『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第23話

 

『君たちの実力を、僕や皆に改めて見せてほしい』

 

フィンからそう要請されて、ベルとリリルカは道中の比較的浅い階層で一度、二人だけでモンスターの集団の相手をすることになった。

アイズや幹部たちが太鼓判を押しているが、所詮はレベル1。しかもどちらも幼い少年と少女。

何も知らない団員たちは二人の戦闘力には期待しておらず、何か探索に有用なスキルを持っているのだろうとでも考えていた。

実際に小人族の少女の方がそうだったので、ヒューマンの少年の方も似たようなものだろうと推測した。

 

しかし二人の戦いを見て、彼らはすぐに認識を改める。

ベルという少年は剣一本で次々と敵をなぎ倒していく。

シンプルに速く、強い。それこそレベル6になったアイズよりも。

リリルカは小さな体で魔物たちの集団の中をちょこまかと動きながらすり抜け様に刀で切り裂き、時には掌から光弾を打ち出し遠方や上空のモンスターを狙撃する。

天下のロキファミリアの幹部と同格以上の戦闘力。おまけに二人揃って超希少な治癒能力持ち。

彼等は正しく実力を評価されこの場にいるのだと、何も知らなかったロキファミリアの冒険者たちは認識を改めていた。

アイズは後方で腕組みしながら満足げに頷き、ベートは触発されて以降の階層で積極的に前に出るようになった。

 

暫く進み本日の行軍を停止する。ダンジョンの中ではわからないが、今頃地上は夜だろう。

ロキファミリアの戦闘要員が周囲を警戒する中で、支援要員が野営の準備を始めたのだが。

 

「……?」

 

少し距離がある開けた場所にベルとリリルカ、ついでにアイズが立っていた。

彼等は設営をしなくてよいのかと幾人かが視線を向けている中で、リリルカがローブの裾を大きく、大きく広げる。

 

ズゥゥン

 

「「「!?」」」

 

音に反応して、遠征軍の冒険者たちが一斉にそちらを見る。

リリルカのローブから吐き出されたのは。

 

「……家ぇ!?」

 

4,5人が暮らせるサイズのログハウス。修行場でアルフィアたちが暮らしているものの複製品だ。

周囲の驚愕を無視してベルたちは扉を開き、アイズが当たり前のように続こうとする。

 

「っ、待ってくれリリルカ・アーデ!」

 

「はい?」

 

フィンの叫びに、ドアノブを掴んで扉を開けたリリルカが振り向く。

 

「それは……そんなものまで入れていたのか!?」

 

「えぇ。スパルタですが妙なところで過保護な師匠からの贈り物です」

 

「……待て!手前の目が確かなら……その外壁は『オリハルコン』か!?」

 

「「「なにぃっ!?」」」

 

「そうですよ。コスト度外視で頑丈さを求めた物ですから。

 アルフィア様の流れ弾に当たっても壊れない実績有りです」

 

何でもないことかのように返されたリリルカの返事に、フィンの顔が引きつっていく。

彼はまだリリルカのスキルを甘く見ていた。オリハルコンの小屋なんてものを用意したのはヒノカミだが、それをダンジョンの中に持ち込めるというのならどんな場所でも安全地帯になる。

ここに至るまでの道中でも、普段なら『荷物になるから』と置いていくしかなかったドロップアイテムや採取品を山ほど引き受けてくれている。

その上でまだまだキャパシティに余裕があると言う。今後も拾い集めて行けば、戻ってくる頃には一財産だ。

そして当人の戦闘力が第一級冒険者並み。スキルで生み出したというローブの強度もとんでもなく、よほどの事態に陥らない限りリタイヤはない。

 

(革命だ……彼女はダンジョン攻略に革命を起こす!

 第一級冒険者を十人揃えるよりも、彼女一人の方が遥かに価値が大きい!)

 

大規模な遠征には莫大な金がかかる。そして最終的にほとんどの場合は赤字だ。

だがリリルカがいれば最深部の厳選したわずかな品だけでなく、道中で手に入れた全てを持ち帰ることができる。

となれば黒字は確実。三割支払っても痛くも痒くもない程に。

 

「あ、ヘスティアファミリアの財産なのでロキファミリアの皆さまを寝泊まりさせることは受け入れられませんよ?

 中にも貴重な物が多いですし、寝ている間に何か物が無くなりでもしたら皆さまを疑わなくてはなりませんし」

 

「……そうか、いや、当然だね。

 だが今後重傷者などが出た時にはお願いしてもいいだろうか。

 勿論対価は支払うよ」

 

フィンは内心を悟られぬよう、震える親指を抑えながら平然と答えた。

 

「かしこまりました。今はリリたちも仲間なのですし、その場合は無償で協力致します。

 それと、ヒノカミ様より信頼を得ているアイズ様ならば受け入れられますが?」

 

「むふー」

 

「……アイズ。お前は私たちといなさい」

 

「なんで!?」

 

「当たり前だろう。お前一人が特別扱いなどファミリアの輪を乱す」

 

「……」

 

「そんな目で見ても駄目だ」

 

「し、仕方ないですよ、アイズさん。

 寝る時以外はいつでも遊びに来てくれて大丈夫ですから」

 

「お風呂沸いたらお呼びしますね」

 

「ありがとう。ベル、リリ」

 

 

「「「お風呂あるのっ!?」」」

 

 

三人の会話が聞こえていた女性冒険者たちが一斉に反応する。

リリルカはにんまりと笑い、それから営業スマイルを張り付けた。

 

「お一人様1回5000ヴァリスでいかがでしょう?」

 

「「「のったぁーーーっ!!」」」

 

「人数が多いので手早くお願いしますね。

 シャンプーとボディーソープは節度を守ってお使いくださぁ~~い♪」

 

 

「……地上の公衆浴場の相場の10倍は取りすぎじゃない?

 大きめだけど一度に入れるのは2,3人が限界だし……」

 

「ううん、ダンジョンでお風呂が入れるなら安いくらい。倍にしても皆食いつく」

 

「はっきり言ってお友達価格ですよ。

 リリたちは外様ですし、多少は好感度を稼いでおきませんと。

 水はたくさん持ってきてますが、これだけ人数がいると消費が馬鹿になりません。

 今後は道中で積極的に給水していきましょう」

 

 

 

「……やはり何としても、ヘスティアファミリアとは友好的な関係を維持していかねばならないね」

 

「あれほどの量のオリハルコンを用意できるという点も見逃せぬな。

 ……リヴェリアはどうした?」

 

ガレスの質問に、フィンは無言で指をさす。

ログハウスの前にできた風呂待ちの列の中に、普通にハイエルフが混ざっていた。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

その後も日数をかけて行軍は進み、50階層。

目標である59階層手前の、最後の安全地帯。

冒険者たちはここで一夜を明かし、明朝進軍を再開する。

 

「お茶をどうぞ」

 

「ありがとうリリルカ・アーデ。

 ……しかし、快適な空間だ。ダンジョンの中だということを忘れてしまいそうになる」

 

ベルたちはログハウスのリビングを一時的に提供した。

ロキファミリアの幹部たちとヘファイストスファミリア団長の椿、ベルとリリルカが集まれば流石に手狭だが、それでもダンジョンの中よりは落ち着ける。

 

「では、最後の打ち合わせを始めよう」

 

50階層より下、特に52階層からは地獄だそうだ。幹部のラウルという青年は怯え切ってしまっている。

故にここから先は選抜したメンバーだけで進軍し、残る部隊はこのキャンプ地の防衛。

 

「ベル・クラネルとリリルカ・アーデには進軍メンバーに参加してもらいたいが、この家は置いていってほしい。

 万が一の場合、防衛部隊がここで籠城できるように。

 そのような事態に陥らない限りは勝手に中に入らせないと誓うよ」

 

「……まぁ、仕方ありませんね。しかし本当にそれほどの脅威なのですか?

 安全階層にも突っ込んでくる、『新種』とか言うモンスターは」

 

「そうだね、改めて説明しよう。君たちはこの下の層の事もあまり詳しくないだろうから」

 

前回ロキファミリアが遠征した際に遭遇した、芋虫のようなモンスター。

他のモンスターすら構わず襲い、倒されれば破裂し周囲に溶解液をまき散らすらしい。

それが怒涛の波のように押し寄せてくるのだとか。最低でも『不壊属性』を付与された武器でなければ対応ができない。

この戦いに備えてロキファミリアは幹部たち全員分の『不壊属性』武器を買いそろえた。おかげでファミリアは素寒貧だ。

 

「それでもオリハルコンが溶かされることはあるまい。

 これだけの広さがあれば何とか全員詰め込めそうじゃ」

 

「うーん、流石のリリたちも、オリハルコン製の武器の予備までは持ち合わせがありません。

 ベル様とリリの武器が溶かされることはないと思いますが……」

 

「それらも『不壊属性』武器なのかい?」

 

「いや違うな。手前の目は誤魔化せぬ。

 お主らの武器は……我らの物とは根本的に違うのであろう?」

 

「「…………」」

 

ベルとリリルカは無言で見つめ合う。ベルが頷いたので、リリルカは観念して白状する。

 

「はぁ……全部ご存知のアイズ様とレフィーヤ様もいらっしゃいますし、今更ですか。

 そちらの知っている情報、全部ください。

 代わりにこちらの手札も全て明かします」

 

「わかった。それを聞いてから作戦の詳細を煮詰めよう」

 

フィンたちがロキファミリアが持つ深層の情報を全て吐き出した後、ベルとリリルカは自分たちができることを説明していく。

聞き進める内にロキファミリアの幹部たちの目が見開かれ、顔が引きつり、フィンの親指が絶え間なく震えている。

 

 

「……以上です」

 

「ウン……頼もしいね、ホント……じゃあ各員の役割を決めようか……」

 

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