『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第24話

 

大亜連合の大艦隊による日本侵攻は、迎え撃った日本軍艦隊にて阻まれた。

用意した兵器も、参加する人員も、綿密な作戦も全て漏れている。

徹底的にいいようにやられた大亜連合側もやがてその事実に辿り着き、ならば明らかな負け戦になるとわかって戦闘を継続するほど愚かではなかった。

多大な損害を出して這う這うの体で逃げ帰ることとなり、ようやく日本軍は国家の敵を貫く矛としての役割を果たすことができた。相応の犠牲を払って。

 

これで大亜連合が引き起こした事態は一応の終わりを迎えた。

しかし最終的に国民の人的被害はゼロになったとは言え、横浜という都市そのものの被害は甚大。この機に乗じて余計な動きをする第三勢力が現れないとも限らない。

よって急いで安定を取り戻すために国内の様々な動きを一時的にストップさせるしかなく、コンペ代表や生徒会役員など多くの生徒が事件に巻き込まれた魔法科高校もまたしばし休校となった。

 

その数日の間に、司波達也と司波深雪を取り巻く環境は一変した。

 

二人は六道家当主である六道リンネの因子を埋め込まれた。もはや実の子と言っても過言ではないだろう。

だが六道は二人を自分の子という扱いにはしなかった。

彼等を六道一族にするのだから『実の親が六道の血筋の誰かである』ことにしなければならず、六道リンネの実子とするならば『六道リンネは誰かと結婚して二人を産んだ』ことになってしまう。

彼女はどうしてもそれを受け入れられなかった。彼女が愛した男は生涯ただ一人だ。この世界でも戸籍上未婚になっている。

となれば二人は親戚という扱いになるが、あまりに関係が近いと必然的に顔見知りだったことにもなってしまう。

六道と司波兄妹は互いのことを知らない前提で交流していたので、仮に秘密がバレた時に今までの学園での付き合いが嘘臭く映るだろう。

最終的に二人は『六道を名乗ることを許されているが、当主のリンネとは学園で会うまで面識がなかったほど遠い血縁』ということになった。

達也と深雪も六道家の権威を望んでいるわけでもないのでその決定を受け入れた。

今後も特に問題が起きなければ、自分たちが六道の一族であることは秘密にしていくつもりらしい。

 

一方、四葉の中で彼らは完全に存在しないことになっていた。

真夜も深夜も今のところ何かに気付いた様子はなく、達也たちを探す様子もない。

仮に思い出して連絡を取ろうとしても無駄だが。二人は既に六道所有の別宅に居を移しておりその邸宅は強固な結界で保護されている。

第一高校に入学するために引っ越してきた彼らは未だご近所づきあいもなく、家に人を招く機会もなかったらしいので記憶の差し替えは容易だった。

 

ただし二人の苗字は『司波』のままだ。

折角四葉のおかげで世界の情報改変が最小限で済むのに苗字を書き換えると労力が増えるし、彼らも今の苗字で呼ばれることに慣れていて愛着もあるようだから。

どちらにしろ公の場で『六道』を名乗らせるわけにもいかないのだし。

しかし彼らは既に四葉ともFLTの『司波龍郎』とも無関係なので、六道一族の中に『司波』という苗字を持つ何者かの戸籍をポンと生やした。

表向きはこの何者かが司波兄妹の実の親となる。実態は緊急時にのみ姿を見せる六道リンネの分身だが。

 

伴って、達也はFLT及び開発第三課とは無縁の存在となる。

『トーラス・シルバー』は相方であった牛山だけを指す言葉になった。

ハードウェア開発担当だった彼にそんな頭脳はないが、ループキャストも飛行魔法も全て彼一人の功績だ。

 

だが実は牛山を始めとした開発第三課には、司波達也に関する記憶が残されている。達也自身が強く望んだためだ。

能力はあるが上の指示に従わないからと社内で冷遇されている彼等にはFLTへの帰属意識などなく、彼らを六道財閥に引き抜くのならば記憶を差し替えない話が早いからと達也は六道に進言していた。

学生と兼業だった達也と違い、彼らは正社員だ。すでに開発した数々のソフトやCADの利権を手放すならFLTは彼らを引き留めはしないだろうが、その手続きは億劫なもので引っ越しも必要になる。

簡単に引き抜きに応じるものだろうかと六道は訝しんでいたが、改めて連絡を取った達也の一言を聞いて彼らは一瞬で鞍替えした。

『予算青天井』。なるほど、いつの時代でもどこの世界でも技術者のハートを射抜く魔法の言葉だろう。

確かに国家予算くらいの額は捻出できるが、際限なくポンポン使い込まれてはたまったものではないと、勝手に空手形を切られた六道は文句を言う。

達也たちならすぐに投資した以上の利益を出してくれるだろうが、返せばよいというものではない。大きな金が動くと企業は大変なのだ。

 

そうこうしている内に、第一高校から『間もなく授業を再開する』と通達される。

このままでは司波兄妹は授業で苦労することになるだろう。

手加減をする方にだ。弱くなるどころか強くなりすぎてしまったから。

 

六道は自分の因子を埋め込むことで彼らが悪い方向に変質しないよう全力を尽くした。

全力を尽くしすぎたのだ。ブルマと協力してだが、ドラゴンボールの世界にて『人造人間セル』を究極体へと作り上げた経験を持つ自身の能力を、彼女は過小評価しすぎていた。

 

六道リンネの因子を持つということは、彼女の持つ能力に適性を持つということでもある。

よって、天才である彼等では容易に習得できないはずの『天神武装』と『不可死犠』がすんなり適合した。

以前達也に渡した劣化模造品の魔法ではなく純度100%のオリジナルだ。おまけにCAD無しでも発動できる。

 

そして六道リンネの因子の中には彼女の個性『炎舞』の残滓がある。影響を受けて二人の習得していた熱量制御関連の魔法が大幅に強化された。

深雪の冷却魔法は、まだ良い。問題は達也だ。恐ろしいことに『質量爆散』が強化されてしまった。

変換効率が向上したことに加え出力の調整が容易になり、『気軽に使える』ようになってしまったのだ。全力で放てば地球すら消し飛ばすような破壊の魔法を。

元から所有していた自動再生も『天神武装』で強化されてしまい、四葉による封印も解除されてしまった今の達也は『どこの大魔王だ』と言いたくなるようなスペックに至っている。

それこそ単純な出力勝負なら全盛期のピッコロ大魔王をも上回るかもしれない。

大魔王を倒せるとしたら、神だけだ。

 

 

 

『なぁ達也、今までの諸々で鬱憤溜まってたりするか?

 もうなんもかんも吹っ飛ばしたいとか思っとらんよな?

 流石に今のお主とぶつかったら被害を完全に抑えきれる自信がないんじゃけど?』

 

「しませんよ……俺としては早めに引退して、無人島でも買い取りそこで余生を過ごしたいくらいなんですから」

 

『むぅ、しかし惜しいな……いっそ正式に六道として立つ気はないかね?

 君ならば十師族を、いずれはこの国を率いていけると思うのだが』

 

「遠慮させていただきます閣下。ようやくしがらみから解放されたと言うのに」

 

「お兄様がこの国のトップに……ですがそうなると共に暮らせる時間が……あぁぁっ、悩ましいっ!」

 

「深雪、落ち着こう。一端ステイだ」

 

達也と深雪は与えられた新居にて、今回の立役者である六道リンネと九島烈とモニター越しに対話している。

明日から学校が再開されるのでその前の最後のすり合わせだ。

 

『そうか、気が変わったら言ってくれ。

 ……しばらくは四葉への警戒を怠らぬようにとのことだったな?』

 

『改変直後は違和感を感じやすいからな。

 対象人数が少ないから互いの記憶の齟齬から思い至る可能性は低いが、備えるに越したことは無い。

 第一高校には儂がおる。その家には結界が張ってある。

 しかし登下校の間には備えがない。

 今の達也の眼なら監視にも悪意にも気付くとは思うが』

 

「何らかの事態が起きた場合、即座に連絡させていただきます」

 

『うむ。『入学予定の光宣のための下調べ』という名目で第一高校付近に私の部下たちを配する予定だ。

 年末までだが、四葉や他勢力の動きがあれば察知できよう。

 部下には君たちのことは伝えぬが、市民が助けを求めれば応じる。そのように厳命してある』

 

「何から何まで、お手数をおかけして申し訳ありません」

 

『なに、気にすることは無い。だが恩に感じてくれるのならば、君たちの後輩となる光宣をよろしく頼む』

 

「お任せください」

 

『では、夜も遅いしお開きとしよう。儂とはまた明日から、学校でな』

 

「お待ちください」

 

通信を切ろうとした二人を、達也が呼び止める。

 

 

「「本当に、ありがとうございました」」

 

 

揃ってソファから立ち上がった兄妹が、深々と頭を下げた。

 

『……礼を言われるのはまだ早いな。

 君たちの人生は、ここから始まるのだから』

 

『じゃな。なんでどうせ言うなら……『これからよろしく』じゃろうよ』

 

「「はい」」

 

『お休み。いい夢見ろよー』

 

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