『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第12話 密会

 

ガネーシャファミリアでの神の宴でこの密会の約束を取り付けたロキは、全身を真っ黒なローブで隠したフレイヤと向かい合う。

議題はもちろん、ヒノカミのオラリオ再訪についてだ。

ギルドから箝口令が敷かれているし、ロキたちとしても他の神の連中に知られたい話ではない。

よって人目を忍ぶ必要があったわけだ。特にフレイヤは目立ちすぎるので徹底的に姿を隠さねばならない。

 

フレイヤも豊穣の女主人での一件は把握している。

かつて己の眷属たちをたった一人で鎮圧し、神である自分まで送還しようとした謎の女がオラリオに戻ってきた。

そして自分たちが追い出したアルフィアとザルドがレベル10に到達した。

ヒノカミはどうやら今のところ自分たちに手を出すつもりはないようだが、それがいつまで続くかは不透明なまま。

ふとした拍子に自分たちの殲滅に動くかもしれない。

何よりそうされてもおかしくない所業を、自分たちは既にしてしまっている。

 

ヒノカミはいつどこで爆発するかわからない爆弾だ。

そしてその火力はオラリオどころか世界すら揺るがしかねない。絶対に爆発させるわけにはいかないのだ。

 

ロキからの提案は二つ。

 

一つは、ロキ・フレイヤファミリアの交流を進めること。

今の両ファミリアの関係は競い合いではなく足の引っ張り合い。

これでは眷属の成長は期待できない。

協力しての遠征とまではいかずとも、眷属たちの行動にルールを定めたい。

最低でもダンジョン内での妨害行為は禁止としたい。

 

もう一つは、ヘスティアファミリアへの不干渉。

ヘスティアの眷属のベルはアルフィアの甥であり、アルフィアは彼を溺愛しているという。

ヒノカミは今のところ自制しているようだが、アルフィアは『我慢』などという言葉とは無縁の暴君だ。

そしてヒノカミに劣るとしても十分すぎる火力を備えている。

彼女の爆発がヒノカミに誘爆する可能性すらありえる。

 

「どや?妥当なところやろ?

 細かいルールは互いの子供らも交えて……」

 

「お断りするわ」

 

「…………は?」

 

断られると思っていなかったロキは思わず聞き返す。

 

「ごめんなさいロキ。貴女の言っていることも、考えていることも正しいわ。

 けれど私は約束できないの」

 

「はぁっ!?こんなん最低ラインやろ!?なんで……っ」

 

互いのファミリアで喧嘩しないよう眷属たちに言い含める。

これは他の神ならともかくフレイヤなら簡単なはずだ。

彼女の眷属は皆彼女の狂信者。どんなくだらない命令だろうと納得できない命令だろうと、全身全霊で命を懸けて殉ずるだろう。

であれば、彼女が守れないというのは。

 

 

「お前まさか……まだヒノカミを諦めとらんのか!?」

 

「……ふふっ」

 

 

叫ぶと同時に勢いよく立ち上がったロキは、すぐに力なく椅子に身を預け掌で頭を抑える。

 

そうだった。『我慢』なんて言葉を知らないのはアルフィアよりむしろフレイヤの方。

美貌と魅了で何もかも思い通りになるのが当たり前な美の女神は、どいつもこいつも唯我独尊を地で行く暴君ばっかりだ。

これでも歓楽街を支配するイシュタルよりはマシで、脳足りんのアフロディーテが一番無害だというのだから、美の三大女神は本当に終わっている。

 

「わかっとんのか……もうゼウスはおらん。

 アルフィアらが育った今、アレがウチらを見逃す理由もない。

 眷属もお前もただでは済まんぞ?」

 

「わかっているわ。でも欲しいんだもの。……どうしても」

 

「……そか。お前なんぞと足並み揃えられると思うとったウチがアホやった」

 

席を立ったロキはフレイヤに背を向ける。

アルフィアとヒノカミ、どちらが爆発してもオラリオは無事ではすまない。

どれだけ距離を取ってもロキは爆発に巻き込まれるだろう。

ならば爆発させないように全力を尽くすしかない。

 

「せやったら、ウチらはお前の敵に回らせてもらうわ。

 お前からドチビを守ることでヒノカミらに恩を売るとしよか」

 

「あら、そんな掌返しが彼女たちに受け入れられると思って?」

 

「ドチビやったら受け入れる。アイツがどれほどお人好しのアホかはウチが一番よぅ知っとる。

 それにウチは『道化』の神……お道化(どけ)て取り入るんは得意分野やでぇ?」

 

細い目の奥の瞳を不吉に光らせ歪に口角を吊り上げたロキは、アイズを連れて立ち去って行った。

 

 

 

 

「……違うわ、ロキ。確かにヒノカミへの興味は尽きないけれど、今私が欲しいのは彼女じゃない」

 

15年前。フレイヤが初めてヒノカミの魂を見た時『太陽のようだ』と思った。

暖かく、眩しく、近づきすぎれば焼き尽くされてしまうかもしれないが目を惹かれずにはいられなかった。

あんな魂を持つ人間が存在するという事実が恐ろしく、だがそれ以上に興味が勝った。

傍に置きたいと思った。己の欲求を抑えられなかった。

結果は手ひどく振られてしまい天界へと送り返される寸前にまで陥るという散々なものだったが、フレイヤは今でも後悔していない。

 

ヒノカミがオラリオに戻ってきたことなんて、彼女がオラリオに辿り着く前からわかっていた。

神すらも圧倒する巨大な輝きが近づいてきていたのだから。あんな光を放つ魂が他にいるはずがない。

まだ彼女へ焦がれる気持ちが残っていたフレイヤは、直接姿を視認できる距離まで彼女が近づいて来てすぐにバベルの上から視線を送った。

 

そして目にした。太陽の傍に寄り添う輝きを。

透き通って、綺麗で、隣に並ぶ巨大な光にかき消されそうなほど儚くとも確かに存在している小さな光。

 

 

美の女神は小さな少年に恋をした。

 

 

都会の街並みに目を輝かせる純粋さに心が和み。

神々にファミリア入りを断られ落ち込む姿すら愛おしく。

彼に選ばれたヘスティアに嫉妬すらした。彼の隣に立ち続けるヒノカミにもまた。

 

彼の特別になりたい。

彼の傍にありたい。

笑顔も、泣き顔も、寝顔も、その全ての表情を自分だけに向けてほしい。

 

(あぁ、彼こそが私が長年待ち焦がれた……)

 

そのためならばなんでもしよう。なんでも捧げよう。

隣に輝く太陽の熱に、今度こそ焼かれてしまうことになっても。

かつて己に焦がれた男たちの末路のように、自分自身が破滅することになっても。

 

 

「ウフフフフ……」

 

 

我儘で、傲慢で、自分勝手で、どこまでも無邪気に残酷に己の欲求のために全てを振り回す。

 

それこそが美の女神である。

 




ベルの心の清らかさは原作のままですが、ヒノカミの火種を受け取ったベルの魂の輝きは原作よりもけた外れに強いので、フレイヤの眼がかなり強火で焼かれています。
なので原作よりもはるかに執着が強く暴走気味になっています。
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