九校戦が終わり、2学期が始まり、生徒会選挙が終わり。
しかし魔法科高校に退屈な日々は訪れない。
次は全国高校生魔法学論文コンペティション……通称『論文コンペ』が行われる。
各魔法科高校の代表者3名が魔法学、魔法工学の研究成果を大学、企業、研究機関などに向けて発表する場であり、中には九校戦よりもこちらに力を入れている学校もある。
だが魔法大学関係者を除き非公開である貴重な資料を参考論文として用いることも多々あるため、たかが高校生の論文であっても産業スパイの標的となることもあるのだ。
故に第一高校の風紀委員も万全の体制で代表メンバーの護衛に当たると決まった……その矢先の事だった。
「案の定じゃな」
元風紀委員であり、代表選考会二位の論文を書き上げた3年の関本が、何らかの精神操作を受けていたことが判明した。
気付いたのは彼がコンペの代表メンバーである元生徒会役員の市原と衝突した時の騒動。
どうやら自分が選ばれなかったのが不服らしく、屋外で実験中の市原に突っかかり、その一幕を覗き見した六道が彼を直接目にして即座に気付いた。
強引に確保して連行し、汚染を解除。正気を取り戻した彼から押収された装置は、デモ機のデータを吸い上げるものだとわかった。
1学期のブランシュの事件に続いて二度目の外部からの干渉。
極秘裏に対処したので表沙汰にはなっていないが生徒会と風紀委員会は未だに記憶に新しく、今回は未遂に終わったものの万が一があってはならないと一層の警戒を強める。
「んで、コイツが関本を操っとった奴じゃの」
六道は彼女の私室にて、達也だけに下手人の似顔絵を見せる。長髪の優男だ。
六道が『相手の頭に触れるだけで記憶を探れる』ことを知っていれば、この男ももっと慎重に動いていただろう。
「名を『周公瑾』。横浜中華街に居を構える大陸出身の魔法師じゃ」
「敵は大亜連合ということですか。無頭竜と言い……連中も懲りない」
「実はここ最近、横浜横須賀と連続して密入国事件が起きとる。
警察は隠しておるが、捕縛は悉く失敗したようじゃ」
「……ご存知とは思いますが、今年の論文コンペの会場は横浜です」
「もう完璧にそれ狙いじゃよなぁ……。
それと密入国者の中には『呂剛虎』がおるらしい」
『人喰い虎』と呼ばれ、対人戦ならば世界トップクラスと噂される魔法師だ。
それを投入するとなれば、どれほどの規模の騒動を起こすつもりなのか。
「奴らの計画は把握できますか?」
「オンラインでのやり取りを避けとるようで、残念ながら詳細は。
しかしまぁ予想はつく。日本中の有力者と有望な魔法師の卵が集まるんじゃからな。
……強襲揚陸艦が一隻、大陸から極秘裏に出航しておる」
「拉致、ですか」
「ついでに横浜の魔法協会支部からメインデータバンクにアクセスして中身も全部引っこ抜き、ってな。
各企業で物資の盗難も相次いでおる。
その量から推測するに1個中隊なんて規模にはとどまらん。
数百人規模の大部隊で攻めてくるじゃろう」
達也の放つ殺気が一段と強まった。
彼等の伯母、四葉真夜はかつて大漢に拉致され非道な実験を受けた被害者だ。
そして生徒会と風紀委員会は論文コンペ代表に同行することになっている。
仲の良いクラスメイトたちも司波兄妹が行くのならと同行するつもりでいる。
深雪や友人たちが伯母と同じ目に会うかもしれないと知って、平静でいられるはずがない。
「今までの小競り合いとはわけが違う。完全に戦争を仕掛けるつもりじゃ。
儂の名で方々に警告は出しておくが、それで『中止に』とはなるまいよ。
確固たる証拠もないのに『危険だから』で取りやめては、主催の魔法協会の連中の面子が丸潰れになる。
事が起こっても儂一人で力づくで対処できなくもないが……」
「それほどの力を見せれば、貴女も人々から脅威と見なされる」
もしくはその力を頼りにされ、民衆の同調圧力まで利用して更なる負担を強いられるかだ。
「んむ。儂一人が圧倒的力を見せるのはもちろん、大量の分身を動員して六道家全体で対処するのもアウトじゃ。
それだけの戦力を一つの家が抱えておる時点で人の世の輪から弾かれよう。
将来的にはそれを理由にこの世界を去っても良いが……今はまだ、な。
無論本当にどうしようもなくなれば躊躇うつもりはないが、今回の件は儂単独で解決できてもする訳にいかぬ」
「独立魔装大隊に協力を仰ぐのは?
確かに証拠は十分とは言えませんが、俺の言葉なら無視はしません。
その程度の信頼は得ていると自認しております」
「軍は避けたいなぁ……個人的に好かん。
風間もこれを貸しとでも捕らえて思い上がるかもしれぬ。
お主らの引き抜きの障害にもなろう。同じ理由で四葉も却下じゃ。
まぁ情報収集能力に優れた四葉はとっくにある程度の情報を集めて備えている可能性もあるが、秘密主義の奴らが表舞台に立ち国防の為と献身的に動くことはあるまいよ」
「あり得るでしょうね。そして貴女が四葉の動きを察していることも察しているかもしれない。
もしそうであれば、四葉を避けて他の十師族に協力を求めるのも大きな軋轢を生みます。
軍も十師族も駄目では、どう考えても頭数が足りない」
「げっげっげ。いやいやおるじゃろう。
とっても頼りになる民衆のヒーローが。
幸いにも、お主の傍に伝手があるからな」
「……なるほど。しかし戦力としては心許ないかと」
「忘れたか?我が六道家の魔法の神髄をな」
「……そう言うことになっていましたね。では、行きましょう」
そうして六道を伴った達也はとあるクラスメイトに身内を紹介してもらう。
敵を倒して日本という国を守るのが軍だ。
身を挺して日本に住む民を守るのは。
「頼む、エリカ」
「わかったわ……もしもし、和兄貴?」
おまわりさんである。
「そういえば、ご存知ですか六道教諭?
論文コンペ代表である市原先輩の発表テーマは『重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性』だそうですよ」
「…………」
「先輩は経済的必要性を示しての魔法師の地位向上を目指しているそうです。ご立派ですよね。
将来的には是非、その先駆けである六道財閥にて働きたいとおっしゃっていたそうで」
「………………」
「先日魔工学部門が設立されたので大学卒業後はそちらに就職できないか本格的に検討しているそうです。
きっと御社で夢を叶えようとされるのではないでしょうか。
……さて既に研究を完成させ、しかしその全てを破棄した貴女はどうやって説得するおつもりですか?
市原先輩に『長年の努力は全部無駄だった』と告げ一蹴なさいますか?」
「よかれと……よかれと思って……っ」
「えぇ、先んじて危険性を立証してくださったのはありがたい。
公開を避けたのも正しい判断です。下手に明るみにすればリスクを軽視しリターンに飛びつく輩も現れるでしょうから。
……ですがだからと言ってあっさり受け入れられるほど、人は合理的に感情を処理できないんですよ……!」
「い、いやぁ~、まさかお主が感情を語る日が来るとはちょ待ってCAD向けないで引き金に指かけないでここ部屋の外だから結界ないから隠し通せないからっ」
六道家当主なんてヤベーのが居座っているので、FLTにレリックがあると把握し司波兄妹が関わっている可能性に気付いていても、大亜連合の連中が直接第一高校に手を出すなんて真似はできません。
それでも根本的に他者を見下している周公瑾ならちょっとくらいちょっかい出すだろうなと判断しました。
しかし九校戦で事故が起きていないので平河小春もリタイヤしておらず、妹の千秋も協力する理由がない。
現状に不満を持つであろう他の生徒らも暴君六道を恐れているので、連中の協力者になり得るのは論文コンペで蹴落とされた関本くらいになります。
またも諸々のイベントが省略され、次回一気に横浜に移動します。