『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第11話

 

第一高校の選手団に先駆けて単身出発した六道は、会場に到着するとそのままVIP専用の一室に案内された。

部屋で待ち構え彼女を出迎えたのは九島烈と。

 

「お久しぶりです、先生」

 

「久しいな光亘。その後体調は問題ないか?」

 

「はい!おかげさまで!!」

 

九島烈の孫であり、現九島家当主九島真言の息子『九島光宣』。

彼もまた司波兄妹と同じく……大人の勝手な都合に人生をゆがめられ、健康な体を与えられず生まれた子だ。

過去に九島烈に懇願され光宣の治療を引き受けた際には姿を隠していたが、第一高校赴任に先立ち彼にも素顔を晒して対面している。

何故か妙に懐かれてしまっていたので、不義理を働くととんでもなく落ち込むと予想できたからだ。

 

「魔法も勉強も運動も、遅れてた分は取り返しました!

 来年は絶対に第一高校に入学してみせます!」

 

「はぁ!?ウチ来るつもりか!?」

 

「はい!学ぶなら、是非先生の下で!」

 

「あの後、君が教師になったと聞いてからずっとこの調子でな」

 

「慕われて悪い気はせんが……いよいよバランスが壊れるのぉ……」

 

現在第一高校には教師である六道を含めて十師族が三家、非公式なものを含めれば四家が集中している。

十師族とは名ばかりの集まりではない。日本最強の魔法師集団だ。

九校の内の一校に十師族関係者の半数近くが揃うなど、本当は前代未聞なのである。

同年代の他の十師族関係者は第三高校の一年である一条だけ。

前年度、前々年度の九校戦優勝は第一高校であり、開催前から三連覇は確実視されている。

また、来年度になれば十文字と七草は卒業するが今度は七草の双子の妹が入ってくるだろう。

十文字が抜けても代わりに九島が入るとなればまたもや四家。これでは来年以降の九校戦も第一高校が掻っ攫う可能性が高い。

 

「今更だろう。君が赴任したことで、来年の第一高校の受験者数はとんでもないことになるはずだ。

 仮に光宣がおらずとも選りすぐりの魔法師の卵が集まるだろう」

 

「彼等にも負けません!僕、絶対に合格します!」

 

「……げらげらげら。確かにそうか。

 ま、在校生連中は『思いとどまれ』と説得しそうじゃがの」

 

「……それほどまでに合わないのかね?」

 

「自尊心の塊みたいなガキばっかでな。マジで深刻じゃよ。

 教師という立場上加減はしておるが、そうでなければ本気でへし折りにいくところじゃ。

 ……その心配のなさそうな新入生が一人内定していることを喜ぶべきか」

 

「光栄です!」

 

「ふむ、開催前の懇親会に余興を考えていたのだがインパクトが足りないかもしれんな。

 ……付き合うつもりはないかね?」

 

「ほぅ、詳しく聞かせろ」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

『続きまして九校戦をご支援くださっております、九島烈閣下よりお言葉を頂戴します』

 

司会の言葉に合わせて壇上の上に立ったのは、しかし九島烈とは全く別人の女だった。

九島の余興については警備の者にすら詳細を知らされておらず、すぐに状況を察した数名を除き選手や魔法師界の名士たちが困惑の声を上げる。

 

 

『悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する』

 

 

数秒後に女が一歩脇に避けると、その後ろには老紳士が立っていた。

間違いなく九島烈本人。彼は女と一緒に壇上に上がっていた。

精神干渉魔法により人々の意識を女に集中させ、自分の存在を隠していたのだ。

 

『今のは魔法というより手品の類だが、この手品のタネに気付いた者は見たところ5人だけだった』

 

達也はその内の一人だった。他には第三高校の一年、一条将輝と吉祥寺真紅郎が該当する。

 

 

 

『『そして伏兵に気付いた者は誰もいなかった』』

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

声が重なる。九島烈と、彼の隣にいる女の声が。

 

「あれ?……あれ!?」

「今の、声って……!」

 

第一高校の選手たちが騒ぎ出す。

確かに直接目にした。だが普段から彼女と何度も顔を合わせている彼等でさえ、九島烈と共に壇上に立った女性をただの『人』としか認識していなかった。

 

『彼女が今回の伏兵、そして私の友人の……』

 

『六道家当主、六道リンネじゃ』

 

六道が表舞台に姿を現して既に4か月が経過している。

魔法関係者なら全員既に彼女の顔を知っている。だが九島烈のカモフラージュを務めていた女性が彼女だと、誰も気づかなかった。

 

どよめきを無視して六道は無言で上を指さす。

会場にいる者たちがつられて見上げ、達也もまた気付いた。

 

「……魔法!?」

 

会場を照らしていた光源の幾つかは、魔法により生み出された光球だった。

六道が指を下ろすと照明に紛れていた光球が一斉に勢いよく落下を始める。

 

「「「!?」」」

 

そして参列者たちのすぐ上で炸裂して、光の花火を作り出した。

 

『……げらげらげら。どうやら本当に誰にも気付かれずに済んでいたようじゃな。

 お主らが会場入りしてから少しずつ、せっせと仕込んでおったのよ』

 

『彼女とその魔法に対する君たちの認識をずらしたのは、私の精神干渉魔法と彼女の光学迷彩魔法の合作だ。

 これもまた手品のようなものにすぎない。だが……』

 

 

 

『『仮にこの光が攻撃魔法だったなら、この会場にいる者は一人残らず死んでいた』』

 

 

 

「「「「「…………!?」」」」」

 

『諸君。我々が今用いた魔法は低ランクの物だが、君たちはそれに惑わされ見逃してはならないものを見逃した。

 明日からの九校戦はまさに魔法の『使い方』を競う場なのだよ』

 

『派手で威力の高い魔法を見せびらかしたいなら見世物小屋にでも行くがいい。

 勝負とはいかに効率的に敵の心をへし折り、無力化あるいは排除するかにある』

 

彼女の苛烈さを知らぬ第一高校以外の選手らは顔を引き攣らせている。

六道と九島はこの余興で、まさしく彼らの心をへし折ったのだ。

 

 

『『諸君らの工夫に、期待している』』

 

 

かつて世界最強の魔法師と言われた老師『トリック・スター』九島烈と、十師族最大勢力を誇る六道家当主『正体不明(アンノウン)』六道リンネ。

参列者はただただ二人に圧倒され、揃って壇上を降りる彼らの背に誰も拍手を送ることができなかった。

 

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