『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第18話

 

生徒会の現副会長は2年の服部だ。

彼が順当に次の生徒会長になると予想されていたが、彼は十文字の誘いで部活連の次期会頭となることが決まっていた。

彼が初々しくも露骨に好意を寄せていた七草が生徒会から引退するのだから、拘る理由もないのだろう。

 

となると残る生徒会役員は2年の中条あずさと1年の司波深雪だけであり、順当に中条が繰り上がるべきである。

しかし彼女は能力はあるのだが臆病で自分に自信が持てず、『生徒会長なんて大役は務められない』と必死に固辞している。

とはいえ1年の深雪には早すぎるので、達也は妹を守るために中条を物で釣って立候補させた。

彼女は『トーラス・シルバー』の大ファンなので、謹製のCADの譲渡をぶら下げれば一本釣りだ。

 

そして9月末。七草生徒会長の最後の生徒総会と次期会長選挙が行われる。

候補者は中条ただ一人なので信任投票だ。

七草と方針を同じくする彼女は先代からの支持を受け継ぐ形となり、下馬評から当選は確実視されている。

しかし少数派ながら、二科生を優遇しているように見える彼女らに対し強固に反対意見を持つ一科生たちも確かにいる。

聞けば4年前、会長選挙の結果を不服として乱闘騒ぎになり2桁の重傷者を出したとか。

今の第一高校一科生たちの二科生アレルギーは重症であり、悲劇が再び繰り返されるのではと危惧されたが。

 

 

 

『立会人の六道じゃ』

 

「「「「「………………」」」」」

 

達也に呼び出された鬼教官が壇上の隅に座っていた。

 

『下らん騒ぎを起こした者は処す。CADを抜いた時点で敵と見なす。

 暴力に訴えたなら儂が暴力で鎮圧する。

 安心するがいい。どれほどの怪我であろうと綺麗さっぱり治してやる。

 ……しばらく苦しんだ後でな』

 

「「「「「………………」」」」」

 

『時間は有限じゃ。スムーズに式が進行することを望む。

 ……ほれ、始めよ』

 

『はっ、はいっ!』

 

六道教諭は意外とお茶目で子供っぽい性格だということは既に知れ渡っているが、苛烈で短気な性格であることに変わりはない。

そして彼女は嘘はつかないと公言しており、やると言ったらやる。

総会の開始から選挙の投票まで、式はつつがなく行われた。

立候補者である中条の演説の声が上ずっていたのは気のせいではない。

 

そして生徒会長が無事に中条に決まり、およそ一週間後のある日。

達也は学校を早退した。実父である司波龍郎に、FLT本社に呼び出されたためだ。

放課後の生徒会の業務も手につかないからと早めに帰らされた深雪が、先にFLTから帰宅していた達也に事情を尋ねると。

 

「レリックの解析への協力要請、ですか?」

 

「あぁ。どうやら軍からの指示らしい。

 そして解析どころか、複製を請け負ったようだ」

 

達也が見せられたのは魔法を一時保存する能力があると言う、勾玉型のオーパーツ。

その複製に成功すれば魔法兵器を大量に配備できる。

何としてもFLT本社の功績とするために、実父とその愛人は『精霊の眼』を持つ達也の力を当てにしていたようだが。

 

「お断りになられたのですか?

 お兄様ならば、彼らを出し抜くことも可能だったのでは……」

 

「確かに、そうまでしてでも手に入れる価値はあっただろう。

 ……少し前までならな。今は、まるで魅力を感じない」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「確信はないが……明日にでも聞けばわかるさ」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「魔法式を保存できる魔法具じゃと?あぁ、持っとるが?」

 

「!?」

「やはりですか……」

 

翌日早朝に六道の下を尋ねた二人が質問すると、彼女はあっさりと返答する。

二学期より彼女にも一室が与えられていた。臨時講師としては破格の待遇だ。

部屋の隅に積まれたまだ整理されていない荷物の山に近づいた六道は何かを抜き取り二人へと投げ渡す。

 

「これは……CADでしょうか?

 リボルバー型とは、アンティーク好きが飛びつきそうですわね」

 

「それの弾丸が魔法具じゃ。中に『エア・ブリット』を入れておる」

 

「!?」

 

「拝見しても?」

 

「あぁ。『見て』いいぞ」

 

達也は断りを入れてから深雪からCADを受け取り、銃弾を抜き取る。

水晶でできたような弾丸を『精霊の眼』で確認する。

 

「確かに、魔法が封じ込められていますね。

 ……自作ですか?」

 

「んむ。昔暇つぶしに作った試作品じゃ」

 

「な!?既に製法を確立されているのですか!?

 何故発表されないのです!?」

 

「理由は三つ。一つは、絶対に面倒ごとが起きるから。

 確かにこの魔法具が流通すれば誰もが魔法を使える世界になる。

 しかし誰もが魔法を使える環境に、今の社会と人は適応しきれまい。

 何らかのセーフティでも組み込めば別じゃが今のところ妙案もない」

 

「……で、しょうね」

 

達也は銃弾をCADに戻した。

魔法が封じ込められていることは確認できた。

しかし銃弾の構成は、彼の眼をもってしても把握できなかった。

そうとわかっていたから、六道はあっさりと彼らに見せたのだろうが。

 

「二つ目は、単純に現時点の科学レベルでは精製難易度とコストが馬鹿高いからじゃ。

 儂以外が作ろうとすればその弾丸一つで数十億は必要になる。

 情報を公開しても普及できぬのでは意味がなかろう」

 

「なるほど……では、三つ目の理由とは何なのでしょう?」

 

「こういうのは秘密にした方がカッコイイから」

 

 

ガンガンガンガン!!

 

 

達也は六道に向けてためらうことなくリボルバーの引き金を引いた。

六道によりガチガチに敷かれた結界は正常に作動しており、銃声を部屋の外に漏らさない。

 

「お、お兄様……!?」

 

「なるほど、間違いなくエア・ブリットですね。

 出力は低いですがただの銃よりは遥かに強力だ」

 

「くぉら達也ぁ!いきなり何をするかぁ!」

 

「折角なので動作確認もさせていただこうかと。

 問題ありませんよね?どうせ効かないんですから」

 

「効く効かないでなく、人に向かって銃を撃つでないわぁ!」

 

「貴女は人じゃないでしょう」

 

「う~~ん、このクソガキめ。揚げ足を取りおる」

 

入学直後に他者に魔法を向けた森崎に対し烈火のごとく激怒した六道。

だが彼女は今回、達也が差し出したCADを受け取るだけで済ませた。

彼女は他者を害する行為には敏感だが、彼女自身に向けられた悪意や暴力に対しては非常に寛容だ。

……いや、積極的におふざけをして意図的に自分に激しいツッコミが来るように仕向けている傾向すら見られる。

彼女の力の強大さを知った達也は、それが彼女なりの処世術なのだと推測していた。

深読みのしすぎである。彼女の振る舞いはほとんど素だ。

 

「ですが既に魔法式の保存方法が確立しているならば……お兄様の夢『重力制御魔法式熱核融合炉』の実現も目前ということですね!」

 

「あぁ。製造コストが高いとしても魔法具は少数で済むからな。

 込める魔法もそこまで強力なものでもない。

 この弾丸よりもう少し性能が高いものがあれば……」

 

「あー、重力魔法三大課題か。いやアレを公開するつもりはないぞ?」

 

「「は?」」

 

「だって危ないし。どんだけ対策取っても暴走の可能性がゼロにならんしその時の被害が大きすぎる」

 

「……もしや、そちらも既に?」

 

「理論が完成した時点で廃棄した。記録は儂の頭の中にしか残しておらん」

 

「…………」

「お兄様……」

 

目元を押さえる達也の右手と額には血管が浮かんでいた。

 

「なもんで、儂の財閥で運営しとるエネルギープラントではこっちを使っておる」

 

六道は再び立ち上がり背を向け、荷物の山の中から直径15cmほどの機械の球体を取り出した。

 

「なんですか、それは?」

 

「無限エネルギー炉。これはプラントで使っとるものの小型版じゃ。

 当然出力は落ちるがそれでもこれ一つで都市一つを賄える量のエネルギーを半永久的に……」

 

ジャキィッ!

 

「ちょっ、撃つな撃つな!コレが爆発したらシャレにならんから!?」

 

「そんなものを……無造作に部屋に置くな……っ!」

 

「お兄様!お気持ちはわかります!

 ですがどうか、どうか怒りを鎮めて下さい!」

 

自前のCADを抜いた達也は殺意と共に銃口を向ける。

普段は沸点の低い深雪を止める達也が、逆に彼女に止められるという珍しい光景が繰り広げられていた。

 




深夜が生存しているため龍郎は再婚しておらず、小百合は達也たちの義母ではありません。
よって二人の住居に押し入る真似はできず、達也を本社に呼び出す形となりました。
この後の襲撃など、いくつかの事件がキャンセルされます。
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