「えっ?新種を指揮する人間が?」
「えぇ、そいつの号令でモンスターが連携して襲ってきました。
リリが感じた限りでは人とモンスターが混ざったような気配で……。
おそらくヘルメスファミリアの皆さまが遭遇した『怪人』と同種であると思われます」
「あの花のモンスターを操ってたっていう奴らか……じゃあ新種と花は近しいモンスターなのかな?
それにこんな深くでも出てくるなんて、ダンジョンの中で一体何が起こってるんだろう」
別れて行動していたベルに、リリルカが53階層から58階層までの出来事を説明している。
彼女は刀剣解放は解除していたが変身魔法はそのままで、種族は『破面』でありスタイルは背の高い女性のままだった。
刀剣解放は負担が大きいが変身魔法は使い慣れていることもありそうでもなく、持続時間が長い。
これから59階層に向かい、そこでも再び刀剣解放するだろうから維持しておいた方がいいと考えてのことだ。
二人はロキファミリアの一団から少し離れたところで会話をしていたのだが、リリルカのあまりの美貌に目が釘付けになっていたラウルがティオネにどつかれていた。
そしてティオナは自分のなだらかな胸と比較して肩を落としていた。
ちなみにリリルカはフードで隠しているので気付かれにくいが、本来の小人族の姿でも結構なものをお持ちである。
「ベル・クラネル!来てくれないか!?」
「?はい!」
フィンがベルを呼び寄せ、リリルカがその後ろに続く。
「どうしたんですか?」
「君はザルドと面識があるのだろう?
59階層より先は極寒の『氷河の領域』……ゼウスファミリアの報告に間違いはないかい?」
「……詳しくは知りませんが、ザルドおじさんが意味もなくギルドに嘘をつくとは思えません」
「ならばなぜ、59階層の入り口から冷気が伝わってこない?」
「「「!?」」」
「失礼します」
背の高い姿のまま……『破面』の能力を維持したままのリリルカがフィンに倣うように59階層入り口付近に手を添え、『
「……!?」
「どうした?」
「います。とんでもない力を持った何かが」
「っ、わかるのかい?他には?」
「この大物……モンスターではあるんですが、何か混じっているような……?」
「先ほどの『怪人』とやらか?」
「いえ、どちらかと言えば……神や精霊に近いかと」
「「「!?」」」
「……すいません、今わかるのはこれくらいです」
「いや、十分だ。……耐寒装備は無しだ。
総員速やかに食事と回復、装備の確認に移れ。半刻の後に出発する」
――――……
全員が臨戦態勢、リリルカももう一度刀剣解放した状態で一歩ずつ奥へ進む。
「寒いどころか……蒸し暑いですね」
「今から僕たちが目にするものは誰もが……神々でさえ目撃したことがない……『未知』だ」
一同の前に、光が溢れる。広がっていたのは氷河どころか。
「密林……!?」
「っ、アイズさんアレ!」
天井には待機状態の食人花が無数に。前方から音が聞こえる。
「大量の魔物の気配があります。でも……数が減ってる?」
「数が……っ!?前進する!」
ベルの呟きに反応したフィンが最悪を予想し号令を出す。
暫く進んだ先には、巨大な植物が溢れる密林の中にあって不自然に自然がない荒野が広がっていた。
中央にはフィンたちが前回の遠征にて50階層で遭遇した超巨大な新種の亜種、それに食人花の要素を加えたような姿したモンスター。
その周囲を無数の食人花と芋虫が取り囲み、己の核であるはずの魔石を差し出している。
「やはり……っ」
「まさか、あれって!?」
「『強化種』だ!!」
……アアアァァァァァァァァア!!!
モンスターの頭部が蕾のように膨らんでいく。
そして、花が、咲いた。
『……アリア!』
「そんな……」
『キャハハハハハハハハ!!』
モンスターの頭には、アイズを『アリア』と呼ぶ少女の上半身。
古代に神々の意思を受け取りダンジョンに潜り、モンスターに食われて融合した存在。
名付けるならば、『穢れた精霊』。
「『精霊』!?あんな薄気味悪いのが!?」
「新種のモンスターたちは『触手』に過ぎなかったんだ……本体をあの形態まで昇華させるための……!」
『アリア、アリア!会イタカッタ!
貴方モ一緒ニナリマショウ!
……貴方ヲ……食ベサセテ?』
「っ、総員戦闘準備!!」
大量の芋虫が雪崩のごとく押し寄せてくる。
同時に、穢れた精霊が巨大な触手をそれ以上の速さで伸ばしてきた。
「!?重いっ!」
「どんだけ魔石喰ったのよ!?」
「リリたちは新種を!『
「はいっす!弩弓、撃てぇーーーっ!」
「リヴェリア、詠唱は待て!何か……来る!」
ティオネとティオナが二つの触手をかろうじて弾き飛ばし、リリルカとラウルたちが遠距離攻撃で芋虫の数を減らそうとする。
その時間を使ってベルが光の剣、アイズが風の翼を具現化する。
『火ヨ、来タレ』
「詠唱!?モンスターがじゃと!?」
「リヴェリア、結界を張れ!砲撃っ、敵の詠唱を止めろ!」
「『ヒュゼレイド・ファラーリカ』!」
「魔剣構えっ!撃てぇーーーーっ!!」
「『
だが精霊は花弁を閉じて防御壁とした。攻撃を受けて花を散らせたが、精霊の詠唱は止まっていない。
『
「『舞い踊れ大気の精よ光の主よ、森の守り手と契りを結び』……」
『突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命』
(!?超長文詠唱!?)
「『大地の歌をもって我等を包め』……!」
『全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号咆ヲ我ガ愛セシ
代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ
(早い!)
「『我らを囲え大いなる森光の障壁となって我等を守れ』!」
「総員リヴェリアの結界まで下がれ!」
飛び出す寸前だったベルやベートたちまで引き返し、リヴェリアの近くに集まる。
「『我が名はアールヴ』!『ヴィア・シルヘイム』!」
半球状の透明な壁が一同を覆った。
『ファイア・ストーム』
穢れた精霊が吐き出した小さな火種が、炎の嵐となって全てを飲み込む。
「結界が……っ!」
「ガレス!皆を……!」
「お任せくださいっ!!」
フィンの叫びに応えたのはリリルカ。
彼女は己の武装を広げて全員を包み込んだ。
ベルとリリルカが受け継ぎ使いこなしている『天神武装』の起源は『火種』。
その副次効果として、彼等とその武装は熱に対して高い耐性を持つ。
「んっ……ぎぎっ……!」
ローブを可能な限り広げて何層にも重ね、内側への熱の伝播を防ぐ。
それでも炎の勢いを受け止めきることができず、外側から少しずつ燃えていく。
「リリ!僕の力も!!」
「お願いします!」
だが彼女の体に手を添えたベルが己の力を譲渡し、受け取ったリリルカが焼けた端から武装を再構成することで、かろうじて乗り切った。
「はぁっ、はぁっ……」
「森が……階層ごと地形を変えるなんて……」
リリルカが焼け焦げたローブを少し持ち上げると、彼らの目の前には焼け野原が広がっていた。
『地ヨ、唸レ』
「「「「「!?!?!?!?」」」」」
連続詠唱。
「ラウル達を守れぇーーーーーーーっ!!!」
フィンは最も弱い者たちを守護するように指示した。
『来タレ来タレ来タレ大地ノ殻ヨ黒鉄ノ
代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ
「ベルさまぁっ!!」
刀剣解放も変身魔法も解除したリリルカが力の限り叫ぶ。
『メテオ・スォーム』
巨大な岩塊が雨あられの如く階層全域に降り注ぐ。