祝勝会を終えたヘスティアはしばらく借りていたロキのホームを離れて自分のホームに戻り、数日後再びロキのホームへとやってきた。
目的は、ロキの眷属たちに火種を配るため。
実は同時進行で分霊が3体、それぞれヘファイストス、アポロン、タケミカヅチのホームへ向かっている。
『上下関係のない同盟だから、順番を付けたら不公平だろう』という変な律儀さを発揮したがために。
幸いにも、ロキの眷属に火種に拒絶されるような悪人はいなかった。
口の悪いベートでさえも。彼は言動が最悪だが、魂が見えるようになると恐ろしく澄んでいることが分かる。
ヘスティアは今までベルとリリルカがあまりにチンピラ臭い彼に悪感情を抱いていないことが気になっていたが、その理由がようやくわかった。
彼は神々が言うところの『ツンデレ』であったのだと。
火種はロキの恩恵と反発はしないが、相性が良いわけではない。
天神武装は全員のスキル欄に現れたがその出力は人それぞれ。不可死犠は治癒魔法持ちの数名に現れただけだった。
元々ロキの眷属たちはみな才能溢れる有望な人間たちばかり。リリルカのようにいきなり数段階も強くなるような輩はいなかった。
ただ一人の例外を除いて。
「ち、ち、力が漲るっすーーー!なんすかこれーーー!?」
『
自他ともに認める凡人の中の凡人でありながらレベル4にまで至った努力の男は、天神武装により3段階の飛躍に成功。
一気にレベル7相当にまで至ったのだ。
「まさかラウルがここまで伸びるとはのぉー……」
ほぼ変化がなかったガレスとリヴェリアは相変わらずレベル6のまま。
フィンは小人族という種族的な影響により1段階の向上を確認できたが、それでもレベル7相当。
「ん-……ラウル、本格的に僕に代わってファミリアを引っ張ってみないかい?」
「いぃっ!?無理無理無理っす!」
「んん?ファミリア団長という名誉はいいのか、『勇者』殿?」
「才の無い者ほど成長できる火種。
まさに弱小種族たる小人族にとっての福音さ。
……もう、象徴などいらないかもしれないね。
勿論僕は歩みを止めるつもりはないが」
「だとしても流石にいきなり団長は辛いだろう。だからまずは副団長からだな」
「かっ、勘弁してくださぁーーい!!」
「おいおい、横槍なんてずるいじゃないかリヴェリア」
「お前に置いていかれたんだ。焦りもするさ」
「ならば、私相手に偉業を成してみせるか?」
ヘスティアの同行者に声をかけられ、フィンたちが意識を切り替える。
『静寂』のアルフィア。レベル10。暫定戦闘力はレベル11。
オラリオに帰還しヘスティアファミリア所属の冒険者として正式に登録を終えたかつての最強の一角が殺気を滲ませている。
ヒノカミがヘスティアと同化した頃と同時に、離れた地で暮らすアルフィアたちの前に彼女の分霊が現れ、別れを告げていたらしい。
戦争遊戯については聞いている。ロキとその眷属たちがヘスティアやベルのために骨を折り、ヘスティアファミリアと正式に同盟を組んだことも聞いている。
だがだからと言ってすぐに手を取り合うことなどできない。
むしろこれから共に歩むためにも、ケジメは必要だ。
「では神ヘスティア。よろしくお願いする」
「……わかったよ。でもボクからもお願いだ。
後に禍根を残すような戦いにはしないでくれ」
「なぁ、ホンマに大丈夫なんよな?
そのまま天界まで行ってしまわんよな!?
信じとるからなヘスティア!」
これよりロキファミリアホームの訓練場にて、アルフィアとロキファミリア幹部たちの決闘を行う。
勝敗はどちらかが倒れるまで。生死は問わず。
アルフィアだけでなく、フィンたちもその条件を望んだのだ。
ベルとオッタルの戦い。あれを見て滾らぬ者は冒険者ではない。
自分たちもあの高みに辿り着くためには、文字通り死ぬ気で望まねばならない。
アルフィアから特に敵視されているベートでさえも命を燃やす覚悟をしている。
「では、改めて確認するよ。
ルールはアルフィアくんが倒れるか、ロキの子たち全員が倒れるか。
決闘が終わったらキミたちの傷は全部ボクが治す。死んだとしても生き返らせる。
ボクが領域を展開するのが試合開始の合図だ。
じゃあ……はじめっ!」
パァン!
「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」」」」」
「来るがいい雑音ども。英雄の作法を教えてやろう」
――――……
ヘスティアファミリアが同盟ファミリアの眷属たちに火種を配り終えて更に数日後。
ギルドから通達されていた通り、ヘスティアの分霊は希望する冒険者に火種を配る業務を始めた。
そして早速長蛇の列が出来上がっていた。普段はダンジョンの中のリヴィラの街に引き籠っている者たちまで列に並んでいた。
尚、列整理を担当しているのはガネーシャファミリアの眷属たちであり彼等には先んじて火種の譲渡を済ませている。
予め冒険者たちには火種の詳細、リスクとリターンをしっかりと説明してある。
適合する可能性が著しく低いと判断した者には火種を渡せないとも。
それでも実際に自分の番が来て拒絶された冒険者たちは不平不満を叫んだ。
むしろそこで文句を言うような連中だから火種に適合しないのだが。
しかしその中の一人、イシュタルファミリアの団長だという巨体のアマゾネスが『とにかくよこせ』と暴れ始めた。
言葉が通じなかった。だから、望む通りに火種を与えてやった。
即座に全身が黒い炎に包まれ、彼女は火だるまとなって悲鳴を上げてのたうち回る。
レベル5相応の生命力のおかげで一命はとりとめたので、ヘスティアは哀れみ彼女の傷を癒してやった。
だがため込んでいた彼女の経験値は跡形もなく燃え尽きていた。
同じイシュタルの眷属たちに意識を失った彼女を連れ帰るように命じたが、もう冒険者に復帰することはできないだろう。
この一幕が見せしめとなり、火種を受け取れなかった者はようやく大人しくなった。
「また、おいで」
肩を落とし去っていく冒険者たちに、ヘスティアは優しく言葉を投げかけた。
いつか彼らが心を入れ替えてくれることを期待して。
そして同時刻。眷属たちが皆ダンジョンに向かい、一人ホームで待機するヘスティア本体のところにも大勢の人間が詰めかけていた。
闇派閥に加担していた人間たちだ。
彼等は『死んでしまった大切な人たちと死後再会させてやる』という言葉に縋って、邪神の指示に従っていた。
だがヘスティアは戦争遊戯の最後に、人々の前で死者を蘇らせた。
オラリオに紛れて過ごす闇派閥の者たちも当然その光景を目にしていた。
彼等とて、本当は命が惜しい。死を条件としている邪神よりも死者を蘇生できるヘスティアに縋るのは自然な流れだった。
これがヒノカミならば『どの面を下げて』と激昂し彼らを皆殺しにしていただろうが。
「……死んで時間が経ちすぎているし、遺体も残っていない。
それじゃあ今のボクでも蘇生はできない。
でも天界から一時的に彼らの魂を呼び寄せて、お話をさせてあげることならできる」
ヘスティアはどこまでもお人好しの善神だった。
「『死後会わせてやる』なんていうのはタナトスたちの嘘だ。アイツらにそんな権限はないよ。
天国に迎えられた魂と再会したいなら、キミたちも天国に行けるように頑張るしかないんだ。
……だからお話が終わったら、ちゃんと善行を積むんだよ?」
人々は涙を流し、一斉にヘスティアに跪いた。
つかの間の再会を終えた彼らはヘスティアに連れられてガネーシャファミリアに自首し、闇派閥に関する情報を洗いざらい自白した。
今後はガネーシャの下で償いを始めるそうだ。これで闇派閥の討伐は一気に加速するだろう。
「そもそもオラリオが吹き飛んでも今のボクなら直せるんだよね。
街中の子が殺されたとしても、すぐになら一人残らず蘇生できるし」
そして界王神となったヘスティアを物理的に排除するなんてできない。
それこそ神々が結託し神の力を使ったとしてもだ。
黒竜だって子供たちの意思を尊重して引き続き任せるが、ヘスティアが倒してもいい。
もしオラリオが完全に崩壊し地上にモンスターが溢れたとしても対処できる。
むしろオラリオという枷が無くなればダンジョンを丸ごと消し飛ばすことさえ容易い。
ヘスティアが下界に存在する限り、闇派閥の悲願が達成されることは絶対にない。
「……だからさ、ボクが動く前に諦めて自首してくれよ……ディオニソス」
――――……
現時点で存在が確認されている中で最も深い場所にある安全階層、第50階層。
誰もおらず何もない空間に突如裂け目ができる。
「おぉ~~~っ!ホントに一瞬で来られた!
すごいよアルゴノゥトくん!」
「ハァ……ハァ……はいぃ……」
「消耗だけはいかんともしがたいですけどねぇ」
裂け目を超えて現れたのはヘスティア・ロキ・ヘファイストス・ヘルメスファミリアの混合遠征軍。
ようやく使いこなせるようになった次元刀でダンジョンの奥地にまでつながる道を切り開いたベルは、冒険を始める前から力尽きていた。
この大部隊が通れる大きさの裂け目を作ったのだから、その消耗もまた桁外れだ。
「ベル、肩貸すよ」
「あ、ありがとうございます、アイズさん……」
((ビキィッ))
「落ち着けベート。レフィーヤもだ。各員、設営作業を。
ベル・クラネルの復調を待ち、その後選抜メンバーで進軍を開始する」
「「「はいっ!」」」
指揮を執るのはロキファミリア団長のフィン。
彼等はかつて断念した、60階層への進軍を再開する。
戦力を大幅に増強させて。
ロキファミリアの三幹部は全員レベル7となった。
ラウルが最強争いに台頭し、ベートもレベル6。
別のファミリアに移籍してしまったがアイズはレベル7に。
レフィーヤも戦争遊戯の活躍が偉業と認められレベル4となった。
『万能者』アスフィを始めとしたヘルメスファミリア一団も頼もしい戦力だが、それ以上に心強いのはやはり勢力を急拡大させたヘスティアファミリア。
『静寂』のアルフィア。
『暴食』のザルド。
ヘスティアファミリアに移籍したダフネ、カサンドラ、命、リュー。
『
そして前回の遠征に参加していた二人もレベル2に至り、戦争遊戯の後にヴェルフと同じく二つ名を得た。
『
『
「……ふぅーーーっ、もう大丈夫です。行けます」
「よし、それではこれより、我らは60階層に……いや。
ここは君にお願いしよう、ベル・クラネル」
「えぇぇぇっ!?」
「オッタルを倒した君が、暫定都市最強の冒険者だ。
アルフィアとザルドも加わったヘスティアファミリアがこの遠征軍の最高戦力であることは疑いようもない。
その団長である君に、是非号令を頼もうか」
「おぉ、そりゃあいいな。頼むぜベル団長」
「情けない真似はするなよベル団長」
「おじさんたちまで!?」
遠征軍に参加した冒険者たちは皆、一斉にベルに視線を注ぐ。
彼らは皆ニヤニヤしていて、からかい半分であることは明白だった。
一部青筋を浮かばせている者もいたが。具体的には狼人とエルフが一人ずつ。
「えぇと……僕はこの中で一番の新人で、そんな僕が言えたことじゃないですけど……」
頼りなさげに言葉を紡いだベルは、一呼吸を置いて顔を上げる。
「『冒険』を、しましょう」
「「「「「おぉーーーーーーーーっ!!!!!」」」」」
これは英雄に憧れる少年が、最高の仲間たちと共に。
最高の英雄になるまでの物語だ。
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』。完結となります。
原作がまだ終わっておらず、外伝やIFストーリー、前世の話など世界観が膨大であるため一部を抽出し物語の途中までとさせていただきました。
それでも40話を超えてしまい、他の外伝よりも長めとなりました。
ハーメルンでもたくさん二次創作があって作者も読者として楽しませてもらってますが、原作はカバーしきれていません。
そもそもリクエストで何件も来てたから『話を考えてみようかな』と思い立ってから漫画版を買い揃えて読み始めた有様です。
設定や読み込みが浅いのはどうかご容赦ください。
今回の原作における神々が、ヒノカミにとっていかに地雷であるかは皆さんご察しのことと思います。
なので『俺たちの戦いはこれからだ!』エンドにするとしても、ヒノカミがこの世界に留まっていると犠牲者が溢れる未来しか想像できません。
しかし今後も酷い状況に陥るのは眼に見えているので、ヒノカミがいないと対処できそうになくて不安が残る。
そこで考えたのが『ヒノカミの力を丸ごとこの世界の誰かに託す』でした。
これができるんならどんな世界でもすぐに平和になるんですが、別世界を荒らすことを忌避するヒノカミがそこまで信頼できる相手などまずいない。
しかし本作品にはその条件を満たす者がいました。
究極のお人好し、善神ヘスティアです。
権能も『聖火』であるためとんでもなく相性がよく、神であるため精神体の同化も無理な設定とはならない。
おまけに苛烈なヒノカミと比べ非常に温和で、悪人ですら助けられるなら助けようとする。
そんな彼女が究極の力を手に入れたのだから、この後この世界がどんな展開を辿ろうと安泰です。
異端児もいずれ明るみに出るでしょうが、ベルとヘスティアがいれば彼らも救おうとするでしょう。
アイズは『復讐姫』を失っているので『モンスターだから』と問答無用で殺すことはしないし、ここまで味方寄りになったヘルメスは『ベルに汚名がつくから』と余計なことをしたりはしません。
ただ敢えて言うとしたら……アステリオスですかねぇ……。
本作の展開だと彼が生まれない……いや、もう世界の流れに期待します。
何かの拍子にきっと生まれると。もう全部ヘスティア様に丸投げすることにします。
さて次の外伝ですが……今のところ候補は二つあります。
リクエストがあった作品から選出いたしました。
ただそのどちらも大まかな構想しかなく、片方はちゃんとした終わりが思いついていない。
原作自体も長い方なので、読み直しから始めることとなります。
よって再開は未定とさせていただきます。ご了承ください。