『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第35話 戦う者と戦えない者

 

借りているロキファミリアのホームの一室に集まったヘスティアファミリア一同。

主神ヘスティアと、眷属であるベルとリリルカ、客人のヒノカミの計4名だ。

 

彼等はフレイヤからの宣戦布告と、ヘスティアたち神々の協議の結果を吟味したうえで対応を議論していた。

 

「考えるまでもありません。逃亡一択でしょう?」

 

リリルカはオラリオからの脱出を選択すべきと断言した。

長年オラリオで暮らしてきたリリルカだが、この街には嫌な思い出しかない。

加えて大切な人たちを追い出そうというのだからほとほと愛想が尽きた。

 

「……僕も、ヘスティア様以外を『神さま』と呼ぶ気はありません」

 

ベルはどちらとも言い難いが、消極的な理由でリリルカに同意する。

彼はオラリオに来て僅か2か月だが、既に多くの人々と縁を結んでいる。

こんな形で別れるのは不本意だが、それよりも争いを避けることとヘスティアを守ることの方が大切だ。

 

ヒノカミはあくまで客人だからと立ち会うだけで議論に参加するつもりはなく除外。

 

「…………」

 

よって未だに決定を下しかねているのは主神であるヘスティアのみである。

 

「何を迷っていらっしゃるのですかヘスティア様?」

 

「だって……悔しいじゃないか……!」

 

「……お気持ちはわかりますが、今は御身の安全を最優先に……」

 

 

「なんにも悪いことしてないキミたちが、オラリオから逃げなきゃいけないなんて、悔しいじゃないか!」

 

 

仮に戦争遊戯を受け敗北すれば、ベルとリリルカはフレイヤに奪われる。しかし命は助かるのだ。

対してヘスティアへの要求は天界への強制送還。下界において、事実上の死と言える。

だと言うのにヘスティアは自身の身ではなく子供たちへの理不尽を嘆いていた。

 

「オラリオから逃げたら、きっと皆はキミたちの悪口を言い続けるんだ。

 『卑怯者だ』って……キミたちはズルなんかしていない!

 キミたちがどんなに頑張っているのか、何も知らないくせに!!

 そんなの悔しいじゃないか……!」

 

「神さま……」

 

「……リリたちの目的はダンジョンの制覇ではありません。

 アルフィア様たちと力を合わせ、黒竜を討伐することです。

 成し遂げればすぐに掌を返しましょう。それまでの辛抱です」

 

「でもぉっ……!」

 

涙を浮かべ自分たちの未来を案じてくれるこの神を、愛おしいと思った。

そして己の無力を嘆いた。この逆境を覆す力があれば彼女を悲しませることなく、勝利の栄光を捧げることができただろうに。

 

 

 

「聞かせてもらったよヘスティア!!」

 

 

「「「!?」」」

 

勢いよく扉を開けて乗り込んできたのはヘルメス。

彼のファミリアの団長であるアスフィがいつものようにその後ろに続く。

 

「あぁ間違っている!ベル君が悪者にされてしまうなんて!

 悔しいよなぁ!オレも胸が張り裂ける思いだ!」

 

「……なんだいヘルメス、今のボクは、キミのお芝居に付き合う余裕なんて……」

 

「失敬だなヘスティア。オレは本気さ。本気でベル君に賭けると決めたんだ。

 未来の英雄たる君たちの名誉を守るために、オレも命を賭けよう」

 

ヘスティアの前まで歩み出たヘルメスは、アスフィと揃ってその場に跪く。

 

「え……?」

 

「神ヘスティアよ……我等ヘルメスファミリアをそちらの傘下に加えていただきたい」

 

「「「な!?」」」

 

「ヘルメスファミリア団長、アスフィ・アル・アンドロメダ。

 以下、全ての団員はそちらの指揮下に入ります。如何様にもお使いください」

 

「中立を気取るのはここまでだ。オレはベル君の覇道を支えると誓った。

 それを妨げるならばフレイヤであろうと容赦はしない。

 悉くを打ち払い、君たちの道を切り開いて見せよう」

 

 

 

「ハン!中堅ファミリア一つが加わったところで何になるっちゅーねん。

 お前んとこの『万能者(ペルセウス)』はレベル3やろ?」

 

扉の傍にはロキが立っていた。ヘルメスが振り返り不敵に笑う。

 

「アスフィはレベル5。他の団員もほとんどはレベル4だ。

 フレイヤになびく有象無象の神々の子らに遅れなど取らないが?」

 

「チッ、やっぱレベル詐称しとったんかい。二つはやりすぎやろ。

 ……マジっちゅーことやな?」

 

「戦争遊戯に参加すればレベル詐称が明るみになり、ギルドから重い罰則を受ける。

 ……だが勝てば連中から罰金を帳消しにできるほど搾り取れるだろう?

 そして負ければオレも送還されるんだ。どちらになろうと問題ないさ」

 

「ヘルメス、キミは……!」

 

 

 

「参ったな。そこまでの献身を見せられてしまうと、俺たちの覚悟が物足りなく見えてしまいそうだ」

 

続いてヘスティアと関りのある神々が己の眷属を連れて部屋へと押し入ってくる。

 

 

「タケミカヅチファミリア、ヤマト・命。

 彼女をヘスティアファミリアへと移籍させよう」

 

「よろしくお願いいたします」

 

「なりたてだが、レベル2だ。

 桜花も手を挙げたのだが、団長のアイツが離れるのはまずいからな」

 

 

「ウチからもヴェルフが移籍するわ。本人たっての希望よ」

 

「散々鍛えてもらったのに、恩を返す間もなくいなくなられちゃ困るんでな。

 ……何せ、思えばまだお前らと一度も冒険できてねぇしよ!」

 

 

「私のファミリアからも……ダフネとカサンドラを出す……っ!

 いいか、一年だ!一年だけだからな!!」

 

「ダフネ・ラウロス、レベル2だよ。まぁ、よろしく」

「カサンドラ・イリオンです……レベル2で、ヒーラーです……」

 

 

「タケ……ヘファイストス、アポロン……!」

 

 

「悪いが、私の子はナァーザしかいないからな。移籍はさせられない。

 だがウチにある限りのポーションを持ってきたぞ」

 

「お代はいらない。使って」

 

「ミアハ!?どうして君まで!?」

 

「ハハハ、意図してではないのだろうが……ナァーザを治してもらったからな」

 

ヒノカミがフレイヤの眷属たち相手に大暴れした時、ミアハの眷属であるナァーザは偶然その場に居合わせていた。

そしてヘスティアに止められたヒノカミが白い炎をまき散らした時に、彼女も巻き込まれたのだ。

光が収まった後の彼女の目に飛び込んできたのは、6年前にモンスターに食われ失われたはずの自分の右腕と、音を立てて足元に落ちた義手。

実はナァーザ以外にもあの場で結果的に治療された者は大勢いて、表立って声を上げることはできないものの潜在的にヘスティアを応援している者は彼女らの予想以上に多い。

 

 

「……騒がしいな……」

 

「ソーマ!?」

「ソーマ様!?」

 

続いてのっそりと姿を現した引きこもりの神は、抱えていた数本の酒瓶を無造作に床に置く。

 

「ウチに残っている最後の完成品の『神酒』だ。

 売って軍資金にするでも、最期の晩餐にするでもいい。好きに使え」

 

「なっ、なんで……!?」

 

「……さぁな。オレにもわからん」

 

すぐに背を向け立ち去ろうとするソーマは、自分に向かって深々と頭を下げているリリルカの姿が見えた。

何か声をかけようとして一瞬立ち止まり……自分にはその資格もないと無言で立ち去る。

 

 

 

「……チッ。ドチビの勝ち目が皆無やったら、せんで済む思たんにな……」

 

「ロキ……?」

 

「ウチかてしとうない。しとうないが……手ぇ貸す言うてしもうたし……!

 認めてやらんと本気で飛び出しそうやし……!」

 

眉間に皺を寄せて声を絞り出すロキは、観念して二人の少女を前へと押し出す。

 

「ヘスティアさま。私をファミリアに入れて。ベルの敵は私が倒す」

 

「「「はぁぁっ!?」」」

 

「私も、ついていきます……アイズさんは私が守るんですから!」

 

「レフィーヤさん!?」

 

「えぇか!ウチんとこも一年だけやからな!

 やるからには絶対負けんな!負けたら天界に戻った時にもっぺんぶっ殺すからな!!」

 

 

敵は大軍勢だがほとんどはレベル1や2、最高でも4。

フレイヤの眷属はどれも強敵だが、オッタル以外の主力はレベル5と6。

 

対して現在のヘスティアファミリアの眷属はレベル8相当のベルとレベル6相当のリリルカ。

だがここにレベル2の命とダフネとカサンドラ、レベル7のアイズとレベル3のレフィーヤが加わり、ヘスティアの恩恵と共に力の火種を受け取る。

さらにレベル2だが実際の戦闘力はレベル4相当のヴェルフと、レベル5のアスフィを筆頭としたヘルメスファミリアが合わされば。

 

 

「勝てる、かも、しれない……!」

 

「『かも』やったらアカン。絶対に勝て。

 負けたらフレイヤの総取りや」

 

ヘスティアファミリアに移籍するということは、負けたらフレイヤの眷属にされるということだ。

傘下に入ったヘルメスファミリアの者たちも同様に。

この一戦で、オラリオの未来が決まると言っていい。

フレイヤの支配下に置かれるか、ヘスティアを受け入れるか。

 

 

 

「本当にお主らだけで戦うつもりか?」

 

 

ここまで無言で壁に背を預けていたヒノカミが動く。

 

「儂は確かに、公正なルールは破らぬ。

 だが違反をしない範囲でいくらでも手があるのは儂も同じじゃ」

 

ヘスティアの目の前まで歩み寄ったヒノカミは少しだけ身をかがめ、視線を合わせる。

 

「儂に任せれば全て丸く収まるぞ。こんな危険な橋を渡らずとも。

 それでもお主らがわざわざ戦うのか?無駄に子供たちを傷つける道を選ぶのか?」

 

そしてほんの少し、眼に力を籠める。

思えばヒノカミがヘスティアに敬語を使わないのは、これが初めてだ。

 

 

 

「きっとゼウスたちにも、キミは同じように尋ねたんだろ?」

 

目を逸らさず、ヘスティアは柔らかく笑った。

 

「キミがさ、負けるとわかっている戦いに子供たちをそのまま送り出すはずがないんだ。

 15年前も、ちゃんと尋ねたんだろ?

 『代わりに黒竜を倒そうか?』、『ついていってサポートしようか?』って。

 でも断られた。だって死んですぐなら蘇生もできるキミがいれば、死者は出てないはずなんだ」

 

「「「「「あっ!」」」」」

 

「……あぁ。『自分たちだけで戦う』と、『大丈夫だ』と旅立った彼らは、そのまま帰ってこなかった」

 

「そしてキミは自分を責めたんだね。見捨てると決めた自分を。

 ……違うよ。キミを除け者にしたわけじゃないし傷を背負わせたかったわけでもない。

 証明したかったんだ。『自分たちだけでもこの世界は守っていける』って。

 でなきゃキミがいつまでも帰れないから。

 キミに黒竜を倒してもらったり、たくさん手を借りてしまったら、キミはきっと安心できずにとどまってしまうから」

 

「……え?神さま、それってどういう……」

 

 

 

「ヒノカミくんは、ホントは『さっさとこんな世界から出ていきたい』んだよ」

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

「…………なぜ、そう思われたので?」

 

「だって我慢して、傷ついて、辛いことばっかりじゃないか。

 この世界に来て一度だって、キミが『来てよかった』と思えたことがあったかい?」

 

「余計なお世話が性分なだけですよ」

 

「誰かに優しくされてきた人は、誰かに優しくなれる人になるんだよ。

 きっとキミはたくさんの人に、余計なお世話を焼いてもらったんだね。

 だから受け取ったたくさんの想いを、たくさんの人におすそ分けしなきゃって自分を追い詰めてる。

 キミを突き動かしているのは『優しさ』と……『贖罪』と『強迫観念』だ」

 

「そ、そんな……!」

 

「……おみそれしました。そこまでわかりやすいですかな?儂は」

 

「ふふん!これでもボクは神さまだからね!

 ……その方がボクらのためだし、話が早いってことはわかってる。

 でもボクらの代わりにキミが傷つくような真似は絶対にさせられない。

 今はまだ甘えてばっかりだけど、ボクらは必ず強くなるから。

 安心してキミが旅立てるくらいに、頼れる存在になってみせるから。

 ……人間(子供)たちに頼ってもらうのが、神さまの仕事なんだからさ」

 

「…………そうですか」

 

眼を閉じ、長く息を吐いたヒノカミは。

 

 

 

 

「言質はとりましたぞ?」

 

「へ?」

 

 

 

にんまりと、嗤った。

ヒノカミは目の前のヘスティアの手首をつかみ、彼女の掌を自分の胸に押し当てる。

 

「では頼らせていただきましょう。

 貴女に『全て』お任せします」

 

「へ?」

 

「あぁ、いいことならありましたよ。

 貴女のような神に、出会えてよかった」

 

「「「「「!?」」」」」

 

間もなく光が部屋に溢れる。

しかしその中で一瞬、しかし確かに、彼らは小柄な少女に重なる背の高い女性の姿を見た。

そして光が収まった後には……。

 

 

 

 

戦争遊戯への返答期限の日。

ヘスティアの傘下であり代理人を名乗るヘルメスがフレイヤの下を訪れ、戦争遊戯に応じることを伝えた。

そして戦争遊戯の試合形式を提案してきた。

これが代表同士の一騎打ちならば突き返すところだが、何とヘスティア側が提示したのはフレイヤたちが指定しようとしていた『攻城戦』。

細かな条件もほぼフレイヤ側に都合のいい形で、『アルフィアとザルドは参戦しない』と明言されている。

ヘスティアにとって有利なのは、彼女らが攻撃側を望んでいるくらい。

ここまで譲歩されておいて突っぱねるのは批判も大きくなりすぎると、フレイヤはヘスティア側の提案をそのまま飲んだ。

 

そして一週間後。

フレイヤ連合とヘスティア連合による、オラリオ史上最大規模の戦争遊戯が開始される。

 




ドラえもんが安心して帰れるようにと、自分の力だけでジャイアンに挑み、しかし負けてしまったのび太。
それが本作におけるゼウス・ヘラファミリアです。
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