『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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ちなみに周公瑾が動かず六道が先んじて事態を把握していなければ、備えがないので彼女が全力を出して横浜を防衛するしかなく、国内外の勢力が彼女を危険視して排除を目論み、それを悉く返り討ちに。
最終的に六道リンネが魔王として君臨しこの世界を統治するルートに入ります。


第20話

 

論文コンペ開催当日の朝。

会場、横浜国際会議場。

 

……から少し距離が離れたとある建物、その一室にて。

 

「皆々様、よくぞ集まってくださった」

 

極秘裏に一棟丸ごと貸し切った六道が、広々とした会議室に集まった千葉寿和警部を始めとした大勢の警察官に語り掛ける。

六道の背後にはコンペ開催前の空き時間を使い会場から抜け出してきた司波兄妹、そのさらに後ろの部屋の隅には彼らの友人たちがいる。

六道に兄を紹介したエリカはともかく、他のメンバーは巻き込むべきではないのかもしれない。

だが優秀な魔法師の卵である彼らも狙われているのだ。脅威を伝え、自衛の力を与えるべきと達也が進言した。

六道は渋ったが、彼らは第一高校の中でも特に六道から多くの指導を受け成長している者たちだ。

戦力が不足している今、ないものねだりをする余裕はなかった。

 

「儂が先日より、此度の催しに合わせて大亜連合が大規模な攻勢を仕掛けてくる可能性を訴え続けていた件は既にご存知のことと思う。

 しかし本気で耳を貸してくれる者はいなかった。精々わずかな手勢を忍ばせている程度。

 『仮にそうだとしても既に作戦がバレているならそのような愚行は侵すまい』と、逆に気を緩める者までいた。

 だが皆忘れておる。長年暗躍を続け幾度も日本侵攻を企てる奴らは、どうしようもない愚か者の集まりであるということをな」

 

数日前、港に偽装した強襲揚陸艦の存在を確認した。

街には殺気立った外国人が大勢溢れている。その数は推定およそ千。

ここに来てから初めて、達也から事情を聞いた学生たちは顔を青ざめさせていた。

 

「軍が本格的に動くとしたら実際に事が始まってからとなる。

 それまでの間に夥しい犠牲が出るじゃろう。

 この地に住まう無辜の民を守れるのは、ここにいる諸兄らだけと心得ていただきたい」

 

この場に集まるのは皆屈強な警察官たち。

しかし敵の数およそ千に対して、こちらの人数は百にも届かない。

だが六道としては50も集まれば御の字と考えていた。

確たる情報も上司からの命令もなくこれだけの人数を集めた千葉警部の人望と手腕には脱帽するばかりだ。

 

実際には、声をかけたのが六道リンネであるという点も大きな要因なのだが。

十師族当主の彼女は日本最強の魔法師の一人だが、公的な権力はない。

勿論警察に命じる権限もなく、ここに立っているのも情報提供者兼協力者として。

 

警察官は職業柄どうしても怪我が多い。

おまけに六道家は警察に非常に協力的だ。第一高校付近のブランシュ潜伏事件にて、当主ですらそのように振舞うと判明した。

日本全国どの病院であっても、六道財閥に属するところでは職務中の負傷に対して破格の安さで治療を引き受けてくれる。

この場には六道の抱える病院に世話になったことがない者はいなかった。

 

「しかし戦力差は絶望的。軍が動き出すまでの時間を稼ぐことすら不可能。

 じゃが儂は皆様方をただ無謀に死地に送るつもりはない。

 ……これより、儂の強化魔法を解禁する」

 

「「「!?」」」

 

「今この場にて、皆様に待機状態の魔法を行使する。

 戦端が開かれると同時に遠隔で魔法を起動。

 その力を以て、敵の初動を抑え込んでいただきたい」

 

万が一の事態に備え、この街全体を領域で覆うつもりでいる。

であればいつであろうとどこにいようと自在に強化魔法を付与できる。

だが『そんなことができる』という事実を周囲に明かすわけにはいかないのだ。

その力を当てにして都合のいいことを言い出す輩がいくらでも出てくるだろう。

今回は六道の支援なしで勝てる戦ではない。

ならば回りくどい真似をして、『事前に準備が必要であり容易には行使できない』と誤認させるしかないと結論付けた。

 

「噂の強化魔法……どれほどの……?」

 

「一騎当千、とは言わぬがな。雑兵の十や二十は鎧袖一触よ。

 中でも特に自己治癒力と肉体の強度が大きく向上する。

 魔法師の場合は演算能力も強化対象じゃ」

 

「その、具体的には?」

 

「……マシンガンくらいなら生身で受けても傷一つつかぬ。

 連中が持ちこんどるらしい対魔法師用のハイパワーライフルでは無傷と行かぬが、当たり所が悪くなければ致命傷にはなるまい。

 そして即死でなければ数秒で完治する。

 身体能力は加重魔法やら何やらを駆使した魔法師と同じくらいか?」

 

「なっ!?そんな規模の魔法を、この場の全員に!?」

 

千葉警部が頭の中で計算を始める。

 

警察官の中にも彼を始めとして魔法師はいるが少数であり、ほとんどは非魔法師だ。

だが六道の言う通りだとしたら、魔法が使えない彼らが並の魔法師以上の戦力になる。

それが、およそ百人。

対して大亜連合にも魔法師はいるが魔法大国である日本と比較して遥かに少ない。

だから千人近い敵がいるとしてもそのほとんどは非魔法師であるはずだ。

 

(ならまともにぶつかっても……勝てる!?)

 

大亜連合を食い止め軍が動くまでの時間を稼ぐどころか、ここにいる者たちだけで鎮圧できてしまう。

だがそれでも、やはり厳しい戦いにはなるだろう。

目的は敵の殲滅ではなく街と国民の防衛なのだから、敵を倒しても守るべきものを守れなかったのでは意味がない。

 

「それから魔法師・非魔法師それぞれに有用な装備を用意した。

 全て今日という日に備えて揃えた物じゃ。使い潰してもらって構わぬ。

 無論、後で費用を請求するつもりもない」

 

「……失礼ですが、六道さん。これ全部でいくらくらいになります?」

 

「警部殿の生涯収入は優に超えるじゃろうよ。桁一つ足しても足りぬかもな」

 

「ひぇっ……」

 

この世界の設備でまともに作れば、の話だが。

時間が足りないからと能力で量産したのでほぼノーコストだったりする。

 

「あとは、この建物は儂が結界を張って強化してある。

 このまま作戦本部として使用してもらって構わぬ。

 それから都市各地に儂の財閥のバスを手配してある。

 見た目は普通の車じゃが実態は装甲車じゃ。

 運転手もウチの魔法師。住民の避難に使ってくだされ。

 そして……幹比古、美月、ほのか」

 

「「「はっ、はいっ!?」」」

 

突然話を振られて、後ろにいた生徒らは慌てて姿勢を正す。

 

「3人にはここで後方支援に徹してほしい。

 幹比古は精霊、美月は眼を使って街全体の戦況を確認せよ。

 ほのかはそれらの情報を映像としてまとめ、警察の方々に提供。

 雫は3人の防衛じゃ。作戦本部と気づき襲ってくる者が現れぬとも限らぬからな」

 

「……わかった」

 

美月とほのかは性格的に荒事に向かない。

どれほど能力があっても敵を前にすれば委縮してしまうだろう。

よって戦場から遠ざける。更に美月とほのかの安定のために、二人と仲の良い幹比古と雫を傍に置いた。

 

「レオとエリカ、お主らは外じゃ。

 敵の狙いの一つはコンペ会場、その周辺の防衛に当たれ。

 まだ半年ほどじゃが目をかけて来た儂が断言する。

 貴様らは強い。存分にその力を振るい、敵の悉くを駆逐せよ」

 

「っしゃあ!やってやらぁ!」

「まっかせなさい!」

 

レオは魔法師として生み出された一族の末裔で、エリカは数々の剣士を輩出した千葉家の末席。

この二人は近接戦闘能力が図抜けており、戦う覚悟も殺す覚悟もできている。

下手に押し込めても勝手に飛び出すだろう。ならば制御下で暴れさせた方がいい。

 

「達也と深雪は会場へ戻れ。ここでのことはまだ誰にも喋るな。

 事が始まれば隠しきることはできぬが、観客に混乱を広めパニックに陥らせるのも不味い。

 レオたちが本気で暴れれば問題ないとは思うが、万が一に抜けて来た敵が現れたら真っ先に鎮圧せよ。

 必要と判断したならば他の生徒に協力を仰ぎ……いや、森崎にだけはすぐに話を通して頼れ。

 前もってあやつから要人警護の要点を学んでおけ。本人にその気があれば指揮を任せてもよい」

 

「「了解しました」」

 

既に家業を手伝っているらしい森崎なら、会場内の警護において頼もしい戦力となる。

他に二人が頼るとしたら第一高校の生徒会と風紀委員会の者たちになるだろう。

後は第三高校の護衛として一条が吉祥寺と共に来ているとか。

子供と言えど十師族だ。戦いを恐れることはあるまい。

 

「敵が行動に移すのは、おそらく正午を過ぎてからと思われる。

 それまでに各地に散らばり迎撃態勢を。常に本部との通信は繋げておけ。

 ……そんで申し訳ないが、儂は今回の事態が収束するまで身を隠すことにする」

 

「何故でしょうか?」

 

「強化魔法の維持に専念するためじゃ。

 万が一にも儂がやられたらおしまいじゃからな。

 護衛を侍らせれば逆に勘付かれる可能性もある。

 ならば最初から誰にも知らせず、姿も見せぬ方がよかろう」

 

「なるほど……わかりました」

 

これもまた偽装工作だ。

『遠隔強化魔法の維持に専念している間は、六道リンネ本人には戦う余力はない』と誤認させるための。

 

 

パンパン!

 

「儂からは以上じゃ。諸君らの奮闘に期待する」

 

「「「はいっ!!」」」

 

六道は掌を叩いて、会議を切り上げる。

そして横浜を揺るがす一大事件が、間もなく始まる。

 

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