『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第18話 最強の眷属

 

15年前。黒竜に敗れ半壊したゼウス・ヘラファミリアはオラリオを追い出され、両ファミリアのわずかな生き残りたちは散り散りになった。

だがアルフィアとザルドはまだ黒竜討伐を諦めていなかった。

二人は圧倒的強者であるヒノカミに師事し、オラリオの外で時間をかけて黒竜を倒せる強さを手に入れることを目指した。

ヒノカミは諸事情により手出しを控えているが、黒竜を撃破できる実力を持っている。そして教導の達人でもある。

その事情とやらをアルフィアらは把握しており、本当にどうしようもなくなればヒノカミが討伐するつもりだと聞いてはいるが、仲間たちの仇を己の手で討つためにも努力することを誓った。

 

3人はその激しい修行に他人を巻き込まぬよう人のいない森の奥に住んでいた。

その森から少し離れたところに村があり、そこにはゼウスと、アルフィアの妹メーテリア、そしてメーテリアの息子であるベルが住んでいた。

彼らとは時折顔を合わせ交流する程度だったのだが、成長したベルが『強くなってアルフィアらと共に黒竜と戦う』ことを望んだ。ゼウスから散々聞かされてきた英雄譚への憧れも彼を後押ししたのだろう。

 

ベルには冒険者としての才能がなく、もし神の恩恵を受けても大成しないと恩恵を与える前からわかっていた。

しかしだからこそ神の恩恵と相反するヒノカミの火種、『無力な人間が受け継いできた力の結晶』との相性が非常に良かった。

村から頻繁に足を運びヒノカミの下で厳しい修行を積んだベルは、14才という若さでオラリオの第一級冒険者に匹敵する強さを持つに至った。

 

だがベルは修行ばかりで実戦経験がまるでない。たまに現れる野良ゴブリン程度では話にならない。

なのでベルをオラリオに向かわせ、冒険者となってダンジョンの中で過酷な環境と多彩なモンスターとの戦いを経験させることになった。

力の火種は神の恩恵と反発するとわかっていたが、恩恵は後で封印することもできるのだから。

 

しかしここで予想外の事態が起きる。

恩恵を受けたベルは弱くなるどころか一気に二段階のレベルアップを経験したような急成長を遂げた。

そして続いてリリルカでも同様の現象が発生したことで確証に至った。

女神ヘスティアは『炎を守る炉の女神』。

彼女の恩恵は人の力の火種と反発するどころか、大きく燃え上がらせる効果がある。

 

そこでヒノカミはヘスティアに要請していた。

『アルフィアとザルドにも恩恵を授けてほしい』と。

さすれば二人も恩恵と火種、二重の強化を受けることができるから。

 

「転移装置で二人をオラリオに呼び寄せることも考えたがな。

 万が一他の神に悟られたら厄介なことになるし、ヘスティア殿もベルたちがどのような場所で修行するか気になるじゃろうし」

 

「それでヘスティア様にも同行して頂いたワケですか」

 

「恩恵を与えることは承諾したけどさぁ……手はずは先に教えておいてほしかったけどね……!」

 

「『説明しても理解してもらえると思わなかったから直接体験してもらった方が話が早い』とでも考えたのだろう?」

 

「うむ」

 

「……聞いての通りだ女神ヘスティア。コイツの本質は私以上の暴君だ」

 

「よくわかったぜアルフィアくん。わかってたつもりだったけどボクの理解が浅かったみたいだ」

 

「事実上の二重恩恵……リリスケ、お前の強さはどのくらいなんだ?」

 

「ヒノカミ様がおっしゃるには、レベル5相当とのことです」

 

「マジかぁ……肩を並べていけると思ってたが、俺完全に足手まといじゃねぇか」

 

改めて情報を咀嚼したヴェルフが掌を顔に当てて天を仰ぐ。

アルフィアとザルドはレベル10。アイズはレベル5。

ベルはレベル1だが実力はレベル7相当で、リリルカはレベル5相当。

そしてヴェルフはレベル1だ。レベル通りの強さしかない。

この場にいる誰よりも弱く、彼らと足並みを揃えるのは不可能だ。

 

「なら、お主も火種を受け取ってみるか?

 並ぶのは無理じゃが差は縮まろう」

 

「は?ヘスティア様以外の恩恵だと反発すんだろ?」

 

「ヘファイストスは『鍛冶の神』。『火を使う者』じゃ。

 ヘスティア殿ほどではなかろうが親和性があるかもしれん。

 試して駄目だったら即座に火種を回収すればよい」

 

「成功する保証はねぇがノーリスクか……後で頼むぜ師匠」

 

「うむ。しかし重ねて言うが他の者には秘密にせいよ。

 ヘファイストスとその眷属にも……特にお前のとこの団長にはな」

 

「わかってる。絶対言わねぇ」

 

ヘファイストスファミリアの団長『単眼の巨師』椿・コルブランドは優秀な鍛冶師ではあるのだが、己の欲求に忠実で他人の迷惑を考えない。

かつてゼウスの眷属らが使っていた武器を見て感銘を受け、『それを作った者に会わせろ』とゼウスのホーム前に居座りごね続けた前科がある。

彼女がヒノカミへの興味を強めていけば、いずれは過去に己が探していた鍛冶師だという事実も知るだろう。絶対にめんどくさいことになる。

……はっきり言おう。同族嫌悪だ。しつこく付きまとわれれば物理的な排除を思いとどまれる自信がヒノカミにはない。

 

 

「私も!」

 

「ん?」

「は?」

 

「私もその火種、欲しい!試して!」

 

「ロキの恩恵は無理じゃろ。下界に降りて丸くなったようじゃが、天界で数々の悪事を働いた悪神じゃぞ?

 おそらくオラリオにいる神々の中でもトップクラスに儂の火種との相性が悪い。

 試すまでもなく確実に猛反発するわい」

 

ぶっすぅ~~……

 

「それに仮に恩恵と反発せずともお主自身に適性がない。

 この火種は『才能の無い弱き者たちの力』じゃからな」

 

ぶっっすぅぅぅ~~~~~~…………

 

アイズは7才で冒険者となり1年でレベル2に昇格、9才にはレベル3になっていた天才だ。

今は16才でレベル5。レベル6もそう遠くはあるまい。

最近は伸び悩んでいるようだが『才禍の怪物』とも呼ばれたアルフィアに匹敵する成長速度である。

 

「アレ?じゃあアルフィアくんたちにも火種の適性がないのかい?

 ボクの恩恵を刻んでまで火種を渡す意味があるの?」

 

「ないかもしれんが、少なくともマイナスにはなりませぬ。

 治癒術である『不可死犠』が使えるようになればそれだけでも十分。それに……」

 

カプセル設置のためにオラリオとここを行き来している過程で、二人から聞いて知ったのだが。

 

「ゼウスが先日姿を消した……『ヘラに感づかれた』とか言い残してな。

 このままでは俺たちの恩恵の更新ができん」

 

「私もここで修行するために恩恵をヘラからゼウスに移していたのだが、更新の度にセクハラを働こうとするのでな。

 一刻も早く他の神に鞍替えしたいと、常々思っていた」

 

「ウチの下半神がゴメン!全身全霊で務めさせてもらうよ!」

 

オリンポス十二神の恥を、姉としてヘスティアが謝罪する。

 

「え?それじゃあ村には今、お母さんが一人で……?」

 

「あぁ。これでようやくメーテリアもセクハラ被害から解放される。

 ……だがまぁ、いきなり静かになりすぎるのも良くないかもしれんな」

 

「……ベル、お主は今日は修行に参加せずともよい。

 久しぶりに元気な顔を見せに行ってやれ」

 

「はい」

 

ベルの母親と聞いてヘスティアとアイズが『同席して挨拶する』などと言い出したが、今日のメインイベントはアルフィアたちのコンバートだ。

ヘスティアがいなくては話にならず、アイズはアルフィアに止められた。

 

ベルが母に会いに行くために出発してすぐに、アルフィアとザルドの恩恵がヘスティアの物に切り替えられる。

そしてヒノカミが火種を渡す。

 

「どうじゃ?反発はないか?」

 

「あぁ、それどころか力が湧き上がるようだ。

 こりゃあレベル一つ分くらい上がってるかもな」

 

「『天神武装』と『不可死犠』、確かにステータスに反映されてるよ。

 ……はぁ、ベルくんたちに続いてこれじゃあ本当にボクのせいで間違いないなぁ。

 オラリオの神々からの追求が怖い……」

 

「案ずるな女神ヘスティア。有象無象の雑音など全て私が払ってみせよう。

 ……だが手始めに、見定めるべき輩がいるな?」

 

「っ!?」

 

アルフィアの殺気が、アイズを貫く。

 

「ベルの手前控えていたが……道化の眷属の小娘が、何のつもりで私のベルにまとわりつく?」

 

レベル10……いや、11相当の力を手に入れた『才禍の怪物』がオラリオの『剣姫』を鋭く睨みつける。

 

「……ベルは、私の英雄」

 

「フン、だから傍にいて守ってもらうと?」

 

「違う!」

 

アイズの記憶の中では、今も亡き両親の言葉が反響し続けている。

 

『あなたも素敵な人に出会えるといいわね』

『いつかお前だけの英雄にめぐり逢えるといいな』

 

だが彼女の前に英雄は現れなかった。

姫になれなかった少女は剣を取り、愛する両親を奪ったモンスターを殺し尽くす『復讐姫(アヴェンジャー)』となった。

 

しかしようやく現れた。

光り輝く剣を携えた本物の英雄が、少女を助けに来てくれた。

きっと彼の傍にいれば、彼は少女を守ってくれるだろう。

もう少女が剣を握る必要はないのかもしれない。

 

だが英雄であっても不敗でも不死でもない。

戦いの果てに力尽きることもある。まして彼が挑もうとしているのは黒竜……己の仇敵。

アイズは『ベルが己の英雄である』と確信した時、同時に悟った。

自分が剣を手にし今日まで力を求めて来たのは英雄が現れなかったからではない。

現れた英雄の後ろではなく隣に立ち、共に道を切り開いて進むためだと。

 

「だから、ベルの敵は全部斬る……!

 黒竜は私が倒す……ベルを傷つけるなら誰であっても許さない……!」

 

「ヴァレン何某……いや、アイズくん……キミはベルくんをそこまで……!?」

 

「……クックック、癇癪持ちの婆共よりはよほど見込みがあるか。

 表に出ろ、妹弟子。貴様の覚悟を見極めてやろう」

 

「望むところ……!」

 

 

 

「……リリたちはどうすればいいんでしょうか?」

 

「しばらく小屋に閉じ籠ってろ。アイツの魔法に巻き込まれたらミンチだぞ?」

 

「ほ、ホントにここ壊されないよね!?」

 

「念のためちぃと補強しておこうか。

 どのくらい強くなったかわからんがレベル11相当なら万が一もあるかもしれんし」

 

「剣姫がレベル5なら、差が倍以上だろ?マジで大丈夫なのかよ?」

 

「あの様子なら『洗礼』のつもりだろうさ。殺すまではするまい」

 

「手足がもげるくらいなら儂が即座に治してやるわい」

 

「もげる可能性があるんですか!?」

 

「ヒノカミの本気の修行ならそんくらい日常茶飯事だ。

 お前らも覚悟しておけ、後輩(ガキ)ども」

 

「「…………っ」」

 

 

 

 

「来い」

 

「『目覚めよ(テンペスト)』……エアリアル!」

 




原作だとアイズの出生についてアルフィアが何か知っているようなんですが、未だ不明のようなのでノータッチとさせていただきます。
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