『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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アイズが敢えて言わなかったのは、『下手に口にすると秘密を守るという約束を破ってしまいそうだったから』と、『絶対に反対されるから』です。
ロキはヘスティア寄りに舵を切りましたがまだ全面的に信用したわけではありません。
なのでもしアイズが『ヒノカミに弟子入りする』なんて言ってたら、予想通りにロキと三幹部が猛反対してそこで話が終了になります。


第20話

 

アイズ・ヴァレンシュタインはロキファミリア所属の第一級冒険者。

16才と幼いが、幹部である。

ファミリア内では相応の待遇を受けており、相応の振る舞いが求められる立場だ。

なのに同じファミリアの者に隠れて、他のファミリアの者と交流を深めていたのは下手をすれば裏切りと取られてもおかしくはない。

 

しかもよりによって、過去にロキファミリアを半壊させ今もロキを敵視するヒノカミに弟子入りしていたなどと。

 

「何故そんな勝手をした、アイズ」

 

「……強く、なりたかったから……ベルとも一緒にいられるし」

 

「んなっ!?あのヒューマンはどこです!?

 アイズさんをたぶらかして……成敗します!」

 

「やめて、レフィーヤ……」

 

アイズが転移装置を始めとした秘密をうっかり漏らしてしまわないかと同席したヒノカミだが、その心配はなかったようだ。

アイズ自身が口下手なのもあるが、リヴェリアを前に委縮してしまっている。

言い返すこともできないようでは何かを口にする余裕も無かろうと、少し距離を置いてつまらなそうに見つめている。

 

「ヒノカミくん。アイズくんが弟子入りを黙ってたこと、知ってたの?」

 

「察しておりましたがその方がよかろうと放置しておりました。

 どうせ見ての通り、猛反対されるじゃろうと推測できていたもので。

 ……おい、ハイエルフ」

 

「その呼び方はやめろ……なんだ?」

 

しかしいい加減見飽きたので横槍を入れることにした。

その槍の穂先がリヴェリアにどれほど深く突き刺さるかを理解しながら。

 

 

 

「貴様らの下ではアイズは強くなれん。これ以上その子の邪魔をするな」

 

 

 

「っ!?」

「邪魔……!?貴女に私たちの何がわかるんですか!?」

 

「15年かけて足踏みし続ける鈍間の集まり。それが全てじゃろ?

 貴様らではこの子が一番求めているものを……『黒竜を倒す力』を与えてやることができぬ」

 

リヴェリアもフィンもガレスもレベル6だ。今のアイズと一つしか違わない。

そして3人の内誰一人としてレベル7に至る気配が見えない。

そんな環境ではアイズがそれ以上の強さに至ることはできない。黒竜討伐なぞ夢のまた夢だ。

仮に力を手に入れたとしても今度は『ファミリア幹部の重責』とやらがまだ未成年であるアイズに更に深くのしかかる。能力だけで『団長に』などと推されるかもしれない。

……駄目だ、それは。風はもっと自由であるべきだ。飛べる者は飛ぶべきだ。

 

「貴様がアイズに愛情を注ぎ、その幸せを真摯に願っていることを疑うつもりはない。

 しかしアイズの真の幸せは憎しみから目を逸らし誤魔化しを続けた先ではなく、復讐という本懐を遂げた後にある」

 

「……貴様なら、できるとでも?」

 

「アルフィアとザルドをレベル10まで育てたのは儂じゃ。

 実績と根拠とノウハウがある。貴様らと違い明確な道のりを示してやれる。

 ……アイズ、そろそろいいぞ。今日は戻ってロキに恩恵を更新してもらえ」

 

「「「?」」」

 

 

「とっくにランクアップできるぞ」

 

 

「「「!?」」」

 

アルフィアとの全力戦闘。敗北したが、偉業としては十分だ。

それでも伝えず先延ばしにしていたのは彼女のアビリティを限界まで伸ばしてからの方が良いと判断したから。

 

「これでレベル6。そんでお主、何故か知らんが妙に伸びがいい。

 このペースなら一か月もあればレベル7に届くかもしれん」

 

「な……馬鹿な!私やフィンが、レベル7を目指してどれほどの……!」

 

「儂とこの子を貴様ら愚図と一緒にするな」

 

ヒノカミはアイズの背中を見ておらず、ステータスやスキルを把握していない。

だがその成長速度から何らかの成長促進スキルを保有していると推測はしていた。

そのスキルによる補正を加味すれば……。

 

「3年じゃ。儂の下でなら3年でアイズはレベル10に届く。

 その頃にはベルやリリも相応に育っとるじゃろうし、そこにアルフィアらを加えれば本気で黒竜討伐が見えてくる。

 ……さて、これで説得材料は十分じゃろ?」

 

「!?行ってくる!」

 

「アイズさん!?」

 

「それでも首を縦に振らなかったらヘスティアファミリアに来い。

 どこまでも高く羽ばたける環境を用意してやる」

 

最後に投げかけた言葉は聞こえていなかったのか聞こえていないふりをしたのか、アイズは教会を飛び出し、追いかけるレフィーヤを置き去りに走り去った。

リヴェリアだけがまだ教会に残っている。

 

「……聞かせろヒノカミ。なぜあの子に力を貸す?

 貴様は我々ロキファミリアを憎んでいるのではないのか?」

 

「当時在籍していなかった若者にまで八つ当たりするつもりはない。

 儂が嫌いなのは15年前にオラリオにいた連中だけよ。

 そして嫌っているだけで恨んでも憎んでもいない。

 もし憎んでいたのなら……」

 

 

「とっくに貴様らを、魂すら残さず消滅させていた」

 

 

「…………!」

 

「ヒノカミくん……」

 

ヘスティアは彼女の言葉から嘘を感じなかった。

彼女は断言した。それはつまり……『やろうと思えばできる』ということだ。

 

「重ねて言う。嫌いなだけじゃよ。

 だから若者たちを導き鍛え上げ、あっさり追い越された貴様ら老害の無能っぷりを、指さして嗤ってやるだけで済ませてやろうと言うんじゃ。ありがたく思え」

 

「……失礼する」

 

これ以上会話が成立するとは思えず、リヴェリアは立ち去った。

 

 

一人ホームに帰ってきたアイズは説明も何もなく、『恩恵を更新して』とひたすらにロキに迫った。

前回からそう時間は経っていないのだが『これは応じてやらねば話を聞くこともできそうにない』と、ロキは特別に彼女の恩恵を更新してやった。

 

「…………嘘やろ」

 

全アビリティ、オールSオーバー。

成長促進スキルがあったとしてもあまりに早すぎる。

もうこれは『成長』なんてものではない。『飛躍』でも生温い。もはや『進化』だ。

おまけにランクアップ可能。

このステータスでレベル6になれば、フィンたちを超えるかもしれない。

 

レフィーヤやリヴェリアが帰ってきたのはアイズの恩恵更新が済んだ後だった。

そして彼女たちからアイズがヒノカミに弟子入りしていたことが明かされる。

他派閥の、それもよりにもよってヒノカミに。

普段ならロキですら雷を落とすところだが、こんな馬鹿げた成果を示されては止めさせることができない。

無理に止めようとすればそれこそ本当に『ヘスティアファミリアに移籍する』などと言い出すかもしれない。

一先ずヒノカミにアイズを利用するつもりがないのは間違いないようだし、アイズが強くなることはロキファミリアのためにもなる。

であれば、アイズが引き続き彼女の下に向かうことを認めるしかなかった。

 

ただし条件付きで。

監視役として修行の場にレフィーヤを同席させることを要求した。

 

アイズは天然で警戒心が薄い。そんなアイズに過保護なレフィーヤなら、何かあればヒノカミ相手だろうとすぐに食い掛るはずだ。

まだ若いのでヒノカミが嫌う15年前の在籍者でもない。

この要求に対してヒノカミは『アイズと同じくこちらの秘密を守ると誓うなら』とあっさり応じた。

 

 

そして翌日よりレフィーヤもアイズと共にヘスティアファミリアへと通うことになったのだが。

 

「なんだこの羽虫は?」

 

「ロキんとこの目付役じゃよ。儂が認めた」

 

「……フン、まぁいい。

 ならばそいつの目の前で小娘をへし折ってやろう」

 

「アルフィア……今日こそ倒す……!」

 

「レフィーヤとやら、小屋から出るでないぞ。

 覗くのは窓からにしておけ。死ぬから」

 

 

 

ドガァァァァァァン!!!

 

 

 

「いやぁーーーーーーーっ!!!!!」

 

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