『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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ベルの隣にヒノカミがいるため、下手なモンスターをぶつけても意味がないとフレイヤは理解しています。
よって祭のモンスターが彼女の手引きで逃げ出す展開は省略されました。


第13話 『私の英雄』

 

「「…………?」」

 

「どうしたんだいベルくん、リリくんも?」

 

「師匠、なんだか……」

 

「揺れとるな。地震か?……違うな」

 

ヒノカミは言葉にしてすぐに発言を撤回した。

何かが地下から少しずつ昇ってくるような振動、これは絶対に地震ではない。

 

「震源は……あっちですか?」

 

リリルカが指さした方向のずっと向こうで爆発が起き、煙とともに何かが姿を現す。

 

「……モンスター!?まさか、祭で調教するっていう!?」

 

「よく見えないけど、デカすぎない!?

 ガネーシャはあんなのまで捕まえてたのかい!?」

 

「あんな大きなもの、無理に決まってますよ!

 さっきの振動……たぶん地下からあれが出てきたんです!!」

 

「まさかダンジョンから!?」

 

巨大な蛇のようなモンスターがうねうねと動いているのが見えた。

まもなく届く轟音。おそらくそう遠くない場所に冒険者がいて迎撃に当たっているのだろうが。

 

「……あれは多分、レベル4クラスじゃな」

 

「「「!?」」」

 

「街中で被害を抑えて速攻で仕留めるとなれば、レベル5はないと苦しいか」

 

それ以下ではおそらく死人が出る。今は祭で、街には人が溢れているのだから。

そしてオラリオでレベル5以上なんて数えるほどしかいない。

だがこの場にはレベル7相当の戦士がいる。

 

「助けなきゃ!神様、行ってきます!」

 

「あっ!ベルくん!?」

 

事態の重さを把握するや否や、ベルが一人で飛び出してしまった。

ベルなら確実に勝てる相手ではあるし、愛剣はこの祭りでもちゃんと背中に背負っている。であれば後れを取ることはあるまい。

 

「ここから結構距離ありますよね?

 傍に強めの気配がいくつかありますし、ベル様がついた頃には終わってるんじゃないですか?」

 

「だとしても動かずにおれんのが英雄(ヒーロー)というものよ。

 ……どれ、儂も見に行くか。リリはヘスティア殿を頼む」

 

「お任せください」

 

「ベルくんを頼むぜ、ヒノカミくん!」

 

無言で頷いた後で改めて視線を向けたヒノカミは、戦場の上空へと転移する。

 

 

 

「……ふむ、ロキんとこの子らか」

 

先にモンスターと戦っていたのはアイズという少女と、アマゾネスの姉妹。

エルフの娘は負傷しているらしく、居合わせたギルド職員のエイナに介抱されている。

そしてどうやら蛇ではなく花のモンスターだったらしく、一体目は即座に倒されたようだが新たに三体が出現していた。

モンスターの攻撃は必死に関心を引こうとしているアマゾネスを無視してアイズに集中している。

おまけにどうやらアイズの武器は壊れてしまっているようだ。

 

「レベル5が3人、しかしいずれも武器無しか。さすがに状況が悪すぎたかの」

 

だがヒノカミは見ているだけで助けない。

オラリオの民と街を守るのはオラリオの冒険者の使命だ。

すでに一度オラリオを見限ったヒノカミがでしゃばるべきではない。

そして何より、子供であろうと自らの意思で戦場に立ったのならば戦いで死ぬのは当然の帰結だ。

 

 

「なんで、あとは任せたぞ。ベル」

 

 

「アイズさぁーーーーーーーーーーん!!!」

 

「「「!?」」」

 

途中で想い人の気配に気づき、更に速度を上げて街を駆け抜けてきたベルが遅れて戦場へとたどり着いた。

即座に周囲を見渡し状況を把握、ベルは背中の剣を抜き。

 

「使ってください!!」

 

武器を失っているアイズに向かって投げた。

剣は回転しながら軌跡上にあるモンスターの体を切り裂いて、アイズの伸ばした手に収まる。

 

「っ!?」

(軽い……のに、なんて重い……!?)

 

オラリオに来る前にヒノカミが能力で複製した、たった一人で世界を守るために戦い続けた異界の英雄の剣だ。

その歴史まで含めて忠実に再現された一振りに込められた重さを感じながら、アイズは剣を振るう。

 

ズバッ!!

 

「やっぱりこの剣、すごい……!」

 

見た目はただのロングソードだ。だが硬く、鋭く、強い。

先ほど折れてしまった間に合わせの剣はそれでも数千万ヴァリスはする名剣だが、比べ物にならない。

 

 

アイズに武器を投げ渡したベルはすぐに踵を返し、負傷しているレフィーヤの傍に着地する。

 

「ベルくん!?」

「ゲホッ、アナタは……」

 

「すぐに治します!我慢してください!」

 

ベルはエイナを押しのけ掌をレフィーヤに押し当て、白い炎を放出する。

 

「……えっ?痛みが……傷が!?」

 

「まさか回復魔法!?ベルくん、そんなものまで……!」

 

まだ満足に使いこなせない不可死犠の炎だが、今のレフィーヤの傷を癒すには十分だった。

 

「っ!?」

 

安堵しかけたベルは即座に表情を引き締めレフィーヤとエイナを両腕で抱き上げその場を飛びのく。

 

「キャァァァッ!!」

 

「このモンスター、なんでいきなりこっちを!?」

 

花のモンスターの1体が狙いをアイズからベルへと変え襲い掛かってきた。

 

「そこのアンタ、聞こえてる!?」

「コイツらは魔力に反応するんだよ!!」

 

「っ、それなら……!」

 

アマゾネスの姉妹の助言を受けたベルはレフィーヤたちを降ろしてすぐに天神武装を全開にして離れる。

モンスターは置き去りにされた無防備なレフィーヤたちを無視してベルを追う。

アイズを狙っていた2体も照準をベルへと変えた。

 

 

「……はぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!」

 

 

周囲でも一際高い建物の屋根の上に立ったベルは全身を包む炎を掌へと集中させ。

 

 

「「「「「…………!?」」」」」

 

 

虹色に光り輝く剣を抜いた。

太陽の逆行で浮かび上がったシルエットはまさに物語の英雄のよう。

 

 

「……来い!僕が相手だ!!」

 

 

凝縮され実体化したエネルギーの塊。3体のモンスターは一斉にベルへと殺到する。

だがベルは焦ることなく目を閉じ、深く深呼吸すると。

 

 

「……疾ッ!!」

 

 

残像を残して駆け抜けた。

光の剣を振りぬいた姿勢のまま地面に焦げ跡をつけながら着地し停止したベルの背後で。

 

 

ズババババババッ!

 

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

3体のモンスターすべてが、一瞬遅れて細切れとなった。

 

「嘘……斬ったの!?あの一瞬で!?」

 

「見えなかった……見えなかったよ、全然……!」

 

「このヒューマン、まさか、ホントに、アイズさんより……!?」

 

「ベルくん……貴方、こんなに強かったの……!?」

 

 

 

「…………ふ~~~っ」

 

 

光の剣を消したベルは大きく息を吐く。

 

「恩恵で持続時間は伸びたけど……やっぱり消耗が激しいなぁ……。

 完成にも程遠いし……」

 

自分の天神武装の出来に満足できていないベルはつぶやくが、すぐ傍にまで来ていたアイズに気づいて声をかける。

 

「あっ、アイズさん!無事でしたか?ケガしてませんか?」

 

「…………」

 

うつむいたアイズは無言で両手を前に出す。

その手に握られたままの自分の剣を返すつもりだと思い込み、ベルはこちらも手を伸ばす。

 

 

ガシッ

 

 

「えっ!?」

 

アイズは剣を受け取ったベルの手を、しっかりと両手で握りしめた。

困惑するベルの目の前で、アイズが顔を上げる。

 

 

 

 

「見つけた、私の英雄……!」

 

 

 

 

顔を赤らめ、目じりに涙を浮かべながら穏やかにほほ笑む少女。

 

 

「!?!?!?!?」

 

それは少女に恋する少年をオーバーキルするには十分すぎる威力を持っていた。

一瞬で茹だった頭が機能を停止し、そのまま崩れ落ちる。先ほどまでの雄姿はどこへやら。

 

「っ、ベル?ベル!?」

 

驚いたアイズが屈んでベルの体を抱き上げ必死に揺らす。

まるでアイズがベルに膝枕をしているような姿勢になり、アイズに心酔するレフィーヤは殺意すら滲ませるがたった今自分を救ってくれた相手にそんな無礼はできないと歯噛みし、ベルがアイズに恋心を抱いていると察していたエイナは見た目通りに子供らしい彼の一面に安堵し苦笑する。

 

 

「ベルはこちらで回収させてもらうぞ」

 

「「「!?」」」

 

 

彼女らの傍に気づかれず降り立ったヒノカミが、意識がないままのベルを担ぎ上げる。

 

「あ…………」

 

「実力は御覧の通りじゃが、ベルはレベル1の新人でヘスティアファミリアは新興弱小ファミリアじゃ。

 こんなでかい事件に巻き込まれたと話題にされるのは避けたい。後始末は任せたぞ」

 

おあずけを食らったような悲しい表情をしたアイズを無視して、ヒノカミはエイナに釘を刺す。

 

 

「ちょい待ちぃやヒノカミ!!」

 

 

ベルを抱えて立ち去ろうとしたヒノカミを、隠れていたロキが呼び止めた。

無言で鋭い視線を向けられたロキはしかしおびえることなく、努めて笑顔を保ち言葉を続ける。

 

「フレイヤの色ボケが、まだお前を狙とるかもしれん。

 流石にこのモンスターとは無関係やと思うが、気ぃつけときや」

 

「…………」

 

フレイヤが自分を見ていたことなどオラリオに来た時から気づいていた。

しかしその直後、彼女の視線がどこに向いたかといえば。

だからロキの忠告はとんだ見当違いであり自分にとって何の得にもならない、どうでもいいものではあったのだが。

 

「……胸に留めておこう」

 

「!?お、おぅ」

 

逃げ遅れた子供を体を張って守っていたロキの言葉を素直に受け取ることにした。

流石に転移する瞬間を見られるのは目立ちすぎるので、ヒノカミはベルを抱えたまま飛び去った。

二人が消えた方角を、アイズはずっと見つめ続けていた。

 

 

 

 

その晩。ロキは妙な焦燥感に駆られたアイズに乞われて、先日の遠征の後に更新したばかりの彼女の恩恵をもう一度更新した。

そして彼女の背中に現れたスキルを見たロキの絶叫が、彼女らのホームに響いた。

 

 

 

 

「アイズたんが寝取られたぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 




・天神武装『偽・次元刀』
ベルの天神武装。
適性があったわけでも能力に惹かれたわけでもなく、ただヒノカミが見せた数々の武装の中で『一番見た目がカッコよかったから』という純粋で子供らしい理由により生まれたもの。
今のベルでは次元を切り裂くことはできず、ただ切れ味が良いだけの剣でしかない。
それでも消耗は著しく、短時間しか具現化できない。

・スキル『憧憬一途(リアリス・フリーゼ)
早熟する。
懸想が続く限り効果持続。
懸想の丈により効果向上。


ヒノカミがテコ入れしたベルが強すぎるので、それを追いかけるアイズの方にこそ成長促進スキルが必要になります。
原作のベルほどの成長速度ではありませんが。
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