『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第26話 『冒険をしよう』

 

「…………え?」

 

最悪を覚悟した彼らは、しかし健在。

巨大な岩塊は周囲に無数のクレーターを作り出していたが、頭上に広がり傘となった巨大な幕が岩の雨から皆を守っていた。

 

「……実体があるなら……入れちゃえばいいですからね……!」

 

「っ、リリルカ・アーデ……!」

 

「ぐっ……」

 

詠唱内容からどのような攻撃が来るかを推測したリリルカは咄嗟に武装を『裏返し』て、降り注ぐ岩を『格納』していた。

炎の嵐と合わせて、これで二度。

小人族の少女は防御に特化した己の武装と力の全てを使い果たして仲間を守り切った。

四つん這いになって耐えていたが崩れ落ち倒れ伏す。震えているが起き上がることもできないようだ。

 

 

「「はぁぁぁーーーっ!!」」

 

 

そしてリリルカを信じていたベルとアイズは駆け出し、岩の雨を躱して穢れた精霊へと肉薄していた。

 

『イヤァッ!』

 

「くっ、このぉっ!」

 

しかし大量の触手で迎撃され近づけずにいる。

精霊が防御を固め始めた。あと一歩が遠い。

だが特に高速で飛び回るアイズに対応するため攻撃に転じる余裕がないようだ。

ベルは光の剣を具現化していたが、かなりの量の力をリリルカに渡してしまったため維持できる時間は短い。

このまま攻めあぐねていれば、先に彼が力尽きる。

 

 

 

 

「君たちに『勇気』を問おう」

 

「「「……?」」」

 

圧倒的な力の差。それにくじけず抗った3人の若者。

呆然としていた一団にフィンの言葉が響く。

 

「見るがいい。今僕たちの目に映るのは凄まじい脅威。

 そして臆することなく立ち向かう『英雄』たちだ。

 ……君たちに、彼らの隣に並ぶ『勇気』はあるか?」

 

「「「!?」」」

 

「恥ずかしくないのか?悔しくないのか?

 二度も命を救われ、今も立ち尽くしているだけの自分が。

 僕たちは守られるだけの弱者か?見ているだけの観衆か?

 ……違うと言うなら立ち上がれ!武器を取れ!」

 

「「「…………!」」」

 

穢れた精霊が呼び寄せたのだろう。別階層から大量の芋虫が彼等へと押し寄せてくる。

状況はさらに絶望的。だが彼らの胸には燃え盛る憧憬の炎が宿る。

 

「ラウルたちはリリルカ・アーデを頼む!

 残る全員でアイズたちの道を切り開く!僕に続け!

 ……さぁ、『冒険』をしよう」

 

 

「「「「「うぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!!!」」」」」

 

 

フィンと、ガレスと、リヴェリアと。

ベートとティオネとティオナが武器を携え我武者羅に走り出す。

レフィーヤと椿とラウルたちがリリルカを守るように陣を組んで芋虫の大群を迎え撃つ。

 

「…………っ」

 

ズドドドドドドォン

 

「「「!?」」」

 

「……これで、全部です……。

 あとはよろしくお願いします……」

 

まだ頭上に大きく広げていた幕から先ほど取り込んだ岩塊が吐き出され、接近していた芋虫たちを押しつぶしながら壁となった。

最後に収納していた物資を傍に落として、中身が空になった天神武装を解除。

リリルカはそのまま意識を失った。

 

「リリさん……!」

 

「……はは、ははは!天晴見事!これは手前らも負けておれぬな!」

 

「魔剣構え!撃ち尽くしたら殴ってでも止めるっす!

 リリちゃんに傷一つ負わせるなぁーーー!!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

 

 

「『魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て』!『ヘル・フィガネス』!!」

 

魔法により強化状態となったフィンを先頭に、ガレスたちが後に続く。

穢れた精霊はそちらも迎撃せねばならず、アイズとベルにかかっていた圧力が弱まる。

 

「ベル、お願い!」

「はいっ!」

 

先ほどまでは二人がかりでなければ対処できなかったが、今なら一人でも十分。

ベルにその場を任せたアイズは翼を羽ばたかせ空へと昇る。

 

「このまま攻めてください!精霊の意識を僕らに集中させて!」

 

「テメェが命令すんなぁ!」

「任せて!アルゴノゥトくん!!」

 

「!?アル……?」

 

「あの馬鹿妹の戯言は聞き流しときなさい!」

 

「ぬぅぉおあぁぁぁぁぁーーーーーー!!」

 

ロキファミリアの前衛部隊がベルの隣に追いついた。

打ち付けられる巨大な触手を力尽くで弾き飛ばしながら、一団は少しずつ前へと進む。

 

『ッ、火ヨ、来タレ。

 (タケ)(タケ)(タケ)ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ……』

 

穢れた精霊は怯えながら、ボロボロの花弁の中に引き籠って詠唱を開始する。

 

 

「……『焼きつくせスルトの剣、我が名はアールヴ』!『レア・ラーヴァテイン』!!」

 

だがその前に、後方でリヴェリアの詠唱が終わっていた。

大量の触手と残っていたわずかな花弁が炎に焼かれ燃え尽きる。

 

『アッ、熱イィ……!』

 

「「「うあぁぁぁーーーーっ!!!」」」

 

『ヒィッ!』

 

魔法の攻撃範囲の外側にいたベルたちが、障害物が無くなった道を突き進み精霊のすぐ傍にまで迫っていた。

声を引きつらせた精霊は思わず詠唱を中断してしまう。

 

『コナイデェッ!!』

 

精霊の叫びに応えるかのように地面の下……おそらく下の階層から鋭い触手が伸びて絡み合い壁になる。

 

「「「!?」」」

 

それはあまりに硬く、フィンとベートの一撃を受けても表面が抉れるだけだったが。

 

ザンッ!

 

未完成な紛い物でもベルの次元刀の前では紙切れ同然。

抉られ薄くなっていたから、短い刀身でもかろうじて壁の向こう側まで届き小さな穴が開いた。

 

「でかしたぁーーーーっ!!」

 

一歩遅れたガレスが大斧を振りかざした渾身の一撃を放つ。

あまりの衝撃で攻撃した斧の方が砕け散ってしまうが、壁の小さな穴は人が容易に通り抜けられる大穴へと変貌していた。

その断面から更に小さな触手が伸びて無防備になったガレスに迫る。

 

「オラァッ!!」

「よいしょぉっ!」

 

だが届く前にティオネとティオナが切り払った。

精霊までの道が、完全に開けた。

 

『アァァッ……!突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊(トニトルス)雷の化身雷ノ女王(オウ)……!』

 

ここに来て短文詠唱。

ベルたちの剣が精霊に届く前に詠唱が完了し、魔法が発動する。

 

 

ザシュッ……

 

 

『ア……』

 

その寸前に、空を大きく迂回し背後から迫っていたアイズが精霊の胴体を切断した。

精霊の本体と思わしき上半身を掴んで飛び去ると、残された下部は枯れるようにしぼんでいった。

 

 

「…………」

 

『アァッ……アリア……アリアァ……!』

 

地面に投げ出された精霊の力は著しく弱っている。

もはや消えゆく寸前。魔法を唱えることもできないようで仰向けでもがいている。

精霊を見下ろしていたアイズは、彼女に声をかけた。

 

 

「……いいよ。一つになろう」

 

『!?アリアァッ……!』

 

絶望の表情が喜びへと変わり、精霊はアイズに手を伸ばす。

だがアイズはその手を取ることはなく。

 

 

「ベビー・オブ・ウィンド」

 

『…………』

 

 

己の魔法の補助のためにヒノカミより譲り受けていた大精霊の分霊を呼び出した。

 

『エ……?』

 

「食べていいよ」

 

『!?』

 

小さな大精霊が両手の翼を羽ばたかせて穢れた精霊に近づき、口を開ける。

 

『ヤダァッ!食ベラレルノヤダァッ!!』

 

「貴女が望んだことだよ……ごめん」

 

『ッ!?アリ……!』

 

 

グシャリ

 

 

穢れた精霊を取り込んだベビー・オブ・ウィンドは一回り成長し、再びアイズの中へと戻っていった。

 

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