「そこまで」
ヒノカミが合図をすると同時に、緑谷と爆豪は構えを解いて膝から崩れ落ちた。
「「ありがとう……ございました……」」
かすれた声で礼を言うと同時に彼らは意識を失い、揃って砂浜に倒れこむ。
だがオールマイトは彼らを攻撃していない。
外傷は一切なく、気絶した原因は彼らが力尽きるまで動き続けたからに他ならない。
限界を迎えるまで戦う。
言葉ほど簡単ではないそれを当たり前のように行った二人の少年に、オールマイトは恐怖を露わにする。
「どうじゃった?手強かったじゃろ?」
「手強かったっていうか怖かったよ!
キミ彼らをどんなふうに鍛えたのさ!?」
「基礎トレーニングと座学を終えた後はひたすら模擬戦じゃな。
ヒーロー役とヴィラン役を交代しながら、儂を相手に2対1。
ヒーロー役はそれらしき振る舞いを心がけること。
ヴィラン役の時は卑怯反則なんでも有り。
考え得る限りのあらゆる禁じ手搦め手を体験させてやったわ」
「さっきの彼らはヴィラン役に成りきってたのか!
ていうか中学生にヴィランの振る舞いを学ばせたの!?
ヒーロー教育と考えれば正しいけど、青少年への教育には悪すぎる!」
「もう二人はヒーローへの道を歩むと定めておるんじゃ。
ならば意識改革は早いほうが良いじゃろ。
上っ面だけのお綺麗な言葉に振り回されるのは時間の無駄じゃ」
「そりゃそうだけどさぁ……ていうか彼らホントに大丈夫?救急車呼ぶ?」
「このくらいなら5分もすれば目を覚ますわい」
「あ、やっぱいつものことなのね……そう、いつもさせてるのね……」
ヒノカミの言う通り、数分後に二人は揃って目を覚ました。
流石にすぐには動けないが、座って会話する程度になら回復していた。
「感想を聞こうか。オールマイトをどう思った?」
「……ただただ強かった。
どんな手使っても、全部力づくで捻じ伏せられる。
こっちが必死こいてんのに当の相手は笑ってんだから、そりゃヴィランの心も折れるわな」
「何があっても絶対に倒れないという、芯のようなものを感じました。
これが『平和の象徴』ってことなんですね」
「うむ。敵には恐怖を、味方には安心を。これがヒーローの理想像じゃ。
お主ら二人は、それぞれ一方に偏っておる。
多少はマシになってきたがまだ足りぬ。
両方できるようになって初めて一人前じゃ。
意識して行動するようにな」
「ウス!」
「はい!」
「うんうん、やる気があるのはいいことだ。
でも殺る気は抑えてねマジで」
別にまだ休んでいてもいいのに、震えながらも立ち上がろうとする二人。
あぁきっと常在戦場の気構えとか、そういう感じでヒノカミに矯正させられたんだろうなと、オールマイトは目尻を抑え涙をこらえていた。
「……さて、オールマイト。
貴様の感想も聞きたい」
「え、私?……今更言うことある?
戦いの最中でも常に考えて行動をしてたし、反省点ももう理解してるっぽいし。
少なくとも今の手合わせに対して、改めて指摘するようなことは見当たらないなぁ……」
ヒノカミの問いかけに対するナンバー1ヒーローの回答は手放しの称賛。
疲労困憊でなければ、二人はもっとわかりやすく感情を表現していただろう。
「そうではない。
緑谷出久が、ワン・フォー・オールの後継者にふさわしいかという話じゃ」
「……ヒノカミ!」
先ほどの穏やかな様子から一変し、ヒノカミに対して威圧するような気配を発したオールマイト。
緑谷たちは状況が理解できず気圧されながらも困惑し、彼の反応を予想していたヒノカミはまったく動じない。
「勝己は聡い。隠したところですぐ気づく。
ならば先に事情を明かして、口外せぬよう念を押す方が良かろう」
「なんの、話ですか……?」
「……ワン・フォー・オール……?」
すでに二人に聞かれてしまった以上、隠し通そうとするのは無理だと判断し、オールマイトは引き下がる。
「これより語るは、オールマイトというヒーローの根幹にかかわる秘密じゃ。
知る者は数えるほどしかおらぬ極秘事項。
気軽に明かしてはならぬぞ」
「キミは割と簡単に明かしてるように思うけどね……」
オールマイトはジト目で睨むが、ヒノカミはけらけらと笑う。
ふざけているように見えるが、彼らはとても大事なことを語ろうとしているのだと察し、二人は姿勢を正して身構える。
「2年前。儂が主らの前に現れたのは偶然ではない。
出久。儂は初めから、お主に会いにきたんじゃよ」
「僕に……?」
「儂は一つの使命を帯びて、お主の下を訪れた。
ワン・フォー・オール。
お主が力を受け継ぐに相応しい人格かを見極め、力を受け入れる器となれるよう、鍛え上げるためにな」
緑谷と同時に、爆豪もOFAのことを知ります。
しかしこの主人公、秘密と言いながら口が軽すぎる……。