オラリオで数か月に一度行われる『神会』。
前回の実施からまだ数日しか経過していないが緊急で開かれることになった。
普段ならオラリオでの催しやランクアップした冒険者たちの二つ名をつけるなどが主な議題だが、今回はおよそ一週間前にダンジョン入り口付近で起きた乱闘事件。
フレイヤファミリアの第一級冒険者の敗北と、それを成した一人の人間についてだ。
普段はふざけてばかりで収拾がつかない神々も今日ばかりは口数が少ない。
そしてその視線のほとんどが、ヘスティアへと向いている。
(ついに、この時がきたか……)
神会への参加条件は『レベル2以上の冒険者を持つファミリアの主神であること』。
帰還したベルとリリルカがレベル2となったことで条件を満たしたヘスティアもまたこの場に同席していた。
何よりヒノカミは彼女のファミリアの客人だ。彼女が不参加では話が進まない。
(でも、味方が『4柱』もいるのはありがたい……!)
ヘファイストスの眷属であるヴェルフもまたレベル2になったそうだ。
彼の探索は想定よりも波乱に満ちたものであり、彼を派遣し帰還時もベルたちが支援したのでタケミカヅチからも信頼を得ている。
ヒノカミとベルの昔馴染みであり全面的に協力すると宣言しているヘルメスがヘスティアに不敵な笑みを浮かべる。
この3柱が、明確にヘスティアの味方である神々だ。
予想外の幸運は、4柱目。
「緊急やから集まり悪いのは当たり前やけど、肝心のフレイヤが来ぃひんのかい……。
ほな、第ウン万回の神会始めるでぇ~~。
ちゅーても今回はウチを含めた事情を知る神から報告するだけやけどなぁ~~」
気の抜けた声で音頭を取る『道化の神』ロキだ。
彼女の眷属であるアイズもレベル7に昇格していた。
期間は遠征の1週間前から、遠征を終えて帰ってくるまで。つまりわずか一ヵ月足らず。
二ヵ月でレベル1から2に昇格したベルも都市最速記録を更新したが、アイズの前では霞んでしまっている。
遠征から帰った眷属たちから話を聞き彼らの恩恵の更新を終えたロキは即座にヘスティアのホームへと突撃してきた。
ヘスティアは気付かなかったが、どうやらヒノカミが事件を起こした時にロキも隠れて見ていたそうだ。
お礼とお祝い、そして同じく噂の事件について気になっていたヘファイストスとタケミカヅチがホームを訪れていたタイミングだった。
3対の視線にさらされ、ヘスティアはついに観念した。
ベルたちから聞くところによると、ロキの子供たちはフレイヤの子供たちに襲われたところを助けてくれたのだとか。
遠征の間も互いに助け合い、随分と仲が良くなったらしい。
ロキ自身も詰め寄ってくる前に『ウチの子供らが世話になった』とヘスティアに感謝を告げた。
ならばここで秘密を暴露したとしてもいきなり掌を返したりはすまい。ヒノカミ自身からも情報は好きに扱って構わないと言い含められている。
ヘスティアは己の知る限りの全てを話した。
ヒノカミの素性。ベルとリリルカの強さの理由。既にアルフィアとザルドを眷属に迎えていることまで。
驚き、呆れ、放心しかけていた3柱は必死に情報をかみ砕き、間もなく開催される緊急神会で口裏を合わせヘスティアを援護すると決めた。
「さぁて、先に事件の原因から触れとこか。
……はっきり言ってフレイヤの自業自得以外の何モンでもないわ」
「「「?」」」
「あの色ボケ、ドチビんとこの子に熱上げて攫おうとしたらしいねん。
一緒に行動しとったウチの子らが止めへんかったらどうなっとったことか」
「ロキの遠征には私の子供たちも同行していたわ。
団長の椿を含め、全員が事実であると証言してる」
「18階層にて俺の子らも、オッタルに襲われ疲弊した少年と会ったそうだ」
「そんでヒノカミっちゅーのはそのドチビの子の保護者で師匠やねん。
そりゃブチ切れるやろ。殺されても文句は言えへん。
よってあの事件は全部フレイヤが悪い。
……以上!閉廷!解散!!……ちゅーワケには、行かんよなぁ……」
「「「……」」」
円卓に座る神々は当然納得していない。
彼等が知りたいのはあの事件の顛末ではない。
フレイヤの眷属たちを蹂躙し精霊を従えたヒノカミという人間が何者かということだ。
「……今更箝口令もないか。アイツが15年前までゼウスんとこの客人やったのはもうお前らも把握しとるやろ?
そんでウチとフレイヤが組んでゼウスとヘラを追い出そうとした時な……アイツ一人にボコボコにされとんねん」
「「「!?」」」
「後で知ったんやけどな、ヒノカミは客人は客人でもゼウスとヘラの子供らの『師匠』で『指南役』やったんやて。
当然、その強さはレベル9の女帝よりも遥かに上……本当の人類最強はアイツやったんや」
「……どのくらい強いんだ?」
「それこそこの間の事件見ればわかるやろ。レベル7でも手も足も出ん。
ウチんとこ含めてオラリオの冒険者全部集めても、勝ち目あらへんで?」
「嘘だろ……!?」
「なんで、ウチとフィンはアレが爆発せんよう手ぇ尽くしとったんやけど……あの色ボケが全部台無しにしおったわ。
はぁ~~、もうマジで今からでも送還してくれんかなぁ!あのド阿呆を!」
「……それで、ロキ。結局ヒノカミとかいう人間は何者なんだ?」
「……あー……」
「それはオレが説明しようっ!」
出席している神からの再三の追求に言葉を詰まらせたロキ。
そこで勢いよく手を挙げ起立したのは、満面の笑みを浮かべたヘルメスだった。
「彼女のことについては、ヘスティアやロキよりも詳しいという自負があるよ!
何しろオレと彼女は15年以上の付き合いだからね!」
「はぁ……説明してくれるんなら誰でもいい、さっさとしてくれ」
「あぁ!まず彼女は『神の恩恵を受けていない』!」
「「「…………は?」」」
いきなり投下された爆弾に、円卓の空気が凍り付く。
「……今、なんと言った?」
「聞こえなかったかい?ヒノカミは『神の恩恵を受けていない』。
何しろ彼女は『神の恩恵なんて都合のいいものが存在しない』ところから来たんだからね!」
「なんだそりゃ!?今どき神がいないなんてどこの田舎だ!?」
天界から下界に降りた神は、それこそ途方もない数に上る。
大半は世界の中心とされるオラリオに在住しているが、下界のあちこちに神は住んでいるのだ。
例え神が住んでいない僻地だとしても、実力をつけ名を上げたら噂を聞きつけた神がやってきてしつこい勧誘を始めるだろう。
恩恵を受けないままで恩恵を受けた者以上に強くなるなんて、下界の環境が許さないのだ。
「田舎どころか……そもそも彼女の出身は下界ではないよ。
もちろん天界でもない」
「!?どういうことだ!」
「皆も知っているだろう?下界と天界を合わせたこの世界の外側にも『世界』があることは」
「まさか……!?」
存在だけは立証されているが、全知全能を謳う神々ですら把握できず、向かうこともできない『平行世界』。
その数はまさに無限。その在り方は千差万別。
そう、ヒノカミはこの世界とは別の世界からの来訪者。
しかも彼女の出身である世界とは……。
「この世界みたいに、神々が暇を持て余すような『平和ボケ』した世界じゃない!
神々も、星々も、宇宙の存続すらも脅かす『悪の帝王』や『魔人』や『破壊神』が闊歩するとびっきりの大魔境!
彼女はそんな世界で鎬を削り、邪悪の悉くを打ち倒し、数多の偉業を成し遂げた『救世の大英雄』なのさ!!」
本作のヘルメスが大人しく、ヒノカミに対して誠実で好意的である理由。
それは彼がヒノカミの辿ってきた道のりを全て把握しており、その生きざまに惚れ込んだ『熱狂的なファン』だからです。