『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第41話 沙汰

 

間もなくオラリオを人々の絶叫が揺らす。

フレイヤの勝利を確信していた者は悲鳴を、ヘスティアの勝利を祈っていた者は喜びの声を上げる。

 

 

「ありがとう、オッタル。

 ありがとう、アレン。

 ありがとう、みんな」

 

 

だがフレイヤは静かに、己の眷属たちへと心からの感謝を呟いた。

敗北した彼らを責めるような言葉など口にするはずもなく。

空を見上げたフレイヤは、熱狂する周囲に気付かれぬまま涙を流す。

 

「ふふふ……失恋、しちゃったぁ……」

 

 

 

 

「……不器用すぎるよ、フレイヤ」

 

だが遠く離れた場所に座っていたヘスティアに、彼女の言葉は届いていた。

ヘスティアはヒノカミから地獄耳と、神の魂すら見抜く目を譲り受けている。

フレイヤの魂の色はリリルカがガリバー兄弟に告げたようにあまりに歪んでいたが……それでもベルの方をまっすぐに向いていた。

 

彼女は本気でベルを愛していた。

だが彼女は『己の傍に侍らせ愛を囁く』以外の愛し方を知らなかった。

 

ただひたすらに、がむしゃらで、必死で、その思いに応えてくれる眷属たちに罪悪感を感じながらも突き進んだ。

それこそ送還どころか己の消滅すらも覚悟の上で。

やり方を致命的に間違えていたが……彼女の決意と覚悟を『愚か』と馬鹿にすることは、ヘスティアにはできなかった。

 

 

 

「……ふざけるな!こんなの無効だ!!」

 

だからようやく現実を突きつけられわめき出すフレイヤ傘下に下った神々が、何の覚悟もなく勝ち馬に乗ろうとした者たちが、余計に醜く見えてしまう。

彼等は冒険者たちの命がけの戦いをなかったことにしようとするどころか、ヘスティアの反則負けを主張し彼女の強制送還を要求し始めた。

 

「付き合ってられないよ」

 

離れた場所にいる連中が一塊になってこちらに雪崩れ込んでくる前に、ヘスティアは立ち上がる。

 

「ボクには、やらなきゃいけないことがあるんだからね」

 

ヘスティアはオラリオから転移した。

そして彼女の姿が未だベルの姿を映し続ける神の瞳の中に現れた。

 

 

 

 

「神さま……!」

 

「ありがとうベルくん。アイズくん」

 

アイズが拙い不可死犠の炎で意識の無いベルを必死に治療していた。

傍にはかろうじて命をつないでいるオッタルが倒れている。流石の頑丈さだ。

 

「約束通り、ここからはボクの仕事だ!」

 

ヘスティアは空へと浮かび上がり、勢いよく掌を叩き、領域『刻思夢想』を発動する。

 

「『戦争』だけど、『遊戯』なんだ。

 ゲームは命がかかってないから面白いのさ」

 

領域の内側の状況を余さず把握し、天へと昇りかけていた魂を呼び戻し、白い炎を吐き出す。

 

 

「さぁ皆、これで『お開き』だよ!」

 

 

癒しの炎は戦場全てを覆い尽くした。

全ての人の傷は癒え、死者は息を吹き返し、破壊された大地と城が全て元の姿へと戻っていく。

 

物質創造。そして死者の蘇生。

だがヘスティアからは神の力は感じない。

神の力を使わずに、彼女は奇跡の御業を引き起こした。

 

戦士たちは優しく温かい光を放つ女神に無意識に首を垂れ、神々はその隔絶した力に怯え振り上げていた拳を力なく下ろした。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

戦争遊戯終結より間もなく、勝者が敗者への沙汰を告げる会合が開かれる。

フレイヤ及び傘下のファミリアの神々と、ヘスティアとヘルメス。そしてヘスティア側の協力者としてロキとヘファイストスが参加している。

だが今回、ここにギルド長のロイマンも出席していた。

権力を持つとしても所詮は人間。神々が集まる場にはあまりに異質で浮いており、本人もできるならこんなところにいたくはないだろう。

だがもしここで勝者であるヘスティアが『フレイヤを始めとした全ファミリアの解散と神々の送還』などと言い出したら大惨事になる。

最悪の事態に陥らぬよう、ギルドの強権でもなんでも駆使して食い止めねばならない。その覚悟での同席だ。

一同は静かに、ヘスティアの言葉を待つ。

 

 

 

「ボクがキミたちに望むことは……『これからボクたちが背負う責務をキミたちに肩代わりしてもらう』ことだ」

 

 

 

「「「…………は?」」」

 

ヘスティアの要求は『ヘスティアファミリア及びその傘下であるヘルメスファミリアに課せられるギルドからの義務を、敗者たちに全て代行してもらう』ことだった。

具体的には納税や強制ミッション、違反を行った際のペナルティ等。

仮にギルドからヘスティアファミリアへ名指しで要求があったとしても、他のファミリアに代わりに行ってもらう。

 

今回の件でヘスティアファミリアとヘルメスファミリアのランクは大きく上昇し、その納税額は相当な量になるだろう。

加えてヘルメスファミリアはレベル詐称が発覚したので多額の罰則金を支払わねばならない。

一つや二つのファミリアならば吹き飛ぶほどの膨大な負担だ。

 

だが、フレイヤ側のファミリアの数は十以上。二十に迫るほど。

それぞれのファミリアの実力に合わせて負担を割り振れば、問題なく耐えられるレベルではある。

少なくとも『全財産没収』や『強制送還』と比べればはるかに生温い。

怯えていた神々も露骨に安堵していた。

戦争遊戯で死んだ眷属たちは全てヘスティアが蘇生してくれたこともあり、その程度で済むならばヘスティア側の提案を受け入れるべきだろうという空気が出来上がっていた。そもそも拒否権もなかったのだが。

 

 

 

「なっ、なりません!そのような提案は認められない!!」

 

青い顔をしているのはギルド長のロイマンだけだ。

 

「何言うとるん?ハナからギルドの意見なぞ聞いとらんわ。

 お前は恩情でこの場にいることを許されとるだけやろ?」

 

「ロキ……っ!?そうか!貴女の入れ知恵か!!」

 

「けけけけけけ」

 

ロキはチロリと舌を出す。

ロイマンの推測通り、この提案はロキが考えヘスティアに助言したものだ。

界王神となりあらゆる力を行使できるようになったヘスティアファミリアに対し、ギルドが過剰な要求を出し始めるだろうと予測はできていた。

実際にこき使われてきたヘルメスもその意見を肯定した。

 

だから、他のファミリアを人質に取ったのだ。

 

これでギルドがヘスティアに何かを強制する場合、先に『フレイヤを始めとした多数のファミリアを解散に追い込んでから』でなくては不可能になる。

ギルドがヘスティアに無理難題を吹っ掛けた時、『ヘスティアでなければ対処できないような案件』を割り振られた一般ファミリアがどうなるかは言うまでもないだろう。

犠牲となったファミリアの神や眷属たちがギルドにどれほどの不満を抱くかもまた言うまでもない。

それでも冒険者が生き残っていれば他のファミリアに移籍しオラリオ全体の戦力は維持できるだろう。

だがファミリアの数が減ってしまえば相対的に残るファミリアの価値が跳ね上がる。

となればギルドは各ファミリアの意見を尊重するしかなくなり、その中でも頭一つ抜けているヘスティアファミリアに要求を突きつけるのはやはり難しくなる。

 

それでも認めがたいロイマンは何か手はないかと思考を巡らせるが、ヘスティアがとどめを刺す。

 

「受け入れられないのなら、ボクとボクの子供たちはオラリオを出るよ」

 

「な……!?」

 

ヘスティアとその眷属たちは、既にその力を示したのだ。

もはや彼等を臆病者、卑怯者となじるものは出てこないだろう。

ヒノカミに並ぶ力を持ち、しかしヒノカミのような縛りを持たぬヘスティアがいれば大抵のことはどうにでもなる。

だから彼女にはどうしてもオラリオに留まらねばならない理由がもはやない。

 

「あ、もちろんその時はオレも一緒だから」

 

ヘスティアの傘下となったヘルメスが続くのは、受け入れがたいが当然として。

 

「ウチもついてこっかなぁ~~」

「私も同行しようと思ってるわ」

 

「「「!?」」」

 

ロキとヘファイストスまで手を挙げるのは想定外が過ぎる。

 

「なっ、なぜっ……!?」

 

「決まっとるやろぉ?アイズたんも預けとるし、黒竜討伐はウチらの悲願でもあるしなぁ。何より……」

 

席を立ちヘスティアの隣にまで歩み寄ったロキは。

 

 

「ウチらは『マブダチ』やからなぁ!ヘスティア!!」

 

「掌返しもここまで来るとすがすがしいよ、ロキ」

 

 

己と変わらぬ背丈になったヘスティアと肩を組んだ。

そのロキの胸にはヘスティアと比べると流石に小さいが、確かな膨らみが存在していた。

 

神は不変だ。良くも悪くもその形が変化することはない。

だが神を超える力を行使すれば不変のはずの体を作り変えることができる。

ヒノカミの力を引き継いだヘスティアはロキへの仲直りの証として、彼女のコンプレックスだった地平線に小高い丘を造園したのだ。

スレンダーなロキの体格ならばDカップは十分な巨乳。もう絶壁なんて言われないし言わせない。

己の胸の膨らみを確認したロキは滂沱の涙を流し、その場でヘスティアと永遠の友情を誓ったのだ。

『ロリ巨乳』と『ロキ無乳』なんて馬鹿にされた二柱の神は、もうこの世界にはいないのだ。

 

「私も、借りを返してもらうどころかお釣りをもらいすぎちゃったからね。

 それに今のヘスティアならダンジョンに行かなくても、アダマンタイトでもオリハルコンでも自在に作り出せるんでしょう?」

 

「下界のバランスを崩すのは望まないけど、黒竜討伐と平和の為なら出し惜しみはしないつもりだよ」

 

ヘファイストスも眼帯を外している。

傷一つない彼女の素顔、これももちろんヘスティアの仕業だ。

 

「で、どうする?フレイヤ」

 

「応じましょう。皆もいいかしら?」

 

「「「あぁ」」」

 

 

「さぁロイマン。ブーたれとるのはもうお前だけやでぇ?」

 

「ぐっ……うぅ……っ!」

 

 

断ればヘスティアとヘルメス、ロキとヘファイストスがオラリオを出て行ってしまう。

ヘスティアの眷属に異常な執着を見せていたフレイヤまで続いてしまうかもしれない。

そうなればオラリオは今度こそ終わりだ。ゼウスとヘラが去った時とは違い、次に都市を引っ張っていけるファミリアがいないのだから。

重ねて言うが、ギルドにはファミリアを追放する権利はあってもギルドを捨てるファミリアを引き留める権利はないのだ。

 

 

「……か、かしこまりました……神々の決定を、オラリオに通達いたします……!」

 

こうして、オラリオ全てを巻き込んだ戦争遊戯は完全な終結を迎えた。

 

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