『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第10話

 

クラブ活動勧誘期間が終わりしばらくすると、六道リンネが正式に第一高校の魔法講師として教鞭を取り始めた。

剣術部と剣道部相手の暴れっぷりは多くの生徒を委縮させたが、しかし彼女の指導は的確だった。

意欲ある生徒に対しては過剰とも言えるほどのスパルタ教育だったが望まぬ者にまで強制するようなことはなく、生徒に親身で能力で差別することがない。

義務もないのに、自習であるはずの二科生の授業にもふらりと現れ一人一人にあわせて的確に助言していく。

中にはこのわずかな助言で能力が激変する二科生まで現れた。

 

一科生の中には、己が落ちこぼれと同一視されることを面白くないと考える者が多かった。

だが一科生という立場に甘んじずまだまだ上を目指す向上心の強い一部の生徒と、やる気はあっても燻っていた二科生の生徒からは非常に慕われていた。

 

そして月日は過ぎ、2095年7月中旬。

魔法科高校の一学期定期試験にて、彼女の行動が結果となって表れた。

数名の二科生の総合点数が100位以内に入った。

一科生の数は100人。つまり一科生を追い抜いた二科生が現れたのだ。

 

模擬戦という公開処刑を受けても尚厳しい修行を望んだ2年の壬生。

そして本年度の主席入学者司波深雪の兄である司波達也と、同じく1年の吉田幹比古。以上3名である。

司波達也の方は理論の点数が圧倒的に高かったので総合するとかろうじてという形だったが、吉田幹比古の方は理論だけでなく実技でも高い成績を示しトップ50位に食い込んだ。一科生の上位陣に並んだということだ。

司波達也と仲が良く、頻繁に六道教諭に指導を求めていた他の1-Eの生徒らも軒並み成績が上がっている。

この成長速度なら、次学年に上がる頃には彼らも一科生の下位を追い抜くかもしれない。

 

二科生から一科生への転属は認められていないが、これは魔法の実習に関して優遇されている一科生を冷遇されている二科生が追い抜くと言う事態が想定されていなかったからだ。

魔法社会と同じく、魔法科高校は実力至上主義。

明らかに一科生より優れている生徒を補欠の二科生として扱うのは損失でしかない。

よって前々より差別の撤廃を望んでいた七草、彼女に同調した十文字、そして今回の立役者である六道の働きかけにより、来年度より進級時の成績次第で二科生を一科生に繰り上げることが決まった。

それはすなわち、『一科生が二科生に落ちる可能性が生まれた』ということでもある。

当然一科生からの反発は大きかったが、重ねて言うが魔法社会は実力至上主義。

一科生でいたいなら実力を示せばよいだけと却下された。

 

六道はこれで一科生が振る舞いを改めてくれることを期待していたが、残念ながら今のところ一科生の大半は『二科生贔屓だ』と騒ぎ立てるばかり。

間も無く行われる『全国魔法科高校親善魔法競技大会』……通称『九校戦』にも、一科生の成績を超えたという生意気な二科生が選ばれるのではないかと、一科生たちは危機感を強めていた。

 

そして本日行われた九校戦メンバー選定会議の後。

彼らの最悪の予想は当たらなかったが。

 

「エンジニアとしてねぇ……いやそっちのがまずいじゃろ。

 学生が競い合う場に『トーラス・シルバー』放り込むとか。

 お主の正体がバレる危険も高まるぞ?」

 

「仕方ありません……深雪のCADを他人に任せるなどできませんから」

 

すっかり六道の根城になった生徒指導室に、サポートスタッフに内定したらしい達也がやってきた。

 

「というか、エンジニアと言えどよく連中が受け入れたな?

 今の一科生連中の二科生アレルギーは相当なもんじゃろ?」

 

「十文字会頭と桐原先輩、それと森崎の後押しがありまして」

 

「なるほど、そりゃ文句も言えんわな」

 

十文字は純粋な実力主義者で、壬生と一緒に六道の地獄の修練をこなして急成長した桐原は元より二科生に対し悪感情がない。森崎はブランシュ襲撃の際に達也が戦うところを見て彼への評価を改めている。

そしてこの三人は各学年男子の成績トップだ。

三年女子トップの七草は達也に好意的で、一年女子トップの深雪は言うまでもなくブラコン。

当然全員選手に内定しており、この五人の主張を覆せる生徒がいるはずもない。

 

「……ホントに他の奴らは、森崎を見習ってくれんものか。

 まぁここまでいい方に変わってくれたのは嬉しい誤算じゃが」

 

「長年培われた価値観がそう簡単に変わることもないでしょう。

 彼の方が特別だっただけです。それで、本題なのですが」

 

「おぉそうじゃったな。して、儂に頼みとは?」

 

「生徒会・風紀委員会・部活連からの連名での要請です」

 

魔法科高校における教師の仕事は生徒に魔法を教えることであり、それ以上の義務はない。

大半の教師は自校の成績が自身の評価につながるため積極的に動くが、すでに魔法師の頂点である六道は理由がない。

よって彼女に動いてもらうには生徒側からお願いせねばならず、そして六道と一番仲が良い生徒が誰かと言えば間違いなく司波達也だ。

確かに魔法の実力はまだ一科生に及んでいないが、魔工学の知識と魔法抜きでの近接戦闘に関しては達也に敵う生徒は一人もいない。

『魔法以外の能力も重要視する』彼女が、『魔法の実技以外の能力がずば抜けている』達也を高く評価するのは当然と受け入れられていた。

故に彼に白羽の矢が立った。

 

「六道教諭に、九校戦に備えた訓練への協力をお願いしたいと」

 

「えぇぞ。つぅか別にお主を通さんでも引き受けてやるわい。

 教え子の活躍は見たいしな」

 

「『見たい』?もしや観戦にいらっしゃるので?」

 

「九島に誘われとるでな。あ奴が毎年九校戦に顔を出すのも、儂があ奴と懇意なのも周知の事実じゃろ?

 で、具体的に儂に何を求める?」

 

「選手が練習できる環境を整えていただくことです。

 本校の設備では限界がありますので。

 アイスピラーズ・ブレイクの補助をお願いしたい」

 

アイスピラーズ・ブレイクとは相手の陣地にある氷柱全てを先に倒した方が勝ちという競技である。

試合形式は一対一であり男女両方の競技なので、氷柱の補充が大変なのだ。

そして六道が瞬時に巨大な氷壁を生成できることは既に知れ渡っている。

 

「それだけでいいんか?」

 

「……個人的にですが、深雪の訓練の手助けをお願いしてもよろしいでしょうか。

 おそらく深雪はアイスピラーズ・ブレイクとミラージ・バットに参加することになる。

 前者ならば負けはありえませんが、後者には不安が残るので」

 

「ん。放課後に場所を用意してやる」

 

「ありがとうございます。

 ……実は九重師匠にお願いしていたのですが、やはり頻繁には難しいので」

 

「あぁ、あの生臭坊主か」

 

九重八雲。

寺の住職であり、古式魔法『忍術』と体術の使い手であり、達也の師匠。

『忍び』を自称する彼は興味を持った相手は自主的に調べ上げる悪癖があり、六道も対象となったことがある。

尾行を巻いた後で逆に尾行し返してやったら、音を上げ降参したが。

六道の師の一人は隠密機動『瞬神』夜一だ。大人げないが年季と技量が違う。

 

深雪の修行は彼の古式魔法『鬼火』をターゲットの代わりにしていたようだ。

炎の扱いに長けた六道ならば彼と同じように代行できる。

 

「深雪以外にもやる気がある者は呼んでいい。

 時間も選手らに合わせよう。日程表を作って提出してくれ」

 

「ありがとうございます」

 

「……なんなら、対戦相手も務めてやろうか?

 そろそろ飛行魔法も完成しとるじゃろ?

 それを使えば儂にも勝てるかもしれんぞ?くけけけけ」

 

「……遠慮させていただきます」

 

相変わらず油断も隠し事もできない相手だと警戒しつつ、達也は六道の冗談を雑に受け流した。

 

 

そして8月1日。

第一高校の選手団は、九校戦会場に向けて出発する。

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