内を見渡して、色々と察した。
ヒノカミを見て顔を引き攣らせた者もいたが……祝いの席で揉め事を起こすこともないだろうと気づいていない振りをした。
相手もこちらの意図を汲み取ったようですぐに視線を逸らした。
「では、リリくんの加入を祝って!」
「「「かんぱぁーーーーい!!!」」」
味と量を鑑みれば手ごろな値段設定であったが、4人分となれば決して安い金額でもない。
個人的にとんでもない額の貯蓄があるヒノカミが支払おうとしたが、彼女は一応はヘスティアファミリアの客人でしかない。教会の修繕を一人で行ってくれた恩もある。
ソーマファミリア脱退用に蓄えていた金が浮いたのでリリルカが丸ごとファミリアに提供しようとしたが、それは彼女の稼いだお金でしかもこれは彼女の歓迎会だ。
今回はヘスティアのへそくりとベルの今までの稼ぎをつぎ込んで乗り切ることとなった。
ベルは彼自身の慣らし期間が終わり、リリルカが加わったことで探索を加速させる予定だ。
なので今日の出費はすぐに取り返せるだろうが、ヘスティアは当分バイトの時間を増やさねばならないと内心で涙を流していた。
そして並んだ料理を食べ終え彼らの腹が十分に膨れたあたりで、店に団体客がやってきた。
「「「いらっしゃいませーー」」」
「「「……!?」」」
ロキと、彼女のファミリアの上級冒険者の集団。
彼らを視認した直後、ヘスティアたち4人は一斉に机の下に潜り込み姿を隠す。
ヘスティアはロキと犬猿の仲であることで有名。顔を合わせればどうしても口喧嘩を始めてしまう。
いざと言うときに備えて他ファミリアとの交流を深めておこうと決意した手前、都市最大手ファミリアとの衝突は避けたかった。
そしてヒノカミもまた、明確にロキを嫌っている。正確にはロキだけでなく、あの集団の中で15年目から活動している三幹部を。見つかりたくはない。
リリルカは他の3人の動きに合わせただけであるとして。
(なんでお前も隠れとるんじゃベル)
(じ、実は……あの人……)
彼の視線の先には表情の乏しい儚げな美少女が。
(知っとるか、リリ?)
(……『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン様ですね。
ロキファミリアのレベル5です)
(ほぅ、若いなりに中々優秀じゃな。
……ん?そういえば儂らがギルドに行った時)
(ベル様がエイナ様に尋ねていらっしゃいましたね?)
(あー…………惚れたか?)
(…………////)
(な、なんだってぇ~~~っ!?)
ヘスティアが小声で大声を上げるという器用な真似を披露した。
確かにアイズという少女は、ヒノカミが把握しているベルの好みに合致している。
線が細くてクール系で年上の美少女が、彼のストライクゾーンのど真ん中だ。
(だ、ダメだダメだ!ダメだぞベルくん!
ボク以外の子……それもよりによってロキのとこの子なんてぇっ!!)
(馬に蹴られますぞヘスティア殿。じゃがまぁ、儂も正直厳しいとは思うな。
派閥の垣根を超えた恋愛というのは)
(そ、そんなぁ……)
(とにかく、このまま隠れていても埒が明きません。
食事はすでに終えたのですし、あちらに気づかれる前に勘定を済ませて退店しましょう)
ヒノカミとヘスティアがリリルカの案に同意し、ベルは後ろ髪を引かれる思いで彼女たちの後に続く。
「そうだアイズ!あの話聞かせてやれよ!
帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス!
最後の一匹、5階層でお前が始末しただろ!?
そん時にいた、いかにもな駆け出しのひょろくせぇガキ!」
その時、ロキの眷属の一人の狼人の男が酒の肴にと妙な話を始めた。
「アイズが助けてやったんだがよ、そのガキ叫びながらどっかに行っちまってさぁ!
うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんの!」
つられて他の眷属たちも大笑いを始める。
動きを止めたベルに気づき、3人が振り返る。
(……お前か?ベル)
(うっ、は、はい……)
(ミノタウロスくらいどうとでもなったじゃろ。
それとも力をひけらかさぬよう芝居でもうったのか?)
(い、いえそうじゃなくて)
「違います」
聞こえていないだろうに、ベルの言葉に重なるようにアイズという少女がベートという粗暴な青年の発言を否定した。
彼は、ベルが逃げ出した瞬間しか見ていない。
だから『アイズが助けた』と誤解しているのだ。
「倒したのは私じゃない。その子。
私が斬るより先に、その子がミノタウロスを細切れにしてた」
「はぁっ!?おいおい、碌な装備もないただのガキだったろぉ?
庇ってやるにしてももう少しマシな嘘を……」
「……待てやベート。アイズたん、嘘ついとらん……!」
神は人間の嘘を見抜くことができる。
ロキが嘘を見抜けなかったということは、その発言は真実ということになる。
「ん-……もう少し詳しく聞かせてくれるかい、アイズ?」
「ミノタウロスに追いついたとき、人影に襲い掛かろうとしてる背中が見えた。
上層だから下級冒険者だと思って、急いで助けなきゃって飛び込んだんだけど、私が剣を振る前にミノタウロスの体にいくつもの光の線が走った。
魔石ごとバラバラになったミノタウロスの向こうに、剣を持った白髪の男の子がいた。
……太刀筋が見えなかった。私より速かったと思う」
「「「!?」」」
「その子は私に気づいて、なぜか動きを止めて。
いろいろ尋ねようと近づいたら……逃げられた。
逃げるのも追いつけないほど速かった」
(……恥ずかしかったんか?)
(急に顔を近づけてきたから、パニックになっちゃって……)
(ウブですねぇベル様)
(うぎぎぎぎぎ…………!)
「多分、年下?防具はベートさんの言う通り下級冒険者らしいものだった。
……でも剣はすごかった。シンプルな両刃の直剣で……」
(ベル様の背中のソレですか?)
(儂が与えたものじゃ。とある勇者が使っていたものの複製品よ。
上層なら天神武装が使えるベルに防具なぞいらんし)
(元々、僕は『受ける』んじゃなくて『躱す』スタイルだからね。
多少の怪我ならすぐに治るし、装備は少ない方が戦いやすいんだ)
(ふむふむ)
「アイズ以上かもしれない白髪の少年か。
となるとレベル5か6……そんな強者がオラリオの外から来たなら、もっと噂になってもいいはず……」
「ウチもちぃと調べてみるわ」
「見つけたら教えて、ロキ。私ちゃんと話がしたい」
弱い新人をからかうはずが、気づけば幹部たちとアイズが謎の新人に注目する場に変わっている。
その状況が気に食わず、ベートは強引に話題を変えようとした。
「~~~~っ、ハッ!どうせアイズの見間違いだろ!雑魚に決まってらぁ!
あんな兎みてぇなガキがアイズより強いはずがねぇ!
なぁアイズ、あのガキと俺、番にするならどっちがいい!?」
「そんなことを言い出すベートさんだけはごめんです」
内心好意を持っていたベートを、アイズはバッサリと切り捨てた。
それだけでも彼に相応のダメージが入っただろうが、ここで更なる追撃が走る。
「だから、あの子の方がいいです」
「「「…………は?」」」
「私の見間違いじゃない。本当に私より強かった。
だからあの子とベートさんなら、あの子がいいです」
ベルの背中の剣はドラゴンボールにて、平行世界のトランクスが使っていたものです。
用意したのは村で暮らしていた頃、オラリオに来る前なので事情を知るゼウスとヘルメス以外の神に『刻思夢想』は察知されていません。
特殊な能力はありませんがフリーザすら切り裂く剣なので、この世界ではとんでもない強度と切れ味の超一級品です。