『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第16話 強行軍

 

「え、えぇと……確認させていただきます。リーダーが……」

 

「ヘスティアファミリア、ベル・クラネルです……」

 

「そして、そのメンバーが……」

 

「同ファミリア所属、リリルカ・アーデです……」

 

ダンジョン探索前のパーティー申請を受けていたエイナは困惑していた。

同じファミリアであるベルとリリルカが共に行動するのは当然だ。

問題は別のファミリア所属の3人目。

それが彼らと同じレベル1の冒険者ならばまだ納得ができるのだが。

 

 

「ロキファミリア、アイズ・ヴァレンシュタイン」

 

「「「…………」」」

 

 

都市最強ファミリアの幹部、レベル5の第一級冒険者。

いや、エイナはベルが強いことは知ってはいるのだ。それこそアイズと同等以上に。

リリルカという少女がどうかまでは知らないが、仮に弱いとしても彼らが申請している30階層付近ならアイズとベルの二人で守り抜くこともできるだろう。

 

……だができるからといってしてもいいのか?

オラリオ中の冒険者が恐れ敬い、神々すらも『俺たちの嫁』といってはばからない美少女剣士が、新興弱小ファミリアの新人とパーティーを組み、しかもリーダーではなくメンバーの一人扱いなど。

 

原因は言うまでもなくヒノカミである。

彼女がアイズの懇願に応じてあっさりと彼女の弟子入りを認めてしまい、あくまで客人でしかないヒノカミの行動を制限する権利はヘスティアにはなかった。

だが本格的な修行を始めるために何らかの準備をしているらしく、それにもう少し時間がかかるとのこと。

また、アイズは遠征での出費に加え借り物の剣をへし折ってしまい借金まみれと判明した。

ならば先に返済を済ませておかねば本腰を入れて修行に取り組めない。

 

そこで、ヒノカミが師匠権限でベルとリリルカに『アイズに協力してやれ』と命じたのだ。

であればせめてリーダーはアイズであるべきだが、彼女は『ベルの方が強いから』とこれを固辞した。

そしてもちろんアイズはファミリアに事情を説明しておらず、説明していないという事実をベルたちは知らない。

ヴェルフは呼んでいない。ベルたちとの顔合わせは済ませたがまだ正式な出向手続きが済んでいないし本人も準備で忙しいし、何より実力が足りない。

 

(まぁ確かにメリットは大きいですが……リリたちでは30階層へ行く許可なんて出ませんし……)

 

内心でリリルカが呟く。ベルとリリルカの最大到達階層は11階層。

それでもエイナの忠告を無視して一歩先まで進んだ結果だ。

ベルは言うまでもなく、天神武装第二段階まで達し第三段階を考え始めたリリルカも、上層程度ではどれほど油断しても傷一つ負わない確信がある。

 

だがレベル1の二人パーティーである彼らは中層より先に進もうとしてもギルドから止められるだろうし、ギルドと余計な軋轢を起こしてまで突き進むべきでないと自制していた。

本当は儲けの少ない階層でくすぶっている現状に、長年金の亡者として過ごしてきたリリルカはストレスを貯めていた。

『ヒノカミ様に立て替えて頂いた脱退金を必ずお返しする』と誓っているので猶更だ。

 

その点、アイズはロキファミリアの仲間と共にだが58階層まで到達している。

彼女と共にならギルドに止められることはなく、一度到達階層を増やせば今後も深く潜る許可が下りやすくなるだろう。

話題にされて騒動になるリスクよりもリターンの方が大きい。

 

「……確かに、受諾しました。お気を付けて……その、くれぐれも……」

 

「行こう。ベル、リリルカ」

 

「は、はい……」

「……リリのことはリリとお呼びください、アイズ様」

 

おそらくアイズは額面通りに受け取っており、エイナの言葉に込められた『あまり目立って他の冒険者に追及されないように』という忠告は理解していないのだろうと、リリはため息をついた。

人の機微に聡いリリルカは、同年代であるアイズが精神的に非常に幼いことを何となく察し始めていた。

 

 

何日も籠り続けるのは準備やら連絡やらが大変ということで、一行は日帰り弾丸ツアーを予定している。早朝出発、夜中帰宅だ。

であれば余計な階層はすっ飛ばして一気に下へと降りるべき。

アイズの先導に従いベルとリリルカが最短ルートを走る。

走り抜けながら、邪魔なモンスターを切り捨てていく。

最初はペースを控えめにしていたアイズだが、リリルカが想像以上に速いのでどんどん行軍速度を上げていった。

『倒したモンスターの魔石やドロップを回収する余裕がない』事態に、守銭奴を自認するリリルカはすごく珍妙な顔をしていたが。

 

安全地帯である18階層を通り抜ける際、ダンジョン内にある唯一の町にベルが興味を惹かれていたが、アイズが止めた。

フィンをはじめとした彼女のファミリアの仲間たちが先日立ち寄ったのだが、殺人事件が起きたらしい。

結局犯人は見つからず、おそらく犯人が被害者から奪おうとしていた何かの素性も所在もわからず仕舞い。

なのでリヴィラの町は非常にピリピリしているはずだ。荒くれものの冒険者たちが新顔を目にすればどんな難癖をつけてくるかわからない。

それを聞いてベルも立ち寄ることを断念し、先へと進む。

 

そして30階層。

ソロならばアイズでも油断できない場所だが、今は彼女以上の実力を持つベルが共にいる。

アイズに恋心を抱き、急接近されると赤面して逃げ出すベルではあるが、ダンジョンの中でまでそんな青い反応をするほど愚かではない。

二人は背中を合わせ次々とモンスターを切り捨てていく。

そして魔石やドロップアイテムを、リリルカが素早く回収し背中の大きなカバンに押し込めていく。

時折アイズたちではカバーし切れない状況でモンスターの攻撃がリリルカに向かう事態に陥るが。

 

「邪魔しないでくださいっ!」

 

リリルカは寸前で察知し、全身に炎を纏った体当たりで迎撃し自力で防いでしまう。

この頃にはアイズも、リリルカがベルと同じくレベル1に見合わぬ力を持った強者であると理解していた。

推測で第二級冒険者並み……第一級まであと一歩というところ。

『高い戦闘力を持った純粋なサポーター』という冒険者の常識を覆す味方の存在により、いつも以上に大量の戦果が確保できる状況にアイズは満足していた。

しかし当のリリルカは、それでも持ち帰る戦利品の取捨選択をせねばならない現状に不満を抱えていた。

 

「ベル、リリ」

 

「「はい」」

 

「もう少し先まで行こう」

 

「「……はい?」」

 

30階層のモンスターをあらかた蹴散らしたアイズは、この3人ならまだ奥へと進めると判断した。

リーダーはベルだが、ダンジョンの情報を持っているのはアイズだけだ。

実際に余裕はあったし、彼女が言うならと従った。

 

31階層。

 

「次」

 

32階層。

 

「まだ行ける」

 

33階層。

 

「もっと」

 

…………

 

そして37階層。

 

「グォォォォーーーーーーッ!!!」

 

「「階層主!?」」

 

「大丈夫。私たちなら」

 

「アイズさーーーーん!?」

 

インターバルを終えて復活していたウダイオスと対決することになり、ベルとリリルカも全力を解禁してこれを撃破。

疲労困憊で帰ってきた一行から報告を受けたエイナは、たった3人での深層階層主の撃破というとんでもないやらかしを仕出かした彼らに雷を落とし、ギルド上層部への隠蔽工作に奔走することとなった。

思いっきり戦えたアイズはつやつやしており、持ち帰った魔石とドロップアイテムを換金したリリルカもほくほくしていた。

憔悴していたのはベルだけだが、それが女に振り回される男の甲斐性と耐えていただきたい。

 

その後数日間地上と30階層のデスマーチを続けたことで、ようやくアイズは借金を返す目途が立った。

ヴェルフもまた正式にヘスティアファミリアへと出向してきた。

そして、ヒノカミの修行の準備もまた。

 




アイズがベルとの再会を優先したため、リヴィラの事件に不参加となっています。
アイズがいないためレヴィスが姿をさらすこともなく、殺人事件は下手人不明のまま幕を閉じました。
荷渡し役であるヘルメスファミリアのルルネは……レヴィスに捕捉される前に自力で離脱しクエストを成功させています。
どうやって、かはその内明らかにします。
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