一護「姉貴」
「……妙な空気じゃな」
自分が侵入し陽動を始めたのが一昨日の夜。
一護たちが瀞霊廷に突入したのが昨日。
そして今日の朝。瀞霊廷の中心から漂ってくる霊圧がおかしい。
昨日までは自分たち侵入者を捕らえられないことにピリピリしているようだったが、今は怒りや困惑、色々な感情が渦巻いているような。
「……死神たちが混乱するなら好都合か」
軽く柔軟をして、移動を開始する。
「あ奴らも懺罪宮に近づいておるじゃろうし、儂は逆の方へ……!?」
そこで動きを止め、視線を向ける。
とある一点からとてつもない量の霊圧が発せられている。
自分より霊力の多い一護でもここまでの量は持っていないし、何よりあまりに禍々しい。
尸魂界の死神たちがそちらに向かうでなく遠ざかっていくことから、死神側の勢力であることは間違いない。
アレが一護たちのところへ向かえば殺されてしまうかもしれない。
間違いなく隊長格だろうが放置はできない。覚悟を決めて走り出した。
「……っははは!来やがった!
ウロウロしねぇで最初からこうしてりゃあ良かったぜ!!」
「剣ちゃんあったまいいー!!」
仲間であるはずの死神たちですら逃げ出し、誰もいなくなった広場で待ち構えていたのは二人の死神。
奇抜な髪型と眼帯をつけた傷だらけの大男と、その肩に乗る小柄な少女。
「儂を呼んでいた……ということか?」
「応よ。旅禍の中に飛び切り強ぇ奴がいるって聞いてなぁ。
だが生憎人探しは苦手でよ、そっちから出向いてもらったってわけだ。
……俺の名は」
十一番隊隊長、更木剣八。
非常に好戦的で殺し合いを楽しみ、卍解どころか始解すら習得せずに隊長の座に就いた男。
浦原からもらった情報で知ってはいたが、直接対面すればその化け物具合が良くわかるというもの。
「……訳あって、本名は名乗れぬ。今は『ヒノカミ』と名乗っておる」
「チッ、つまんねぇな。
まぁいい。楽しい殺し合いができれば十分だ」
これを相手に手加減などできるはずがない。
小太刀を捨て、背負っていた斬魄刀を抜いた。
「……焦がれよ、『赫月』」
「……ほぉ、いい霊圧だ。これなら楽しめそうっ!?」
剣八が刀に手をかける前にヒノカミが斬りかかった。
躱されたが頬を切り裂いた。断面が焼け焦げている。
「喧嘩でも訓練でもないなら、わざわざ構えるまで待ってやる義理はないな。
殺し合いがご所望なのだろう?」
「……は、はは、はははは!!!
いい!いいぜお前!!
やっぱり名前を教えてくれよ!」
「力づくで言わせてみせよ!」
この仮面も邪魔だ。投げ捨てて剣八へと走る。
(とは、言ったものの……!)
隣互が知る情報によれば、隊長たちの中でも剣八とは特に相性が悪い。
溶断力に特化した斬魄刀、高い防御力を発揮する静血装、師匠譲りの瞬歩、それらすべてを支えるOFA。
あらゆる面で隙が無いように見えるがそれ以上の力を持つ隊長たち相手では分が悪い。
彼らと比べれば隣互は前世から変わらずバランス型、突出した強みを持たない器用貧乏なのだ。
能力に偏りのある相手ならば弱点を突いて優位に立てるが、圧倒的な霊力に物を言わせて挑んでくる剣八は単純に強く、硬く、速い。
相手が防御を考えていないから攻撃は当たっているが傷は浅い。
むしろ斬られながらも攻撃してくるから下手に責めると隙を突かれかねない。
斬魄刀を振るったことで生じた炎を扱う隙もない。斬り合いに集中せねば殺される。
彼の刀の刃がボロボロなのも厄介だ。
鋭い刃なら切り裂かれたとしても、断面が綺麗だから戦闘中に回道で治すのも楽なのに。
「楽しいなぁ、おい!
もっと、もっとだ!もっと楽しませてくれよ!!」
「……くっそー。
血だらけ火傷だらけなのに、本当に楽しそうなんじゃよなぁコヤツ」
確かに敵として戦うなら相性が悪い。
しかし性格的な相性は、多分そんなに悪くない。隣互は個人的に彼のことは嫌いではないのだ。
戦闘狂ではあるが彼は理由なく味方にまで襲い掛かったりはしない。
彼なりに自制できている証拠だし、だから部下にも慕われている。
強者にしか興味がないから、非戦闘員には手を出さないし弱者を嬲ることもしない。
何より殺される覚悟がきちんとできている。
自分の地雷を踏み抜くような性格でもなく、端的に言えば『憎めない』のだ。
彼女はどちらかと言えば怒りで爆発的な力を出すタイプ。
そういう意味でも、敵とするには相性が悪い。
「『剣八は幾度斬り殺されても絶対に倒れない』だったか。
……殴る蹴るでも駄目かー」
「うははは!まさか素手でこの俺に傷を負わせるとはな!
今まで斬られるばっかだったが、殴られるってぇのも新鮮でいいもんだなぁ!」
「発言だけ聞くとド変態じゃな。仮にも女子相手に……」
「お、やっぱてめぇ女だったのか。胸がねぇからわかんなかったぜ」
「……儂に普通の女子の感性があれば、これで怒ることもできたんじゃろうがなぁ」
平然と会話をしているが、それは回道で自己再生を続けているから。
霊力が少なくなればそんな余裕はなくなる。
(というより、これ以上消耗すると……あ」
「あ?」
今更になって気付いた。
彼は譲れぬ主義主張ではなく、ただの自己満足で戦っている。
ならば手早くそれを満たしてやればよかったのだ。
「あー、次の一太刀で終いとしよう」
「……は?ふざけんな、少しでも長引かせろよ」
「儂の卍解は消耗が激しいんじゃ。
これ以上霊力を無駄遣いすると発動も難しくなる。
このまま尻すぼみになっていくよりそっちの方が貴様好みじゃろ?」
「……使えんのか?」
「あぁ。だから貴様もそれ外せ」
隣互はそう言って剣八の眼帯を指さす。
それは彼が戦いを楽しむための拘束具であることも聞いていた。
剣八は不機嫌な態度から一転、今までで一番いい笑みを見せる。
「上等だぁ!これでつまんねぇ卍解だったらぶっ殺すからなぁ!!」
彼は眼帯を引きちぎって投げ捨て、本来の霊力を開放して斬りかかってくる。
隣互は両手で持っていた炎の刀から左手を離し、右手だけで頭上に掲げる。
目の前に剣八が迫った瞬間に宣言する。
「卍解『
一護の一言で、剣八の狙いが主人公に向きました。
一護の覚醒イベントが減ってしまいましたが、尸魂界に来る前に原作より鍛えており、ホワイトとも会っているのでどっこいくらいです。