『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第13話

 

「ふむ。確かに電子金蚕が紛れ込んでいるな」

 

第七高校の選手が使用していたCADを掲げて、九島がつぶやく。

 

「戻ったぞー」

 

「その者らが下手人かね?」

 

「うむ。こいつがそのCADに電子金蚕を仕込んだ張本人。

 他はこいつの頭から読んで把握した仲間じゃ。

 間違いなくこれで全員。そんで一人残らず真っ黒じゃよ」

 

部屋の中に入った六道が、引きずってきた意識のない男たちを投げ捨てる。

九島の目の前に立たされた大会委員長の前に。

 

六道のハッキングにより、大会スタッフに無頭竜の手下が紛れていることまでは把握していた。

だが誰が工作員で、具体的にどのような手口で動くのかは情報にはなかった。

スタッフを一人一人精査すれば確実にわかるが、大々的に動けばこちらが工作員の存在に気付いていることまでも敵に伝わってしまう。

 

よって六道は仕方なく工作員の確保を保留し、選手の安全のために会場の確認を優先した。

そして女子バトルボードの試合で用いるプールの中に潜んでいた精霊を発見。

無頭竜の連中がここで何かをやらかすつもりなのは間違いないと確信し、六道は敢えて精霊をそのままにして、隠れて会場と試合を見張っていた。

第一高校の選手が参加する試合にて、予想通り余計な動きをしようとした精霊を威圧で黙らせ、利用された第七高校のCADという動かぬ証拠を手に入れた。

 

 

「さて、運営委員の中に不正工作を行う者が紛れ込んでいたなどと言う前代未聞の不祥事が起きたわけだが。

 ……何か弁明はあるかね、大会委員長?」

 

「…………」

 

九島に睨みつけられた男は青ざめ震えている。

六道が調べた限りでは白らしいが、部下のやらかしと監督責任を鑑みれば重罰は免れない。

彼も『ここで見苦しい言い訳をしても心証が悪くなるだけだ』と理解しており、押し黙るしかなかった。

これ以上評価が下がれば物理的に首が飛ぶ事態すら覚悟せねばならない。

 

「無いようだな。では君の処分は追って通達する。下がりたまえ」

 

「……失礼いたします」

 

たった今『元』大会委員長となった男は、頭を下げて退出する。

同時に九島の部下たちが意識のない工作員たちを連行していく。

 

これで部屋に残っているのは一時的に大会運営の決定権を手にした九島と、その盟友の六道だけだ。

 

「では、今回の事態への対応についてだが……」

 

女子バトルボードの試合は延期とし、準決勝と決勝は明日の早朝にずらして行うと既に通達済み。

スタッフに紛れ込んでいた工作員は全員捕らえた。

だがこれで無頭竜の連中が諦めるとは思えない。それほどの額の金が動いているのだから。

 

無頭竜日本支部の拠点は既に把握している。横浜中華街だ。

春先にブランシュのアジトに突撃したようにまた六道が単身で向かい鎮圧すれば容易いが、今回は『達也の応援』という形で独立魔装大隊が観戦に来ている。

ただでさえ軍の連中は強権を行使する十師族への敵意が強い。

ここで連中を無視して動けば軍との軋轢を生んでしまう。

だが連中を同行させれば余計な功績を与えることになる。

これ以上奴らの地位を上げるような真似はさせたくない。

 

六道も九島も、当たり前のように達也を戦力として組み込んでいる独立魔装大隊を嫌っている。

確かに優秀な子供にも頼らねば国防すらままならないのが国際社会の現実だが、それを免罪符にして未成年の徴兵を正当化するのは絶対に認められない。

恥と思うのならば、最低でも子供に頼る現状を脱却できるよう努めるべきなのだ。

だが風間にその振る舞いは見られず、それどころか達也を完全に四葉から軍へと引き抜こうとすら考えている。

それでも四葉にて冷遇され命すら脅かされる日々よりはマシなので、風間なりの善意ではあるのだろうが。

 

となれば軍に気付かれぬように動いて痕跡すら残さず無頭竜を完全に消去するしかないが、そちらは六道が難色を示している。

今の彼女は子供らを導く教師だ。教師であるうちは人殺しはしないと誓っている。

そして六道抜きの九島の手勢だけでは、極秘裏に無頭竜を抹消するには戦力が足りない。

 

「……どうしたものかな。あまり時間もない。

 既に内部の工作員が拿捕されたと言う情報は届いているはず。

 逃げ出すのならともかく、より愚かな行為に走る可能性も否定できぬ」

 

「ん~~、一つ考えはあるんじゃが……余計な敵が増えそうなんじゃよなぁ」

 

「ほぅ、どのようなものかね?」

 

六道が己の案を語ると、聞き終えた九島は即決する。

 

「それでいこう」

 

「よいのか?儂一人への飛び火では済まんぞ?」

 

「私も既に隠居した身だ。構うものか。

 それに真言も甘えと自惚れが目立つ。これくらいの苦難は乗り越えてもらおう。

 できぬというなら十師族の名を背負う資格もあるまい」

 

「そうか。んでは、さっさと済ませるぞ」

 

そして六道は持ち込んでいた大型の端末を操作し始めた。

 

 

六道の策は単純だ。

『無頭竜日本支部の構成員が、九校戦第一高校の優勝を妨害しようとしている』。

この事実を噂として、連中の顧客へとリークしただけである。

 

正式な発表も確固たる証拠も必要ない。

『無頭竜が自分たちから金をだまし取ろうとしている』と、裏社会の富豪たちに匂わせるだけでいい。

後は彼らが勝手に無頭竜の監視と調査に乗り出してくれる。

大会委員会内部の工作員も失ったこの状況でなおも無頭竜が不正を行おうとすれば、必ず彼らが感知する。

犯罪シンジケートである無頭竜の客もまた犯罪組織だ。その報復は想像するのもおぞましいほどに苛烈となるだろう。となれば不審な動きは一切取れない。

もはや無頭竜の連中にできるのは、第一高校が実力で優勝しないように神に祈ることだけだ。

 

 

 

「無論、その祈りに応じるつもりはないがな。

 とはいえこれで第一高校が自力で優勝できねば連中は無罪放免となってしまう。そこが不安材料じゃの。

 そして、やはりというか……」

 

「たった一晩だというのに、これほど騒ぎ出すか。

 マスメディアとはいつの時代も厄介なものだ。

 ……選手らまでも不安にさせてしまったことは、申し訳ないな」

 

今は情報化社会だ。裏社会に流した噂であろうと、表社会にもやがては届く。

大会運営委員会には噂の真偽を確かめるための連絡が各方面から引っ切り無しだ。

委員会は最後まで白を切るだろうが、実際に第一高校の選手を巻き込むような危険な事故が起きたという事実は隠し切れない。そして会場へ向かう前の交通事故のこともすぐに明るみになる。

どこまで燃え広がるかは予測もつかないが、鎮火に失敗すれば魔法社会全体への不信感が募る危険がある。

そして大会観戦のために現地に訪れている六道リンネと九島烈に対し、批判が集中する可能性はどうしても高くなる。

当然、二人が所属する六道家と九島家にも矛先は向く。

 

「どれ、SNSは……おぉう燃えとる燃えとる。

 ……あの男で凌げるか?儂が指揮を執った方が良かったのではないか?」

 

「あれでも大会委員長を務められる地位に付いた男だ。能力はあるだろう。

 これを凌ぎ大会を無事に終わらせれば今回の件は不問にすると、餌もぶら下げた。

 文字通り死ぬ気で挑むだろう。君が出張ろうとすれば『止めてくれ』と頭を下げるさ」

 

「無理だと判断したら力づくで割り込むぞ。

 最優先すべきは子供らじゃからな」

 

「わかっているとも」

 

九校戦四日目。競技が再開された。

まずは延期されていた女子バトルボードの試合、その後は新人戦だ。

 

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