『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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赫烏:赤々と光り輝く鴉。斬魄刀の本体である八咫烏を指す。
月:刀の比喩。

赫烏封月=八咫烏の力を封じ込めた刀


第19話

「……あ?」

 

掌からは何の感触も感じなかった。

だが打ち合った彼の刀は斬り落とされていた。

そして気づけば自分の胸も深々と抉り取られていた。

断面は焼け焦げているが、それ以上に深い傷だったので血が噴き出す。

剣八は音を立てて背中から倒れた。

辛うじて首だけを動かし、目の前の女が持っている武器を見る。

 

「なんだ……そりゃ?

 卍解……?てめぇの、刀は……!?」

 

変わっていない。

ヒノカミの持つ武器は、先ほどまでの始解の姿から一切変化していなかったのだ。

 

「いや、これは確かに卍解じゃ」

 

始解から卍解になると斬魄刀が内包する霊力が跳ね上がるため、必然的に巨大になる。

しかし彼女の卍解はその定説を大きく覆す変化を遂げた。

元より圧倒的な熱量を内包した炎の刀は、その形を留めたまま熱量だけを増大させた。

『焼き斬る』。

ただそれだけを極限まで突き詰めた存在。

霊力差も、特性も、何もかもを無視して、刀身の軌跡上にあった存在を焼失させる。

 

「ようするに、『なんでも斬れる』。それが儂の卍解じゃ」

 

「……は?」

 

つまり相手がどれだけ斬魄刀や肉体に霊力を纏わせようとも無意味。

動きが早くなるわけでも、攻撃範囲が広がるわけでもない。

ただ『相手の攻撃を躱す』という意識が薄い剣八にとってはまさに初見殺し。

 

「……ぶはははは!なんだそりゃ!!

 そんな面白ぇ卍解があんのかよ!?」

 

「恨み節の一つも吐かんのか?」

 

「莫迦言え。殺し合いに卑怯も汚ぇもあるか。

 知恵も立派な力じゃねぇか。がはは!がはぁっ!?」

 

「はー……やはり憎めぬよ、貴様は」

 

ヒノカミは斬魄刀を元に戻して鞘に納め、倒れこんだ剣八の隣にどかりと座る。

そして彼の胸に傷に手を触れ、なけなしの霊力を注ぎ込み始めた。

 

「あ、てめぇ何勝手に治してやがる!?」

 

「やかましい。負けを認めたのなら素直に従え」

 

「剣ちゃんを助けてくれるの?」

 

いつの間にか彼らの近くに戻って来た少女、十一番隊副隊長『草鹿やちる』が問いかける。

 

「仮にも、人を『助けに来た』身なんでな。

 外道悪党でもない相手をその過程で殺しては本末転倒じゃろう?」

 

「……えへへ!ありがとね!」

 

「……チッ」

 

しかし彼らに近づいていたのはやちるだけではない。

 

「……ま、こんだけ騒げば嗅ぎ付けてくるか」

 

「浮竹……」

 

ヒノカミは彼女の後ろに立っている十三番隊隊長浮竹と、その補佐である二人の第三席に背を向けたまま応える。

 

「おい浮竹……てめぇこいつを殺そうってんじゃねぇだろうな?」

 

「藍染が殺された。彼女はその容疑者の筆頭だ」

 

殺気を向ける剣八に動じることなく浮竹が言う。

 

「護廷十三隊全員に旅禍の捕縛命令が出ている。

 殺しはしないが彼女は査問に……いや拷問にかけられることになるだろう。

 だが……」

 

浮竹はヒノカミに並んで座り、剣八に霊力を注ぎ始める。

二人の隊員も剣八の応急処置を始めた。

 

「ルキアを、俺の部下を『助けに来た』という君が。

 あれだけ暴れても誰一人殺していなかった君が。

 そして今俺の仲間を助けようとしている君が、藍染を殺したとは思えない。

 だから君を十三番隊の隊舎に連れていく。

 そして聞かせてくれ。尸魂界に潜む悪とは何なのかを」

 

すでに余力もないヒノカミに従う以外の選択肢はない。

むしろ彼が話を聞いてくれるというなら好都合だ。

自分も連れていけと言うので仕方なく、処置を終えて動ける程度まで回復した剣八も連れて十三番隊に匿われた。

 

「……ま、これくらいの処置はするわな」

 

ヒノカミは隊舎の座敷牢に、霊圧を封じる手錠をつけた状態で押し込められている。

そのすぐ外にはやちると共に剣八が座っていた。

 

「義理堅いのー。そこまでせんでも、この隊の死神たちが儂を襲うとは思えんが」

 

「ちげぇよ。てめぇが勝手に脱走したら真っ先に俺が斬るためさ」

 

「あはは!楽しみだね、剣ちゃん!」

 

「せめてその傷を完治させてからにせい。

 医術を学んだ者の端くれとして、目に余る」

 

雑談に興じていると、やがて浮竹が戻って来た。

 

「待たせてすまない。不都合はなかったか?」

 

「ここのところ徹夜じゃったから久しぶりに休めたわい」

 

「おやおや、可愛らしいお嬢さんじゃないの」

 

「いやいや、そちらも中々の伊達男じゃの」

 

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。ボクは八番隊隊長の京楽春水。よろしくね」

 

浮竹は親友であり最も信頼できる相手だからと、会談の場に彼も同席させたいと願い出た。

浦原の情報によれば最も説得しやすいのが浮竹なら、京楽は二番目。

振る舞いは軽薄だが思慮深く、真実を見抜く目を持っている。

ちなみに剣八は下から数えた方が早い。よくこの場に連れてこられたものだ。

 

「儂は隣互、黒崎隣互じゃ。

 弟も来とるでの。苗字ではなく名前で呼んでもらえるとありがたい」

 

「てめぇさっき名乗れねぇとか言ってなかったか?」

 

「状況が変わったんじゃ。儂の名が知れたんじゃから文句を言うでない」

 

「ケッ」

 

「あっはっは。まさか更木隊長と気軽に話ができる子とはね。

 真面目に護廷(ウチ)に欲しいよ、まったく」

 

会話が弾んでいる内に浮竹が牢の扉を開けた。

そのまま、隣互の手錠も外そうとするが。

 

「ここからは隠し事はなしじゃ」

 

「どういう……!?」

 

隣互は彼らの眼の前で、自力で手錠を引きちぎり両手を広げた。

霊力を封じる枷であっても個性は封じられない。

OFAならこの程度はガラス細工も同然だ。

 

「破っ!」

 

「!?なんだ、これは!?」

 

そのまま広げていた掌を叩きつけ、領域を展開する。

3人の隊長とそれぞれの付き人、隣互を含めた計8人が結界の中に閉じ込められた。

 

「儂には霊力に依らぬ力があっての。これもその一つ。

 内外を完全に遮断する結界じゃ。遮魂膜もこれで超えてきた」

 

「おい、なんでさっきこれ使わなかった?」

 

「見ての通り手が塞がるんじゃよ。斬り合いができん」

 

「なるほど、そりゃ仕方ねぇな」

 

「……そんな簡単に流していいことじゃないんだけどねぇ、これ。

 霊力を使わない能力?尸魂界の在り方が覆るよ」

 

「維持するのも苦労するのでな、手早く説明させてもらう。

 儂は現世から浦原喜助の使いとしてやってきた。

 尸魂界に潜む悪……藍染の野望を食い止めるためにな」




・卍解『赫烏封月(かちょうふうげつ)

膨大な霊力のすべてを小さな刀身に集約させ、対象を『焼き斬る』ことに特化させた斬魄刀。
強度・特性・概念を無視して、触れた存在を焼失させる。
外見は始解と一切変化がない。

一護の卍解は膨大な霊力を圧縮し自身の基礎能力に上乗せするものですが、隣互の卍解は攻撃力に全振りしています。
とは言えどれだけ斬れる刀でも当てられなければ意味がないので、二度目は剣八にも通用しないでしょう。
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