本章のヒノカミは基本的に神霊の姿とします。
物語の中の立場から、幼い少女の姿では舐められてしまうためです。
第1話
「して、何のようじゃ。いきなり儂を呼び出して。
この会合は十師族のルールに反したものではないのであろうな?」
「『十師族は師族会議を通さず共謀・協調してはならない』か。
……律儀に守っているのは君くらいだろうよ」
「オイコラ。最低でも定めた貴様は守らんかい」
白衣を着た気だるげな眼をした美女、『六道家』当主である『六道リンネ』は目の前の老紳士を叱る。
日本最強の魔法師の家系『十師族』の創設者であり、二十年前に第一線を退いたにも関わらず『閣下』『老師』と呼ばれ敬愛されている元世界最強の魔法師の一人『九島烈』にここまで雑な態度を取れる人間は、彼女くらいだろう。
「安心したまえ。ルールには反しているが、君の主義には反していない。
既に先方がルール違反をしているようなものだからな」
そう言いながら九島はテーブルの上にいくつかの書類を置き、向かいに座る六道へと押し出す。
電子媒体が当たり前なこの時代、紙で手書きというのは非常に珍しい。
データの残骸というわずかな痕跡すら残せない物だと察する。
「これは?」
「四葉に関する資料だ。確認してほしい」
二人と同じく十師族の一つである『四葉家』。
徹底した秘密主義であり敵対する者に容赦のない一族で、他国のみならず日本国内の魔法師からも『
その一族に関する資料となれば、どれほどの危険を冒しても手に入れられるものではない。
情報収集に成功したのは九島が現当主である『四葉真夜』とその双子の姉である『四葉深夜』の恩師であり、彼女らの父『四葉元造』の友人であったからこそだろう。
「随分前に深夜に子ができたとは聞いていたが、あまりに音沙汰がないものでな。
嫌な予感がして調べてみれば……この有様だ」
「……あの馬鹿者どもめが」
書類を読み進める六道は眉間にしわを寄せ怒気を孕ませる。
記されていたのは四葉の闇だ。
幼い命を用いた非人道的な人体実験。
深夜と真夜は結託し、彼女らの復讐を果たす力を持つ子を望んだ。
四葉の一族は妄執に憑りつかれその後押しをしながら、いざ生まれた子を目にした途端に尻込みし処分しようとした。
当時の当主はその子供を一族に都合の良い兵器として仕立て上げると決めた。
更にその子供を制御するためにまた新たな子に宿業を背負わせ……。
「あの二人……特に真夜の気持ちも理解できなくはない。
最終的な決定を下したのも英作だ。だが、それでもな……」
「恩を仇で返された気分じゃよ。……良く知らせてくれた」
六道家は『熱量制御魔法』と『治癒魔法』を得意とする一族、そういうことになっている。
だから幼い頃の妹の真夜、そして数年前に姉の深夜の主治医として、姿を隠してだが彼女らと関わりを持っていた。
「して、この『達也』と『深雪』を第一高校に入学させる腹積もりと?」
「うむ。別の苗字を名乗らせ、素性を隠してな。
……私の伝手で極秘裏に、教員枠を一つ空けさせた」
「そこに儂をねじ込ませる気か。騒動になるぞ?」
十師族の一つ、六道家。そんな家系は『本当は存在しない』。
それは目の前にいるたった一人……いや、たった『一柱』のためだけに用意されたものだ。
当時の彼女を『第六研究所出身の魔法師』と誤解して十師族に勧誘した九島烈によって。
故にその素性に関して、六道家は四葉以上の秘密主義を貫いている。四葉が『
特に当主である『六道リンネ』は他の十師族の当主にすら素顔を秘密にしている徹底ぶり。こうして直接顔を合わせるのは九島烈ただ一人だけ。
それでも六道は四葉のように恐れられていない。
かつて四葉家は報復として事実上国一つを潰した経歴があるが、六道家は日本とその国民に対して多大な貢献を続けているからだ。
『六道財閥』という形式を取って日本全国に多数の『熱エネルギー発電施設』や『大病院』等を抱え、利益に拘らず魔法の平和利用と国民生活の安定に寄与しているからこそ、六道家は十師族最大の影響力と支持率を誇る。
魔法を嫌う非魔法師からも『十師族の良心』と呼ばれ、その言動は国政すら左右しうるだろう。
純粋に彼女を尊敬している者、何とかして顔と縁を繋ぎたいと考えている者は腐るほどいる。
そんな六道家の当主が表舞台に、しかも魔法科高校の教師なんて形で立てばどうなるか。
「わかっている。だがこれらの情報が事実であれば見過ごすわけにもいかんだろう。
それにな……救われて欲しいのだよ。彼等のような子らに。
我等のような大人が罪を背負わせてしまった者たちには。
……光宣を生み出してしまった九島家の家長だった私がどの口でと、君は思うだろうがな」
「そうして後悔し償おうとしているだけ貴様はマシじゃよ。
承った。儂も昨今の魔法師の在り方に、いい加減辟易していたところじゃからな」
六道以外の十師族は過去に非人道的な実験によって『兵器として開発された魔法師』の一族だ。
彼等の犠牲と尽力のおかげで今のこの平和な社会が形作られたと言っても過言ではない。表面上の平穏ではあるが。
だが時代が変わり水面下での冷戦状態で安定した今の社会において、兵器として在るだけでは人として生きていけず、いずれ人間社会から弾かれてしまう。
退役軍人である九島はその未来を危惧し今も各方面へ働き掛けているが、その成果のほどは彼らの会話から容易に推測できるだろう。
そして六道は己の経営する財閥の組織を、魔法大学や魔法関連の大手組織に所属できず弾き出されてしまった魔法師たちの受け皿にしている。
だが本当に多すぎるのだ。魔法『しか』使えない連中が。
おまけに無駄にプライドが高く、非魔法師の同僚に対し傲慢でよく軋轢と問題を引き起こす。
なので一度へし折ってからでなくては使い物にならないことが多く、無駄に手間がかかっている。
尚、へし折ったら卑屈になりすぎることもあるが問題を起こさないのなら問題ないとしている。
「感謝する。それで、誰の姿で向かう?
先方に名前を伝えておかねばならんのでな」
「無論、『六道リンネ』じゃ」
「分身でではないのか!?」
「あぁ、お主はそっちを誤解しておったか。
当主当人でなければこの子らの信頼は得られまい」
「むぅ……財閥はどうするのだ?」
「そっちの方こそ分身たちで回す」
六道家は六道リンネただ一人により構成された家系だ。
その血縁とされている者はもちろん、財閥の重役たちさえも全て彼女が姿を変えた分身である。
六道財閥とは究極のワンマン経営なのだ。
このくらい彼女にとっては朝飯前ではあるが……既に数十年が経過しており、流石に愚痴くらいはこぼしたくなっている。
「はぁ~~……本当にこの世界は、一体いつになったら儂を解放してくれるんじゃ?」
「耳が痛いな。だがすまない。よろしく頼む」
「尽力しとる貴様以外が言ったならぶん殴っとるところじゃよ」
間もなく十師族六道家当主である六道リンネが、国立魔法大学付属第一魔法高校に臨時講師として赴任することが発表された。
だが既に入学願書の締め切りは過ぎており、発表がその前であれば受験生が倍に増えただろうと噂されている。
第一高校の教師たちは優秀な同僚が来てくれることに感激しつつ、早くも来年の入学試験の混迷具合を想像して頭を抱えていた。
外伝12『魔法科高校の劣等生』。
本作では六塚家に代わり、十師族の一つというポジションでの介入となります。
最初はメインキャラとの関わりを持たせるため生徒で、と考えていましたが相応の立場と権力がないとどうしようもないほどこの世界が酷い。
本章はメインキャラの出番を悉く奪い、ヒノカミが一人で問題に対処していくような展開になります。いわゆる『俺TUEEE』に近い形です。
実はまだ終わりが決まっていなくて……多分、2年に進級する当たりまでになりますが、かなりぼんやりとした終わりになるとは思います。
というか根深すぎて解決できる気がしない。大幅なテコ入れを加えて後は彼らの善性に期待する投げっぱなしスタイルで行きます。