『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第15話 新人戦モノリス・コード

 

無頭竜日本支部の企みは公のものとなり、方々の監視の目によって完全に身動きが取れなくなった。

これで九校戦は一安心……などと言って六道が手を抜くはずがない。

彼女は無頭竜の企みを把握した8月2日の夜から今日の8月9日にいたるまでずっと、会場全域を領域で覆って24時間体制で監視を続けている。

何か問題が起きれば遠隔で対処し、場合によっては即座に転移し対応できるように。

 

「さて、そろそろか」

 

掌を合わせたまま会場の遥か上空に座る六道がぼんやりとつぶやく。

今日は女子ミラージ・バット予選及び本戦と、男子モノリス・コード予選。

それぞれ全く別の場所で行われているから普通はどちらか一方しか観戦できないが、六道にその常識は当てはまらない。

領域そのものが彼女の感覚器官。内側で何が起きているかは全て筒抜けだ。

 

「……んむ。女子の方は全く問題なさそうじゃな」

 

深雪とほのかと、同じく一年の里見スバル。彼女らの補助には達也がついている。

彼は万が一を危惧していたようだが、この3人がミラージ・バットの上位を独占するのは間違いないだろう。

となれば男子モノリス・コードが無得点でも新人戦の優勝は第一高校で決まる。

第一高校男子の実力を鑑みれば予選敗退が妥当な結果だろう。

 

だが達也が森崎に何か入れ知恵をしていたようだし、何もできずに消えるということはあるまい。

六道はもちろん昨晩の二人の密談も聞いていた。

だが途中で意識を外した。だってネタバレはつまらないし。

命のかかった戦いならともかくこれは競技。そして彼女もまた観客であるのだから。

 

「さぁて、あ奴は一体何を吹き込んだのやら」

 

そして六道はモノリス・コードの会場へと視線を飛ばす。

第一高校の初戦の対戦相手は第四高校。戦場は市街地エリアだ。

 

「……ほう、ほうほう、これはまた面妖な」

 

試合開始前の森崎の装備を見て呟く。

二丁拳銃と、腕部のブレス型。合計3つのCAD。

CADの同時操作は難易度が非常に高い。上手く制御できなければそれぞれのCADが放つサイオン波が互いに干渉しあって魔法が発動しないこともある。

深雪ですらまだ不可能だ。一年で可能なのは達也と、昨日のアイスピラーズ・ブレイクで披露してみせた雫くらいだろう。

 

「……あぁ、そう組むか。あれらは疑似的にCADをまとめとるわけじゃな」

 

もう少しよく見れば、二丁拳銃型の特化型CADは腕部の汎用型CADと繋がっている。

汎用型CADでそれぞれの特化型CADの制御を行い、CADの同時操作を補助していると見た。

達也の作戦では、そうまでして『特化型CADを二つ同時に使用する必要がある』ということだ。

 

特化型CADは魔法発動時の負担が少なく発動速度も速い。

『早撃ち』の森崎が使うならばやはり汎用型よりも特化型だ。

だが単一系統の魔法しか発動できないという欠点がある。

 

「一つはあ奴の多用する攻撃魔法として、はてさてもう一つは……?」

 

間もなく試合が開始される。

第一高校は一人がモノリスの防衛に残り、もう一人が勢いよく走り出す森崎の後を追う。

どうやらそちらは森崎の補助に専念するらしく、大量の知覚系魔法を発動して敵とその魔法の察知に全力で当たっている。

だから、第一高校が先に対戦相手である第四高校の選手を捕捉した。

敵が森崎に気付く前に、森崎は拳銃を抜き魔法の弾丸を乱射する。

突然の奇襲、おまけに威力はそこまででもないが雨のように降り注ぐ攻撃にさらされて、敵は防御を選んだ。

この騒動を聞きつけすぐに仲間が駆け付けてくれると信じて。

そしてその予想の通りにもう一人の敵が壁の向こうから飛び出し森崎にCADを向ける。

 

しかし相手が魔法を発動するよりも早く、森崎のもう一つの特化型CADから放たれた弾丸が敵の魔法の『起動式』を貫いた。

 

 

「『術式解体』!?いや、その簡易版か!?」

 

圧縮したサイオンの塊を直接ぶつけて、起動式や魔法式を消し飛ばしてしまう最強の対抗魔法。

理屈は単純だが使える者はほとんどいない。

射程が短いというだけではなく、魔法式を消し飛ばすほどのサイオンを放出するとなれば消耗が激しすぎる。

サイオン保有量がけた外れな達也くらいでなければ、一撃すら満足に発動できないはずだ。

 

だから森崎の使っている魔法は出力を大幅に絞っている。あれでは発動した魔法に打ち込んでも僅かに威力を減衰させるだけで精々だろう。

それでも破壊対象が起動式なら充分だ。

発動した魔法ならともかく発動前の起動式ならば、その一部にダメージを与えるだけで不発にできる。

だが発動速度が重視される現代魔法において、起動から発動までの猶予はまさに一瞬。

そこに割り込んで撃ち抜くなど、言葉にするほど容易くはない。

 

「だが圧倒的な魔法構築速度を誇る『早撃ち』ならば、か。

 確かに『敵が何かする前に倒す』のが森崎一門じゃからなぁ。

 しかし己の手札を晒してまで……賭けに出たな、達也」

 

森崎がCADの調整を達也に頼んでいたことは周知の事実。

よって達也自身が『術式解体』を使えることも知れ渡っただろう。

当人が習熟していなければ簡易版を作り上げ他人のCADに組み込むなんてできるはずがない。

 

「幸いにも初戦は市街地、戦場は狭い建物の中。射程の問題はないも同然。

 草原などの遮蔽物がない一部のエリアではつらいが、予選はトーナメント形式でなく合計三試合の総評。

 これならば予選で全勝は無理でも2勝は問題なく狙える。

 その戦績次第では決勝まで勝ち進むのは難しくない、か」

 

間もなく森崎は二人の敵選手を打ち倒し、そのままモノリスの防衛に当たっていた最後の一人も倒して試合終了となった。

大活躍を果たした森崎は、しかし激しい消耗により仲間たちの歓声にすら答えられずにいる。

だが疲れ切ったその表情でも、口角はわずかに吊り上がっていた。

 

「……無様で、泥臭いな。だが一皮むけたようじゃの、森崎」

 

 

それぞれの試合は進み、やがて六道の予想通りに女子ミラージ・バットにて第一高校が上位を独占する。

男子モノリス・コードもかろうじてだが準決勝に進んだ。

これで最終日である明日を前に、新人戦の第一高校優勝が確定した。総合優勝もほぼ間違いないだろう。

 

 

「んじゃ、儂も頑張って仕事するか」

 

そこで六道が監視していた人物……いや『兵器』が動き出す。

無頭竜はあらかじめ会場に『ジェネレーター』と呼ばれる改造人間を配置していた。

どうやら連中は会場内でこれを大暴れさせて大会そのものを台無しにして、賭けをなかったことにしようと決断したのだろう。

大会そのものがご破算になれば掛け金の払い戻しだけで済むし、既に会場に潜んでいる兵を動かすだけなら監視の目を潜り抜けられるかもしれないから。

 

「それでも儂の目は潜り抜けられんがなー」

 

六道は即座に領域内に結界を構築し、ジェネレーターを拘束した。

更に結界の空間の位相をずらして誰にも認識できない状態にしたところで。

 

 

「『火葬』」

 

 

跡形もなく焼却した。

 

「教師であるうちは、儂は人殺しはせん。『人』殺しはな」

 

自我すら持たない人形を、彼女は『人』とは見なさない。

 

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