『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第38話 VSフレイヤファミリア

 

城の中で守りを固めていたのはフレイヤファミリアの冒険者たち。

彼等は有象無象の神の眷属とは違い、この圧倒的戦力差であっても一切慢心することはなく、ベルたちが攻め入ってくるこの事態を想定して待ち構えていた。

 

常日頃からホームにて同じファミリア同士で殺し合い同然の修行を続けている彼らは対人戦に特化しており、その戦闘力は同レベルの一般的な冒険者と比較して非常に高い。

だが所詮はレベル1や2、精々3だ。4以上はほとんどいない。

火種によりレベル以上の戦闘力を持ち、おまけに魔法でブーストまでされているヘスティアファミリアの一団には及ばない。

 

その身を盾にしてまで進撃を止めようとして、容赦なく蹴散らされている。

狂信者である彼等は決して引かず殺意を隠そうととせず襲い掛かってくるが、殺意を抱いているのはヘスティア側も同じだ。

未だに命を奪うことを忌避しているのはベル一人だけ。そしてフレイヤより『殺すな』と命じられているのもベル一人だけだ。

他の面々は自分たちを本気で殺しに来る連中を、殺されぬために殺し返す。

 

進路上に立ちはだかる敵をなぎ倒し上へ上へと進む一団。

 

「この先には強い気配が少数のみ!おそらく幹部たちと思われます!」

 

「そうかい、じゃあこの辺だね!」

「お、降ります!」

 

リリルカの背に乗っていた元アポロンファミリアの二人が飛び降り、仲間たちが登る階段の前に立ちはだかる。

邪魔者は全て撃破はしたが、再起不能というわけではない。

回復魔法を使える者もいるだろうからやがて生き残りが追いかけてくるだろう。

進撃に手間取っていたら挟み撃ちになりかねない。

 

「お任せしますよ!」

 

「あぁ、ウチらもしっかり活躍してやるさ!

 1年後にアンタたちやヘスティア様から、『是非ヘスティアファミリアに残ってほしい』とお願いされるくらいにね!」

 

「……進言しておきましょう!」

 

「下がってなカサンドラ!」

「回復は任せてね、ダフネちゃん!」

 

 

残り5人。そしてまだ遭遇していないフレイヤファミリアの幹部たちは残り8人。

ベル、リリルカ、アイズ、ヴェルフ、命は敵が待ち構えているだろう上階へと突き進む。

 

 

次のフロアに辿り着いた瞬間、リリルカは武装を大きく広げ天井を覆い隠した。

間も無く広げた幕を力づくで突き破った何かが落ちてくる。

だがその僅かな時間で、リリルカ以外の4人は既に次のフロアへ続く道に飛び込んでいた。

 

「リリの感知を欺けるとは思わないでください!

 2・1・1です!」

 

「「「「了解!」」」」

 

それがこの先にいる敵の数だと察したベルたちはリリルカを置いて突き進む。

リリルカが『4人』と言わず、あえて分けて伝えたのは。

 

「フレイヤファミリアの方々は非常に仲が悪く、連携ができない。

 よって一人または二人ずつ、少人数に別れて待ち構えるしかない。

 ……アナタ方4人を除いて、ですがね」

 

「「「「…………」」」」

 

炎金の四戦士(ブリンガル)』ガリバー兄弟。

鎧と瞳の色以外はまるで区別がつかぬ小人族の四つ子。

種族的に能力が劣る小人族でありながら、『四人揃えばいかなる第一級冒険者にも勝る』と豪語するレベル5の冒険者。

彼等が天井から奇襲を仕掛けるつもりと気付いたリリルカはその足止めを引き受けた。

改めて武器を構えた4人はリリルカを睨み吐き捨てる。

 

「なんだその姿は」

「モンスターではないか」

「醜いな」

「小人族の恥さらしめ」

 

「……あはははははは!アナタ方の主神ほどではありませんよ!

 知ってます?フレイヤの魂の色!

 ケバケバしくてドギツいピンク色してるんですよぉ!醜悪ですよねぇ!

 よくアレで恥ずかし気もなく『美の女神』なんて名乗れるものです!

 もしかしてアレの面の皮は厚化粧なんですかぁあ!?」

 

「「「「殺す」」」」

 

「こちらのセリフですよ団子四兄弟!

 ヒノカミ様の代わりにちゃあんとトドメを刺してあげます!

 どうせなら一列になってくれません?

 綺麗に()に並べてさしあげますから!!」

 

 

 

 

リリルカは『次は二人』と言った。

残る幹部は4人、その中で二人一組で待ち構えているとしたら『白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)』ヘディン・セルランドと『黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)』ヘグニ・ラグナール。

『最凶の魔法剣士』と恐れられるレベル6のエルフだ。

 

次のフロアの入り口が見えて来た。気配が近づいてきた。

 

「『掛けまくも畏き――いかなるものも打ち破る我が武神よ、尊き天よりの導きよ。

  卑小のこの身に巍然たる御身の神力を』」

 

ベルとアイズの前にいる命が走りながら魔法の詠唱を始め。

 

「さぁ……行くぜ!」

 

ヴェルフが背中の大剣を抜いた。

しかしそれは『剣』というにはあまりに歪で不格好。

岩から切り出したようなゴツゴツした見た目をしており、では頑丈そうかと言われればそうでもない。

何せ刀身の至る所に『穴』が開いているのだ。

 

ヴェルフは走りながら居合のような構えを取り、剣の先端を後ろに向け、ベルたちの背丈を超える高さまでジャンプする。

 

 

「『燃え尽きろ、外法の業』!」

 

そして彼は魔法を詠唱する。

それは本来、敵の発動寸前の魔法を暴走させ意図的に暴発を引き起こす魔法殺しの魔法。

しかしまだ戦場には程遠い。ヘディンたちの姿も見えておらず、魔法を発動しようとしている者もいない。

 

だが彼の魔法は発動した。

彼の大剣の刀身の『内側』で爆発が生じ、剣の先端の穴から噴き出した爆風を推進力として、ヴェルフはベルたちを追い抜き次のフロアへと一番乗りする。

 

「「!?」」

 

驚愕の事態に対応が遅れた敵へと突っ込む。ヴェルフの狙いはヘディンだ。

ヘグニも強敵だが彼は前衛寄りで、ヘディンは後衛寄り。

短文長射程魔法も所有しており、だからこそ一気に距離を詰め余計な動きを阻む。

 

「『燃え尽きろ、外法の業』ぁ!」

 

ヘディンの目前で大剣を振りかざしたヴェルフはもう一度魔法を発動。

今度は大剣の峰に並ぶいくつもの穴から爆風が生じ、超速の斬撃となってヘディンに叩きつけられる。

 

「ぐぅぅっ!?」

 

気にも留めていなかった格下からの強烈な一撃。

互いの邪魔にならぬようヘグニと距離を取っていたことも災いした。

ヘディンは長刀で攻撃を受け止めるもそのまま押し出され、二人は絡み合うようにフロアの隅へと飛んでいく。

 

「おのれ……っ!?」

 

「『地を統べよ、神武闘征(しんぶとうせい)』!

 『フツノミタマ』!」

 

追いすがろうとしたヘグニの前に突如として真っ黒な壁が現れる。

 

(っ!?引き寄せられ……!?)

 

これに触れてはまずいと察し引き下がると、すぐに壁は消えた。床に大きな傷跡を残して。

その間にベルとアイズは次のフロアへと走り抜けており、ヘグニを阻むように命が立っていた。

 

「お二方のお相手は、我々が務めさせていただきます」

 

「愚かな……彼我の力の差を理解できぬとは。

 蛮勇を振りかざし些細な希望の光に縋ろうと、全ては我が闇に呑まれて消えゆく運命……!」

 

「ならば私も、光ではなく闇にてお相手仕りましょう」

 

命は右手に握った愛刀ではなく、左手の中の小さな石剣を突きつける。

それがただの玩具ではないことにヘグニは当然気付いていた。

だがもう一つ、別の場所からとんでもない力を感じる。

彼の視線はゆっくりと命の背後へと向かい……。

 

「……!?」

 

「『フツノミタマノツルギ』とはタケミカヅチ様の持つ神剣の名。

 そして『フツ』とは『物を断ち斬る時の音』に由来するそうです」

 

小さな大精霊『ベビー・オブ・アース』が命の傍に浮かんでいた。

ヒノカミの力を受け継いだヘスティアが、ヒノカミの愛剣である異世界の『フツノミタマノツルギ』と共に命に託したものだ。

神剣と大精霊。この二つの力を借り受けることで『己を中心とした範囲内に重力結界を発生させ敵を拘束する重圧魔法』であった命の『フツノミタマ』は、その由来に相応しい攻撃魔法へと在り方を変える。

 

面ではなく線に。長時間でなく一瞬に。

『極限圧縮した超重力の斬撃』を振り下ろす超攻撃特化魔法。

 

「重力は光すらを飲み込み、世界を闇で塗りつぶす。

 これぞ全てを『絶』つ『影』の刃……すなわち『絶†影』!

 神々より賜った我が二つ名に恥じぬ技、とくとご覧いただこう!!」

 

「ちぃっ!」

 

エルフでありながら大精霊を前にしても尚戦意を失わぬヘグニは、やはりフレイヤの狂信者であった。

先ほどの一撃を受ければ間違いなく両断される。

妨害ではなく自分を狙って発動されれば回避も危うい。

目の前の女を弱者と思うことを止め、詠唱する隙を与えぬと接近戦を挑む。

一切の油断はなく、致命の一撃にて確実に仕留めると呪いの剣を突き出す。

 

「!?」

 

だが、躱された。

恩恵と火種の二重強化の上から強化魔法を重ねても、命の身体能力はレベル5にわずかに届かぬ程度。

レベル6で、しかもエルフでありながら魔法よりも肉弾戦を得意とするヘグニには及ばない。

だが彼女は幼少より『武神』タケミカヅチより武術を学んできた近接戦闘の達人だ。

70年以上を生きたエルフと言えど、人間とは桁違いの時を研鑽に費やしてきた武神と、その薫陶を受けた直弟子に敵うものか。

 

「『掛けまくも畏き――いかなるものも打ち破る我が武神よ』……!」

 

「ぐぅぅぅっ……!」

 

命は再び詠唱を始める。右手に握った刀で、ヘグニの猛攻を全て受け流しながら。

 

 

 

 

「ふん……私の意表を突いたのは見事だが、自慢の魔剣がその有様ではもはや成す術あるまい」

 

ヘディンはヴェルフが握る、刀身がひび割れだらけの大剣を見て冷笑する。

目の前の小僧が魔剣鍛冶師クロッゾの血を引く者であり、強力な魔剣を作り出す力を持っていることを、ヘディンも当然把握している。

先ほどの一撃がその魔剣によるものとすればその威力にも納得がいき、力を使い果たして砕けることもまた道理。

 

 

「へっ、テメェの目は節穴かぁ?」

 

「なんだと……?」

 

「よく見ろよ。こんな不格好な岩の塊のどこが『剣』だ?」

 

ヴェルフはひび割れた剣『のようなもの』を掲げる。

 

 

「コイツは『鞘』だ!このくらいガチガチに固めねぇとオレの相棒は大人しくしてくれねぇんでな!!」

 

「『鞘』だと……!?」

 

「さぁお披露目といこうじゃねぇか!オラリオの連中もとくと見やがれ!

 これがようやく完成した、『ヴェルフ・クロッゾ』の新しい『魔剣』!!」

 

掲げた岩塊が粉々に砕け散り、太刀が現れた。

美しい刀身はまるで水晶のように透き通り、淡い光を放っている。

そしてその光が急激に強くなり始めた。

 

「……っ!?これ、は!?」

 

直後ヘディンが異常に気付く。

力が抜けていく。すぐにその理由に気付き、試しに魔法を発動しようとして確信する。

 

「吸っているのか……!?その剣が!?俺や周囲の魔力を!!」

 

「おぉよ!『魔』法を込めた『剣』じゃねぇ、『魔』力を喰らう『剣』!

 コイツがオレの新たな魔剣(相棒)暴食の牙(グラトニア)』だ!!

 そんでもちろん、ただ吸い込むだけじゃあねぇぜぇ!!」

 

ヴェルフが剣を肩に担ぎ、またも魔法を発動する。

 

「『燃え尽きろ、外法の業』ぁ!」

 

「!?」

 

剣が吸い取り貯め込んだ魔力が、魔力暴走を引き起こす魔法により爆発。

吹き飛ばされる形でヘディンの眼前に急接近したヴェルフは爆風を纏う斬撃を叩きつける。

躱しきれずまたもヘディンは剣で受け流そうとするが、接触を通じてヘディンの魔力がすさまじい勢いで奪い取られていく。

 

「ーーーーっ!舐めるなぁ!!」

 

ヘディンは力を奪われながらもヴェルフの一撃を利用してわざと吹き飛ばされる。

距離を取ったことで魔力の喪失が収まった。そして遠距離戦こそが彼の本領。

長刀の先端を突き出し詠唱を開始する。

 

「『永争せよ、不滅の……』!」

「『燃え尽きろ外法の業』!」

 

だがヴェルフの魔法も超短文詠唱。

ヘディンが魔法を発動する前に、掌を向けたヴェルフの魔法が発動。

ヘディンの魔法は暴発した。

 

「お……の、れぇぇぇぇっ!!」

 

理知の仮面を脱ぎ捨て激昂するヘディンを目の当たりにしても、ヴェルフは不敵に笑う。

 

「ついでに言っとくぜ。オレから離れて安心したみてぇだが……」

 

またもヴェルフが剣を振り上げる。刀身が強く光を放つ。

 

 

「そこも、オレの距離だ!!!」

 

「!?」

 

振り下ろした剣から生じた飛翔する斬撃波を、ヘディンは咄嗟に躱した。

 

『残光』。

元ゼウスファミリア『暴食』のザルドより直接指導を受けたヴェルフは、己の魔剣に蓄えた魔力を利用することでその絶技を再現してみせた。

 

接近すれば魔力を喰らう剣に力を吸われ。

距離を取れば飛翔する斬撃が襲い掛かり。

不用意に魔法を使おうとすれば暴発を引き起こされ自滅する。

 

例えレベル6であろうとヘディンは魔導士。

『魔導士殺し』として完成したヴェルフはまさしく天敵。

強化魔法によりレベル5相当まで能力が向上している今の彼を魔法戦で撃破できるのは、それこそアルフィアくらいだ。

 

「足止めなんて腑抜けたこたぁ言わねぇよ!

 きっちり喰らい尽くしてやるぜ!」

 

「小僧ぉーーーーー!!」

 




・魔法『フツノミタマ』
本来は重力結界を生成し自分ごと敵を拘束する重圧魔法。
しかし異界のフツノミタマノツルギと地の大精霊の分霊の力を借りて、超重力の巨大な斬撃を振り下ろす攻撃魔法としても使用可能となった。

・『暴食の牙(グラトニア)
周囲の魔力を無差別に吸い込む魔剣。
ヴェルフ自身も対象だが、柄から剣の魔力を取り込むことで相殺している。
刀身に蓄えた膨大な魔力を『魔力暴発魔法』で炸裂させることで攻撃に転化する。
名付け親はザルド。ヴェルフは『喰侵棒(くいしんぼう)』と名付けようとしていた。
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