『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第17話 二学期

 

九校戦が終わったのは8月半ば。残るわずかな夏休みを消化すれば第一高校の2学期が始まる。

達也は深雪の優勝祝いとしてお買い物デートをしたり、雫の父に招待され彼の友人たちと共に常夏の島のプライベートビーチでバカンスしたりと、わずかな期間ではあるが高校生らしい一夏の思い出を作っていた。

だがその間、達也はどこか上の空だった。

原因は間違いなく九校戦の後の六道・九島との会合。

しかし達也は何を見たのかを深雪には話さず、ただ『あの二人は敵ではない』としか伝えなかった。

深雪はもどかしく思いつつも『兄が敢えて自分に明かさぬならば何か理由があるはず』とそれ以上の追求をしなかった。

 

そして2学期が始まり、今月末には生徒会や風紀委員会の代替わりが行われる。

七草、渡辺、そして十文字。歴代最高とも言われる第一高校三大巨頭が引退するのだ。

その後継となる者へのプレッシャーは言うまでもなく、まだ1年だがそれぞれの組織に所属する司波兄妹は無関係ではない。

特に生徒会長選挙は諸々の準備のために来週には動き始めねばならず、相応に多忙ではあるのだが。

 

「久しぶりじゃの。夏休みは楽しめたか」

 

「……おかげさまで」

 

「そりゃ皮肉か?随分人間臭くなったな。くけけけけ」

 

達也は風紀委員の業務の合間を縫って単身六道の下を訪れていた。

直接彼女の口から話を聞くためだ。アポイントは既に取っている。

 

「では、改めて聞かせていただきましょう」

 

「深雪を蚊帳の外に置いていいんか?」

 

「どこまで話すべきかは、俺が精査します」

 

「シスコンめ。まぁ過保護なのは儂も一緒か。

 さぁて、どこからどこまで話そうかのぉ……」

 

一から十まで詳細に語っていたら一生かけても終わらないと、達也もまた理解している。

しかし同時に彼は六道がどのような存在かを把握するために可能な限り多くの情報を求めている。

直接相手の脳に叩き込んだ方が早いだろうが、精霊の眼で見え過ぎてしまう達也には負担が大きい様子。

六道は彼に明かす情報の選別に頭を悩ませていた。

 

「歩んできた道のりは結構。貴女は何ができるのかをこと細やかにお願いします」

 

「なんじゃ、えぇんか?」

 

「そちらは先日流し込まれた分で充分です。

 それに俺は無宗教ですが、貴女を信じられなければ他に何も信じることができなくなるでしょうから」

 

「あー、まぁ信じてもらうことが『()』の仕事じゃしな。

 そんじゃ、ざっと説明する。この世界での強度で語るが、構わんな?」

 

「問題ありません。お願いします」

 

 

だがここで達也にとっての誤算が生じる。

六道の能力が想定以上に多彩であることはまだ想定の範囲内だったが、その中でも『刻思夢想』が問題だった。

『自身が記憶している物品や武装を永続的に実体化する能力』。

ならば彼女が作り出せる物の種類は、彼女の生きて来た年数と彼女が巡ってきた世界の数に比例する。

 

「後は、ん~~……いや、儂が良く使うのはこれくらいじゃな。

 細かいのはまだまだあるが、聞く気は……」

 

「…………」

 

「なさそうじゃな。気力と時間が」

 

達也は頭を抱えたまま、指の隙間から恨みがましく六道を睨みつける。

 

彼も随分と感情豊かになったものだ。彼自身も自覚はあるが、これも六道から譲り受けた魔法によるものらしい。

『天神武装』と呼ばれる能力を模したこの魔法は発動者を癒す効果を内包している。

ただ傷を癒すだけでなく、発動者が『異常』と認識している状態を『正常』に近づけていく力がある。

そして四葉の実験によって感情が奪われた状態は、達也にとって当たり前ではあるが人としては『異常』だと認識していたため、魔法による修復対象となってしまったようだ。

特に九校戦が終わってからは自主練で使用頻度が増えていたため変化が大きい。

今も『苛立ち』という慣れない感情に振り回されている。

 

 

「……聞かせていただき、ありがとうございました。

 そして聞き終えた上での結論ですが……俺はそちらの提案を受けたいと考えています」

 

「ほぅ?」

 

「深雪にはまだ貴女の事は何も話していませんが、いくつかを明かして説得します」

 

六道の性格と能力を信頼すると決めた以上、達也には提案を断る理由がない。

彼女の傍にいれば深雪の安全が保障されるからだ。何しろ、もし何かがあっても蘇生できるのだから。

そして達也自身も六道の傍にいた方が良い。この世界にとっても。

彼は己の力がどれほど危ういかを理解している。消されていた感情が魔法で修復され始めているので猶更だ。

もし自分が我を失い暴走してしまえばこの世界を破壊してしまう。守るべき深雪ごと。

 

だが六道なら力づくで達也を止めてくれる。

止められなかったとしても、全て元通りにしてくれる。

この世界の強度ならば彼女は崩壊した地球の再生すら可能だと言う。

そこに住まう全ての命と共に。

 

「ですが、俺たちがすぐにそちらの保護下に入るべきではないとも考えています」

 

「ふむ、その理由は?」

 

「四葉や軍との衝突は避けられないにしても、軋轢が最小限となるように努めるべきです。

 まずは俺と深雪が校内でそちらと積極的に交流を深め、周囲が受け入れやすくなる下地を作る。

 そして四葉か軍がそちらの不興を買うような大きな動きをした時に、それを阻む形で一気に動く。

 これがベストでしょう」

 

「なるほど。であれば引き抜き方も考えねばならんか。

 そうじゃな……まずは儂の財閥にて『魔工学研究関連』の新部署を立ち上げる。

 有望な若者であるお主をそこに勧誘したいという建前で近づく、ということにするか。

 表向きは『トーラス・シルバー』ではなく、ただの学生なわけじゃしの」

 

「そんなに簡単に一つの部署を立ち上げることができるのですか?」

 

「六道財閥はトップはもちろん、幹部も役員もほとんど『分身()』じゃしな」

 

「……これが本当のワンマン経営ですか」

 

「くけけけ。それに必要じゃろ?ちゃんとした『開発第三課』の受け皿が」

 

「……ありがとうございます」

 

達也にとってはほぼ唯一と言える心許せる仲間……『トーラス』こと牛山と、FLTの技術者たち。

彼等もまた多大な成果を上げているが、社内では変人・厄介者扱いで冷遇されている。

達也が四葉を離れる際に勧誘すれば応じてくれるかもしれない。

唯一の心残りも解消され、達也は久しぶりに肩の力を抜いて穏やかに笑った。

 

「九島へは儂から話を通しておく。深雪にはお主から伝えておいてくれ」

 

「はい。……よろしくお願いいたします」

 

立ち上がった達也が差し出した右手を、六道はしっかりと握り返した。

 

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