『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第16話

 

8月10日。新人戦最終日、男子モノリス・コード決勝戦。

第一高校の準決勝の相手は第九高校。戦場は渓谷。

ここまで勝ち残っただけでも想定以上の戦果ではあるが、第一高校はかろうじてだがこの準決勝にも勝利し決勝戦へと駒を進めた。

『実質、森崎一人のワンマンチーム』という評価を耳にして奮起した、彼のチームメイトたちの頑張りによるところが大きいだろう。

 

だが奇跡もそうは続かない。

決勝の相手は十師族の一つ『一条家』の御曹司が率いる第三高校。

おまけに戦場は遮蔽物のほとんどない開けた草原。

森崎の切り札『術式解体』も射程が短すぎて発動前に割り込めず、一条より絨毯爆撃のような魔法の斉射を受け、第一高校は手も足も出ず惨敗した。

会場は勝者である第三高校を称える歓声に包まれたが、第一高校の生徒らが森崎たちに向けた視線と拍手はただただ彼らへの純粋な敬意が込められていた。

 

新人戦が終わり再開された本戦。

女子ミラージ・バットには渡辺が、男子モノリス・コードには十文字が参戦している以上第一高校が敗れるはずもない。

九校戦本戦、新人戦、そして総合優勝を第一高校が全て搔っ攫った。

こうして8月3日より12日までの10日間をかけた九校戦は終わりを告げた。

元大会委員長とスタッフたちの奮起により何とか大きな問題を起こすこともなく、彼らはなんとか首の皮一枚を繋げ留めることに成功した。

 

人知れず無頭竜日本支部の幹部たちは粛清された。

第一高校の優勝がほぼ決定的になった時点で逃げ出そうとしていたようだが、表社会にまで噂が広がるような失態を仕出かせば本部から監視されていて当然。

逃亡の準備を始めた段階で本部の手配した者たちに拘束され、大会終了により1億ドルを超える莫大な損失を出したことが確定した瞬間に本部へと連行されていった。

今回の計画は今期のノルマを達成するために本部が渋ったものを強引に通した形だったので情状酌量の余地もなかった。

 

 

 

そして後夜祭を終えた後、司波兄妹は極秘裏にとある一室に案内されていた。

 

「疲れているだろうに、すまないね」

 

「いえ、閣下のご要望とあらば」

 

案内したのは六道で、待ち構えていたのは九島烈。部屋の中にいるのは4人だけだ。

扉はしっかりと閉じられ、結界も張られた。

これで室内でのやり取り他の誰にも把握できない。

 

「……こうして見れば、やはり親子だ。深雪君は幼い頃の深夜に良く似ている。

 彼女は元気にしているかね?」

 

「その……高校に進学してからは、モニター越しの通話にとどめておりまして。

 頻度も多くはなく……」

 

「そうか。……悲しいものだな。親子の関係が希薄というのは」

 

「十師族の魔法師とは、そういうものでしょう。

 まして深雪は四葉を継ぐ者なのですから」

 

深雪の反応からそもそもの親子仲が良くないと察した九島はため息をつく。

達也が当たり前のように己を四葉から除外したこともまた彼の心を沈ませた。

 

「……ゆっくり友好関係を築いていければと考えていたが、その余裕もなさそうだな」

 

「うむ。腹を括っておるのならこの場で伝えておけ」

 

六道に促され、九島は疑問符を浮かべていた司波兄妹に語り掛ける。

 

 

 

「達也君。そして深雪君。

 四葉や軍を離れ、我々の庇護下に入る気はないかね?」

 

「「は……?」」

 

「当主の地位は譲ったが、まだ私にも相応の権力はある。六道も協力してくれている。

 老い先短い老人だが、私の寿命が尽きるまでは君たちの身を守り抜くことができるだろう」

 

「仮に烈がくたばっても、儂が最後まで引き継ぐ。

 お主らが大人になり相応の武力と権力を手に入れるまでの猶予は十分にあろう」

 

「「…………」」

 

達也は、『何故そうまでして自分たちを』とは尋ねない。

六道と九島は自分たち以上に自分たちに詳しいはず。間違いなく達也と深雪の真の力を把握している。

四葉達也は、四葉家が人道も倫理も全て捨て去って作り出した最強の人造魔法師なのだから。

 

深雪は不安げに達也を見上げる。どうやら彼に判断をゆだねるつもりらしい。

 

四葉は自らが作り出した達也を忌避しながらも、都合の良い道具として育て上げ酷使している。

実父である司波龍郎もそうだ。外部からは『FLTの天才CAD開発者トーラス・シルバー』などと持てはやされているが実態はただの道具としか見ておらずほぼ奴隷でしかない。

軍の面々は達也を仲間として受け入れようとしているが、彼の力を目当てにした打算を含んだ関係だ。

そこはまだいい。人間同士の関係など打算と利害にまみれてしかるべきだ。

だが軍に所属し力を振るい続ければいずれ命の危険が迫る。達也にではない。妹である深雪にだ。

達也が非公式戦略級魔法師であると知れ渡れば、敵国は彼の縁者である深雪を狙うだろう。

 

四葉や軍の関係者に恩や義理が全くないわけではない。

だが達也が何より優先すべきは深雪の安全。深雪もまた達也と共に生きることを望んでいる。

よって社会に深く根差し非魔法師からも支持を集める六道と、かつて最強の魔法師として名をはせた九島烈の庇護下に入ると言うのは願ってもない選択肢である。

彼等なら四葉も軍も迂闊には手が出せない。

 

「……我々に、何を求めるのでしょうか」

 

となれば、決め手となるのは自分たちの待遇だ。

確かにこの二人なら四葉や軍も尻込みするだろうが、事を構えるとなれば相応の労力を支払うことになる。

そのリスクに見合うリターンとして何を見込んでいるのかを提示してもらわねば判断しかねる。

条件次第ではこの話はここまでだ。もしも達也と深雪を引き裂くようなことになるなら決して受け入れられない。

 

 

 

「「なにも」」

 

 

 

即座に、そして簡潔に示された二人の返答を、達也は聞き違いかと思った。

 

「平穏に暮らしたいと言うのならそうすればいい。

 やりたい仕事があるなら選べばいい。魔法師でなくともよいだろう。

 もうこの国に愛想を尽かしているというのなら脱出の手配をしよう。

 ただし国外に出られると、どうしても我々の支援は薄くなる。そこは了承してほしい」

 

「……ならば、一体お二人に何の得があるのですか?」

 

「げらげらげら、得などないさ。以前言うたじゃろ?自己満足じゃと。

 儂らは『子供に縋る』ような惨めな大人になりたくないだけよ。

 そして『大人に利用される子供から目を逸らす』ような大人にもな」

 

「それだけの理由で、我々という火種を変えても構わないと?

 論外です。到底信用などできない」

 

「げらげらげら。で、あろうな。

 ……何を求める?」

 

六道は逆に達也に問い返す。

 

 

 

「貴女にまつわる全ての開示を。

 『正体不明(アンノウン)』六道リンネの情報を明かしていただきたい」

 

 

 

名前と姿と能力。依然と比べれば既に多くの情報が公となっている。

だが彼女は未だに『正体不明』と呼ばれ続けている。底が知れないからだ。

一体どこまでの力を持っていて何ができるのか。

表面上の性格は知れ渡っているがその奥にどれほどの闇を抱えているのか。

それらを把握してからでなければ自分と深雪の命運を委ねるような選択は取れない。

 

「我々の保護を名乗り出てくださる方への態度ではないと理解しています。

 不快に思われたのなら結構。この話は取り下げていただいても……」

 

「えぇぞ」

 

「……は?」

 

「いや道理じゃろ。こんだけ秘密を抱えとる奴を信用できんのは。

 ……構わんよな?」

 

「うむ。彼にその覚悟があるのならばな」

 

六道はジト目で隣を見ると、九島が穏やかな笑みを浮かべて頷いた。

 

「……よろしいので?」

 

「そもそも儂が色々と秘密にしとるのは九島に慮ってじゃよ。

 もちろん儂自身が全く隠し事をしないわけではないがな。

 とはいえ、今は時間がない。どれほど言葉を尽くしたとしても容易に信じられる内容でもない」

 

既に会合を始めてから相応の時間が経過している。

あまり長引くと、二人の不在に気付いた第一高校の生徒らが彼等を探し始めるかもしれない。

そこで九島と密会していたなどと知られれば、七草や十文字が達也たちの素性を疑うだろう。

 

 

「なんで、見てもらった方が早かろう。

 まさに『百聞は一見に如かず』じゃな」

 

「?何を……」

 

 

そして六道リンネは。

達也の『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』に備えて張り巡らせていた偽装を取っ払った。

 

 

「がっ……!?」

「お兄様!?」

 

直後、達也の視界を通して彼に六道リンネの情報が流れ込む。

『情報次元体にアクセスし対象の存在を深く認識する能力』。

六道と九島の真意を見抜くためにとこっそり発動し注視していたせいで、まるで太陽の如き膨大な光が一気に頭に叩き込まれた。

 

「くっ!」

 

「待て、深雪……!」

 

突如兄が苦しみだしたのは六道たちによる攻撃だと誤解した深雪がCADを構えるが、右手で顔を押さえた達也が左手で深雪の手を掴む。

 

「キツすぎたか?ダイジェストにしたつもりじゃが……」

 

「……情報を絞って、あの量ですか……!」

 

深雪を止めるのが間に合ってよかったと、達也は安堵する。

『目の前の存在が辿ってきた遍歴の一部を見せられた』彼は、戦いになればどうやったって勝ち目がないと理解してしまったから。

 

「調子も悪そうじゃし、今日の会合はここまでとしよう。

 聞きたいことがあるなら夏休み明けに、第一高校でな。返答も急ぎはせぬ」

 

「そう、させて、いただきます……」

 

情報を精査しきれず、理解させられたが受け入れがたく、頭を押さえたまま疲れた顔で達也が立ち上がる。

深雪もすぐに立ち上がり彼の体を支えた。

 

人間同士の関係など所詮は損得勘定だ。

だが想像できるか?そもそも相手が『人ではなかった』などと。

 

「達也君」

 

「……?」

 

扉に向けて歩き出したところで未だに椅子に座る九島から声がかけられる。

達也が振り向いたところで九島の口が開いた。

 

 

 

「ウェルカム」

 

「………………」

 

 

達也は初めて、四葉により自身の情動を奪われたことに感謝した。

でなければ、この腹の立つ顔で笑う好々爺に魔法を撃ちこんでいたかもしれないから。

 

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