『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第12話 九校戦開催

 

九校戦開幕式を控えた前夜。

会場の外の人気のない広場で。

 

「何やってるんですか貴女は」

 

「それをコイツらから聞き出すところじゃよ」

 

異変に気付いて駆け付けた達也が目にしたのは、鎮圧され昏倒する三名の侵入者とその上に座る六道だった。

彼女が遠隔で破壊したのだろう小型拳銃と爆弾の残骸も周囲に散らばっている。

 

「情報を聞き出すならば、意識を奪っては手間が増えるのでは?

 貴女ならば容易に拘束できたかと思いますが」

 

「くけけけ、儂はこういう手段も持っていてな」

 

六道は下敷きにしていた男の覆面をはぎ取り、頭の上に手を添える。

 

「ふむ……『無頭竜』の構成員じゃな」

 

「!?」

 

「目的は……なるほど。標的の第一目標は儂、第二目標が選手か。

 確かにどんな怪我も即座に治してしまう儂は真っ先に排除せねばならんよなぁ。

 しかしこの程度の戦力で儂を害そうとは舐められたものよ」

 

「……まさか、こいつらの頭の中を?」

 

「数か月分くらいの記憶なら、少し触れるだけで容易に探れる。

 どうやら連中は、第一高校の敗北をお望みらしい」

 

またもやとんでもない能力を披露され驚愕する達也をしり目に、小さな端末を取り出した六道は何かを調べ始める。

流れる文字列を覗き見した達也は、彼女が神がかり的な技量でハッキングを仕掛けていると気付いた。

 

「無頭竜日本支部の幹部共が、各国裏社会の富豪を相手に賭け事を持ちかけているらしいな。

 賭けの対象は『九校戦の優勝校がどこになるか』。

 一番人気は言うまでもなく第一高校。

 なので第一高校が勝てば連中は大損じゃが、それ以外が勝てば大儲けという訳じゃな」

 

「だから、第一高校の選手を排除しようと言うわけですか……」

 

無頭竜に関する情報が表示された端末を渡され、目を通した達也は殺意を隠さず幹部たちの顔写真を睨みつける。

連中が標的にしようとした第一高校の選手の中には、彼が何よりも大切にしている妹がいるのだ。

達也は深雪を脅かす者を絶対に許さない。彼の全ては妹を守るためにある。

だからわずかに逡巡した後、彼の中でより確実と思える手段を選択した。

 

「……第一高校のバスが事故に巻き込まれたことはご存知ですか?」

 

「あぁ、お主らの到着が遅れた理由じゃろ?……そういうことか?」

 

「魔法師を使い捨てにした自爆テロです。魔法の痕跡がありました」

 

「ふむ、よし。儂自ら会場の警戒と警備を務めよう。九島にも情報を共有しておく。

 お主らは試合の方を第一に考えてくれればよい」

 

「よろしくお願いいたします」

 

六道は目の前の状況から敵でないことは明白であり、九島が誰よりも九校戦を楽しみにしているのは有名。

確実に味方と言えるこの二人の十師族が対応に動いたのなら安心……とは言えないが、危険は大幅に減るはずだ。

 

「こんな下らん理由で九校戦が汚されるのは九島としても耐え難い屈辱であろうからな。

 全力で当たってくれるじゃろう。

 ……あぁ九島といえば、あ奴がお主らに会いたがっておってな」

 

「……は?」

 

「九校戦が終わった後に少し時間をくれ。密会の場を整える。

 何人かならお仲間を連れてきても構わんぞ?もっとも……」

 

立ち上がった六道は振り返り、達也の更に奥を見つめる。

 

 

 

「ガキに縋らねば体裁も整えられぬ恥さらし共に、ノコノコ儂らの前に姿を現す度胸があればの話じゃがな……!」

 

「っ……」

 

 

自分に向けられたものではないと理解しながらも、強烈な殺気に達也は息を呑む。

六道が背を向け立ち去ってしばらく、ようやく達也の背後に隠れていた人物が動いた。

 

 

「……気付かれていたか。しかし、耳が痛いな」

 

達也が……『大黒竜也』が所属している独立魔装大隊の隊長『風間玄信』少佐が姿を現した。

 

「君の報告の通りのようだな、『達也』」

 

「えぇ。六道リンネは未成年や非戦闘員を利用する行いに対し、過剰なほどに拒否反応を示すようです」

 

上官ではなく友人として接する風間に、達也もまた少し姿勢を崩す。

 

「……人として尊敬すべき人格ではある。

 だが綺麗ごとで乗り切れるほど昨今の情勢は生易しくはないのだ。

 君にも、言い訳に聞こえるだろうがね」

 

「存じております」

 

達也は、六道が意図的に彼に預けたままにした端末を風間に差し出す。

 

「……すさまじい情報の精度だ。

 この下手人共の身柄も合わせて、我々への貸しにしておくということか」

 

「『その代わりに余計なことをするな』という意図もあるかと思われます」

 

「わかっている……会場内からは手を引こう。

 我らは周辺の警備に当たる。連中の拠点にも目を光らせておこう。

 ……エンジニアとしての、九校戦での君の活躍に期待している」

 

「ハッ!」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

翌朝、8月3日。九校戦開幕式が開かれた。

今日より10日間をかけて、各競技場にて試合が行われる。

 

最初の3日間は本戦。その後5日間は各校の一年のみで競われる新人戦。最後の2日間が本戦の残りとなる。

初日のスピードシューティングでは第一高校の生徒会長である七草が。

バトルボード予選では七草に並ぶ風紀委員長の渡辺が、その実力をまざまざと見せつけた。

続く二日目のクラウドボールでも七草は圧倒的な力で優勝。

しかし男子の部では桐原が準決勝で敗退するという予想外の事態となった。

どうやら3回戦で当たった相手が強敵で、何とか勝利したものの著しく消耗していたらしい。

休憩を挟んで行われた3位決定戦で勝利したおかげでポイントは稼げたが、第三高校の予想以上の躍進もあり今の第一高校の総得点は安全圏というには少し心もとない数字だ。

三日目の女子バトルボードに挑む渡辺に、第一高校の期待が寄せられる。

 

そして第三、第七高校の選手と臨む女子バトルボード準決勝。

ここで試合中にアクシデントが発生する。

カーブに差し掛かる前だと言うのに、第七高校の選手がオーバースピードで突っ込んで行くのだ。

選手の表情からこれが当人の意図したものでないことは明らかであり、彼女が向かう先には第一高校の渡辺がいる。

事態を察した渡辺は体の向きを変えて魔法を使い、第七高校の選手を受け止めようとする。

 

その瞬間を見計らったかのように、渡辺の水面に不自然な挙動が生じる。

 

 

 

『おい』

 

 

 

はずだった。直前に底冷えするような圧が会場全体にのしかかった。

水面の動きはもちろん、何も知らぬ観客たちまでもが得も言われぬ恐怖に委縮し硬直した。

 

緊急事態だと言うのに同じく動きを止めてしまった渡辺の前に、突如人影が現れる。

 

「り、六道教諭!?」

 

『試合を中断する。繰り返す。試合を中断する』

 

超人的な動きで第七高校の選手とボードの両方を受け止めた六道が、水面の上に立っていた。

続けて九島の声でアナウンスが流れる。

 

 

(どうかね?)

 

(……間違いない。確保できたぞ。不正の証拠をな)

 

六道は掴んでいた第七高校の選手の腕にあるCADを見つめ、九島からの念話に応じた。

 

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