『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第15話 魔剣

 

ヴェルフ・クロッゾ。

ヘファイストスファミリア所属の鍛冶師で、レベル1。

そう、レベル1だ。レベルアップを経験したことがないから、冒険者の鍛冶師には必須とも言える『鍛冶』のアビリティを所有していない。

 

であれば同じファミリアの仲間と協力してレベルアップを目指すべきだが……残念ながら彼の場合は難しい。

彼はとある理由によりファミリア内で浮いており、パーティーを組んでくれる相手がいないのだ。

ソロでレベルアップを目指すというのはあまりに危険極まりない。

偉業を成そうとすれば命がけの戦いを経験せねばならず、仮に成し遂げたとしてもたった一人で満身創痍ではダンジョンから帰還することができない。

 

そんな彼にとって、主神ヘファイストスより持ち掛けられたヘスティアファミリアへの出向は願ってもない提案だった。

一人目の眷属であるベルという少年は冒険者歴半月ほどだと言うのに10階層までたどり着く実力があり、二人目の眷属は長年ダンジョンで活動していたサポーター。

この二人とパーティーを組めば12,3階層……『中層』まで行けるだろう。そこで冒険を繰り返せば確実にレベル2に至れるはず。

勿論『鍛冶』のアビリティが手に入ったからといって『はいおさらば』などと言うつもりはない。

むしろ将来有望な彼らの専属鍛冶師として認められるよう邁進していきたい。ファミリア同士の主神の仲が良く今後も交流を深めていくつもりなら自分がその先駆けとなるつもりだ。

 

ただし。

 

「一つだけ、条件を付けさせてもらいてぇ」

 

「聞こう」

 

 

「……俺は、『魔剣』は打たねぇ!」

 

 

『魔剣』。魔法が込められた剣。

本来は『鍛冶』のアビリティがなければ作れないはずのそれを、ヴェルフは作ることができる。

それもけた外れの力を持つ物を。

呪われて魔剣が作れなくなったはずの『クロッゾの一族』において、何故か彼だけが。

 

だがその彼自身が魔剣を蛇蝎の如く嫌っている。

魔剣は誰でも安易に強大な力を得ることができ、力を使い果たせば主を残して砕け散り、使い手も鍛冶師も腐らせてしまう。

だから彼は絶対に魔剣を打たない。

どれだけ金を積まれようが、上級鍛冶師の地位を提示されようが、嫉妬や僻みから同じファミリアの連中から馬鹿にされようが、この絶好の機会を逃すことになろうが。

 

 

 

「いらんわ魔剣なんぞ」

 

 

 

「「…………は?」」

 

思わずアイズも声を上げてしまう。

魔剣とは、それほどまでに強力なのだ。ロキファミリアでも大金をはたいて買い集めているのに、それを。

 

「い、いらねぇ……?」

 

『それでもいい』と言ってくれることを期待していた。だが『不要』と言われるのは初めてだった。

 

「だって、とんだ欠陥品じゃろアレ。勿体なさすぎる。

 折角込めた力の使い方が非効率極まるし、貴重な素材を要求するくせに使い捨てじゃし」

 

「欠陥品!?いや、俺が言うのもおかしいが……『クロッゾの魔剣』だぞ!?

 そんじょそこらの鍛冶師が打ったモンとは段違いの代物だ!」

 

「『魔剣』という存在そのものの話じゃよ。

 ふむ……これをもらえるか?あと道具も一式借りたい」

 

ヒノカミは工房の中に置かれた失敗作と思われる剣を一つ手に取りヴェルフに要求する。

 

「道具……打ち直すのか?アンタも鍛冶師か?」

 

「『二枚屋王悦』の直弟子よ。……誰も知らぬ名であろうがな」

 

『刀神』の異名を持つ男の弟子であり主人でもあったヒノカミはヴェルフらを下がらせ、掌から炎を打ち出して炉に火を入れる。

 

「魔法?いや、詠唱してない……?」

 

「魔剣鍛冶師の初代クロッゾは精霊の血を取り込み、魔剣を作る力を手に入れた。

 つまり魔剣の魔法は、精霊由来のものなんじゃよな」

 

アイズの疑問を無視してヒノカミは剣を持った左腕を燃え盛る炉の中に突っ込む。

 

「っ!?馬鹿野郎!!」

 

「精霊の力を刀身に封じ込めることで、剣は魔法を宿す。

 普通の鍛冶師ならば無理やり押し込める形になるが、精霊に愛された者ならば精霊の側から自主的に力を貸してくれる。

 その差が、強大な力を秘めた『クロッゾの魔剣』の正体じゃ」

 

「っ……燃えて、ねぇ……!?」

 

左腕に巻きつけられた帯はそのままで、衣服にも火が移っていない。

だが彼女が手に持つ刀は赤熱し半ば融解していた。

金床の上に置いたそれを、借りた槌で叩き始める。

 

キィィン

 

「!?」

「……きれいな音」

 

「魔剣が砕けるのは、込められた力全てを魔法として吐き出したからじゃ。

 詰まっていた物が抜け出たならば、スカスカになって脆くなるのは当然じゃの」

 

キィン、キィィン

 

「……その『魔法として吐き出す』仕組みが非効率なんじゃよ。

 魔剣は誰にでも使える。言い換えれば『誰が使っても同じ魔法』という形でしか精霊の力を使えない。

 エルフを始めとした精霊の力に通じた者ならば他にいくらでも使い道があるはず」

 

「「……!?」」

 

工房の扉や窓が勝手に開き、風が流れ込んでくる。

金床の上にある赤熱している刀身に、槌を振り下ろすと同時に自ら吸い込まれていく。

 

「この風……精霊……!?」

 

「刀身に精霊の力を宿すところまでは同じ。

 しかし魔法として放つ機能を敢えて省き、刀身の強度と込められる力の量を増やす。

 魔法などを介して精霊の力を操れる者だけが、秘められた力を引き出せる形にしたもの」

 

キィィィン……

 

 

「『精霊剣』ってとこか。我ながら安直なネーミングじゃがの」

 

 

急速に光と熱が収まっていくと、そこにあったのは鳥の羽根を模したかのような刀身を持つ片刃の直剣。

 

「アイズ、やる。握ってみせぃ」

 

「!?いいの……?」

 

「最初からお主にやるつもりで作ったもんじゃよ。

 昨日の事件でお主の剣が折れとったからな」

 

差し出された剣を受け取り構えると、刀身からあふれ出した風が剣と彼女自身を覆う。

 

「すごい……すごい!力が、使いやすい……!」

 

「剣に込められた精霊の力を引き出すことで、一時的に魔法の出力を底上げする。

 引き出されることで減った力は平時に力を込めれば補充できる。

 力を使い切ると壊れる点は魔剣と変わらんから一度に使い切らぬよう注意せい。

 あ、それと刀身の強度も決して高くはないから戦うときは常に風の刃を重ねておくことを忘れずにな」

 

「うん……!」

 

「不壊属性もつけられるが出力が著しく落ちるじゃろうから、我慢せい。

 さて、どうじゃ少年。これも一つの解じゃ。

 『使い手を選び』、『簡単に砕けることもなく』、『使い手の研鑽を必要とする』武器。

 お主の抱く不満点は一通り改善されていると思うが?」

 

「……アンタ、一体何もんだ……!?」

 

「15年前までオラリオに君臨していたゼウス・ヘラファミリアは知っておるな?

 当時儂は客人として招かれていたんじゃが、対価として色々と雑用を引き受けていてな。

 その一環としてマキシムらにも武器を作ってやったこともある」

 

「っ、伝説の冒険者たちの武器を!?」

 

「貴女は戦士じゃなかったの!?フィンたちは指南役だったって……!」

 

「儂は鍛冶の達人であり、裁縫の達人であり、料理の達人であり、武術の達人であり……何より『教導』の達人である。

 人を教え導くことにかけて、儂以上の存在はおらぬと自負しておる」

 

「っ!?弟子にしてくれ!!」

 

「そう言ってくれると思っていた。やる気ある若者を導くのが儂の細やかな楽しみでな。

 無論、その指導は厳しいぞ。覚悟を決めよ」

 

「押忍!!」

 

 

 

「私も!」

 

 

 

「ん?」

「は?」

 

「私も、強くなりたい!鍛えて!」

 

「第一級冒険者が弟子入り!?

 いや、ゼウスファミリアの指南役だったってんなら……!?」

 

「ふぅむ……ヴェルフもじゃが、儂の指導には秘密が多い。

 主神や同じファミリアの者であろうと秘密を口外せぬこと。それを守れるのならば構わんぞ。

 無論、対価を要求するつもりはないから安心せい」

 

「わかった!」

 




魔剣の設定は詳細が分からなかったので、作者の推測と独自解釈で展開しています。
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