『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第21話

大亜連合が動いたのは、推測通り正午過ぎ。

埠頭の出入国管制ビルに自爆車両が突っ込んだ。

続いて貨物船……に偽装した強襲揚陸艦がロケット弾を発射する。港の機能を麻痺させ他の船舶を航行不能にするために。

 

広大な街全域のどこで動き出すかはわからなかった。だから始まりの一撃を防ぐことはできない。これはどうしようもない事だと諦めるしかなかった。

だがこれ以上の狼藉は許さないと勇敢な警察官たちは国民を守るために立ち向かう。

警察側は強襲揚陸艦の存在には気づいていたのだから、その周囲には特に多くの人員を待機させていた。

その場に待機していた魔法師たちには六道から預けられた特製のCADがある。

彼女が自らの能力を魔法に落とし込んだ『熱誘爆魔法』がインストールされているCADだ。

六道の強化魔法により増大した演算能力とサイオン量を注ぎ込んでようやく発動できるそれは、CADより照射される光を浴びた火器類を漏れなく誘爆させる。

砲弾は埠頭の建物に着弾する前に上空で自爆した。

光の範囲内にいた周辺の兵士たちが構えたライフルや、持ち込んでいた直立戦車のガトリングも誘爆し使い物にならなくなる。

 

「確保ーーーーっ!!」

 

号令に合わせて非魔法師の警察官たちが飛びこんでいく。彼等の手にも六道より提供された武器があった。

超人レベルにまで強化された彼らの身体能力で振り回しても壊れない特製のスタンロッドだ。

頼りにしていた重火器を破壊された敵兵たちは一瞬で目の前まで迫った警察官たちにロッドを叩きつけられ、膨大な電流を流し込まれたことで意識を失い崩れ落ちる。

敵兵のほとんどは無関係な一般人に擬態していたからこそ、武器は強力でも防具はつけていない。

相手の銃を破壊して肉弾戦に持ち込めば、当てるどころか鍔競り合いだけでも敵を無力化できるスタンロッドはこの上なく有用な武器となっていた。

その出力はスタンガンの比ではない。後遺症が残るレベルだ。

これは戦争で殺し合い、何より仕掛けたのは相手側であるのだから粛々と受け入れてもらう。

 

都市の各地で武器を手に取り決起した大亜連合の兵士たちにも、待ち構えていた警察官たちが即座に立ちはだかる。

彼等も既に自分たちの作戦が漏れていたことは知っていたが、ここまで防衛側の動きが早いことに困惑していた。

 

……いや、困惑していた理由は警察官たちが持っていた武器のせいもあっただろう。

非魔法師に用意されたスタンロッドは、江戸時代の岡っ引きが愛用していた『十手』。

魔法師の熱誘爆魔法がインストールされているCADは、水戸黄門の『印籠』だったのだから。紋所は三つ葉葵じゃなくて旭日章だったけど。

『何故こんな形に?』という千葉警部の問いかけに、六道は『カッコイイから』と真顔で返した。

六道家当主『正体不明』六道リンネは、こういう輩なのだ。それなりの付き合いがある第一高校の生徒たちはそれをよく理解していた。

困惑していたのは大亜連合側だけでなく、警察側も同じだったりする。

 

 

尚、論文コンペが行われている国際会議場の前で奮戦するレオとエリカには特製のCADは渡されていない。

熱誘爆魔法に処理能力を割くよりも、彼等自身が全力で戦った方が効率的だと判断されたためだ。

 

「『アンブレイカブル』!」

「秘剣……『山津波』!」

 

レオは装備だけでなく皮膚や眼球に至るまで全身を硬化魔法で覆った状態を維持しつつ戦闘を行うという新たな魔法を習得しており、エリカは兄が用意した千葉家の名刀『大蛇丸』を振るい敵を次々と両断していく。

前者は硬すぎて銃が効かない。後者は速過ぎて銃が当たらない。武装した兵も直立戦車も成すすべなく打ち倒されていく。

やがて会場にいる人間たちの拉致でなく排除に踏み切ったのか、爆薬を満載した大型トラックで突っ込み自爆しようとしてきたが。

 

 

ガァン!

 

ドォォン!!

 

 

「ナイスアシスト!」

 

『任せて』

 

作戦本部に控えている雫が会議場周辺の大通りを網羅するように設置した座標に対し、モニター越しに『能動空中機雷』を発動。

トラックは会議場の遥か手前で誘爆し粉々になった。

 

「ミキ!こっちはあらかた片付いたわ!全体の戦況は!?」

 

『僕の名前はっ……言ってる場合じゃないか……!

 うん、大丈夫。敵が大勢いたところにはあらかじめ人員を配置してたから、ほとんど動き出した瞬間に対処できてる。

 ……すごいよ、この強化魔法。これだけの数の式神を街全域に広げて柴田さんたちと視覚共有までしてるのに、まだ余裕があるんだから……!』

 

「まったくだ。こっちもずぅっと全身硬化を維持してんのに全然疲れやしねぇ!」

 

『っ、皆さん!国防軍が動き出しました!

 横浜到達まで、あと30分!』

 

『……千葉警部!敵艦が港を出ようとしています!

 おそらく、軍が動いたことを察知し包囲網が形成される前に離岸するつもりかと!』

 

『くそっ、判断が速い!簡単に仲間を見捨てやがって!

 ……俺たちの役目は敵を倒すことじゃねぇ!そっちは軍に任せる!

 街の防衛を最優先!砲撃を妨害しつつ住民の避難を進めろ!

 瀕死の重傷者も見捨てるな!六道さんなら助けられるかもしれん!』

 

『『『はっ!!!』』』

 

 

 

 

「この様子なら、何とかなりそうじゃな」

 

領域で街全体の状況を確認し、当然のように仲間たちの無線を傍受している六道が誰もいない真っ暗な場所で呟く。

 

ある程度情報が漏れていても押し切れると判断していた奇襲は完全に対処された。

魔法師や要人たちを拉致するどころか、自分たちを阻む警察官たちの一人すら撃破できていない。

攻撃の規模からみれば街への被害も死傷者も非常に少ない。

そのわずかな死者も、六道の分身がこっそり蘇生して回っている。奇跡的に一命を取り留めたと演出するために傷はそのままにしてあるが。

その上間もなく日本の国防軍が到着するとあれば、敵艦は仲間も何も見捨てて逃げ出すしかない。

取り残された敵兵たちは容赦なく意識を奪われ拘束されていく。

 

大亜連合の作戦は完全に失敗した。

 

「それでおさまりがつくはずもない。何としても成果を持ち帰らねばならぬ。

 となればせめて狙うは……ここしかあるまいなぁ?」

 

「ッ、貴様は……六道家の……!?」

 

六道が隠れていた魔法協会支部に乗り込んできた、二人の大亜連合の工作員。

『人喰い虎』呂剛虎とこの作戦の指揮者であった陳祥山だ。

 

「いかにも。儂が十師族が一つ、六道家当主の六道リンネである」

 

「『正体不明』……!そうか、警察共の力は貴様の強化魔法!呂ッ!」

「是ッ!!」

 

陳祥山の指示を受けた呂剛虎が即座に六道の排除に動く。

目の前の女が魔法により戦力を支えているならそれを倒せば瓦解するはず。

おまけにおそらく魔法を維持するためにと両の掌を合わせたまま身構えない。

呂剛虎は全力の硬気功を発動し、一気に距離を詰め掌底を叩きこむ。

 

 

「可愛らしい猫パンチじゃのぉ」

 

「ッ!?ガァァァァァッ!!」

 

 

しかし目の前の女は微動だにしなかった。

それどころか叩きつけた呂剛虎の両腕がグシャグシャに崩れていた。

まともな腕の形をしていない。戦いと痛みに慣れているはずの『人喰い虎』も、経験したこともない激痛に思わず悲鳴を上げてしまう。

 

「呂ッ!?何を、したッ!?」

 

「突っ立っとっただけじゃよ。ただし儂は全身にわずかな気を纏っている。

 何を隠そう、儂も気功の達人じゃからの」

 

同質の力を扱う呂剛虎だからこそ起きた弊害だ。

二人の気功同士が衝突し、その力の差が如実に表れた。

 

「このドラ猫が儂を殺すために極限まで練り上げた気より、儂が垂れ流しとる気の方が大きい。桁外れにな」

 

「ァァァアア阿阿阿阿ッ!!」

 

まだ戦意を失っていなかった『人喰い虎』は腕を失っても脚で攻めるが、やはり六道の気の防御を突破できず蹴りが触れた瞬間に脚がはじけ飛ぶ。

腕よりも脚の方が力が強い。だからこそその反動も腕以上に大きかった。

流石の激痛に意識が飛び、巨体が床に崩れ落ちる。

 

「ッ!」

 

勝ち目がないと悟った陳祥山は逃走を選択し踵を返す。

 

「どこへ行く?」

 

しかし振り向くと彼の目の前には六道がいた。

陳祥山が首を動かすよりも、六道が回り込む方が速かった。

 

「これだけのことをしでかして、逃がしてもらえるとでも?

 たとえ互いに覚悟の上だとしても……部下を見捨てて?」

 

これだけはっきり認識されていては、彼の得意とする精神干渉魔法による認識阻害は通用しない。

使ったとしても六道の干渉無効化能力を突破できるはずもないが。

 

 

ズドンッ!

 

 

絶命しないギリギリの威力で、六道の膝蹴りが陳祥山のみぞおちに叩き込まれる。

 

「ドラ猫共々眠っておれ。後でその頭の中、丸裸にさせてもらうでの」

 

領域を維持するために掌を離せない六道は、意識を失った二人を放置する。

だが事態の収束はもう間もなくだろう。

各地の敵兵は警察官たちによりほぼ鎮圧され、敵艦は完全に港を出た。

 

「後は、出張っとる軍の艦隊が撃沈して仕舞いに……っ!?」

 

そこで、彼女が意識を向けていた洋上の敵艦周辺で膨大な熱量を感知。

太陽の如き光が消えた後には、船の痕跡は何一つ残っていなかった。

 

 

 

「……使わせた、のか?『質量爆散』を?」

 

陸地より海に向けて銃型のCADを構えていたのは、いつの間にか国際会議場より移動していた司波達也。

その傍には数名の人間、独立魔装大隊の軍人たち。

おそらく彼らが会議場にいた達也に、『大黒龍也』特尉に出動を命じた。

 

「殺させたのか!?また、子供に、大勢の人間を!!」

 

六道が前もって呼び掛けていたから国防軍は万が一に備えていた。

最低限の動員は既に行われていて、逃げ出した敵艦一つ容易に追いつき撃沈できたはず。

達也を駆り出す必要性はなかった。正規の軍人である大人たちだけで対処できたはずだ。

だが風間は達也に命じた。

『その方が早くて確実で、自軍の損耗を最低限にできるから』。

あぁそうだ。軍人は命令に従って敵を殺すのが仕事だ。それができる兵士に命じるのは正しい。

だが彼は望んで軍人になったのではない。『無理やり』軍人にさせられた少年兵だ。

 

 

 

「…………達也、聞こえるか?」

 

(はい)

 

六道からの念話に、CADを下ろした達也が頭の中で返事を返す。

 

「予定より遥かに早いが、計画を実行に移す。よいな?」

 

(……承知しました)

 

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