『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第27話 立ちはだかる者

 

59階層にて穢れた精霊を撃破したロキファミリア選抜メンバーたちは、それ以上の攻略を断念し引き返すことにした。

理由はリリルカのダウンだ。

天神武装による消耗は魔法の使い過ぎによる精神枯渇(マインドダウン)とは異なり、

回復薬(ポーション)精神力回復薬(マジックポーション)を無理やり流し込んでも、意識が戻らなかった。

一行は彼女を連れて50階層へと戻り本隊と合流。

帰還を始めるのはログハウスに寝かされた彼女が目覚めてからと言うことになった。

 

リリルカ以外のメンバーはほぼ健在。もう一度この深さまで潜るのも容易ではない。

なので59階層での戦いを知らない本隊の残留メンバーたちは『リリルカをここに残して、彼女が目覚めるまでの間にわずかでも攻略を進めておいては』と進言した。

だがフィンを始めとするロキファミリアの幹部たちは『彼女こそが今回の勝利の立役者であり、60階層に行くのなら彼女と共にでなければありえない』と聞き入れなかった。

確かに彼女は第一級冒険者並みだが、単純な実力で言えば選抜メンバーの中でも上位ではないはず。

なので残留メンバーは『誇張し過ぎではないか』と考えたが、口の悪さで有名なベートですらリリルカの活躍を否定せず、一先ず彼らは不満を飲み込むことにした。

 

リリルカが目覚めたのは丸一日以上経ってからのことだった。

目覚めたリリルカは即座に謝罪した。これだけの人数だ。1日余計に滞在が増えるだけで、食料を始めとする物資を馬鹿みたいに消耗する。

そして選抜メンバーの誰も、彼女の謝罪を受け取らなかった。

急激に強くなったリリルカは自己評価が低い。謝罪などする必要もないほど活躍したという自覚がないのだ。

 

天神武装を再度展開したリリルカはログハウスと、50階層に置いていた荷物を全て格納。

ようやくロキファミリア遠征団は帰路に就くことになった。

そしてフィンの選択が正しかったことを間もなく彼らは思い知る。

 

帰還の途中、一団は『毒妖蛆』のモンスターパーティーに遭遇。

かろうじて脱出するものの、毒を浴びた多数の団員が軒並み行動不能になってしまった。

この猛毒を消し去るには特効薬が必要だ。

それ以外の方法はディアンケヒトファミリアに所属する『戦場の聖女』アミッド・テアサナーレの高位治療魔法だけ。

特効薬の持ち合わせなどなく、リヴェリアを始めとした魔導士たちでは症状を軽減させるだけで精一杯だった。

 

その猛毒を治療したのが、ベルとリリルカの『不可死犠』だった。

治療術を身に着けていると聞いてはいたが、まさかオラリオ最高位の治癒術師に並ぶほどとは当人たちすら予想していなかった。

だが人数が人数なので、団員全員の治療を終え彼らが動けるようになるまで更に三日を要した。

もしリリルカが動けずベル一人だけで治療に当たっていたら倍以上はかかっただろう。

 

しかしこの三日の行軍停止で、さらに膨大な量の物資を浪費した。

このまま一気に地上へと向かうのはかなりの強行軍になるだろう。

18階層のリヴィラの街でなら補給を行えるが相当に足元を見られる。

リリルカのおかげで十分な収穫を持ち帰ることができているが、遠征準備のために高額な『不壊属性』武器と魔剣を大量に買い揃えたロキファミリアの財政状況は火の車。

できるならこれ以上の出費は抑えたいところだ。

故に可能ならばそうせずに済むようにと、遠征団は帰還を急いでいた。

 

 

 

「待っていたぞ、ベル・クラネル」

 

19階層。安全階層である18階層に至る通路の前で猪人(ボアズ)の男が待ち構えていた。

 

猛者(おうじゃ)』オッタル。

フレイヤファミリア所属のレベル7。都市最強の冒険者。

 

そして彼の後ろにも多くの人影が見える。

女神の戦車(ファナ・フレイヤ)』アレン・フローメル。

白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)』ヘディン・セルランド。

黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)』ヘグニ・ラグナール。

炎金の四戦士(ブリンガル)』ガリバー四兄弟。

フレイヤファミリアの中核を担う、第一級冒険者たちだ。

その全てが武器を持ち、ロキファミリアの遠征団を睨みつけている。

 

「……どういうつもりだいオッタル。

 まさかフレイヤファミリアはロキファミリアとの全面戦争をお望みなのかな?」

 

「否。俺が望むのはベル・クラネル……貴様との決闘だ」

 

「っ、僕を!?なんで……!」

 

「俺はかつてゼウスファミリアのザルドに煮え湯を飲まされた。

 僅かでもその雪辱を晴らすため……これでは理由に足りんか?」

 

「足りないね。彼はアルフィアの血縁だ。師もザルドではない。

 それもよりによって、僕たちとの共同遠征帰りに襲撃しようなどと……」

 

「関係ねぇ奴が口を挟むんじゃねぇ。

 それとも今ここでやり合ってやろうか?あぁ?」

 

短気なアレンが威圧するが、フィンは構わず続ける。

 

「聞かせてもらおう、オッタル。

 これは君たちの主の神意ということかな?」

 

「……俺の独断だ」

 

そんなはずがない。

フレイヤファミリアは女神フレイヤの寵愛を求めるためなら何でもする狂信者の集まりだ。

団長でありフレイヤの傍に控えることを許されたオッタルは他の団員たちにとって邪魔でしかなく、ダンジョンにて幾度も襲撃を受けていると聞く。同じファミリアの眷属たちからだ。

そんな連中が大人しくオッタルに従っている……フレイヤの命令でなければありえない。

 

都市最強を名乗るファミリア同士の全面戦争は、フレイヤにとっても望むところではないはず。

しかしこの状況、『仮に戦争になってでも目的を達成したい』という意志を感じる。

そしてオッタルの標的。であればフレイヤの望みは……。

 

(……ロキ、読み違えたようだよ。

 女神が欲していたのはヒノカミじゃなかった……!)

 

ベル・クラネルだ。

フレイヤは彼を手に入れるためなら、ロキファミリアとの全面戦争すら厭わない覚悟だ。

そしてこのタイミングで襲撃してきた理由もはっきりした。

ベルがロキファミリアと……『力の及ばぬ大勢の第二・第三級冒険者』と共にいるからだ。

おそらくフレイヤはベルの実力を正確に把握している。

彼一人、あるいはリリルカと二人だけなら逃げに徹すれば、目の前の集団を相手にしても離脱できるかもしれない。

だがこの状況で拒んで拗れれば、ここで全面戦争が始まる。ロキファミリアの団員に多数の犠牲者が出る。

 

この遠征で、フィンもまたベルがどのような人間かをおおよそ掴んでいた。

彼はこの状況でフレイヤの神意に気付かぬほど愚鈍ではなく。

 

「……わかりました。お受けします」

 

『所詮は別のファミリアだから』と見捨てる選択肢を取れない、どうしようもないお人好しだ。

 

「ベル様……!」

「ベル……!」

 

「下がっててリリ。アイズさんも」

 

一人で前に出たベルは背中の剣に手を伸ばし、途中で止めた。

 

「はぁぁぁ……!」

 

そして掌に力を集中させ光の剣を生み出した。

同じく前に出たオッタルは愛用の大剣を構えるだけに留まらず。

 

「……ぬぉぉぉおおおおお!」

 

一時的に能力を更に跳ね上げる『戦猪招来(ヴァナ・アルガンチュール)』を発動。

奇しくもベルと同じく、己の全力を賭しての短期決戦を選択した。

 

 

「……行くぞ!」

 

「はい!」

 

オラリオ最強の冒険者と、オラリオ最強のレベル1が、激突する。

 




本作のベルはフレイヤが手を加えるまでもなく、強く輝きを放っています。
であればフレイヤがベルのためにできることはなく、彼女はただ『奪い取る』ために動く形になります。
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