『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

767 / 788
第24話 地獄の洗礼

 

翌朝、進軍を再開した遠征部隊選抜メンバー。

 

「さて、総員戦闘準備。

 ……行け!ティオネ、ティオナ!」

 

フィンの号令でアマゾネスの姉妹が斬り込む。

犀のような人型のモンスターが次々と現れ襲い掛かるが、二人は姉妹らしく息の合った連携で切り開いていく。

 

「リリちゃん!大双刃(ウルガ)ちょうだい!」

 

「はいっ!」

 

選抜メンバーの荷物は全てリリルカのローブの中だ。

ここからは安全性よりも機動力最優先。

僅かでも負担を減らすために、リリルカたちが持ち込んだ荷物と預かっていた道中の戦利品は全て50階層に置いてきた。

もしリリルカに万が一があれば不味いが、仮に天神武装が破壊されても中の荷物がばら撒かれるだけで済むならと割り切った。

 

「……来た!新種!」

 

「あれが!?」

「キモッ!キモいです!!」

 

「下がれティオナ!やれラウル!」

 

「はいっす!弩弓、構え!掃射!」

 

通路を埋め尽くす勢いで雪崩れ込んでくる芋虫型のモンスター。

メンバーの中で実力が一歩劣る者たちが、ラウルの指揮で一斉に矢を放つ。

芋虫はその数と破壊された時にまき散らす溶解液が厄介だが、強度はそこまででもないと彼らの前回の遠征で判明している。

リリルカがクロスボウを大量に持ち込んでいたのは僥倖だった。当初はサポーターとして荷物持ちを務めるはずだった者たちを、芋虫相手の戦力として投入できる。

 

「『終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の厳冬……我が名はアールヴ』!」

 

「総員退避!」

 

「『ウィン・フィンブルヴェトル』!」

 

まっすぐに伸びた通路を、リヴェリアが呼び出した3本の吹雪の柱が通り抜ける。

後には凍り付いた彫像が残されていた。漏れ出た溶解液も余さず凍り付いている。

 

そして一団は地獄……52階層の前へと差し掛かる。

 

「さて、ここからは作戦通りに……いけるね?」

 

「はい」

 

一団の中から、一際小さなリリルカが一歩前に出る。

周囲に敵の気配はないというのに背中の刀を抜く。

 

この刀はただの刀ではない。

ヒノカミが自身の記憶より再現した、彼女が『最もリリルカに適していると判断した』武装だ。

 

ヒノカミが目を付けたのは彼女が習得していた変身魔法『シンダー・エラ』。

見た目を変えるだけでなく、その姿に相応しい能力まで再現することが可能。

獣人やモンスターに変身すればその優れた感覚や特殊能力すら対象となる。

かつては自身とほぼ同じ体格のものにしか変身できないという縛りがあったが、そちらも彼女の成長により制限の幅が大きく広がっている。

 

「『貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの』」

 

魔法の詠唱を行うと同時に、リリルカは抜いた刀を自分の正面に水平に構える。

 

 

(うた)え『羚騎士(ガミューサ)』」

 

 

刀剣解放。

変身魔法で己の種族を『破面』に変えたリリルカは、ヒノカミから預かった刀を媒介としてとある破面の姿と能力を模倣する。

 

あふれ出た煙が晴れると、そこにいたのは小人族の少女ではなかった。

下半身はカモシカ、上半身はグラマラスな長髪の美女。

胸や肩に甲冑を着け、頭には大きな角が生えた髑髏を被る。

全身を覆っていたローブは体格の変化によりケープのようになっていたが、彼女は左手を添えてサイズを調整しマントのように羽織る。

そして右手の刀は両刃の大型ランスへと変形していた。

 

予め話は聞いていたがそのあまりの変貌ぶりにロキファミリアの精鋭たちは言葉を失う。

 

「……では、よろしく頼むよ」

 

「お任せください」

 

かろうじて冷静さを保つフィンの言葉への返事と不敵な笑みも、妖艶さを醸し出していた。

 

「……参ります!!」

 

人馬となったリリルカが単騎で駆け出す。

狭い通路を音を立てて爆走する。

 

グロォォォォ……

 

間もなく竜の遠吠えが階層に響く。捕捉されたようだ。

音の発生源は……『下』。

 

ズンッ

 

間もなく、床を突き破って襲い掛かる『竜の吐息』。

ここ52階層より遥か深くより、58階層を根城とする『ヴォルガング・ドラゴン』による階層を無視した砲撃が始まったのだ。

おまけに、ここ52階層に生息する蜘蛛のモンスターが併せて冒険者へと襲い掛かる。

これが地獄の洗礼だ。

 

リリルカは己の超感覚を全開にして、絶え間なく足元から襲い来る砲撃と通路に潜む蜘蛛が吐き出す糸を躱しながら疾走を続ける。

速すぎてモンスターたちの狙いは定まっていない。加えて。

 

「ふっ」

 

時折、リリルカは空を走る。

『空中を足場にして跳ねる』なんて芸当、ヒノカミ道場では基本中の基本。

普段のリリルカでは一度の跳躍で連続2回が限界だが、この姿なら5回は余裕だ。

自慢の脚力と合わせればもし真下の大穴『竜の壺』に落ちたとしても自力で戻ってくることができるだろう。

 

階下にいるドラゴンは苛立っているのか、砲撃の頻度が増してきた。

これが狙いだ。リリルカはドラゴンたちの意識を自分に集中させたまま一団から離れていく。

 

「……よしっ!行け!」

 

「「はいっ!!」」

「チィッ……」

 

フィンの号令でアイズとベルとベートが駆け出す。

そして3人は一番近くにあった『ドラゴンの砲撃でできた大穴』へと飛び込んだ。

 

「アイズさん!」

 

「『目覚めよ(テンペスト)』……!」

 

アイズは落下しながら精霊剣を構え、風の魔法を発動。周囲に溢れる暴風を圧縮し始めた。

これもまた、ヒノカミが彼女に示したとある力を再現したもの。

 

 

「エアリアル……『ホークス』!!」

 

 

風はアイズの翼となった。

空を自在に飛翔するアイズは羽ばたきによりまき散らした無数の羽根を操り、ここ『竜の壺』に生息する無数の飛竜を迎撃しながら降下する。

 

「はぁぁぁーーーっ!」

 

ベルもまた彼女に続き空を走る。

脚力に優れたベルの連続空中跳躍回数は、スタミナが続く限り無制限だ。

ようやく落ちてくる存在に気付いたらしいヴォルガング・ドラゴンの砲撃が二人を襲うが、彼らは飛竜すら上回る速さで熱光線を躱しながら58階層を目指して更に加速する。

 

(速ぇ……!)

 

外様のベルだけにアイズを任せられないと突入を志願したベートだったが、完全に出遅れてしまった。

レベル6になり、その後も修行とやらで劇的な成長を続けているアイズはとんでもない強さだ。レベル5のままなベートはついていけず置いていかれてしまった。

 

だが、ベル・クラネルは彼女の隣を走っている。

 

アレを、自分は『雑魚』と呼んだのだ。

『雑魚はアイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わない』。

この状況、雑魚はどっちだ?

 

「……負けてられるか」

 

ベートはアイズが周囲にまき散らし残していた風の羽根を踏みつぶし、彼女の風魔法を己の脚に纏う。

 

「負けてられるかクソッたれがぁーーーーーーーっ!!」

 

そして二人を追いかける。食らいつこうと。

彼は道化の神の眷属となった。

だが己が道化に落ちぶれるつもりはない。

 

 

 

 

砲撃が止まった。アイズたちが58階層に辿り着き、ヴォルガング・ドラゴンとの戦闘を開始したのだろう。

 

「よし、ガレス、ティオネ、ティオナ。降下しアイズたちの援護を。

 残るメンバーは正規ルートで58階層へ向かう!」

 

「おう」

「待ってますからね団長!」

「早めにきてよね~」

 

3人が狙撃される心配がなくなった大穴に飛び込む。

そしてリリルカが音を立てて一団の下へ戻ってきた。

 

「ご苦労様。だがもう一仕事頼むよ」

 

「えぇ。さぁレフィーヤ様、リリの背へ」

 

「お、お願いします……」

 

変身したままのリリルカの上に、レフィーヤが騎乗する。

強力な魔法を習得しているが魔導師であり、しかもまだレベル3でしかない彼女は身体能力が低い。当然、走る速さも。

よって彼女には機動力に優れるリリルカの上で移動砲台となってもらう。

 

「急ぎましょう、でないとベル様たちがドラゴンを全て倒してしまいますよ?」

 

「ハハ、それは大変だ。僕らの立つ瀬がなくなってしまう」

 

「っ、新種、来てます!」

 

「邪魔ですっ!『虚閃(セロ)』っ!」

 

「『解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢』……!『アルクス・レイ』!」

 

またも通路から湧き出て来た芋虫の群れを、リリルカとレフィーヤの光弾が貫き道を切り開く。

 

「さぁ、若者ばかりに任せていられないぞ!……進軍だ!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 

そして彼らは58階層にて無事合流する。

この下は59階層。過去にゼウスファミリアのみが辿り着いたとされる領域。

 

この場にいる全員にとっての『未知』が待ち受けている。

 




・刀剣解放『羚騎士(ガミューサ)
変身魔法で自身の種族を『破面』に変えた上で『ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク』の力を封じ込めた斬魄刀を開放することで、能力を再現する。
他の破面の斬魄刀でも理論上は再現可能だが、ヒノカミは彼女の能力こそがリリルカに最も相応しいと判断した。
破面となった時のリリルカの姿や波長がネリエルと近かったこともあるが、武装が『槍』であったことも一因。

・エアリアル『ホークス』
全身にまとっていた風を圧縮し、翼とする。
翼は全身を覆う盾になり、羽根は周囲の振動や音を集める感覚器官としての役割を果たす。
自在に飛翔するだけでなく、抜け落ちた風の羽根を遠隔操作し攻撃や補助に転用することも可能。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。