『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第7話

 

六道による指導を兼ねた模擬戦。

彼女が意図的に手を抜くことなどあるはずもなく、生徒側はついに一撃を加えることすらできないまま、結局は『時間切れ』という形で幕を閉じた。

この模擬戦が学校側の干渉により『授業の一環』に変更されていたからこそだ。

当初の六道の要望通りに放課後に行われていたら、最終下校時間に至るまで彼らは生き地獄の中に閉じ込められていただろう。

 

終盤になると剣術部も剣道部も死んだ目で破れかぶれの突撃と返り討ちを繰り返すだけの生きた屍と化していたが、最後まで心が折れなかった者もいた。

剣術部の桐原だ。

他の剣術部部員の傲慢具合を思えば時間の問題だったとは思うが、彼は『今回の事態の引き金を引いたのは自分だ』という自責の念を抱えていた。

少しでも他の者たちの負担を軽くしようと誰よりも前に出て六道に勇敢に立ち向かい、何度敗れてもすぐに立ち上がりすぐに武器を構えていた。

剣術部に虐げられていたので桐原を良く思っていなかった剣道部部員たちにも、彼がただ傲慢なだけの人間ではなくその振る舞いに相応しい努力と覚悟を持つ武人であることが伝わったようだ。

事件の被害者だった壬生もまた桐原を見る目を改めていた。

 

模擬戦終了後には剣術部も剣道部も全員、一科生も二科生もなく精神的な疲労で医務室送りだ。

体には青あざ一つないのに生気がなく、桐原と壬生以外はみなうつろな目で宙を見上げている。

ここまで揃って手ひどい目に遭えば双方が衝突することはもうあるまい。

もう一度衝突したらもう一度地獄を見ることになるのだから。

他の部の生徒たちも六道に怯えて態度を改めるだろう。

 

これにて一件落着。

学園の中での六道への視線が『不可侵(アンタッチャブル)』四葉へ向けるもの以上の恐怖に染まってしまったことを除けば万事解決だ。

 

 

 

「剣道部の連中に精神操作を受けた痕跡があった」

 

「「「…………は?」」」

 

かと思っていたら生徒会と風紀委員会、ついでに十文字を集めた六道が彼等の前でとんでもない事実をぶちまけた。

 

「あ、模擬戦中の治療ついでに解呪はしておいたからもう心配ないぞ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!どういうことですか!?」

 

「第一高校に外部の工作員がちょっかいかけておったという話じゃよ。

 洗脳の度合いからおそらく一年以上にわたって。相当根深いな」

 

「「「!?」」」

 

剣道部員の腕に妙なリストバンドがあった。

白い帯の縁に赤と青のライン。『エガリテ』という団体のシンボルマークだ。

 

「エガリテの上位組織である反魔法国際政治団体『ブランシュ』。

 その日本支部のリーダーが、剣道部主将である司甲の義理の兄らしい。

 司自身に重度の精神汚染が見られたことから奴もいいように利用されとったんじゃろうな」

 

「!?どこで、そんな情報を……!」

 

「くけけけけ。何を隠そう、儂は『ハッキングの達人』でな」

 

「……まさか、調べたんですか!?模擬戦から数時間で!?」

 

六道が生徒会室のモニターに自分が集めた情報を表示する。

内容は膨大で、一目見てわかるほど精度も高い。

 

「連中の拠点は学校すぐ傍のバイオ燃料廃工場。

 目的は学校に秘蔵された希少文書の奪取。そのために相当数の兵器と戦力を集めておるようじゃ。

 剣道部の連中を始めとした学校生徒を操って何らかの形で騒動を起こさせ、その隙を突いて武力侵攻。

 当初の筋書きとしてはこんなところか?」

 

「……急いで警察に連絡を!」

「「「はい!」」」

 

未遂だが、これだけしっかりとした証拠があれば動いてくれるはず。

七草は生徒会長として速やかに指示を出す。

 

 

 

「あぁ焦らずともよい。今から儂が叩き潰してくるから」

 

 

 

「「「……はぁ!?」」」

 

「剣道部以外にも手先はおるようじゃ。

 連中が治療された剣道部の奴らと相対すればすぐに洗脳が解けていることに気付くじゃろう。

 そのままブランシュ側に情報が届けば逃げられるかもしれんからな。

 まして警察が動けば確実に。よってその前に仕留めねばならぬ。

 これは時間との勝負……そいじゃ、ちっと行ってくる」

 

席を立った六道は肩を回しながら扉から出ていこうとする。一人で対処するつもりのようだ。

 

 

「六道教諭。自分も同行させてください」

 

 

だが彼女の前に達也が立ちはだかった。

妹がいる学園を狙う脅威、ちゃんと駆除されたかを自分の目で確認しなければ安心できないから。

 

「六道教諭の実力はもはや疑っていません。万に一つも敗れることはないでしょう。

 ですが目的が連中を一人残らず拿捕することならば、お一人では漏れが出るかもしれない」

 

「大丈夫じゃけど?」

 

「いや、司波達也の言う通り万全を期すべきだ。

 俺も同行させていただく。車を用意しよう」

 

続けて十文字も手を挙げる。

譲るつもりはないようで、筋肉質な巨体が達也の隣に立ち彼女の眼をまっすぐと見下ろす。

 

「ふーむ……後学のためにはなるか。よかろう。

 ならば森崎、お前も来い。一足先に本当の戦場を経験させてやる」

 

「!?はい!」

 

「六道教諭!どうか私も共に!」

 

「このブラコンめ。達也が認めるならよいぞ」

 

達也は深雪に見つめられると、すぐに観念して苦笑し首を縦に振った。

 

「……ならば私も行きます!

 司波さんたちが行くのなら、十文字くんだけに引率を任せておけないわ!」

 

「お前は駄目だ七草。俺とお前が揃って学園を離れれば奴らに勘付かれる」

 

「その通り。むしろ一年じゃからこそ容易に動けるのよ。

 同じ理由で渡辺や他の風紀委員も却下じゃ」

 

「ですが、やはり下級生を危険に晒すのは……!」

 

「おいおい、儂が誰だか忘れたか?六道家当主、六道リンネじゃぞ?

 死人が出るなど万に一つどころか、億に一つもありえんよ」

 

「……了解しました」

 

何しろ死後間もないなら死者すら蘇生できるとされる治癒術師だ。

反論できる材料を失った渡辺は観念する。二年以上の風紀委員たちも不承不承従った。

 

 

 

「まぁそもそも、死ぬどころか怪我すらさせんがな」

 

「「「は?」」」

 

「先ほどの模擬戦で披露したのは、儂の力の一部だけじゃったろ?

 折角じゃし達也らには先に見せてやろう。儂の本来の戦い方をな」

 

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