『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン。レベル7に昇格。
成長促進スキルに目覚め、ヒノカミに弟子入りした彼女は、急成長によりついに都市最強である『猛者』オッタルに並んだ。
……かと思いきや、何とオッタルはレベル8に至ったらしい。
元々彼はレベルアップ間近で後は偉業を成すことだけ。
ベルとの互角の激闘か、それとも化け物への特攻か。どちらかあるいは両方が偉業と認定されたのだろう。
そしてレベル7のオッタルと引き分けたベルもレベルが一つ上がっている。よってこちらもレベル8相当。
アイズが最強という頂に届くのは、もう少し先の話になるようだ。
この事実に、尋常でない危機感を抱く者たちがいる。
ロキファミリアの第一級冒険者たちだ。
今回の遠征で彼等が得た経験値はかつてない量ではあったが、アイズ以外にレベルアップに届いたのはベートだけ。
そのベートもレベル6になったがアイズはまた先に進んでしまった。このままでは差は広がる一方だ。
フィンとガレスとリヴェリアはついに追い抜かれてしまった。
団長を始めとする最古参の3人がレベル6で、ファミリア内でほぼ最年少の少女がレベル7。あまりに風聞が悪い。
彼等もようやく尻に火が付いたようだ。いや、ついたと思い込んでいたようだがまだ考えが甘かったと自覚した。
何としても、追いつかねば。
「「「「うぉぉぉぁぁぁあああーーーーっ!!!!」」」」
そう考えた彼らは今、ロキファミリアのホームの訓練場にて。
「温い」
オラリオで話題の化け物にコテンパンに叩きのめされていた。
本当にもう恥も外聞もこだわっていられる状況ではなかったのだ。
フィンたちはヘスティアのホームに雪崩れ込みヒノカミに頭を下げた。『本気で強くなりたい』と。
彼等を『嫌い』と公言するヒノカミは当然嫌がったが彼らはそれでもと食い下がり、ヒノカミが自身の溜飲を下げる目的も兼ねて一つの妥協案が採用された。
『指示も指導もしない。模擬戦で全員まとめてひたすらボコボコにする』
結果がこの惨状である。
レベル6が4人。彼らは全力で一人に挑んで、倒され、治療され、立ち上がってまた挑む。
ロキファミリアの治療魔法使いと、ヒノカミが一緒に連れて来たベルとリリルカの不可死犠が大活躍していた。
「結果的にはリリ達のスキルの訓練にもなっていますが、流石に堪えますねぇ」
「ねぇアルゴノゥトくん!
アイズとアルゴノゥトくんたちの訓練はこんなんじゃないよね!?
こんな無茶苦茶じゃないよね!?」
「えぇ、勿論違いますよ」
「よかったぁ~~……」
「ってことはアイツ、やっぱり団長を余計に傷つけて……!」
「「もっとひどいです」」
「もっとひどいの!?」
「アレよりってどんだけなのよ!?」
「普段の師匠なら手足がもげて腹に穴が開くところまでやります。師匠ならすぐ元通りに治せるので。
でも今回は回復役が僕らとロキファミリアの皆さんたちで、師匠みたいに手足や臓器の再生まではできないから……」
「死線の5歩手前くらいでしょうか?
後遺症や傷跡が残らぬよう、かなり緩いところで仕切り直しにしてますね」
「……アイズ、ホントなの?」
「うん。本当は死んですぐなら蘇生できるらしいんだけど、死ぬと恩恵が消えちゃうから。
刻み直すのが手間になるだろうって死線の半歩手前で止めてくれる」
「一歩じゃないんだ……」
「半歩なのね……」
以前からヒノカミの下で訓練を続けているアイズが証言し、ティオネとティオナの姉妹は疑いを捨てた。
彼女たちの出身地であるテルスキュラ……アマゾネスの国でも強くなるための殺し合いが日常ではあったが、目の前の光景も負けてはいない。
なのに本当の修行はこれ以上の地獄だと言う。そりゃ強くなるに決まってる。これで強くなれなかったら心が折れてしまう。
尚、姉妹がヒノカミの訓練を見学しているレフィーヤに尋ねなかったのは治癒魔法の使い過ぎで既に精神枯渇を引き起こしダウンしているからだ。
そして観戦しながら聞き耳を立てていたロキファミリアの第二・第三級冒険者たちは、ほんのわずかに残っていたベルとリリルカに対する嫉妬心を完全に焼却した。
「……はぁーーっ、まだ信じらんないよ。
あんな無茶苦茶強いのに恩恵を持ってないなんてさぁーー」
「でも目の当たりにしたら信じるしかないわよ。
……流石に『神より強い』ってのは盛りすぎだと思いたいけど」
緊急神会でヘルメスにより明かされた情報は、参加していた神々を通じてその眷属に共有されている。
だが誰も『ヒノカミが神より強い』という話を信じていない。彼女は『都市最強すら圧倒できる強者』としか認識されていなかった。
彼女が戦うところを直接見た者たちですら流石に受け入れかねているようで、オラリオの一部で与太話として噂されている程度だった。
対して『ヘスティアの眷属になれば二重に恩恵が受けられる』という話だけが誇張され大きく広まっている状況だ。
そして今、オラリオの冒険者達はこぞってヘスティアの行方を捜しているのだ。
その渦中の神物であるヘスティアは今ロキの部屋にいる。
ヒノカミがフィンたちの模擬戦相手を務める条件として『ベルとリリルカとヘスティアをロキファミリアのホームに避難させること』を要求したからだ。
ヘスティアのホームが修繕された教会の地下であることは既にバレている。
そんな状況でヒノカミだけがホームを離れるのは危険極まる。
修繕の際にセキュリティも強化しているが鍵をかけて居留守を使うにも限界がある。ロキたちは納得しヘスティアファミリアの面々を受け入れた。
「……んで、屋台のバイトも辞めてしもたんか」
「うん……店主や常連さんは『気にしなくていい』って言ってくれたけど、巻き込んじゃいそうで……」
「ま、それが正解やろな。お互いのために」
神会以降、噂を聞きつけたヘスティアの下へと詰めかける冒険者たちの反応は大きく二つ。
『ヘスティアを卑怯者となじる者』と、『手っ取り早く強くなりたいと縋る者』だ。
こういった輩が出てくることは、神会が始まる前に情報の暴露を決めた時点で予想はしていた。
だがその数と勢いが想定を遥かに超えている。
ロキの予測だが前者は神会で反発していた神々、後者はギルドが煽動している。
前者の理由は言うまでもないが、後者はおそらくヘスティアを支援するつもりだったのだろう。
ギルドの長であるウラノスは千年前に下界に降りて来た始まりの神の一柱。下界の安定と黒竜討伐を強く望んでいる。
なので他の神々がヘスティアを押し潰そうとする前に、ヘスティアファミリアの勢力を大きくしなければと考えた。
だがギルドの対応は間違っている。
ヘルメスから詳細は聞いたはずだがまだ想定が甘すぎる。
確かに力の火種は神の恩恵以上に人に馴染みやすい。
しかし力の火種は神の恩恵以上に人を選ぶ。
火種にはオリジンであるワン・フォー・オールがそうだったように、所有者であるヒノカミの無意識が強く焼き付いている。
故に彼女が嫌う怠惰な者や強欲な者とは適合せず、邪悪な者であれば力を与えるどころか焼き殺してしまう。
押し寄せて来た連中の中には、ヘスティアの眼で見てもそちらに分類される輩が多く見受けられた。
求められるがままに恩恵と火種を与えていたら、死人が溢れる。
それにヘスティアはまだファミリアを結成したばかりの新神であり有象無象が増えても対処しきれない。
何より、そんな打算に満ちた関係で築くものを彼女は家族とは認められない。
これらの事情を包み隠さず説明し、急激なファミリアの拡大は不可能だと訴えた。
おそらくウラノスもそこで自分の失敗を悟ったとは思うが。
「できてしもうたこの流れはもうギルドでも止められへん。
伸び悩み燻り腐っとる冒険者はそれこそ腐るほどおる。
連中にとって、ドチビが最後の頼みの綱になってしもうたからな……」
「ボクだってできるなら叶えてやりたいさ!でも……」
「叶えたらアカン。ここは無視するしかあらへんよ。
フィンらの面倒見てもろとるし、滞在費もしこたまもろとるし、ほとぼり冷めるまでいつまでもウチにおったらえぇ」
「ありがとうロキ……キミは本当はいい奴だったんだなぁ……!」
(ホンマチョロすぎんかこのアホは)
騙している側だが、不安になってくる。だからロキはヘスティアが苦手なのだ。
ヘスティアがロキのところに転がり込んでいることはすぐに知れ渡るだろう。
だが都市最強のロキファミリアに安易に手を出せる者はおらず、もう一方の最強であるフレイヤファミリアは不気味な沈黙を保ち続けている。
であればロキのホームにいる限りヘスティアは安全だ。
「……ちゅーてもいつになるかわからんがなぁ。
ウチの子らにもさりげなぁく噂広げさせて沈静化を狙とるが、手応えあらへんし」
緊急神会から既に一週間以上が経過している。だが騒動は小さくなるどころか大きくなるばかりだ。
「うん、そのことなんだけど……コレ……」
「んあ?」
ヘスティアのホームに届く手紙は、ロキの眷属が回収して届けてくれる。
その中に紛れていた神の宴への招待状。差出人はアポロン。
ヘスティアと同郷の、太陽の神だ。
「あぁ、ウチにも来とったなぁ……出るつもりなんか?」
「ボク宛ての中にはもう一枚手紙があったんだ。
『火種について詳細を知りたい』って」
緊急神会に、アポロンは参加していなかった。
居合わせていたら彼はヘルメスの暴露に食いついていただろう。
何故ならアポロンは傲慢でしつこくて自分勝手だが、歪かつ独善的であっても『人々に無償の愛を注ぐ善神』。
そして『太陽』を司っている。
彼の恩恵もまたヘスティアとヘファイストスと同じく『力の火種に適合する可能性がある』。
「つまり、味方に引き込めるかもしれんと?」
「ヒノカミくんには話は通してあるよ。
イヤな奴だけど……悪い奴じゃないし……あぁでもやっぱりイヤだなぁ……!」
天界でアポロンにしつこく求婚されたこともあるヘスティアは思いっきり顔を歪める。
だが団長はレベル3で、多数の冒険者を抱える中堅ファミリア。
良い関係を結べれば頼もしい味方になり得るのだ。
ヘファイストスの恩恵とは反発しないと判明しているが、彼女のファミリアに火種を広めるのは保留となっている。
この状況で一つのファミリアだけを優遇するような真似をしては、矛先がそちらにも向く可能性が高いから。
だがアポロンファミリアと同時になら非難の声を分散できる。
そこを足掛かりに勢力を広め、都市と他のファミリアに貢献していけば……。
「……他にできることもないしなぁ。話聞くくらいはアリか。
ヘルメスは出ると思うか?」
「無理なんじゃないかな。ウラノスに呼び出されてここしばらくギルドにかかりきりらしいから」
「せやったらファイたんに出てもらうよう頼むか。
ウチと二人でドチビの壁になりゃアポロンへの牽制にもなるやろ」
「ありがとうロキっ!やっぱり『かb……」
「おう、今何言いかけた?ん?」
凄むロキに、ヘスティアは必死に視線を逸らす。
ここまで世話になっておきながら『壁と言えばキミ以上はいないよ!』なんて叫ぶほど失礼な真似は、ヘスティアでもできなかった。
そしてチラリと視線を戻す。
……かがんで顔をこちらに近づけているのに、見えないのだ……谷間が……。
そしてアポロン主催の神の宴当日。
「ヘスティア、『
多数のファミリアを強引に傘下に収めたフレイヤが、ヘスティアへと宣戦を布告した。
次の話ですぐ明らかにしますが補足しておきます。
主催のアポロンはフレイヤ側ではありません。