『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第14話

 

一日遅れで行われた女子バトルボードの試合は、改めて渡辺が難なく勝ち進み優勝を掻っ攫う。

予定より少し遅れて新人戦が始まり、一年女子が快調に勝利を重ねていく。

特にスピードシューティングとアイスピラーズブレイクで第一高校が上位3位を独占するという快挙を成し遂げた。

新人戦は本戦のポイントの半分。それでもこれだけ点を稼げば新人戦はもちろん総合優勝は確実……とは言えなかった。

一年男子の成績が全く振るわないからだ。

 

3年は生徒会長の七草。風紀委員長の渡辺。

2年は千代田を始めとした女傑揃い。

1年には司波深雪に北山雫に光井ほのか。特にこの3人は一科生ながら六道の地獄に食らいつきその実力を更に伸ばしている。

御覧の通りに第一高校は女子生徒は粒ぞろい。だが彼女らと比べると男子生徒は層が薄い。

3年の十文字、2年の服部と桐原、1年の森崎。

この4人以外は、正直に言ってパッとしない。本戦でも得点の大半は女子が稼いだものだ。

 

1年男子トップの森崎が得意の早撃ちでスピードシューティングの上位に食い込んだが、彼以外は全員一回戦と二回戦で敗退している。もちろん得点はゼロ。

一年男子は完全に、一年女子の脚を引っ張る形になってしまっている。

だがこれを全て一年男子のせいにするのは酷と言うものだろう。いや、ある意味自業自得ではあるのだが。

一年女子を支えているのは優秀過ぎるエンジニア、『トーラス・シルバー』こと司波達也の存在だ。

 

妹の深雪、そして友人である雫とほのかの影響で一科生1年女子から達也への評価はかなり高い。

だからこそ一年男子は、落ちこぼれの二科生でありながら自分たち以上に持てはやされている達也に嫉妬し、技術スタッフである達也の支援を拒絶した。

彼等も魔法師ならば自分のCADの調整くらいはできて当然と考えていたのだろうが、競技用のCADは自前の物とは勝手が違う。

見栄を張って、結果がこの有様だ。

一科生の男子たちはより一層女子たちに持ち上げられる達也を憎悪を込めた眼で睨みつつ、『まだ明日からのモノリス・コードがある』と吐き捨てているが。

 

 

 

「勝てると思うか、司波達也」

 

「無理だな」

 

達也に宛がわれた部屋にて、個人的に彼にCADの調整を依頼している森崎が尋ねる。

しかし達也の返事は彼の望むものではなく、しかし彼が予想した通りであった。

 

「モノリス・コードには第三高校から『プリンス』と『カーディナル』が参戦している。

 あの二人がいる限り優勝は不可能だ。仮に他の二人のCADを俺が調整したとしてもな」

 

「……オレの代わりに、お前が出たとしてもか?」

 

「論外だ。むしろより勝ち目が薄くなる。

 どれほど体術が得意でも直接攻撃が禁止されているのだから、俺では敵を倒せない」

 

森崎は振り向いた達也から受け取ったCADを試しに起動して、改めてすさまじい腕前だと感心する。

 

ブランシュアジトへの突入事件の後、森崎は六道から諭された。

『いつまでも見下したままでは、自分の弱さに気付けない』と。

だからまずは、見下していた司波達也を客観的に見定めてみることにした。

 

実技……魔法の腕は自分の方が上だ。これは間違いない。

では理論は。……どう考えても達也の方が上だ。七草や渡辺すらも白旗を上げているらしい。

そして体術。こちらも圧倒的に達也が上。六道との魔法抜きでの戦闘訓練は彼も目にしている。

達也は魔法を使わずとも、並みの魔法師を打倒しうる実力を持っている。こちらは十文字でさえ『敵わぬ』と漏らしたとか。

 

そうだ。十師族の直系とそれに並ぶ強者が司波達也を評価している。

第一高校の誰もが認める優秀な魔法師が、落ちこぼれであるはずの司波達也を認めているのだ。

 

森崎も称賛を浴びる達也への嫉妬はある。悔しくて仕方がない。

だが『彼が認められている理由』から目を背けてはならないのだ。

『自分が劣っている』ことを受け入れなければそれ以上成長できない。

勝ちたいと思わなければ、強くなれない。これが六道の言いたかったことなのだと森崎は悟った。

 

森崎が意識を改めて達也と向き合い、一緒に風紀委員として仕事をするようになって随分経った。

今では達也との仲を通じて、かつて衝突した二科生の生徒らとも互いに余計な敵意を抱かず世間話ができる程度に関係は回復している。

勿論、彼らと共に過ごすことが多い司波深雪とも。

 

「オレたちはどこまで行けると思う?」

 

「予選リーグを勝ち抜くだけならまだかろうじて可能性がある。

 ……だが決勝リーグで勝つのは不可能だな。三位にすら入れない」

 

「はっきり言ってくれるな」

 

達也は歯に衣着せず言葉足らず。理由もなく下らない嘘はつかない。

しばらく付き合ううちに森崎もその事実を認識していた。

 

 

 

「……このままでは、だ。勝率を上げる方法ならある」

 

「なんだと!?」

 

だから森崎は達也の言葉に食いついた。

 

「自覚しろ森崎、お前は強い。深雪に次ぐ第一高校一年の学年次席だ。

 突出していて当たり前。無理に他と足並みを揃える必要はない」

 

「……オレ一人で戦った方がマシだと?」

 

「他の二人を補助と割り切れ。単騎で敵チームを殲滅する覚悟で挑め。

 その方がまだ勝率が高いはずだ」

 

「簡単に言ってくれる。だがオレに、一人で敵チームを打ち倒すような力は……!」

 

「だから、切り札を用意する」

 

達也は空になった掌を改めて森崎に差し出す。

 

達也は事件に関わった者として、六道と九島より無頭竜に関する情報と対応を全て聞き及んでいる。

そして二人のやり方は達也の想像以上に甘かった。

確かに無頭竜日本支部の連中はもう九校戦に手出しはできなくなった。

しかし愛する妹に手を出そうとしたのだ。万死に値する。生かしておく理由がない。

 

だが二人の十師族が独立魔装大隊の協力を強く拒絶している以上、そこに属する達也が直接手を下すことはできない。

ならば奴らの目論見を完膚なきまでに崩壊させ、無頭竜本部よりの粛清という形できっちりと処分してもらうしかない。

そのためにはこの九校戦にて第一高校が優勝しなければならない。

本戦も、新人戦もだ。それも可能ならば圧倒的大差で。

 

本戦は今のところ不安はないが新人戦は女子ミラージ・バットの結果次第では危うい。

深雪が負けるなど考えたこともないが、第一高校の選手三名で上位を独占でもしなければ点が足りず、そちらは時の運次第だ。

だから足りなくなるかもしれない分を、男子モノリス・コードにて稼いでもらう。

そのために達也は全力を尽くす。一年男子の選手にて、唯一頼りにできる森崎に力を託すと決めた。

 

 

「はっきり言って、相当に危険だ。リスクも負担も大きい。

 だが可能性に賭けるならおそらくこれしかない。……乗る気はあるか?」

 

「ふん、まるで悪魔の契約だな。……預けるぞ」

 

森崎は達也から返却されたCADを、改めて彼の掌の上に置いた。

 

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