『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第42話 祝勝会

 

「それじゃあ皆、グラスはいきわたったかい?」

 

戦争遊戯終結から数日後。

ヘスティアファミリアとヘルメスファミリア、そしてこの度ヘスティアと正式に同盟を組むことになった神々と、そのファミリアの代表者が祝勝会を開いていた。

場所は『豊穣の女主人』。店を貸し切っての大宴会だ。

 

「私、ない……」

 

「「「アイズ(お前)はダメだ」」」

 

「……フィン様、アイズ様はそんなに酒癖がひどいんですか?」

 

「あぁ、絶対に酒を飲ませちゃ駄目だよリリルカ。一滴たりともだ」

 

「……なぜ、オレまで……同盟を組んだ覚えはないぞ?」

 

「かたいこと言うなやソーマ、お前の『神酒』を飲むんにお前をハブんのもちゃうやろぉ」

 

ソーマがヘスティアに提供した神酒は、勝利の美酒として皆で分けることに決まっていた。

心の弱い者が口にすればその魔力に絡み取られてしまうだろうが、この場にはそんな軟弱者はいない。

 

「おぉ、これが本物の、完成品の『神酒』……!」

「まさか手前らがこれを飲める時が来るとは……!」

 

ロキファミリアのガレスとヘファイストスファミリアの椿、ドワーフの酒豪コンビが震える手で盃を見つめている。

 

「待ちきれない子もいるみたいだから、挨拶は省こう。それじゃあみんな!」

 

 

 

「「「「「かんぱぁ~~~~い!!」」」」」

 

カァン!

 

 

 

「「ぅンまぁ~~~~~~っ!!!」」

 

「なるほど……これは、すごいね。

 ガレスたちほどじゃないけど僕らも叫び出してしまいそうだ」

 

「……いいなぁ」

 

「フハハハハ!これこそ勝者たる私が口にするに相応しい美酒だ!

 そうは思わんかヒュアキントス!」

 

「おっしゃる通りですアポロン様」

 

「アンタらは戦っちゃいないだろ……」

 

「……?どうした、リリルカ」

 

「おいしいですよ、ソーマさま」

 

「……そう、か」

 

人も神もその美味に笑顔を隠せずにいる中で。

 

 

「……まっずぅぅ…………!」

 

 

ヘスティアだけが青い顔をしていた。

 

「あぁ、そうでした。ヒノカミさまは神酒を楽しめないのでした。

 だからヘスティアさまも……」

 

「強すぎるっちゅうのも考えもんやなぁ」

 

「うわぁぁぁぁん!楽しみにしてたのにぃ~~~~っ!!」

 

「……これを飲め。試作品だが」

 

「んぐっ、んぐっ……あ、おいしい!素朴でなんかホッとする味!

 ありがとうソーマ!」

 

「……ふん」

 

あまりに強烈すぎる食前酒が振舞われた後で、それに負けじとミアが腕によりをかけた料理が次々と運ばれてくる。

極貧ファミリアの主神であるミアハとタケミカヅチは、はしたないと思いつつも豪勢な料理に手が止まらない。

とはいえ彼らの眷属たちがオラリオ各地で行われていた賭け事にてヘスティアの勝利に全財産を突っ込み大金を手に入れていたので、今後のファミリア運営はもう少しマシになるだろう。

 

 

 

「……んで、これからどうするつもりやヘスティア?」

 

宴がある程度落ち着いたところで神々だけが一画に集まり、ロキがヘスティアに問いかける。

戦争遊戯前でも火種を求めて多くの冒険者がヘスティアファミリアへと詰めかけていたが、戦争遊戯の勝利によりその人数は更に増えるだろう。

ヘスティアは『対処しきれない』と断っていたが、ヒノカミの力を手に入れた今のヘスティアなら十分対処できる。分身でもなんでも使えるのだから。

同盟を組んだロキたちの助力もある。だがそれでも。

 

「アルフィアくんとザルドくんはすぐに呼ぶけど、しばらくは希望者を受け入れるつもりはないよ。

 皆のところから来てくれた子たちと仲良くなることを優先したいしさ」

 

「だがそれでオラリオの子供たちが納得するかい?」

 

「……火種を配ろうと思うんだ」

 

異界の人間であるヒノカミではなく、この世界の神であるヘスティアのものになったことで、火種と神の恩恵は反発しなくなった。

それは戦争遊戯にてヘルメスの眷属たちが証明している。

 

「まずは、同盟関係になったここにいる皆のファミリアの子たちに。

 それからギルドに場所を用意してもらって、他のファミリアの希望者に渡していくつもりさ」

 

「とんでもない数になるわよ?」

 

「分霊を常駐させる形で対応するよ。

 ヒノカミくんみたいに何百万って数は無理だけど、数体ならボクでも問題ないから」

 

「……何百万もの体を同時に操作できるのか、あの化け物は……」

 

「できるらしいんだよねぇ。その内ヘスティアから彼女の冒険譚を見せてもらうといいよ。

 そして存分にオレと語り合おう!」

 

「厄介ファンめ」

 

「あ!フレイヤたちのファミリアの子は後回しにするって伝えておこう!

 そのくらいはしとかないと不公平だよね!」

 

「十分甘すぎると思うが……それで各々のファミリアを抜ける子が増えては本末転倒だろうな」

 

「それから火種に焼かれそうな子はもちろん拒絶するよ。

 これは悪い子が宿しちゃったら、本当に焼き殺されちゃうんだ。

 いないとは思いたいけど、たとえ皆の子供でも」

 

「フン!我が愛し子たちにそのような不逞の輩がいるはずもない!!」

 

「……アポロン。ヒュアキントスくん、結構ギリギリだよ?」

 

「馬鹿な!?」

 

「キミへの愛情は純粋で真摯なんだけど、それが他の子たちへの傲慢さに繋がっててさぁ……」

 

「となるとフレイヤのとこも危ないの多いんちゃう?」

 

「正直、ね」

 

 

 

「……あの!」

 

「「「「「?」」」」」

 

神々に声をかける者が現れた。

それは彼らが連れて来た眷属ではなく、この店のウェイトレスの少女。

 

「できるならば……私にもその火種を授けてはいただけないでしょうか」

 

『疾風』リュー・リオン。

元アストレアファミリア所属のレベル4。

そして闇派閥に命を奪われた仲間たちの復讐のために、闇派閥と関りのある者全てを襲撃し犯罪者となってしまった悲しきエルフの少女だ。

ロキやヘルメスは彼女の事情は当然把握している。

界王神となったヘスティアも、彼女の眼を見ただけでおおよそ察してしまった。

 

「なるほど、キミはギルドに顔を出せないんだね。

 けれど何のために火種を望むんだい?」

 

彼女は復讐を終え、今は後悔を抱えたまま惰性で日々を生きている。

ダンジョンに潜ることもなく、己が焼かれる危険を冒してまで力を求める理由がない。

 

「私は悪行を成し正義を見失ってしまった。だから、標が欲しいのです。

 もし己が完全に悪に堕ちてしまったときに、この身をその火に焼いていただきたい」

 

「それは……」

 

「既に私が穢れ切っているというのなら、それでもかまいません。

 これが裁きと受け入れ、火刑に殉じましょう。……お願いいたします」

 

リューはヘスティアへと深々と頭を下げる。

 

「……主神の観察下にない者に火種を渡すのは危険だ。

 だからキミには、ボクのファミリアに所属してもらう。それが条件だ」

 

「!?ですが……!」

 

「アストレアはボクの神友だ。だからキミがまた間違えそうになったら、ボクが止めよう。力尽くでね」

 

「犯罪者でもヘスティアんとこに所属しとったら、ギルドも口出しできへんやろしな」

 

「一度オラリオを離れて、アストレアと話してきなさい。ボクはいつまでも待ってるから」

 

「……はい。店の皆とも、話し合ってみます」

 

そう言って離れていくリューは、まず真っ先に彼女の友人であるシルのところへ向かうのだが。

 

 

 

「……あーーーっ!なんでベルくんにくっついてるんだい!

 離れろぉ~~~っ!!」

 

「えぇ~~?くっついてませんよぉ~~。

 折角ですからベルさんに『あ~~ん』しているだけでぇ~~」

 

「シ、シルさん、僕もうお腹いっぱいで……!」

 

同じくこの店のウェイトレスであるシルが、ベルの隣に座って料理を食べさせていた。

美少女の『あ~~ん』。男なら憧れのシチュエーションなのだが、生憎と彼女が差し出しているのは彼女の手料理だ。

そして何を隠そう、彼女は『必殺料理人』である。

その手料理は劇物であり、一口食べただけで気を失って倒れてしまうほど不味いのだ。

こういう時に真っ先にベルを守ろうとするアイズがいないのは、既に彼女の料理を口に突っ込まれ始末されてしまったからである。

アイズはまだ天神武装を受け取ったばかりなので毒物への耐性が低いのだ。よく見たら床に倒れ伏し痙攣している。

長年鍛えて来たベルなら耐えられるが、それは耐えられるというだけである。

 

強引にシルを引きはがしたヘスティアは彼女を店の隅に連行する。

 

(何のつもりだい!?失恋したくせにまだベルくんに付きまとうのかい!?)

 

(えぇ~~?何のことですかぁ~~?

 私はただの恋する乙女ですよぉ?)

 

原理はわからないが、間違いなく人間だ。神の力も感じない。

気配はもちろん魂の形さえ類似しているものの同一ではなくなっている。

ベルどころかリリルカですら確信できずにいるだろう。

だがこのシルという少女の正体を、今のヘスティアならはっきりと理解できる。

 

(……どうあっても、ベルくんを諦めないつもりかい?)

 

(諦めるも何も、ベルさんはフリーでしょう?

 だったらまだ私にもチャンスが……)

 

「そんなことはないっ!!」

 

ヘスティアが大声を上げる。

店にいた人と神の注意が一斉に彼女へと向いた。

 

「いいかい……?ボクは、ヒノカミくんと同化したんだ」

 

「それが、何か?」

 

「そしてボクはヒノカミくんから、人としての性質も引き継いでいるんだ!」

 

今のヘスティアは人と神、両方の性質を併せ持っている。

例えば神だから人の嘘を見抜くことができるが、人だから神に嘘を見抜かれるようになってしまった。

まぁ彼女は元より嘘が下手くそなのでそこは大した問題ではなく本人も気にしていない。

他には不変ではなく『成長し変化する神』でもあること。

そして『人として人と共に歩む神』であること。

今のヘスティアは目の前のシル以上に人間に近い。よって。

 

 

 

「つまりボクは……『人の子を産むことができる』んだ!!」

 

 

 

「「「「「ブーーーーーッ!?!?!?!?!?」」」」」

 

「ボクは妻だけでなく、母にもなれるのさ!!

 ということでベルくん……ボクと結婚しよぉーーーーーっ!!!!」

 

「えぇぇぇぇぇぇーーーーっ!?!?!?!?」

 

「それはライン超えだぞヘスティアぁ!」

 

「今のジブンの見た目考えぇ!もうドチビとちゃうんやぞ!」

 

「おねショタだ!その肢体で過剰なスキンシップなんてしたら、ベル君の性癖が歪んでしまう!」

 

「止まりなさいっ、このっ……力強っ!?」

 

「……渡さない……ベルは渡さないぃぃ……!」

 

「アイズさん!?」

 

「炎がっ!?風がぁーーーっ!?」

 

「アイズ様の強さはレベル8相当ですっ!

 総員退避ぃーーーーっ!!」

 

「お逃げくださいアポロンさばはぁぁっ!?」

 

「ヒュアキントスぅーーーー!!」

 

「「ヘスティア様!その話もう少し詳しく!!」」

 

「何言ってんのヴェルフに命も!?」

 

 

 

 

「いい加減にしなぁーーーーーっ!!!!」

 

店主であるミアの怒号により全員揃って正座させられようやく事態は収束した。

いつの時代もどの世界でも、最強なのは神でも英雄でもない。

 

『オカン』である。

 




次回、本章最終話となります。
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