『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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不快に思うかもしれませんが、キャラたちの名誉のために補足します。
ヒノカミの訓練に参加、あるいは見学していた者はどうしても死生観が歪みます。
今まではそれが良い方向に働くこともありましたが、今回は良くない方向に作用しています。


第37話 界王神

 

ヒノカミは神すら超える圧倒的強者だ。

だが己が異邦者と自覚し、いずれ立ち去る時が来ることを常に考えていた。

だから自分がいなくなった途端に破綻することがないように細心の注意を払い、己に数々の誓約を課して雁字搦めに縛っている。

それ故に彼女は時として救えるはずの者たちを見捨てねばならない。

 

誰よりも強く誰よりも自由になれるはずの彼女は、誰よりも不自由で苦痛に塗れていた。

その内心を軽薄な振る舞いと冷酷な仮面で隠し続けていた。

 

だかヘスティアは見抜いた。

一人で何もかもを背負い苦しんでいる彼女に『もっと頼ってほしい』と願った。

 

だから頼ったのだ、ヒノカミは。

下界どころか天界すら支配できる、彼女が鍛え上げた究極の力を。

異邦人である己では二の足を踏んで行使できない強大な力を、この世界に生き続けるヘスティアへと譲り渡した。

 

『そしてヘスティアは『この世界の王たる神』……『界王神』となった!

 例え他の神々全てが徒党を組もうと彼女を止めることはできない!

 神々が定めた法ですら、もはや彼女を縛れない!

 この世界のすべては界王神ヘスティアの思うがままなのさ!』

 

『しないよそんなこと!!』

 

『あぁしないだろう!ヘスティアならばそんなことはしないと確信できたから、ヒノカミはヘスティアを選んだんだ!!

 界王神ヘスティアこそが全ての神の頂点に立ち人々を導くべきだと考え、この世界の未来を託したんだよ!!』

 

神頼(しんらい)がおもぉーーーーーーーーい!!!』

 

イブリとヘルメスだけの放送に、ヘスティアが音声を割り込ませてきた。

そのくらいは朝飯前だと理解しているヘルメスはあっさりと受け流して話を進める。

 

この場では全てを見聞きしているヘルメスと、全ての記憶をダウンロードしたヘスティアだけが把握していることだが。

ヒノカミは神へと至った人、『仏』だ。

真の名は『大日如来』。権能は『宇宙全ての創造と掌握』。

彼女は己の分霊を切り離しヘスティアと融合させた。

ヘスティアの神格はそのままに、己の記憶と能力だけを全て差し出した。

今のヘスティアの力はヒノカミが超えてきた魔境……彼女が『ドラゴンボールの世界』と呼んでいた世界にて宇宙全ての人と神を脅かした『魔人ブウ』に匹敵する。

彼女の前任者であった大界王神たちを殺し喰らった破壊と恐怖の権化に並ぶ力だ。

この世界の神々が勝てるわけがない。もうダメだ。おしまいだ。

 

『ヘスティア様と……同化……どうやってそんな……!?』

 

『細かいこと気にしない方がいいぜ、イブリ君。

 ヒノカミくんにも冒険者と同じようにいくつか二つ名があるんだ。

 その中で彼女を最も的確に表したものは……『不条理の権化(ジ・アブサーディティ)』さ』

 

『…………』

 

『ほらほら仕事しなきゃ。戦況が面白いことになってるよ?』

 

『っ!?申し訳ありません!

 ヘルメスファミリア、城まで後一歩というところまで迫っていました!

 ですが大軍に阻まれこれ以上先へは進めない!

 他のエリアにいた冒険者たちも次々集まって完全に袋のネズミです!このままでは……』

 

快進撃もわずかに届かず、城の外にいた冒険者たちに完全包囲されてしまったヘルメスファミリア一団。

火種の治癒が間に合わぬ者も現れ始め、ミアハ印のポーションを湯水のように使ってかろうじて凌いでいる。

まだ誰もリタイヤはしていないものの、時間の問題かと思われた。

 

『おっとこれは!?』

 

そこで映像が切り替わり、崖の上に立つもう一つの一団が映し出される。

 

ベル・クラネル

リリルカ・アーデ

アイズ・ヴァレンシュタイン

レフィーヤ・ウィリディス

ヴェルフ・クロッゾ

ヤマト・命

ダフネ・ラウロス

カサンドラ・イリオン

 

『ヘスティアファミリアが現れました!

 『剣姫』を始めとした、数々のファミリアよりコンバートした上級冒険者たち!

 ……?彼らは何をしているのでしょう!?円陣を組んで……?』

 

8人はそれぞれの武器を掲げ、互いを見渡して力強く頷く。

 

『ヘスティアとヒノカミは一つになった。

 だからヘスティアの恩恵と火種も、完全に一つになったんだよ。

 ……そしてヘスティアの眷属たちにも変化が起きた!』

 

ヘスティアから火種を受け取ったヘルメスの眷属は『天神武装』と、個人の適性により一部が『不可死犠』のスキルを発現しただけだった。

だがヘスティアの眷属となった者にはその二つに加え、更に『魔法』が発現した。

全員が、同じ魔法を。魔法スロットが既に3つ埋まっているレフィーヤにさえも4つ目の魔法として。

 

神の瞳を通じて、彼等の詠唱がオラリオに響き渡る。

 

 

 

「「「「「「「「『来たれ勇士よ ここが我らの、英雄に至る戦場なり』!」」」」」」」」

 

 

 

その魔法の名は。

 

 

 

「「「「「「「「『更に向こうへ(プルス・ウルトラ)』ぁぁっ!!!』」」」」」」」」

 

 

 

彼等の背中に宿るヘスティアより授けられた恩恵から、闘気の炎が噴き上がる。

 

自己強化魔法。

発動すると全てのステータスが一時的に増加するという単純なもの。

その効果はお世辞にも高いとは言えない。あってないようなレベルだ。

 

ただし『逆境に陥るほど比例して強化倍率が跳ね上がる』。

 

 

『英雄とは追いつめられた時にこそ強く輝き、不利や苦難を跳ね返していくものさ。

 失敗したなフレイヤ……数百人規模の大軍勢に寡勢で挑む彼等が、一体どれほど強化されると思う?』

 

 

ダフネとカサンドラが刀剣解放したリリルカの背に飛び乗り、英雄たちは眼下の戦場へと一斉に駆け出す。

 

ただ一人、レフィーヤを除いて。

 

 

「……『飛翔靴(タラリア)』」

 

『万能者』アスフィが製作した『空を跳ねる靴』を借り受けたレフィーヤは、地上を走るベルたちを追うではなく上空へと歩みを進めていく。

遠方には敵の居城。その目前には集まる……いやヘルメスファミリアが『集めた』敵の軍勢。

 

 

「『ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。

  我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴の契り。

  円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。

  どうか――力を貸し与えてほしい』……『エルフ・リング』」

 

 

彼女の二つ名『千の妖精』の由来となった、『エルフの魔法に限り詠唱及び効果を完全把握したものを己の魔法として使用できる』という破格のレア魔法。

詠唱や魔力の消耗も二重に必要というデメリットはあるが、構うものか。

 

 

「『終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け。

  閉ざされる光、凍てつく大地。

  吹雪け三度の厳冬――間もなく、焔は放たれる。

  忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。

  開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。

  至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり。

  ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。

  焼きつくせ、スルトの剣――我が名はアールヴ』」

 

 

(……迷うな、ためらうな、忘れるな……!)

 

フレイヤからヘスティアへの宣戦布告の直後、話を聞いたロキファミリアの面々は激怒した。

誰もが武器を取りフレイヤファミリアへと攻め込もうとしたのだ。普段は諫める側に回るはずのフィンとリヴェリアですら躊躇わなかった。

ヘスティアに逃亡を促すような真似をしたロキ自身も内心では怒り心頭であり、己の眷属たちにその覚悟があるのならと、ヘスティアファミリアが応じる前にフレイヤファミリアへと戦争遊戯を仕掛けようとした。

しかしギルド長のロイマンに阻まれた。『オラリオ二大派閥の衝突はあってはならない』と……事実上『指をくわえて見ていろ』と言われたのだ。逆らうのならギルドから除籍しオラリオから追放するとまで。

ヘスティアファミリアへと送り出されたアイズとレフィーヤは、彼らのせめてもの抵抗。

彼女たちはロキファミリア全員の怒りを背負ってこの戦場に立っている。

 

レフィーヤの背中の炎は形を変え、火種に焼き付いた記憶から『スピリット・オブ・ファイア』の幻炎を生み出す。

強化魔法により増幅された力の全てを、仲間たちの想いの全てを、この一撃に込めて。

 

 

「『レア・ラーヴァテイン』!!」

 

 

彼女の師、『九魔姫』リヴェリア・リヨス・アールヴの攻撃魔法。

本来は発動者の足元に現れるはずの魔法陣は、レフィーヤが杖を突き出した地上の『敵の根城の前』に現れる。

 

「撤退!!」

 

「「「はいっ!!!」」」

 

アスフィが号令を上げると、団員全員が『簡易ヘルメスドライブ』を掲げその場から姿を消した。

リヴェリアのこの魔法は攻撃対象を指定することができるのだが、処理能力の全てを火力につぎ込んでいる今のレフィーヤにそんな余裕はない。

だから、逃げる。

そして魔法陣の中には敵だけが残された。

 

 

 

 

ゴオオオオォォォォォォーーーーーーーーーッ!!!!!!

 

 

 

 

オラリオの城壁の中からでも見える巨大な火柱が天へと昇っていく。

膨大な熱が大地を、世界を、人を焼き尽くす。

 

火柱が消えた後には焼け焦げた大地と……無数の『消し炭』。

 

 

 

「「「うぉぉぉぁぁぁーーーーっ!!!」」」

 

ヘスティアファミリアの団員たちをマーキングして転移したヘルメスファミリアの団員たちは再び駆け出し、ベルたちの後ろに続いて邪魔者のいない真っ黒な大地を走り抜ける。

先頭にいたベルたちが城門を突き破り中に入った姿を確認したところで急ブレーキしたアスフィが号令を出す。

 

「反転!全力死守!!」

 

「「「はいっ!!」」」

 

前衛が盾を構え城門の前に陣取った。

周辺の敵の注意を惹きつけ一か所に集結させ、レフィーヤの攻撃で一網打尽に。

そして討ち漏らした『生き残り』の乱入を阻むのが、ヘルメスファミリアの役目だ。

 

 

 

 

 

『…………』

 

『おいおい、どうしたイブリ君?そんなに顔を青ざめて。』

 

『……いや、だって……今の、たくさん……死ん……!』

 

『あははは、何を言ってるんだい?

 これは戦争なんだ。『人が死ぬ』なんて当たり前だろう?』

 

今更の話だ。映像の中で取り上げられなかっただけでヘルメスファミリアが突っ込んだ時に既に何人も死んでいる。

火種がなければ死んでいただろう攻撃を、ヘルメスファミリアは何度も受けている。

 

『でもこれはっ……『遊戯(ゲーム)』でっ!』

 

『それがどうした?神の『お遊び(ゲーム)』で人が死ぬのもよくある話さ。

 ……ここまで卑劣な戦争を仕掛けておいて、まさか『手加減』してもらえるなんて考えていたんじゃないだろう?

 そもそも加減なんてする余地もない戦場を作り出したのはお前らじゃないか』

 

ヘルメスの言葉がフレイヤ側についた神々に向けられていることは明らかだった。

フレイヤがヘスティアに宣戦布告した時、金魚の糞共はせせら嗤ってこう言ったらしいではないか。

 

『愛する眷属と別れの挨拶をしておけ』と。

 

ヘルメスはとっくにブチ切れていた。

戦場に挑む冒険者たちもだ。

 

 

『だったらお前らも当然別れは済ませているんだろ?

 後悔しろよ。そして恥じろ。

 みっともない嫉妬と私欲で子供たちを死地に送り出した自分をな……!』

 




・魔法『更に向こうへ(プルス・ウルトラ)
強化魔法。
全ステータス小強化。
逆境に陥るほど出力向上。
同じ魔法を発動している者が同じ戦場にいると持続時間延長。
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