『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第9話 神の宴

 

リリルカがファミリアに入り、ようやくソロではなくなったベルは最大到達階層を一気に10階層に伸ばした。

当然、報告を受けたエイナは激怒した。

いくら冒険者歴が長いサポーターと行動するようになったからと言って、冒険者歴半月の新人が行っていい場所ではない。

だが二人はとんでもない量の魔石を持ち帰っており、傷どころか疲労さえ見えない。

冒険者の活躍を補助するギルドの方針として、目に見える実績を示されてはただの受付嬢に過ぎないエイナでは説教するくらいしかできなかった。説教はした。

 

二人が10階層まで足を延ばしたのは、そこにいる『キラーアント』というモンスターが目当てだった。

キラーアントは瀕死に陥るとフェロモンを出し、周囲の仲間を大量に呼び寄せる。

だが二人は新人殺しと名高いその特性を利用した。

レベル1から一気にレベル4相当にまで飛躍したリリルカが、『まともなやり方ではいつまでもこの力に慣れることができない』と荒行を望んだからだ。

そして彼女は巨大蟻の大群に戦いを挑んだ。武器も持たず素手で。

 

そもそも非力なサポーターだった彼女はボウガンや魔剣など道具に依存した戦いばかりで、まともな武器を使った経験がない。

そしてレベル4相当の身体能力で安物の武器を適当に振るえば確実に壊してしまう。

実力はついても貧しいまま。そんな無駄遣いはリリルカにはできない。なので素手でも十分なら素手一択だった。

彼女が習得した天神武装は特に防御力と自己治癒能力を高めるもので、治癒術である不可死犠が使えるようになったベルもいる。多少の無茶をしても問題はなかった。

 

勿論、この荒行は他の冒険者を巻き込まないように階層の隅に移動してから行っている。

……主神から不干渉を命じられていたというのに『リリルカを捕まえ脅迫してヒノカミとかいう女から金を引き出せないか』と画策し二人を尾行していたソーマファミリアのクズ共が人知れず巻き込まれていたが、それは心底どうでもいい話である。

どうやらザニスは一命はとりとめたものの再起不能らしく、統率を失ったソーマファミリアは混迷を深めているようだ。それも心底どうでもいい話である。

 

 

 

同日夜。

 

ヘスティアは神の宴の招待状を手にガネーシャファミリアへと向かった。

ソーマほどではないが引き籠り気質で、パーティーに着ていくドレスすら持ち合わせがないヘスティアは、暇を持て余した神々が頻繁に開く宴への招待をずっと断っていた。

参加したところで周囲から馬鹿にされて不快になるだけだから。

だが今回、彼女は参加を決めた。

その理由は都市の警邏を一身に担う大手ファミリアが用意するであろう豪勢な料理が食べ放題だからということでは……いやその気持ちがあったのも嘘ではないし、実際料理をがっついた上にベルたちに料理を持ち帰ろうとガネーシャの眷属にタッパーを要求したりしていたが。

 

「何をやってるのよあんたは……」

 

「あっ!ヘファイストス!やっぱり来てたんだね!」

 

ヘスティアの一番の目的は神友であり大手ファミリアの主神であるヘファイストスと会うことだった。

ホームはわかっているのだから直接訪ねることもできるのだが、ヘスティアは下界に降りて来てからしばらくは彼女の優しさに甘えてずっと自堕落な生活を送っていた前科がある。

今は綺麗に改装されたがヘスティアが廃教会に住むことになったのも、『いい加減にしろ』とヘファイストスから彼女のホームを追い出された際に、ヘファイストスが最後の恩情としてヘスティアに与えたものがその場所だったからだ。

 

「何よ?言っとくけどお金はもう1ヴァリスも貸さないからね?」

 

「ちがうよ!?」

 

久々の再会だというのに真っ先に金の無心を疑われる有様である。

ヘスティアが彼女のファミリアの門をたたいても門前払いされておしまいだっただろう。

 

「ふふ、冗談よ。聞いてるわよ?眷属ができたし、教会がきれいになってるって。

 ようやく修繕する余裕ができたってことでしょう?」

 

「う”っ……間違ってるけど、間違ってないというか……」

 

眷属ができたこととお金の余裕ができてきたのは事実だが、そのお金は昨晩の歓迎会でゴッソリと減ってしまったし修繕費は全額居候のヒノカミ持ちだ。

ヘファイストスの居候だった頃の自分と比較し、余計に落ち込んでしまう。

居候ってなんだっけ。大家?

 

「あらあら、仲が良くてうらやましいわね」

 

「っ、フレイヤ……」

 

ヘスティアはヘファイストスの後に続く神に顔をしかめる。どうやら二神は一緒に行動していたらしい。

ロキファミリアと並ぶ、もう一つのオラリオ最強ファミリアの主神『美の女神』フレイヤ。

処女神でもあるヘスティアは、男を食い漁るフレイヤのことを露骨に苦手にしている。

 

「おー、ファイたんにフレイヤにー……ドチビ、ここにおったんか」

 

もっとも、ヘスティアがフレイヤ以上に大っ嫌いなのはこのロキなのだが。

 

「何しに来たんだよ君は……」

 

「理由がなきゃ来たらアカンか?……と言いたいとこやけど、今回は理由があんねん。

 ドチビが宴に来る言う噂を小耳に挟んだもんでな」

 

「ふん!あんなことがあった昨日の今日でよくボクの前に顔を出せたものさ!」

 

「あら?ヘスティアと何かあったの?」

 

「まぁな。そんで、顔出したんは昨日の今日やからや。

 ファイたんとフレイヤまでおるのは……いや、ある意味ちょうどえぇか」

 

道化の神である彼女らしからぬ真剣な表情をしたロキは、周囲を見渡した後。

 

 

 

「すまんかった」

 

ヘスティアに深々と頭を下げた。

 

「……へ?」

「ちょっとロキ!?」

「あらあら……」

 

「ダンジョンの中でのことは、冒険者の自己責任や。

 誰かのやらかしで他の誰かが死ぬなんてのも珍しい話やないし割り切らなあかん。

 ……せやけどそれを笑いものにするのはちゃうやろ。

 ファミリアを代表してウチが謝る。……すまんかった」

 

ヘスティアと犬猿の仲であり、彼女よりもはるかに巨大な勢力を持つロキが、ヘスティアに向かって深々と頭を下げた。

見物していた神々の間にもどよめきが広がっている。

 

ロキもせずに済むなら人前で頭を下げるなんてしたくない。しかもよりにもよって大嫌いなヘスティア相手に。

だがロキはアルフィアの……何より『ヒノカミ』の不興を買うわけにはいかないのだ。

こうして大衆の面前で謝罪したという事実は好印象……とはいかないだろうが、少なくともマイナスには働くまい。

天界では自らの愉悦のために様々な悪事を行ったロキだが、今の彼女は下界と家族を愛している。

彼らを守ることに繋がる可能性があるのなら、どんな恥だって受け入れてみせよう。

 

「……嘘だ!ロキがボクに頭を下げるなんて!!

 さてはお前偽物だな!?」

 

「素直に受け止めろやドチビぃ!

 確かにウチは謝ったからな!ベルっちゅうのと……『アイツ』にも伝えときぃ!

 ……そんで、ちぃとこっち来いフレイヤ。大事な話があんねん」

 

「……いいわ。ここにいる男はみんな食べ飽きちゃったもの」

 

勢い任せの謝罪を終えたロキは、フレイヤを連れて二人から離れていった。

 

「……それでヘスティア?あんたは私に何の用があったの?」

 

「あっ、そうだった!

 ねぇヘファイストス、ファミリア同士の交流ってどんなことすればいいの?」

 

「何それ?……ウチと?」

 

「うん。理由は言えないけれど、ボクのファミリアの子たちの味方になってほしいんだ。

 真っ先にヘファイストスが思い浮かんだんだけど、具体的に何をすればいいのかわからなくて……」

 

「丸投げにもほどがあるわね。一体アンタは何を抱えたんだか。

 でもお互いにメリットがないとファミリア同士の交流なんて無理よ?

 傘下に入るならともかく……ん?」

 

「ヘファイストス?」

 

「ヘスティア、あんたがファミリアを結成したのはこの一か月くらいの間の話よね?

 ということはその眷属はまだレベル1なんでしょう?」

 

「へ?うん。昨日もう一人増えて二人になったけど、どっちもレベル1だよ?」

 

「あら、もう二人いるの?到達階層は?」

 

「今日は10階層に行ったってさ」

 

「10階層!?よくそんな優秀な子を……でもそれなら本当に丁度いいかもしれないわね」

 

「?」

 

ヘファイストスの頭の中に己の眷属の一人の姿が浮かぶ。

まだレベル1で、ファミリア内で孤立している問題児。

だが才能と今後の成長を期待している、とある鍛冶師の男が。

 

 

「ヘスティア。ウチの眷属の一人を出向扱いで受け入れてみない?」

 

「へ?」

 

「もうすぐ怪物祭……その後にでもまた話をしましょうか」

 

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