『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第39話 再戦

 

20人以上がいたヘルメスファミリアとヘスティアファミリアの仲間たち。

一人、また一人と己の役目を果たすためにと踏みとどまり、残るはベルとアイズのみ。

未だに立ち止まることなく走り続ける二人は、城の頂点まであとわずか。

そして残る敵もまた二人だけ。

フレイヤファミリア副団長『女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)』アレン・フローメル。

フレイヤファミリア団長『猛者(おうじゃ)』オッタル。

総大将は間違いなくオッタルだろう。であればその手前に待ち構えているのはアレンに違いない。

 

「切り開く」

 

「お願いします!」

 

「『テンペスト』」

 

精霊剣を抜き魔法を発動させ、翼を広げたアイズが飛翔し先に進む。

彼女が通路を抜け、次のフロアに入った瞬間。

 

「無駄」

 

「ちぃぃっ!」

 

頭上から奇襲を仕掛けられるも、広げた翼を盾として難なくはじき返す。

リリルカには及ばないが、アイズも空気の振動を翼で読み取り周囲の気配を察知することができる。

アレンがフロアの入り口のすぐ真上で武器を構えていることなどとっくに読んでいた。

 

「行って、ベル」

 

「はい!!」

 

これで残るはベルとオッタルだけ。

可能な限りベルを消耗させず、オッタルのところまで送り出すこと。

それがヘスティアファミリアの作戦目標だった。

後はベルがオッタルを倒せるかどうか。

先日の決闘でほぼ互角の戦いを繰り広げた二人は、どちらも一つずつレベルが上がっている。

アイズ自身も発動している強化魔法『更に向こうへ』は逆境であるほど強化倍率が跳ね上がるが、平時ではほとんど効果を発揮しない。

互角の相手との戦いは逆境とは言えない。どちらが勝つかは誰にもわからない。

 

とはいえ、今の状況に持ち込んだ時点でほぼヘスティアファミリアの勝利は決まったようなものだ。

これは攻城戦。守る側は総大将のオッタルが敗れれば終わりだが、攻め入る側のベルたちは誰か一人でも生き残っていれば戦いを続けられる。

そしてアイズはレベル7。更にヘスティアの火種と恩恵によりレベル8相当の力を持っている。ついにアイズはベルとオッタルと同じ領域に辿り着いたのだ。

目の前にいるフレイヤファミリアの副団長アレンはレベル6。

圧倒的優位な状況であるためやはり強化魔法『更に向こうへ』は無いも同然だが、レベル2つ分の差があって負けるはずがない。

後はアレンを倒したアイズがベルを追いかけ加勢。協力してオッタルを倒してしまえばいい。

万が一ベルが敗れていたとしても、彼との戦いで疲弊したオッタルならアイズでも余裕で倒せる。

 

「見下してんじゃねぇぞ『剣姫』ぃ!」

 

「うるさい」

 

視線に込められた感情に気付いてアレンが吠えるが、アイズは冷淡に突き返す。

彼女がアレンを敵として認めておらず、単なる障害物としか考えていないのは明らかだった。

 

「テメェ……!?」

 

怒りのままに再び言い返そうとして、アレンは動きを止める。

尋常ではない寒気が彼を襲った。

 

「うるさいうるさいうるさいうるさい……!」

 

アイズの怨嗟が、冷たい視線が、アレンに突き刺さる。

彼は己の野生に従い咄嗟にその場を飛び退いた。おかげで直撃だけは避けられた。

 

 

「『うるさい(ゴスペル)』!」

 

「がぁぁぁっ!?」

 

 

魔法『サタナス・ヴェーリオン』。

『静寂』のアルフィアを代表する、音の塊をぶつける攻撃魔法。

音とは空気の振動、分類するならその属性は風だ。

 

『…………』

 

「っ!?」

 

アイズの背後にベビー・オブ・ウィンド……いや、穢れた精霊を喰らい一回り大きくなった『スピリット・オブ・ウィンド』が現れる。

未だ成熟しておらぬと言えど、風の神格を持つ大精霊。それを宿したアイズは風の神に並ぶ権能を持つ。

修行の最中であれだけアルフィアから魔法を喰らい続ければ覚えて当たり前。

レベル7に昇格した際に、アルフィアのものと全く同じ魔法が発現していた。

 

スピリット・オブ・ファイアに食われかけたアレンは体勢を整えながら顔を引き攣らせる。

目の前の精霊はアレの同種。魂を喰らい成長する化け物だ。

死すら許さぬ恐怖の象徴を従え、翼を広げゆっくりと浮遊するアイズは、彼の目には死を告げる天使のように映る。

 

「……許さない」

 

かつてヒノカミはアイズに『火種との適性がない』と告げた。

だがそれは誤りだった。彼女にも適性があったのだ。

ベルと出会い彼に惹かれて静まりかけていた真っ黒な『復讐の炎』は、そのベルを奪おうとする憎き敵の出現により『憎悪の炎』として再び燃え上がった。

 

アイズを突き動かしているのは今も昔も『愛への激しい渇望』。

『復讐姫』と『憧憬一途』。どちらも他者への深い愛から生まれたスキルだ。

そして二つのスキルが火種の影響を受けて統合され、一つのスキルとなった。

 

「許さない許さない許さない……!」

 

誰よりも深く熱く燃え上がる『愛』が、少女に力を与える。

 

 

 

「私からベルを取るなぁぁぁーーーーーーーーーっ!!!」

 

 

 

スキル『愛染明王(ラーガラージャ)』。

愛欲を己の力と変える憤怒相の化身がオラリオに降臨する。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「来たか」

 

「はい」

 

オッタルとベルが、玉座の間で対峙する。

前回は疲弊した状態だった。だが今のベルは仲間たちのおかげでほぼ万全の状態。

強化スキルのおかげで、わずかにだがベルの方が有利ですらある。

 

 

「『次は、君だ』」

 

 

しかしベルは解除式を唱えて強化魔法を消した。

背中で燃え上がっていた炎の闘気も間もなく薄れて消える。

 

「……何のつもりだ?」

 

感じる圧が弱まったことで、オッタルはベルの行いを察した。

 

「……思えば、僕が戦いに敗れたのは貴方が初めてでした」

 

ヒノカミやアルフィアたちは別だ。

彼らはベルの師であり遥か高みに立つ存在。そもそも戦いが成立しない。

田舎で暮らしていたベルに共に修行する仲間はおらず、オラリオに来た時には彼は強くなりすぎており、モンスター相手では負け知らず。

冒険者と衝突したことはなかったが戦わずとも勝てると思えるほどに力の差があった。

だからあの日、悪条件が重なっていたとはいえオッタルに届かず敗れた時。

 

「悔しかった……そこでようやく気付いたんです。

 僕はただ力を持っただけの子供だった。英雄なんかじゃ……なかった」

 

「…………」

 

「僕は貴方に負けた。その事実はもう消えない。

 だけど貴方に負けたままでは、僕の力だけで貴方を超えなければ、本当の英雄になんてなれない……!」

 

右手に光の剣を、左手に勇者の剣を掴んだベルが二刀を構える。

 

「今度は僕が挑戦します。……受けてくださいますか?」

 

「いいだろう……!」

 

オッタルもまた二振りの大剣を構える。

 

「ヘスティアファミリア団長、ベル・クラネル」

「フレイヤファミリア団長、オッタル」

 

「いざ……」

「尋常に……」

 

 

「「勝負!!」」

 

 

今初めて、少年は冒険をする。

 




・スキル『愛染明王(ラーガラージャ)
愛する者と共に戦う時ステータス超強化。
愛する者の為に戦う時ステータス超強化。
愛する者の敵と戦う時ステータス超強化。
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