『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第21話

 

「ヒノカミ」

 

「「「!?」」」

 

アイズを加えて修行を始めてから既に一週間以上。

今日もオラリオの外で修行中だったベルたちの前に、突如として一人の男神が現れる。

 

「ヘルメス様!?」

 

「……えっ?今、どこから……」

 

彼に託したヘルメスドライブの事を知っているのはこの場ではベルとアルフィアとザルドだけ。

アイズたちはヒノカミがヘルメスと懇意だということすらまだ知らない。レフィーヤがロキに呼び出されて不在であることが救いか。

 

「おいヘルメス、あまり人前で使うなと……?」

 

彼女たちには秘密を守るよう言い含めているが、無意味に明かすべきでもない。

ヒノカミは苦言を申そうとしたが、いつも軽薄な彼らしからぬ真剣な眼差しに言葉を止める。

 

「助けてくれ」

 

「承った。どこへゆけば?」

 

「オレが先に行く。辿ってくれ」

 

「皆、少し外す。それぞれ続けていてくれ」

 

ヘルメスは手元の板を操作し、また姿を消した。

彼の移動先を察知したヒノカミも続けて消えた。

 

「えっ?えっ!?」

 

「……ベル。説明してやれ」

 

「えっと、ヘルメス様が持ってたのは小さな転移装置で……」

 

「まさか、『万能者』の作品ですか!?」

 

「いえ、師匠のです。師匠はアスフィさんの師匠でもあって……」

 

「「「えぇぇっ!?」」」

 

「……脱線したな。お前が説明した方が良かったんじゃないかアルフィア?」

 

「うるさい」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

ヒノカミが転移した場所はヘルメスファミリアの拠点。

そこにはヘルメスの眷属たちが全員揃っていた。

……その幾人かは、遺体だったが。

 

「っ、先生!」

 

「間に合うかい?」

 

「間に合わせるさ」

 

損傷具合はかなりひどいが体の部位は大半が揃っている。

魂はもうここには無いが、天に昇ってまだ間もない。

それにヒノカミはヘルメスファミリアの眷属たちのことを良く知っている。情報も十分だ。

 

「戻ってこい!」

 

口寄せと併用して、不可死犠を発動。

……間もなく死体が起き上がる。

 

「……あー、死ぬかと思った」

 

「死んでたんだよ馬鹿野郎!」

 

「エリリー!もう、無茶をして……!」

 

「ふん……こんな時にアタシが体張らなくてどうするのよ」

 

 

「喜んどるところ悪いが、説明を頼む。

 何があった。お主らほどの強者が……」

 

ヘルメスファミリアの冒険者はレベル1と2、団長のアスフィがレベル3ということになっている。

オラリオでは珍しくもない、弱小ファミリアの一つだ。

 

だが実際には違う。

ギルドに申告していないが団員達のレベルは一部が3でほとんどが4、アスフィに至ってはレベル5だ。

技術者でもあるヒノカミを師と仰ぎ彼女から多くを学んだアスフィは多彩な魔道具を持ち、それらを駆使すればレベル6にも食い下がる都市有数の強者である。

団員達もヒノカミから指導されると共にいくつかの道具を預けられており、ファミリア内での団結も強く、集団戦ならロキやフレイヤの主要メンバーにも引けを取らないだろう。

そんな彼らが全滅の危機に陥り敗走したという事態はあまりに深刻だ。

 

「フェルズ……ウラノスの配下が、オレの子供たちにクエストを持ってきたらしいんだよね」

 

「眷属のレベル詐称を突かれまして……断れず」

 

ギルドへの虚偽申告は重罪で、納税額の激増や様々な罰金・罰則がかけられてしまう。

団員の一人が言質を取られてしまい、秘密を口外せぬことを条件としてやむなく彼らはクエストに応じることとなった。

内容は『24階層の食糧庫でのモンスターの大量発生の原因確認と対処』。

ヘルメスファミリアの戦力を鑑みれば大した階層でもない。

勿論、だからと言って彼らが気を抜いていたわけではないのだが。

 

「花のモンスター?怪物祭の時に地上に出て来たやつか?」

 

「おそらく。その大群に加え闇派閥の死兵と、人間とモンスターの融合体を自称する者まで。

 我々で対処できる領分を超えたと判断し、撤収しました。

 ……連中の前でヘルメスドライブを使わざるを得ず。

 秘匿する約束を破ってしまい、申し訳ありません」

 

「命あっての物種じゃ。構わんよ。

 しかしあの花はゴミ共の仕業か……その混ざりモンとやらも気になる。ウラノスは何と?」

 

「碌に明かしてくれなかったよ。それどころか『口外するな』とさ。

 口止め料込みでとんでもない量の金銀財宝を押し付けてきた。有無を言わさずね」

 

「……ヘルメス、ウラノスとの付き合いを見直した方がよいぞ?

 このままではレベル詐称を盾に、何度でも使い走りをさせられることになる」

 

「ウラノスが頑張ってくれてるのはわかるから、オレ一人ならパシリでもいいんだけどさぁ……。

 アスフィたちまで使い潰されるのは、ちょっとねぇ」

 

「……もしや『この報酬を罰金の支払いに当てて本当のレベルを公開しろ』という示唆でしょうか?」

 

「止めといた方がいいよアスフィ。

 想定以上にランクを釣り上げられて今度は真正面から無理難題を吹っ掛けられるさ。

 それにキミやヒノカミの道具を大っぴらにすることになる。

 情報公開やギルドへの献上を要求されたら厄介だ」

 

「……レベルが低いままで強くなれるベル・クラネルとヘスティアファミリアがうらやましいですね」

 

「事情と実力を知れば無理やり義務を押し付けてきそうではあるがな。

 あぁくそ。統括する組織がそんなじゃからオラリオの冒険者は強くなれんのではないか?」

 

「ウラノスはともかく、ロイマンがねぇ……能力あるけど、金の亡者だから」

 

「俗物だからこそ与しやすくはあるのですがね」

 

「15年前にチャーシューにしておくべきだったか」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

その頃、ロキやフィンたちに呼び出されたレフィーヤは彼らに報告を行っていた。

内容はヒノカミがアイズに施している修行について。

どうやって彼女が冒険者を劇的に成長させているのか、高みを目指すフィンたちには喉から手が出るほど欲しい情報だ。

秘密だと言い含められた部分を強引に聞き出すことはできないが、それ以外の断片的な情報からでも取り入れられるものがあるかもしれない。

そのための聞き取り調査だったのだが。

 

「……本当かい?」

 

「はい……ヒノカミ様は自身を『戦士ではない』とおっしゃっていました。

 どちらかと言えば『魔導士』ですがそちらも本職ではないと。

 彼女は技術者であり治癒術師であり教師……冒険者の分類に合わせるなら『サポーター』であり非戦闘員だと……」

 

「嘘やろ……ウチとフレイヤを半壊させたアイツが『サポーター』?

 あぁでもレフィーヤは嘘ついとらんしなぁ……これが嘘やったらどんだけよかったか」

 

報告しているレフィーヤだって信じられない。

ありとあらゆる武具と武術に精通し、ありとあらゆる魔法を模倣し、ありとあらゆる戦闘スタイルを提案し。

各々が望む完成形を定めさせた上でそれを己の身を持って再現し、技術の全てを相手に直接叩き込む。

それがヒノカミの修行法だった。

先達として目指すべき姿をはっきりと示してくれるのだ。効率がいいに決まっている。

 

だからこそあれだけ戦える彼女が戦闘要員ではないという事実が受け入れられない。

アルフィアとザルドとアイズとベルとリリルカ、それに実力は彼らに劣るがヘファイストスファミリアからの出向のヴェルフ。

この6人を一度に相手にして傷一つ受けずに完封できるのがヒノカミだ。

レベル11以上?そんな生易しいものではない。どんなに低く見積もってもレベル20はあるだろう。

そもそも彼女は『自分一人で黒竜を倒せる』と豪語し、ヘスティアにより彼女が嘘をついていないと証明されている。

とある事情により控えていると言うが、黒竜討伐より優先される事情とは一体何なのか。そこは明かしてくれなかったしあの場で知っているのはアルフィアとザルドだけらしいが。

 

本当はこの事実もロキたちに伝えたかった。

だがアルフィアたちと一緒に訓練していることは言えない。そこからオラリオの外に繋がる転移装置の存在に辿り着いてしまいかねないから。あれは『絶対に明かすな』と言われている。

レベル10のアルフィアたちより圧倒的に強いという事実を伝えられないのであればレベル20以上という推測の根拠も出せないので口にできない。

 

「あの方の修行方法は、あの方の技能や強力な治癒術との併用が前提となっています。

 ロキファミリアで再現できるかと言えば……はっきり言って不可能です」

 

「……レフィーヤ、お前はいつの間にヒノカミに敬称をつけるようになった?

 お前も彼女を嫌っていたと思っていたが……」

 

嫌いに決まっている。

師であるリヴェリアを悉くこき下ろし、敬愛するアイズをたぶらかした張本人だ。

だがレフィーヤはエルフの一人として彼女に敬意を払わねばならない。

 

「……これは『秘密にしろ』と言われていないのでお話ししますが……。

 ヒノカミ様は『精霊』を従えています」

 

「「「!?」」」

 

「それも神々と同格……下手したらそれ以上かもしれない、まさに『大精霊』と呼ぶしかない存在を。

 火・水・風・雷・地の全部で5柱。

 しかも力で抑え込んでいるのではなく、精霊側が彼女に忠誠を誓っています」

 

「なぁ……っ」

 

「恐れながら申し上げます。リヴェリア様。

 偉大な精霊たちが揃って頭を垂れる彼女は例えヒューマンであろうと、精霊を崇める我らエルフに対して最高位の権威を有します。

 それこそハイエルフであるリヴェリア様を凌ぐほどの……」

 

「……それが事実なら彼女が精霊の姿を公に晒せば、エルフのほとんどが彼女の側につくかもしれんということか」

 

「……かぁーっ、頭痛くなってきたわい」

 

「ウチにもエルフは仰山おるしなぁ、絶対揉めるわ。

 ……んで、アイズたんはホンマに強なっとるん?」

 

「……あれで強くなれなければ、それこそ嘘です。

 それほどに厳しく効率的な修行法でした」

 

以前ベルから『不可死犠』を受けたレフィーヤだが、本家本元のヒノカミが放つ力は桁外れだ。

手足がもげようが腹に穴が開こうが目や鼻が潰れようが、彼女の白い炎を浴びればあっという間に元通り。しかも失った魔力や体力まで回復させられる。

気力が続く限りいつまでも修行ができる。努力を続ける限りどこまでも強くなれる。

だから彼女が弟子に求めているのは『才能』よりも『やる気』なのだ。

 

「あんなことを幼少期から何年も続けていたというのなら、腹立たしいですがベル・クラネルの強さにも納得がいきます。

 彼はレベル1ですが、その強さは推定レベル7。

 それにリリルカ・アーデというもう一人の眷属、彼女もレベル1ですが戦闘力はレベル5に匹敵するとか」

 

「……リリルカという少女は気になってこちらで調査したが、先日までソーマファミリアで虐げられていた力なきサポーターであったと判明している。

 それを短期間でレベル5相当にか……こんな状況でなければ同胞の飛躍を喜ぶんだがね」

 

「そ奴らにレベル以上の強さを持たせている方法についてはわからんのか?」

 

「明かしてくださいましたが……秘密と念を押された部分なので言えません。

 こちらもロキファミリアでの再現は不可能です」

 

特定の神の恩恵にのみ適合する、恩恵に類似した異なる力の譲渡。

ヘスティアとヘファイストスの恩恵には適合するが、ロキとフレイヤのそれには合わないと明言されてしまった。

こんなものが明らかになれば神々の間で格差が生まれ大喧嘩になるかもしれない。

そしてそれ以上に恐ろしいのは『ヒノカミが恩恵を持っていない』という事実。

『恩恵を与えている神』という冒険者最大の弱点がない彼女に、一体どうやって対処すればよいのか。

 

「ロキ、これは恥や醜聞を気にしていられる状況ではない。

 早急に、そして強引にでも彼らとの関係修復に努めねば僕たちは全てを失いかねない」

 

「……しゃーない。ぜぇんぶ任せるわ」

 

「よし……レフィーヤ、ヘスティアファミリアに要請してほしい。

 本当なら僕が出向いて直接頭を下げるべきだが、拗れそうだからね」

 

「?一体何をでしょうか?」

 

 

 

「まもなく行うロキファミリアの階層更新大規模遠征、そこにベル・クラネルとリリルカ・アーデの参加をお願いする」

 




ヘルメスファミリアはヒノカミの薫陶を受けており、原作より一回り強くなっています。
また、全員に緊急脱出用として簡易ヘルメスドライブが預けられています。
18階層で起きた殺人事件にて、事態を重く見たルルネは独断でこれを使用して脱出。フェルズからのクエストを達成しています。
結果としてレヴィスが暴れる事件は起きませんでしたが、その後アスフィにガッツリ怒られました。
おまけに優秀であることもバレて、再びフェルズに無茶ぶりされることに……。
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