『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第8話 ロキファミリア

 

このアイズ・ヴァレンシュタインという少女。

可憐で儚げな外見とは裏腹に、誰よりも貪欲に強さを求める剣士であり、幼少期より戦ってばかりなので精神的に非常に幼く、重度の天然である。

そもそも恋愛をまともに理解していない。

いつも仲睦まじい様子だった亡き両親に漠然とした憧れがあるくらいだ。

 

だから自分よりも強いと思われる謎の少年に対する興味と好感度が、いつも悪口ばかりで自分と同格止まりであるベートよりも高かっただけのこと。

今の彼女の頭には『どうしたら強くなれるか聞きたい』『そのためにいっぱいお話ししたい』程度の考えしかない。

 

だがそんなアイズの内心を把握できているのは長年彼女の面倒を見てきたリヴェリアというハイエルフの女性だけ。

自業自得だが残酷に振られたベートは彫像の様に石化し、机の下に隠れていたベルは一瞬で茹で上がり、美男美女揃いの眷属たちを心から愛する彼女らの主神ロキは悲鳴を上げる。

 

「アカンアカンアカーーン!

 アイズたんがどこぞの小僧に取られるなんて認めへんでぇーーーー!!」

 

「コッチのセリフだぁーーーー!!」

 

机を跳ね飛ばす勢いで飛び出し叫んだヘスティアに店内の人々の視線が向く。

 

「ドチビ!?お前おったん……その白髪はぁっ!?」

 

「っ、あの子!」

 

「うっ、あっ、あ……!」

 

当然ヘスティアの隣にいたベルたちも人々の視界に入る。

怒涛の展開の連続にほとんどの人間が動けずにいる中、アイズは席を立ってトテトテと歩いていく。

 

「私、アイズ。キミの名前は?」

 

「ベっ、ベル・クラネルです……」

 

「どこから来たの?冒険者になってどのくらい?どうやって強くなったの?」

 

「こらぁ〜〜っ!ベルくんから離れろぉ〜〜っ!

 ベルくんはボクの眷属だぞぉ〜〜っ!?」

 

「よりにもよってドチビの子やとぉーーっ!?」

 

「この神さまの眷属なの?どこに住んでるの?今度手合わせできる?」

 

 

「ごっ、ごっ!ごめんなさぁーーーい!!!」

 

 

アイズからの猛攻に晒されたベルが再び撤退を選択した。

 

「……なるほど、彼が逃げた理由はこれか」

 

「だが、確かに速いの。お主は追えたかフィン?」

 

「目でだけなら。体があの速度に追いつけるかと言われれば難しいね」

 

まさに消えるような速さで、脱兎の如く走り去ったベル。

 

「……また、逃げられた……」

 

「ベルくぅーーーん!ボクを置いて行かないでくれぇーーーっ!!!」

 

「リリ、ヘスティア殿を追ってくれ。

 会計やら何やらは儂が済ませておく」

 

「かしこまりました」

 

ベルを追って店を飛び出したヘスティアを、更にリリが追う。

残ったのはロキファミリアの面々と、彼らの視線を一身に受ける極東の赤い服を着た小柄な少女。

 

 

 

「「「「……!?」」」」

 

「げらげらげら。ようやく儂に気付いたか?

 ……久しぶりじゃなぁロキ、そしてクソガキ共」

 

「っ、テメェ団長に向かってンだその口はぁっ!」

 

「止まれティオネ!」

 

静止の言葉は間に合わず、フィンを敬愛するアマゾネスの少女がヒノカミへと殴りかかる。

 

「ガッ……!?」

 

「其奴らは儂にそう呼ばれても仕方ないんじゃよ、お嬢ちゃん」

 

ヒノカミは迫りくるレベル5の第一級冒険者を、さらに上回る速さで躱した。

ついでにすれ違いざまに彼女の首元を指先で軽く突く。

それだけで彼女は意識を保ったまま崩れ落ち動けなくなる。

 

「お姉ちゃん!?」

 

「お前も動くんやないティオナ!他のモンもや!

 ソイツに手ぇ出すんはあかん……主神命令や」

 

「な、何で……?」

 

「彼女は15年前の、ゼウスとヘラファミリアの関係者だ」

 

「!?でも、ゼウスとヘラの眷属は全員追放処分を受けたんじゃ!?」

 

「彼女はゼウスらの眷属ではなく、客人だったから処分の対象外なのだ。

 ゼウスらと共にオラリオを離れたのも自らの意思で。

 故に彼女がオラリオに戻ることを拒む法はない」

 

「じゃがその実力はゼウスらの眷属にも引けを取らぬ……。

 15年前の話じゃが、儂ら三人もフレイヤの『猛者』も、こやつに敗北しておる……!」

 

「「「!?」」」

 

ようやく目の前の小娘が脅威であると認識した当時を知らぬロキの眷属たちは身構える。

だがおそらく彼らの想定はまだまだ甘い。

彼女とフィンたちの戦いは、一対一ではなかった。

 

「くけけけ、15年も経てば貴様らも多少はマシになるかと思いきや……見込み違いじゃったわ。

 アルフィアとザルドはレベル10に至ったぞ」

 

「「「なっ!?」」」

 

「嘘や……ない……!?」

 

「大変じゃったぞ、ダンジョンの無い環境で二人を鍛え上げるのは。

 ……で、貴様らは15年もの間何やっとった?」

 

「「「…………」」」

 

「三人揃ってレベル6?猪小僧がレベル7?ふざけとんのか愚図共が。

 井の中の蛙で満足しおって、既に火の手が回っとることにも気付かんか?

 そのまま茹でガエルにならんとわからんか?あぁ!?」

 

暴言と殺気をぶつけてくるヒノカミを前に、ロキファミリアの三幹部であるフィンとリヴェリアとガレスは何も言い返すことができない。

まるで蛇に睨まれた蛙のように縮こまっている。

 

 

「やめて」

 

「ぬ?」

 

「リヴェリアたちを悪く言うのは、やめて」

 

「……くけけけ、悪かった。

 飯屋で殺気なんぞ振り撒くのはマナー違反じゃよな。

 この場は儂も矛を収めよう。もう帰るところじゃったしな」

 

良くも悪くも空気を読めないアイズが声を上げたため、ヒノカミは素直に引き下がった。

彼女は子供に甘く、この15年以内に入った眷属にまでロキたちへの怒りをぶつけるような八つ当たりはしない。

 

「あの二人もその内オラリオに戻るじゃろう。

 ギルドからの追放処分も力づくで跳ねのけてな。

 貴様らが『都市最強ファミリア』の座に居座りたいなら危機感を持つことじゃ。

 それができぬなら精々残り僅かな栄光を噛み締めておけ」

 

威圧に呑まれて一歩も動けない他の客の間をすり抜けて、勘定を済ませ、ヒノカミは退店した。

 

 

 

「「「……はぁ〜〜〜〜っ」」」

 

 

「のぅ」

 

「「「うわっ!?」」」

 

ようやく嵐が去ったかと一息ついたら、すぐにUターンしてきた。

店の入り口から顔だけ覗かせたヒノカミが気にせず続ける。

 

「言い忘れたが、そこの負け犬」

 

「っ!?誰が負け犬だコラぁ!」

 

「ベルはアルフィアの甥じゃ。あやつはベルを溺愛しておっての。

 ベルの強さを見抜けず『雑魚』と呼び己の失態を棚上げして笑いものにしようとしたと知れば、間違いなく貴様を殺しに来るぞ。

 早めに遺書書いとけよー。じゃあなー」

 

「……あ?」

 

今度こそヒノカミは立ち去った。とんでもない時限爆弾を残して。

 

これが理不尽な八つ当たりであれば、大切なファミリアの同胞を守るためにフィンたちは命掛けで抗議するだろう。

だがベルが強者だったお陰で大事にならなかったものの、ただの新人なら死んでもおかしくない失態をロキファミリアは引き起こした。

それを酒の席の笑い話にすれば、被害者の保護者が殺意を抱くのも至極当然。

弁明の余地がない。非の打ち所しかない。

 

そしてアルフィアは苛烈な女傑で大罪とされる神殺しすら厭わない。

フィンたち三人も過去に手酷い洗礼を受けた。たかが洗礼で、彼らは死にかけたのだ。

その彼女が今度は明確な殺意を持って殺しに来るとすれば。しかもレベル10になって。

 

 

「んー……無理だね」

 

「ベート……骨は拾ってやる」

 

「骨が残るとも思えんがのぉ」

 

 

 

「……ふざけんなぁぁぁぁああ!!!」

 




原作との展開の違いにより、ロキたちはベルを笑い者にしていません。
『助けた少年に逃げられたアイズ』をからかって笑っていただけです。
よって明確にベルを罵倒したのはベートのみ。
おいおい、死んだわアイツ。
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