『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第11話 怪物祭

 

怪物祭。

年に一度オラリオで開かれる祭で、主催はギルド、運営はガネーシャファミリア。

ダンジョンから生かしたまま連れて来たモンスターを、闘技場の舞台で大勢の民衆が見守る中で調教し、屈服させるまでの過程を見せるというもの。

 

人によっては『何が面白いの?』と言ってしまうような催しなのだが、こう見えて中々需要はある。

まず冒険者でない人間に、間近でモンスターを見る機会というものはほとんどない。

オラリオの外にもモンスターはいるがどれもダンジョンにいるものより小さく弱く、ほとんどはゴブリン程度だ。『黒竜』なんて例外もいるにはいるが。

そして到達階層の低い冒険者にとっても、いずれ出会うであろう強敵を先に観察し対策を検討できる貴重な機会でもある。

ガネーシャファミリアは都市でもかなり規模の大きいファミリアだ。

彼らが連れてくるモンスターには、レベル1では到達できない階層の個体も多い。

意欲溢れる新人を抱えるファミリアは積極的に観戦するよう促している場合もあるという。

 

そして人が集まれば活気と需要が生まれる。

闘技場のある東のメインストリート一帯に通行人と、儲けを期待した屋台が溢れるわけだ。

 

田舎育ちで大規模な祭りを経験したことがないベル、オラリオ育ちだが貧しく娯楽に現を抜かす余裕がなかったリリルカは、今日ばかりはダンジョンに行かず子供らしくはしゃいでいる。

その後ろを少し距離を取って歩くヘスティアとヒノカミは、まさしく彼らの保護者だった。

 

「……ねぇ。聞いていい?」

 

「ん?」

 

ベルとリリルカには聞こえていないと判断し、ヘスティアは切り出す。

 

「この間の神の宴でロキと会ったんだけどさ……アイツが怯えてるのってキミだよね?

 豊穣の女主人でボクが飛び出した後何かあったの?

 それとも、15年前に何か?」

 

「ロキとフレイヤのファミリアを半壊させた後であ奴らを送還しようとしただけです」

 

「想像以上にガッツリやらかしてた!?」

 

既にヘスティアにも大まかな事情は伝えている。

かつてヒノカミがゼウスのところにいたことも、ベルがゼウスとヘラの眷属の子であることも、故郷にてゼウスらの生き残りと共に修行をしていたことも。

 

「えぇ~~……それだけ暴れてよくオラリオにまた来られたね」

 

「ヘルメスから、儂が暴れた件はギルドが隠蔽したと聞いておりましたので。

 15年も経てば当事者であるロキとガキ共ですらすぐには思い出せん有様です」

 

「……ロキのとこにはドワーフにハイエルフもいたよね?それを『ガキ』ってことは……」

 

「げらげらげら。まぁ2桁で収まらんことは確かです」

 

神の恩恵を受けた者は老化が遅くなると言う。そしてヒノカミは神の恩恵に近しい力を持っているとも聞いている。

であれば、15年前とはいえロキ・フレイヤファミリアを半壊させるほどの力を持つヒノカミならば、その姿が未だに少女のままであっても納得できないことはない。ヘスティアはそう結論付けた。

そもそも神であるとはいえヘスティアの方が見た目幼いし。胸のメロンを除いて。

 

「それで、負け犬のやらかしをロキが謝罪してきたと?」

 

「え、うん。ヘファイストスとフレイヤもいた場で」

 

「ん~~……見抜かれた?いや、数度の会合でそれは流石にないか。

 直感まで優れておるとは『トリックスター』の異名は伊達ではないな」

 

自分の力で大体のことはできるし大体の物は手に入れられるヒノカミには、賠償やらを提示して有耶無耶にしようとするのは逆効果だ。開き直るのも同様。

正解は『正面からしっかりと謝ること』。

ちゃんと誠意を見せられ反省を態度で示されたら、ヒノカミは許すしかなくなる。

直接被害を被ったのは彼女ではなくベルだということもある。そしてそのベルは『気にしていない』と言う。

負け犬当人が謝ったわけではないのでモヤモヤは残るが、ヒノカミはこの件に関して蒸し返すのはやめると決めた。

ただしアルフィアがどうするかは知らない。

 

「……ちなみに、もし謝ってこなかったら?」

 

「闘技場貸し切って観衆とアイズという嬢ちゃんの前でベルとあの負け犬に決闘させて身の程をわからせようかと」

 

「鬼かいキミは!?」

 

負け犬……ベートとやらがアイズに気があるのはヘスティアの目で見ても明らか。

『凶狼』の二つ名を持つレベル5。レベル6に近いようだが『最近ようやくレベル7相当の力に慣れてきた』らしいベルの敵ではあるまい。

オマケにベルにはヒノカミの火種……天神武装とやらから生み出される切り札まであると言うではないか。

絶対に可哀そうなことになる。二つ名変わっちゃう。本当に『負け犬』にされるかもしれない。

 

「……って、そういえばフレイヤの方はどうなんだろ?

 キミがオラリオに戻ってきてることを知ったらあっちも大変なことになるんじゃ……」

 

「……知ってはおるでしょうなあ」

 

もはや知る者は少ないだろうが、『豊穣の女主人』の店主『ミア・グランド』は元フレイヤファミリアの団長だ。

レベルは6。半ば冒険者を引退しているようだが恩恵は残っている。

彼女を通じてフレイヤにまで情報は届いているはずだ。

……いや、そもそもあの場には。

 

「……ダンジョンの中でベルたちに手出しされるとどうしようもないが、地上で奴らが動けば儂がなんとかします」

 

ヒノカミは恩恵を持っていない。ギルドに登録しておらず冒険者ではない。

オラリオの規則として、冒険者でなければダンジョンに入ってはいけないことになっている。

だからどれだけ圧倒的な実力があっても、ヒノカミはダンジョンには入らない。

 

「なんとかするにしても、手心を加えてもらえるとありがたいけどね」

 

「ご安心を。一線を越えぬ限りはギルドやファミリアそのものを殲滅したり、神を送還したりはしないとゼウスと約束しておりますので」

 

「うん、その一線とやらがまさに生死の境目なんだね。

 緩めの位置に引かれていることを願うよボクは」

 

 

 

 

さて、その噂のフレイヤは今どうしているかと言うと。

 

「待たせたか?」

 

「いえ、少し前に来たばかりよ」

 

怪物祭でにぎわう東メインストリートのとある喫茶店で、アイズを伴ったロキと密会していた。

 

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