神の宴が開かれているその夜、ロキファミリアのホーム『黄昏の館』の一室に、ファミリアの重要人物が集められていた。
招集されたメンバーはレベル5のアイズ、ベート、ティオネ、ティオナ。
リヴェリアの弟子であるレベル3のエルフのレフィーヤと、フィンが己の後継と見込んでいるレベル4のラウルも同席を命じられていた。
彼等は机に座る団長のフィンと、その両脇を固めるガレスとリヴェリアと向かい合う。
「んで、何の用だ。どうでもいい話なら付き合わねぇぞ。
……オレは一刻も早く強くならなきゃなんねぇんだ……!」
「大切な話さ。ベートにとってもね」
昨晩の一件を受けて急いで強くなるためダンジョンに籠る準備を進めていたベートをなだめながら、フィンが話を切り出す。
「我がファミリアの中核を担う君たちには、知る権利と義務があると僕らは判断した。
まず初めに言っておくが、これから伝えることは他言無用だ。
ギルドからも箝口令が敷かれているからね」
「「「!?」」」
「今から15年前……ゼウスとヘラのファミリアが敗走しオラリオに戻った後の話だ」
当時の二大最強ファミリアであるゼウスファミリアとヘラファミリアは協力し、下界の『三大冒険者依頼』の内の二つ『ベヒーモス』と『リヴァイアサン』を撃破した。
だが最後の一つである『黒竜』の討伐を成し遂げることはできず、眷属のほとんどを失いボロボロになってオラリオに帰ってきた。
「当時僕たちはフレイヤと共に、彼らに戦争遊戯を挑んだ」
その結果、弱体化していたゼウス・ヘラファミリアはロキ・フレイヤファミリアに敗れ、都市追放処分を受けファミリアは解散した。
オラリオに住む一般人でも知っている有名な話だ。
だが事実は異なる。
ロキ・フレイヤ両ファミリアは軍勢を引き連れゼウスらのホームに押しかけ宣戦布告した。
ロキの要求はゼウスとヘラのオラリオ追放。ここまでは誰もが知る通り。
だが同席していたフレイヤが、そこにもう一つ要求を付け加えた。
「それがゼウス・ヘラファミリアに当時客人として迎え入れられていた『ヒノカミの身柄』だった」
「な、なんで!?」
「さてな。フレイヤは人間の魂を見るという。アレにはよほどヒノカミの魂が美しく見えたのじゃろう」
「奴の見る目が正しかったと、すぐに証明されることになったがな」
当時のオラリオにおけるヒノカミと言う存在は『謎の客人』であり、フィンたちにとっても『噂を聞いたことがある』程度の存在だった。
何故そんな相手を手に入れたいと願うのか、ロキもフィンたちも全く理由がわからなかった。
だがそもそも彼女はゼウスらのファミリア所属ではなく、オラリオのギルドに冒険者登録もされていない。
ファミリア同士の戦いである戦争遊戯の勝者の要求に彼女の身柄を挙げるのはあまりに無理があった。
しかしフレイヤは諦めなかった。戦争遊戯を始める前だと言うのに、周囲の人間やヒノカミ自身に魅了を使ってまで彼女を手に入れようとした。
それが彼女の逆鱗に触れた。当然魅了は効かなかったがそれだけではない。
フレイヤの行いは『オラリオのルールに定められているのならば』とこの一件に不干渉を決めていたヒノカミに、戦う理由を与えてしまったのだ。
「彼女はその場でロキ・フレイヤファミリアの軍勢に反撃を仕掛けた。
そして僕らは手も足も出ず、完膚なきまでに敗北したのさ。たった一人にね」
「「「な……!?」」」
「まさか素性も知れぬただの客人が『指南役』であり、『
「英傑と女帝って……歴代最強と言われた!?」
「そうだ。実際に対峙した時に感じた圧はあの二人以上だった。
女帝は前人未到のレベル9、そして今のアルフィアらがレベル10だと言うのなら……彼女らを鍛えることができるヒノカミは『最低でも』レベル11以上ということになる」
「「「レベル11!?」」」
「傷一つつけられなかった。刃を届かせることすらできなかった。
対して彼女には『手加減する余裕』すらあったんだ。
百人規模の軍勢の、誰一人として重傷を負っていなかったんだから。
そして僕らを一人残らず戦闘不能にしたヒノカミは、そのまま主犯であるロキとフレイヤを送還しようとした」
「「「!?!?!?」」」
そこにギルド長のロイマンが飛び込んできて待ったをかけた。
ゼウスとヘラファミリアが事実上壊滅したというのに、それに次ぐロキとフレイヤのファミリアまで消滅してはいよいよオラリオは立ち行かなくなってしまう。
だが重ねて言うが、ヒノカミはギルドに登録していない。ギルドの命令に従う理由がないのだ。
ロイマンはあの手この手で懐柔しようとしたが彼女の怒りが収まることはなかった。
ロキたちが窮地に陥ってようやく出てきたことから、ギルドがゼウスたちを切り捨てる決定をしたことは明白。
だからヒノカミも、ギルドとオラリオを切り捨てた。
邪魔をするロイマンの顔面を容赦なく殴り飛ばし、大罪である神殺しを敢行しようとした。
その寸前に、ゼウスが『オラリオ追放処分を受け入れる』と宣言したのだ。
彼の意図を悟り、ヒノカミはようやく動きを止めた。
そして彼女はゼウスらと共にオラリオを立ち去った。
「ゼウスとヘラとその生き残りたちは僕らに敗北して追放されたんじゃない。
次のオラリオを引っ張っていくことになる僕らを『ヒノカミから守るため』に自分から身を引いたんだ。
戦いを挑んだ相手に情けをかけられ生き延びてしまった無様な負け犬……それが、僕たちオラリオ二大派閥の正体だ」
「「「…………」」」
「故に、ヒノカミが我らに抱く怒りは至極当然のものだ。
どれほど怠慢を責められても、我々には何も言い返す資格がない」
「儂らも15年前よりは強くなったという自信はある。
だがゼウスらに並び超えたかと言えば……言うまでもなかろうて」
当時のヘラファミリア団長『女帝』レグナントがレベル9。
ゼウスファミリア団長『英傑』マキシムがレベル8。
それぞれのファミリアの生き残りであるアルフィアとザルドも既にレベル7。
レベル差を覆してそれぞれに団長に勝利する可能性があるとも噂される強者だった。
対して、15年経った今のオラリオ最強はフレイヤの『猛者』オッタルでレベル7。
次いでロキファミリアの三大幹部『勇者』フィン・『九魔姫』リヴェリア・『重傑』ガレスがレベル6。
アルフィアたちは15年かけてダンジョンもない環境でレベル7から10まで上げたと言うのに、結果的に彼らをオラリオから追いやったフィンたちがこの有様では、失望されても無理はない。
「次のオラリオを担う予定の二大派閥が素性も知れぬたった一人に完全敗北したなどと知れ渡れば、『世界の中心』を謳うオラリオという都市そのものの沽券に関わる。
幸いにもこの戦い……いや、一方的な蹂躙を目撃していた者は関係者以外はいなかった。
だからギルドは箝口令を敷き、『ゼウスとヘラはロキ・フレイヤの軍勢を前に膝を屈しオラリオを去った』という嘘をでっちあげたのさ。
ヒノカミの力も所業も徹底的に隠蔽して……いや、そう大した手間はかからなかっただろう。
実際に目の当たりにしなければ信じられない話だからね」
だからギルドのロイマンと、当時居合わせたロキとフレイヤの眷属以外は、ヒノカミの脅威を知らない。
ヒノカミは本来なら間違いなく指名手配される規模の騒動を起こしたが、その騒動そのものがギルドによりもみ消されているのだから犯罪者にならなかったのである。
よって都市の憲兵であるガネーシャの眷属に止められることもなく、彼女は悠々と再びオラリオに足を踏み入れたわけだ。
「……長々と語ったが、つまりはこういうことだ。
『オラリオはその総力を挙げても、ヒノカミという正体不明の女一人に勝てない』。
主神がどこの誰かもわからないのだから、主神をどうにかして恩恵を封じるという手も使えない。
だから絶対に手を出すな。幸いにも彼女は理由がなければ自分から喧嘩を吹っ掛ける性格でもないようだからね」
「「「……」」」
「負け犬呼ばわりを受け入れろってのかよ!あぁ!?」
「呼ばわりもなにも、僕も君も『負け犬』なのさ、ベート。
アルフィアは10代で既にレベル7だった。
そして当時の彼女よりも年上である君はまだレベル5。
レベル6の僕も、レベル7だがすでに30を超えているオッタルも、全員彼女に負けているんだ
その師となっているヒノカミと比較すればどうかも言うまでもないだろう?」
「……っ」
「『雑魚を雑魚と呼んで何が悪い』。お前の口癖だったな。
奴からすればお前も私たちもオッタルも、オラリオの全ての冒険者が等しく『雑魚』だ。
ならば彼女に『雑魚』と呼ばれても、それを拒絶する資格はお前にはない」
「物申したいなら最低でもレベル9になってからすることじゃな。
しかし時間をかければかけるほど、アルフィアらは更に高みへと至るぞ」
「~~~~っ、クソッ!」
ベートもそれ以上言い返すことはできず、沈黙の中でその場は解散となった。
過去を知った若者たちの心は、正体不明の女への警戒と恐怖で占められていた。
(……どうすればそんなに強くなれるんだろう……)
ただ一人、強くなることにどこまでも貪欲なアイズだけを除いて。
原作と違いアルフィアとザルドがオラリオの踏み台になっていませんが、ヒノカミにボコボコにされたことで危機感が強まったので、結果的にロキとフレイヤのファミリアは原作とほぼ同じ強さに至っています。
ですが彼等以外はそうではなく……結果的に暗黒期の顛末は原作と同じ流れを辿ったことになります。