『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第4話

 

即座に達也の雰囲気が変貌し、軽く身を浮かせ鋭い殺気を放つ。

しかし変わらずだらけたままの六道は平然と言い放つ。

 

「儂は『深夜』と『真夜』の元主治医じゃぞ?気付くに決まっておろうが」

 

「…………」

 

「特に深雪は母親そっくりではないか。

 儂でなくとも面識がある十師族の当主なら見れば察してもおかしくあるまい。

 おまけに『四葉(よつば)』を『司波(しば)』て……もう少しひねらんかい」

 

「……失礼いたしました。ですがそちらは父の苗字でして」

 

「偶然じゃったんかい……」

 

納得のいく理由を並べられ達也は改めて椅子に腰を下ろし頭を下げた。

 

六道家当主である六道リンネは国内……いや、世界最高の治癒魔法の使い手である。

生きていればどんな病も傷も瞬く間に治してしまい、死後間もないなら死者すら息を吹き返すとか。

六道は気まぐれだが見返りを求めないため彼女に救われた者は多く、恩を感じている者は国の要人から貧乏人まで多岐にわたる。

勿論攻撃魔法の類も使えるだろうが表舞台では治癒魔法しか使っていないため力なき民衆に恐怖されることも無く、国内での支持が非常に強い。

素性を言い当てられ思わず身構えてしまったが、もし衝突してしまえば勝っても負けても身の破滅だ。

彼女と敵対した時点で日本国内に居場所はなくなるだろう。

 

そもそも四葉家、特に現当主である叔母の四葉真夜と、達也たちの実母の四葉深夜は六道に多大な恩がある。

幼い頃に大漢に拉致され非道な人体実験を受け心身ともにボロボロにされた真夜を完治させ、妹への負い目から過酷な責務を課し体を壊してしまった深夜もまた彼女に治療され復帰した。

魔法師としての二人のデータも当然把握しており、深雪と比較すれば気付いて当然だ。

彼女の第一高校赴任を知った深夜と真夜からは『くれぐれも失礼のないように』と言い含められている。

 

「ご理解いただけていると思いますが……」

 

「口外せぬ。秘密主義を貫いとったのは儂も同じじゃからな。

 次期十師族当主がほぼ確定しとる七草と十文字には明かした方が良いのではと考えていたが……先ほどの七草の振る舞いを思うと、どうにもなぁ」

 

「そうしていただけると助かります」

 

四葉家は七草家と仲が悪い。

元々は四葉真夜と、七草家現当主であり七草真由美の父である七草弘一は婚約者であった。

だが拉致事件の際に居合わせた弘一は真夜を守り切ることができなかった。

体は元通りになったが心に深い傷を負った真夜は、八つ当たりとわかっていても周囲に当たり散らさずにはおれず、二人は破局し距離を置くようになった。

弘一が当主となってからは互いの反発は更に大きくなり、そのまま拗れに拗れて今の状況である。

 

「というか、弘一はもう気付いとる可能性があるがの。

 あ奴は深夜と真夜の幼馴染。昔の深夜はそれこそ深雪と瓜二つじゃしな。

 あとは二人の恩師である九島烈。と言うより儂がお主らを知ったのは九島経由じゃ。

 今のところ儂が把握しとる限りで、お主らの事情を知っていそうなのはそのくらいじゃの」

 

「『そのくらい』で済む規模ではないかと思いますが……」

 

「いや『そのくらい』じゃよ。潜在的にはまだおるかもしれんし、お主らが頭角を現すほど更に増える。

 ……で、話を戻すぞ。本当に四葉であることを隠す気があるのか?」

 

「無論です」

 

「……ならばなぜ実力を隠そうとせぬ」

 

「深雪が低く見積もられるなど耐えられません。

 自分は魔工師志望でして、所蔵された文献と資料を閲覧する許可を得るためここに入学しました。

 であれば実技は無理でも、せめて学科の成績は高いと見せつけなければならないでしょう」

 

「噂の天才魔工師『トーラス・シルバー』が貪欲なことじゃな」

 

「……本当に、どこまで把握しておいでで?」

 

「『(フォア)』・『(リーブス)』・テクノロジー。

 後は入学試験の結果を見たらな。

 こっちは今のところ察しとるのは儂だけのはずじゃ」

 

秘密主義を貫く四葉の子である割に、達也と深雪の隠蔽工作は稚拙すぎるのだ。

二人はまだ子供であるし、例え漏れても四葉の力でどうとでもなるからと深夜たちは見逃しているのだろうが。

 

「ま、意志は確認した。秘匿には協力しよう。

 なんぞ面倒ごとが起きれば儂に押し付けて構わん」

 

そう言いながら六道は紙にペンを走らせ、達也の前に押し出した。

記されているのはアドレス。会話の流れから六道へとつながる秘匿回線だろう。

 

「……ありがとうございます」

 

受け取り目を通した達也は、礼を言いながらも紙を六道へと返した。

完全に記憶したということだろう。察した六道は紙を握りつぶし灰も残さず焼却する。

 

「魔工師を目指すならばそちらの質問も大歓迎じゃ。

 何を隠そう、儂は技師としても達人であるからな」

 

「存じております」

 

六道財閥は魔法の平和利用の第一人者。

魔法師が『人間兵器』と位置づけられている現状を脱却したいと考えている達也は、個人的に六道リンネという人物に敬意を払っていた。

実際に対面してみると予想とかなり違う人物像で困惑しているが。

 

「それから、四葉内での面倒ごとでも構わんぞ。

 子供が自由意思を奪われ搾取されている現状は気に食わん。

 もし四葉から抜けたいと願うならお主も深雪もまとめて引き受けてやる」

 

「は……?それは流石に不可能では?

 四葉の苛烈さはご存知のはず。本格的にことを構えれば同じ十師族であろうと……」

 

「くけけけけ。どうということはないさ。何せ……」

 

六道は軽く足踏みし、部屋に張った結界を一時的に強化する。

 

 

 

「儂に勝てる魔法師などおらんからな」

 

「っ……!?」

 

 

そして己の力を、ほんの少しだけ解放する。

結界を張っていなければ学園ごと消し飛びかねない膨大な力の奔流が部屋に渦巻き、空間を軋ませる。

 

(桁違いの圧……!まさか彼女も、『非公認戦略級魔法師』……!?)

 

「例え他の十師族全てが徒党を組んで挑もうと、儂一人で全て蹂躙してくれよう。

 ……仮に全力の貴様が相手であろうとな」

 

「っ!」

 

己の本当の魔法すらも見透かされていると気付いた達也は、彼には珍しいことに露骨に表情を変え冷や汗を流す。

 

「……それは、大言壮語が過ぎるのでは?」

 

「儂は嘘はつかん。……ま、その内教えてやるさ。儂の魔法と実力をな」

 

解放した力を再び抑え込んだ六道は同時に結界も解除する。

 

「さぁ、指導はここまで。行くといい。深雪嬢ちゃんにもよろしくの」

 

「……失礼いたします」

 

立ち上がった六道が扉を開け、達也は指導室から退出した。

 




本作では姉の深夜が存命ですが、妹に対する負い目からの疲労が祟り一度体調を崩したということで、原作通りに真夜を四葉当主としています。
当初は深夜を当主にして話を考えていましたが、彼女は表情や振る舞いが深雪に似すぎてているため、他の十師族の当主が深雪の正体に気付く可能性が高くなりすぎると判断し途中で変更しました。

真夜は六道により治療され体は元通りですが、『六道という最高の医者』が存在したせいで、『辛い記憶を魔法で封印しなくても壊れなかった』ことになりました。
真夜本人は、最終的には原作よりも良い状態に落ち着いています。姉妹仲も劣悪ではありません。
ですが真夜は平静を取り戻すまでの長い間苦しむことになったため、その過程は原作以上に辛いものとなりました。
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