『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第8話 ブランシュ日本支部

 

ブランシュの拠点は廃棄されたバイオ燃料工場。

都市の中にある第一高校から比較的近い場所にあるが、危険物を取り扱っていたためその立地は都市郊外。

周辺に普通の民家はない。多少暴れても一般人を巻き込む心配はない。

 

だから六道は到着後すぐに、工場外周を覆い尽くす巨大な氷壁を作り上げた。

 

「……周辺の熱源反応は、全てこの内側じゃ。

 な?大丈夫だと言ったじゃろ?」

 

「「「…………」」」

 

六道は更に熱感知能力で敵と思わしき人間を全員閉じ込めたことを確認した。

達也たちは返事を返すこともできず氷の塊を見上げて絶句している。

彼等の目の前で広大な敷地をぐるりと覆う氷塊がにょきにょきと生えていく有様は、その結果を前にしても未だに受け入れがたい。

 

「お、お兄様……」

 

(規模と、出力が、違いすぎる……!)

 

深雪もまた名前にたがわず冷却魔法を得意としているが、それと比較しても六道の魔法は桁違いだ。

熱源で広範囲の敵の反応を把握する感知能力といい、熱量制御魔法の極致とやらをまざまざと見せつけられた。

 

「……このまま内側まで全部凍らせたら、戦わずに全滅させられるんじゃないですか……?」

 

「まぁな。しかしそうすると確実に殺してしまう。

 蘇生できるとしても教師が生徒の前で人殺しをするわけにもいくまい。

 情報を自白させるためにも、生け捕りにした方がよい」

 

「では、突入しよう」

 

「ちぃと待て」

 

森崎の疑問に返したところで十文字が身構える。達也と深雪もCADを抜いた。

だが六道は彼らを押しとどめ、更に魔法を発動する。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

六道が氷壁に開けた穴を通って一同が中に入ると、銃火器を構えた人間が大勢徘徊していた。

突如拠点に閉じ込められるというこの異常事態に、全員が臨戦態勢を取っていたようだ。

六道たちに気付いたテロリストたちは彼女らに向けて一斉に銃口を向けた。

 

 

ボボボボボンッ!

 

 

「「「ぐぁぁぁーーーっ!」」」

 

そして彼らが引き金を引いた瞬間に全ての銃が暴発した。

 

「んじゃ、任せた」

 

「「「はい!」」」

 

爆発に巻き込まれ負傷したテロリストを、十文字・森崎・達也・深雪が手早く鎮圧していく。

認識した全ての熱と光を掌握できる六道の前では、火薬やバッテリーはいつでも遠隔起爆が可能な爆弾と変わらない。

そして十文字たち4人の体にも六道が発動した魔法が及んでいた。

 

「……むぅ、これは……」

 

「体が、軽い……魔法も、使いやすい!」

 

「言うたじゃろ?儂は本来『後方支援』じゃとな」

 

六道は彼女が模擬戦で使用していた生体強化魔法を達也たちに施していた。

4人の体の奥から力があふれ、身体能力だけでなく魔法演算能力すら大幅に強化されている。

魔法を発動したことによる消耗もすぐに消えた。

六道が言うには、マシンガン程度なら生身ではじき返せるらしい。

『怪我一つさせない』という彼女の言葉も嘘ではなかったのだ。

 

「……六道教諭。これはいつまで持続されるのですか?」

 

少しでも情報を引き出したい達也が更に尋ねる。

 

「儂が遠隔で力を送っとるから、儂から離れぬ限りは永続じゃ。

 離れても込めた力を使い果たさぬ内は維持される」

 

「有効半径は?六道教諭自身の消耗は大丈夫なので?」

 

「この魔法を与えれば儂の感知対象となる。10キロでも20キロでも問題ない。

 そして消耗の問題もない。

 儂自身にかけとる魔法の出力はお主らとはけた違いで、想子保有量と回復力も含めて強化対象じゃからな。

 1000人規模に24時間発動しても毛ほども揺るがぬよ」

 

「「「!?!?!?」」」

 

古来より優れた戦士は『一騎当千』と称えられるが、彼女に関しては比喩表現に収まらない。

彼女は『一騎』で『千』の軍隊を支えられる。しかもその強化倍率は。

 

「気付いとるじゃろ、森崎。

 一科生と二科生の実力差より、儂の魔法の有無の方が遥かに差が大きいと」

 

「っ……」

 

「どんぐりの背比べなんじゃよ、一科も二科も。

 ちょっとした魔法や儂の指導で簡単にひっくり返る。

 うぬぼれず、精進せよ。本当の意味での落ちこぼれになりたくなければな」

 

「……はい」

 

森崎は自覚し項垂れる。

そしてより正確に効果を把握している達也が受ける衝撃は彼以上だ。

この出力ならば非魔法師ですら魔法師を上回りかねない。そこらの一般市民に力を与えるだけで即席の千人規模の軍隊を作り出せる。

彼女自身が魔法師殺しであることも兼ねて、下手な戦略級魔法師よりも脅威とすら言える。

 

(魔法は通じず、重火器も通用しない。

 彼女自身の強化倍率が桁違いだと言うならミサイルすら防ぐ可能性がある。

 ……叔母上や他の十師族が警戒し配慮するわけだ。

 彼女は権力などなくとも、魔法だけで国家を揺るがす力がある……!)

 

ボォォン!

 

「さて、どんどん行くぞ。まだ奥に大勢引き籠っとるようじゃからな」

 

「……了解」

 

六道たちを轢き殺そうとでも考えたのか。

装甲車に乗り込んだテロリストがエンジンを始動させた瞬間に六道の魔法の効力が及び、車は乗員ごと吹き飛んだ。

 

その後も5人の魔法師は敵を鎮圧しながら悠々と奥へと進んでいく。

そして長い廊下の途中で六道が声をかけた。

 

「ちょい止まれ。この先の部屋で敵首魁と残党が籠城しとる」

 

「?ですが、六道教諭の魔法なら」

 

「正直問題ないが、司一とやらは魔法も使うらしいからな」

 

「!?剣道部の方々を洗脳したという!?」

 

「んむ。安全策で行こう。閉鎖された狭い空間なら簡単じゃ。

 今から儂が魔法を使う。合図の後突入し一人残らず完全に無力化せよ」

 

六道は廊下と部屋の境となる壁に手を添え、部屋の外側から内側の空間を掌握し始めた。

熱ではなく光を操り、部屋の中の光量を急速に減衰させ始めた。

 

 

カッ!!

 

 

「「「ぐぁぁぁぁーーーーっ!?!?!?」」」

 

急に部屋の中が暗くなってテロリストたちの瞳孔が大きく開いたところで、部屋の中央に強烈な光源を出現させる。

続けて連中が頼りにしていた銃も遠隔で爆発させる。

 

「行けっ!」

 

「「「了解!!」」」

 

達也たちが飛びこんだ時には、テロリストたちは一人残らず目を押さえのたうち回っていた。拘束は容易だった。

 

 

「あぁぁぁっ、目がっ!目がぁぁぁーーーっ!」

 

「黙れ」

 

「がっ……」

 

一人明らかに身なりの違う男を、十文字が殴りつけて昏倒させる。おそらくコイツがリーダーの司だろう。

他の兵士も達也たち3人が速やかに意識を奪っていく。

 

「ん、問題なく全員失明したようじゃの」

 

「失明……!?完全に焼いてしまったんですか!?

 いくらテロリストと言えど問題になりませんか?」

 

「儂ならすぐ治せるしな。手足をもぐより目を焼いた方が手っ取り早い。

 後で治療を引き換えに自白を迫れば、いくらでも吐いてくれよう」

 

科学でも魔法でも、臓器や四肢まで完全に治療できるのは今のところ六道だけだ。

彼女の慈悲に縋らぬ限り死ぬまで光を奪われたままとなる。足元に転がる連中にそれほどの覚悟があるとは思えない。

 

「……よし、儂ら以外に動く熱源なし。制圧完了じゃ」

 

六道が窓の外に向かって腕を振るうと、廃工場を覆っていた氷壁が煙のように消えた。

 

「短時間じゃが、騒動になっておろう。すぐに警察も来るはず。

 お主らは学園に戻れ。この場は儂が一人でやらかしたことにする」

 

「ですが、同行を望んだのは自分たちです」

 

「テロリスト相手とは言え警察に連絡もせず武力制圧に踏み切ったなどと知られれば、お主らの経歴に功績以上の傷がつく。

 悪目立ちは望むところではあるまい?

 ……なぁに、儂は六道家の当主。どうとでもするさ」

 

「……行くぞ。森崎、司波兄妹」

 

「「「……了解」」」

 

「事の顛末は七草たち以外には話すなよー」

 

 

十文字たちが痕跡を残さぬように撤収した後で、予想通りに警察がやってきた。

彼等が到着するまでの間に六道はテロリスト集団を拘束していた。司たちの失明以外、明らかな重症は先に治しておいた。

この街の警察にも『正体不明』六道リンネの噂は届いており、当人を前にして明らかに狼狽していた。

日本最強の魔法師集団『十師族』の中でも、更に最上位に位置する魔法師だ。警察官の一人や二人簡単に消してしまえる権力があるのだから怯えて当然である。

六道財閥系列の病院に世話になった同僚も多い。何とか衝突せずに事を収められないかと祈っていた。

 

だが警察官たちが拍子抜けするほど、彼女の腰と頭は低かった。

六道は素直に自身の非を認め謝罪し警察の事情聴取に対しても真摯に応じた。

彼女が暴挙に至った経緯も、生徒らに関わる部分を除いて全て暴露。

話を聞けば納得のいく理由であり、テロリストたちは自白の後に完全に治療され五体満足。その身柄も警察に全て任せると言う。

結果として、六道は『厳重注意』で解放されることとなった。

 

 

「……あー、助かった。本当に良かった。

 逮捕されて牢屋に入れられたらどうしようかと……」

 

「十師族としての権力を、使わなかったのですか……!?」

 

『どうとでもする』という言葉をそういう意味で捕らえていた十文字たちは、翌日学園に戻ってきた六道の発言に目を剥く。

 

「阿呆。儂は『教師』じゃぞ?生徒らの模範にならずしてどうする。

 今回はやむなく犯罪行為を犯したが、その罪を認めずもみ消そうなどと、貴様らに顔向けできんくなるじゃろが」

 

「……貴方は、本当に十師族なのですか?

 いえ、実力の方ではなく……」

 

「言いたいことはわかるが、間違いなく十師族じゃよー。げらげらげら」

 

十文字と七草、そして本当は四葉である達也と深雪も、自分たちの親と目の前の女性を比べてその乖離に理解が追いつかなかった。

 

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