『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第3話

 

本年度の主席入学者であり、男性だけでなく女性ですら目を奪われてしまうような美少女である司波深雪。

お近づきになりたいと考える生徒は非常に多く、彼女は入学当日から大勢の生徒に付きまとわれていた。

個人的に司波兄妹を注視している六道は、昼の休憩時間にも彼女のクラスメイトたちが二科生たちに高圧的に接していたことを把握している。その二科生たちの中に達也がいたことも。

 

入学式での発言や視線から推測はしていたが、どうやら深雪は重度のブラコンらしい。

彼女は大勢にもてはやされるよりも、敬愛する達也一人に見つめてもらうことを望んでいた。

なので当たり障りのない言葉を並べてクラスメイトたちから距離を取ろうとしていたのだが、彼らは彼女の意図を理解せず『落ちこぼれの二科生に絡むのは時間の無駄』と深雪の意見を否定し、『ウィードがブルームに関わるな』と達也を追い払おうとした。

 

幼稚な彼等の振る舞いに対し、大人な達也は深雪の立場を思い身を引こうとするも、達也の友人となった二科生の生徒たちが先に憤り一科生たちに反論した。

後は売り言葉に買い言葉だ。才能ある優秀な自分たちに落ちこぼれが従うのは当然であり、一人の生徒がその根拠である実力の差を見せようとしてCADを抜く。

あまりの展開の早さに隠れてその場を観察していた六道が慌てて乱入し、魔法を発動しようとしていた男子生徒に拳骨を落としCADを取り上げた。

 

「1-A、森崎駿。儂にその権限があればこの場で退学処分を告げるところじゃよ」

 

「なっ、なぜ!?」

 

「当たり前じゃろ。ことは魔法の不正使用だけではない。

 『人に凶器を向けてはいけません』。小学生でも知っとるぞ?

 相応の罰を受ける覚悟は当然あるんじゃろうな?」

 

六道は既に全校生徒の顔と名前を記憶している。

特に、問題を起こした男子生徒は優秀な魔法師の家系だったので一際詳しい。

そんな輩がここまで短絡的な行動に出た事実に頭を抱えたくなる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「少し熱くなっただけじゃないですか!」

「そもそも、ウィードの連中が邪魔をしたから……!」

 

「貴様らもじゃ!儂が『いらぬ』と断言したのはまさに貴様らのような連中よ!

 安易に規則を破りそれを悪びれもせず反省もせぬ者は社会と組織に必要ない!

 倫理と道徳が赤点じゃ!義務教育からやり直せ!」

 

「「「っ!」」」

 

「そもそもなぁ、司波深雪が兄の達也を慕っとるのは一目瞭然じゃろ。

 貴様らが達也を馬鹿にすればするほど深雪に嫌われるに決まっておろうが。

 その程度の人の機微すら理解できんのか?」

 

「「「……?」」」

 

「……はぁ!?理解できんのか!?」

 

吐き捨てた後でガキ共の顔を見れば、本当にわかっていなかったらしい。

特別扱いされ持てはやされるのが当たり前で、自分たちが『嫌われる』と言う発想すらないのだろうか。

一体どれほど甘やかされて育ったのやら。

 

「……で!この事態に対し生徒会長殿はどのような沙汰を下すつもりじゃ!?」

 

「「「!?」」」

 

その場にいた全員が六道につられて振り向く。

彼等の視線の先にいたのはここ第一高校の生徒会長であり十師族『七草家』の娘である七草真由美。

彼女の隣には風紀委員長である渡辺摩利の姿もあった。

ここは放課後の校門前。帰宅しようとする生徒は周囲にいくらでもいる。

誰かから騒動の通報を受けて駆けつけたのだろう。

 

「関係者全員に、厳重注意と反省文の提出を……」

 

「甘すぎるわ!明確な犯罪行為じゃぞ!?

 退学が当然、最低でも停学にすべきであろうが!」

 

「ですが、まだ入学間もない新入生ですので……!」

 

「そうやって甘やかすから増長する!

 碌でもない卒業生を輩出する方が学園の風評を傷つけ存続を危うくすると何故理解せぬか!」

 

「ろ、碌でもない!?聞き捨てなりません!

 僕は森崎家に連なる者だ!入試だって優秀な成績でクリアした!

 いくら教員、しかも十師族だからと言って……!」

 

「まだわかっとらんのかクソガキ!十師族どうこう以前に人としての問題じゃ!

 森崎家は護衛を生業にしとる一族であり、滅私の精神で要人を身を挺して守るのが仕事であろうが!

 私的な感情を振りかざして、他者を守るどころか傷つけようとした貴様がどの口で父祖の名を語るか!

 家に泥を塗っとるのは貴様の方じゃろがい!」

 

この学校では生徒の自主性を尊重しており、生徒会長と風紀委員長は教師ですら口出ししづらい権力を有している。おまけに前者は十師族の子女。

対してもう一方は新任の臨時講師だが、大財閥を統括する十師族の当主だ。多少苛烈であるものの発言内容自体に道理は通っている。

なんとかこの場を収めたい七草と、徹底的に追及すべきと主張する六道。

この二人の参戦により騒動はむしろヒートアップし、余計な観客も増えて来た。

どちらも十師族とあれば一方に加担すればもう一方に敵対する形になるため、野次馬たちは目を付けられることすらも恐れてただ遠くから見ているだけだ。

 

 

「すみません。悪ふざけが過ぎました」

 

 

だがこれ以上観衆に晒され目立つことを嫌った達也が、二人の十師族の間に割って入る。

 

「森崎一門の『早撃ち』は有名ですから、後学のために見せてもらうだけだったのですが。

 魔法の不正使用を促す形になり、申し訳ありませんでした」

 

「「…………」」

 

眼を閉じ軽く頭を下げる達也の意図を理解できぬほど、七草と六道は馬鹿ではない。

『自分が泥をかぶるからそういうことにしてこの場を収めろ』と促しているのだ。

事の顛末を六道が全て把握していることを知った上で。

 

 

ゴンッ

 

「っ」

「お兄様!?」

 

「儂は冗談や誤魔化しは言うが、嘘をつかぬことを信条としている。

 その儂に嘘をつけと促すとはいい度胸じゃな貴様」

 

達也の方が背が高いが、頭を下げたので頭頂部は彼女の眼の前にある。

六道は彼の頭上にも拳骨を落とした。

 

「しかしその気概は買おう。貴様一人への指導だけで勘弁してやる。

 このまま指導室までついてこい」

 

「はい」

 

「それから司波深雪と……周囲に同調しなかった光井ほのかと北山雫。

 この3名を除く1-Aの諸君は、家にしっかりと報告させてもらうぞ。

 ……流石にこれくらいは認めるな?」

 

「……かしこまりました」

 

「司波達也と七草の顔を立て、一度は見逃す。二度目はない。

 首の皮一枚繋がっとるだけという自覚を持てよ。

 これでまだふざけた真似をするなら儂は持ちうる力の全てを駆使して貴様らを除籍するぞ」

 

「「「…………」」」

 

脅してはみたが、どこまで効果があるものか。

当事者である森崎は幾分堪えたようだが、ほとんどの生徒が反省でも後悔でもなく『何故自分たちがこんな目に会うのか』という顔をしているのだから。

これで二科生に八つ当たりでもしようものなら本気で排除せねばなるまい。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「手早く済ませるぞー。深雪だけでなく他の子らも『待つ』と言うとったしなー」

 

「よろしくお願いいたします」

 

生徒指導室に先客がいないことを確認し、達也を中に入れた六道はすぐに扉を閉める。

 

「っ……」

 

「ただの人払いと防音じゃ。ほれ座れ」

 

閉めると同時に何らかの結界が張られたことに達也は気付いたが、六道は意に介さずどかりとソファに座り達也にも着席を促す。

 

「あー……しかしまぁ、なんじゃ?入学二日目でやらかすか?

 お主らは巻き込まれた側じゃが、もう少しうまく立ち回れたであろうに」

 

「自分は最善を尽くしたつもりですが」

 

重ねて言うが、六道は騒動に至るまでの経緯を全て把握している。

盗聴や録音もされていないようだし、魔法により防音が為されているというならと達也は建前を放り投げた。

 

「学科で歴代最高得点取ったお主が言うか。

 それで実技が低いもんじゃから教師陣はめちゃくちゃ注目しとるぞ?

 深雪の方もぶっちぎりの首席入学なぞやらかしおって、目立つに決まっておろうが」

 

「……仮にも教師が生徒に、意図的に手を抜けとおっしゃるので?」

 

「教師ではなく、今は十師族として尋ねとるんじゃ」

 

身を乗り出してテーブルに肘をつき、掌の上に顎を乗せた六道は呆れながら伝える。

 

 

 

「お主らが『四葉』であることを、本気で隠すつもりがあるのかという話じゃよ」

 

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