『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第40話 勝者は立つ

 

オラリオに浮かぶ神の瞳はベルとオッタルだけを映していた。

まだ戦場の各地でそれぞれの激闘が続いているというのに、この二人の戦いをずっと。

だが当然のことだろう。これこそが今のオラリオ最強同士の闘い。

互いに二刀を構え舞うように刃を踊らせ続ける、レベル8とその同格の冒険者の全力戦闘。

眷属の死や想定外の劣勢に悲鳴を上げていたフレイヤ傘下のファミリアの神々ですらも、動きを止め口を閉じただ映像を見上げている。

 

「……素敵よ、オッタル。貴方の魂は今、かつてないほど輝いている」

 

フレイヤもまた静かに微笑を浮かべている。

美の女神は傲慢で、強欲で、自分勝手で……だが彼女は確かに眷属たちを愛しているのだ。

そしてフレイヤの眷属たちは彼女の愛に、全身全霊で応えようとしている。

 

「……ちょっと妬けちゃうけど」

 

どのような形であれ愛しのベルに真っ直ぐ見つめられ、互いの感情をぶつけ合うオッタルを、少しだけ羨ましいと思いながら。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

オッタルは筋力と耐久に特化しており、自己強化魔法により短時間限定でステータスを更に伸ばすことができる。

対してベルが勝っているのは敏捷の値のみ。

だがベルの左手の勇者の剣は猛者の剛腕による一撃を受けても砕けることはなく、右手の光の剣はどんなに分厚い筋肉の鎧も易々と切り裂いてしまう。しかし光の剣は消耗が著しく時間制限有り。

条件はほぼ同じ。実力はほぼ互角。前回と同じく、どちらが互いに致命の一撃を相手に叩き込むかの勝負となっていた。

 

「ぬぅぅぅぉぉぉぉぉおおお!!」

 

「!?」

 

オッタルが勝負に出た。以前とは動きが違うが、またも片腕を犠牲にしての一撃。

ベルも今度は躊躇わなかった。

 

「ーーーっ!」

 

「ぐぅぅっ!」

 

オッタルは左腕を斬り飛ばされながらも、右腕の大剣を振り下ろした。

ベルの左肩から胸にかけて深い傷跡が刻まれる。

互いに飛び退いて距離を取った二人は夥しい血を流しながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

「よくぞ振りぬいた」

 

「決闘での手加減は、戦士への侮辱と叱られましたので」

 

「……治さんのか?」

 

「ポーションを取り出す隙を見逃さないでしょう?それに……」

 

力の入らない左腕をだらりとぶら下げ、右腕だけを前に出す。

 

「『次元刀』を出している間は、他に力を割く余裕がないんですよ」

 

不可死犠はもちろん、天神武装による自己治癒もだ。

一時的に光の剣を消さねば、ベルがこの深手を癒すことは難しい。

……そうしても良いのだ。左手の勇者の剣を右手に持ち帰ればよい。だが。

 

 

「ベル!」

 

「「!?」」

 

 

アレンを降したアイズが戦場に飛び込んできた。

血まみれで向かい合うベルとオッタルを見る。

片腕を失っているオッタルの方が劣勢に見えるがそんなことは無い。ベルの胸の傷は深く出血が多すぎる。

日頃の過酷な修行で慣れているからか、こんな状態でも平然としていられるのは流石だが、すぐに治療しなければ命に係わる。

アイズは即座にベルに加勢しようと翼を広げ剣を構えたが。

 

「アイズさん!」

 

「!?」

 

その前にベルが、血塗れの左腕に握っていた勇者の剣を放り投げた。

アイズは空中をクルクルと回って飛んでくる剣を慌てて掴む。

 

「預かっていてください」

 

ベルはアイズの参戦を拒絶し、勇者の剣でなく光の剣を残すことに決めた。

それは確実な勝利ではなく、完全なる勝利を手に入れるため。

 

「見ていてください。僕は、冒険をします!」

 

「ベル……」

 

今アイズの前で、一人の冒険者が生まれようとしていた。

冒険者の冒険の邪魔はできぬと、アイズは悲し気に立ち尽くす。

 

「……なんてカッコつけたところ悪いんですが、一つお願いしてもいいですか?」

 

「?」

 

 

「勇気をください」

 

「……がんばれ!」

 

「はい!」

 

 

恋した少女の力強い声援を受けて、少年は光の剣を天に掲げる。

 

「……!?」

 

オッタルが気付いた。

ベルから感じる圧が増している。だが先ほどの強化魔法ではない。

 

「スキル、か……!?」

 

「勇気を……もらいましたから……!」

 

ヒノカミとヘスティアの融合により生まれた魔法ではない。

それ以前に、レベル2に到達したベルの背中に現れた、新たなスキル。

 

英雄誓願(ネクスト・ヒーロー)

 

守るべき者と人々の声援が、少年を英雄(ヒーロー)にする。

 

 

「……ぬぅぅぅん!!」

 

 

ベルの覚悟にオッタルが応えた。身をかがめ、突撃の姿勢を取る。

彼は獣人、『猪人』だ。最大の攻撃手段は全身全霊の体当たり。

 

 

「…………」

 

 

目を離すな。口を出すな。最後まで見届けろ。

そう自分に言い聞かせて必死に踏みとどまるアイズの瞳から、不意に涙が溢れた。

 

 

 

「「ぉぁぁぁぁぁぁぁあああああああーーーーーーーーーーっ!!!!」」

 

雫が地面に落ちると同時に両者が動く。

ベルが光の剣を振り下ろし、オッタルが剣を突き出し駆ける。

 

(速すぎる!?)

 

アイズが内心で叫ぶ。

神の瞳で見ているオラリオの神や冒険者たちは気付いていない。

だが二人と同じ高みに辿り着いている彼女だけが、『ベルが剣を振り下ろすタイミング』が速すぎることに気付いた。

これではオッタルの刃がベルのところに届く前に、剣が地面に届いてしまう。

 

 

 

「ベルぅーーーーーーっ!!」

 

 

 

無防備なベルにオッタルの剣が突き刺さる最悪の未来を予想してしまい、アイズが思わず悲鳴を上げる。

 

そして戦場に鮮血が飛び散った。

 

 

 

「がっ……!?」

 

 

 

ベルに辿り着く前に、オッタルが切り裂かれたのだ。

彼の前には『次元にできた裂け目』が残っている。

 

「これが……『次元刀』だ……!」

 

「み、ごと……!」

 

ベルの剣が消えた。精神力を使い果たしたのだ。

間もなくオッタルが崩れ落ちる。だがベルは倒れなかった。

精神枯渇を引き起こし、気絶したまま立っていた。

 

英雄は、最後まで倒れない。

だから最高にカッコイイんだ。

 

 

『……決まったぁーーーーーーーーーっ!!

 勝者はヘスティアファミリア!

 ベル・クラネルぅーーーーーーっ!!!』

 

 

実況の声が、オラリオと戦場に響き渡った。

 




・天神武装『次元刀』
ついにオリジナルと同じ能力として完成した。
ただし次元を切り裂くのは非常に消耗が大きく、一度行使するだけで精神力を使い果たしてしまう。

・スキル『英雄誓願(ネクスト・ヒーロー)
誰かを守る為に戦う時ステータス強化。
誰かの声援を受けるとステータス強化。
人数が多いほど強化率上昇。上限なし。
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