『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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短編1話のネタをちょっとだけ引っ張ってます。


第25話

 

生徒会長選挙、論文コンペ、そして横浜襲撃事件と、良くも悪くもイベント目白押しだった二学期もようやく終わった。

幸いにもそれ以上の面倒ごとが起きることもなく、達也と深雪の生活が変わることもなく、彼と友人たちはカフェを貸し切ってクリスマスパーティーを迎える。

 

達也と深雪の能力の変化は、なんとかごまかすことができた。

急激な成長がこの二人だけではなかったからだ。彼の友人たちも達也たちほどではないが尋常ではなく伸びていた。

彼等自身も訝しんでいたところで、達也からその原因が明かされる。横浜にて六道から受けた強化魔法だ。

一時的にとは言え自身のあらゆる能力が大幅に強化された状態での戦闘経験を脳が記憶し、『ワンランク上』を先取りして体験することで所謂『きっかけ』をつかめることがあるのだとか。

ついでに肉体の異常も歪な構造も何もかも改善してしまうため、基礎スペックが底上げされることがあるらしい。

同時に達也と深雪、そしてこのパーティーに招待されている森崎も一学期に強化魔法を受けていたことを明かされる。

これで達也が二科生ながら一科生を追い抜く好成績を叩き出していた理由がはっきりした。

すでにこの場の二科生たち全員が二学期末のテストで総合100位以内を達成しており、2年進級時には一科生に繰り上がることがほぼ確実視されている。

深雪は兄と同じクラスになるかもしれない可能性に期待、いや生徒会役員としての強権を駆使してまでクラス決めに干渉できないかと企てており、達也を一方的に好敵手とみなしている森崎も彼と競い合う日々を楽しみにしつつ追い抜かれるものかと奮起していた。

 

そして同時に達也より、この場の皆に六道の強化魔法の副作用をみだりに口外してはならないと忠告された。

個人差は大きいが、短期間かつノーリスクで急成長できるかもしれないとあらば、日本中どころか世界中から希望者が殺到してしまう。

十師族の当主である彼女なら有象無象を跳ね除けることはできるが面倒ではあるだろうし、騒動は起こさないに越したことはない。

一同は納得し、口外しないと誓った。おそらくあの事件に参加した警察官たちにも同じ現象が起きているだろうから、余計な推測と噂が広がる前に千葉警部を通じて忠告しておかねばなるまい。

 

しかしこの場の生徒らは学内でも特に世話になっているのに、こんなとんでもない贈り物までもらってしまったことになる。

もらいっぱなしでは心苦しいと、彼らは六道に何か恩返しができないかと考え始めた。

だが数日悩んでも何をしていいのかわからず、ついに年越しを迎えても決まらないので。

 

「代表して俺が直接聞くことになりました」

 

『それを聞かされて儂にどうしろと』

 

彼らが揃っての初詣を終えた日の夜、達也は六道への秘匿通信をつないだ。

 

『気持ちだけで結構なんじゃよなぁ本気で。

 だって儂神様じゃぞ?感謝されるのが仕事じゃぞ?』

 

「形にすることで伝わるものもあるでしょう。

 賽銭か供物だと思って受け取ってください」

 

とはいえ、特に親しいからと友人たちに意見を求められた達也自身も本当に何を送っていいのかわからなかった。

まず彼女には物欲がない。というか必要な物があればいくらでも買えるだけの金を持っているしそもそも自分で作り出せる。

何を隠そう『料理の達人』らしいので、高級な菓子折りより彼女の手作りの方がおいしい。そして食べることはできるが必要性はない。

市販品でない物ならばと達也がCADを送ることも考えたが、六道はCADを必要としない。

というか彼女が今の達也のスポンサーだ。六道の金で作ったものを六道に送ったとしてそれはプレゼントと言えるのか?

 

「そうですね、神というのならもしや信仰が一番ですか?

 皆の家に小さな社でも作ってもらいましょうか?」

 

『やめんかたわけ!……手作りの焼き菓子か何かで頼む。

 思いっきり気持ちがこもったやつをな』

 

「伝えておきます。そしてもう一つお話がありまして。

 ……三学期に海外から留学生が来るという噂は本当でしょうか?」

 

『ん?あぁ、まぁすぐにわかることか。

 事実じゃよ。アメリカから少女が一人な』

 

「魔法科高校に来るのならば、当然魔法師ですよね?

 今の世界情勢で一時的にとは言え自国の魔法師を国外に出すのは違和感を覚えるのですが」

 

大亜連合による侵略戦争は各国の緊張感を高めていた。

撤退したが降参したわけでなく、自国にも侵攻してくる可能性を考え警戒態勢が続いている。

 

『代わりにウチからも一科生を一人送ることになっとる。交換留学じゃな』

 

「日本側も魔法師を出すことを承諾したと?……いよいよ理解しかねる」

 

『……口外するなよ。アメリカ側の強い要請によるものじゃ。

 留学生の名は『アンジェリーナ・クドウ・シールズ』。

 過去の戦時中にあちらに逃れた九島烈の遠縁。

 そして彼女のもう一つの名は『アンジー・シリウス』じゃ』

 

「っ、十三使徒!?」

 

USNA軍の魔法師部隊『スターズ』の総長であり、戦略級魔法師の一人。

情報が封鎖されている中でも、未成年だという話だけは聞いたことがあったが。

 

「……奴らは何のために日本へ?」

 

『…………勧誘』

 

「勧誘?誰の?」

 

『儂じゃよ、儂』

 

「は!?」

 

『お主を軍から引きはがす時、風間相手に『日本に拘りがない』と宣言したんじゃがな。それが漏れて伝わったらしい。

 魔法大国日本の魔法師の頂点、しかも蘇生すら可能とする最高の治癒術師。そりゃ自国に迎え入れたかろうて。

 以前の儂は完全に『正体不明』じゃったから交渉すら不可能じゃったが、今は第一高校におるわけじゃからな。

 そこでなら確実に接触できるからと本格的に乗り出したようじゃ』

 

「それで未成年であるから高校に通えて、本気度が伝わるシリウスを。

 ……受けるつもりはあるのですか?」

 

今の達也は六道家だ。当主である六道が他国に移るというのならついていく。

親しくなった友人たちと離れるというのは名残惜しくもあるし、特に深雪は悲しむかもしれないが、それ以上に彼女への恩が大きい。

 

『いやぁ無理じゃろ。あっちが儂を受け入れられん』

 

「は?しかし彼女は貴女を引き抜くために来るのでしょう?」

 

『いやだから、儂は神様で、『仏』じゃぞ?』

 

「……あー……」

 

アメリカの国教はキリスト教だ。それ以外の神を認めておらず、他の宗教の神々を『ゴッド』や『ゴッデス』ではなく『スピリット』と呼ぶなど徹底している。

そして人間だった頃の六道は仏教徒だったわけではないらしいが、成り立ちと性質から彼女は仏に分類されている。

 

「貴女がこの国にいる理由に、ようやく納得できました。

 日本ほど宗教に寛容な国はありませんからね」

 

『うむ。日本に拘りがなくとも、日本以外では暮らしづらいんじゃよ。

 それぞれの宗教の神の権威が強いから、他国は実質彼らの領地じゃ。

 勝手に入るのも心苦しいし、受け入れてもらえても気ぃ使うじゃろ?』

 

「……そもそも、いるんですか?貴女以外に神が」

 

『いたりいなかったりじゃな。多くの人の思いがそれっぽい精神体を作り上げることもある。

 ……あ、別の世界だとまた勝手が違うぞ?まったくいなかったり本物の神が大勢いたりで。

 別世界でじゃがイエス殿にも会ったことがある。気のいいお兄さんじゃったよ。

 うっかり聖痕が開いたりうっかり後光が射したりで、中々愉快な方じゃった』

 

「……キリスト教徒の前でそんなことをつぶやいたら、異端者扱いされて吊るされるでしょうね」

 

『ま、そういうことじゃ。儂は誤魔化しや隠し事はするが嘘はつけんからな。

 宗教関連で詰め寄られたら厄介なことにしかならん』

 

「安心しました。しかしまぁ、神々も随分と俗物的なものです」

 

『げらげらげらげら。神も仏もいるんじゃよ。意外と身近にな』

 

「皮肉のつもりだったのですが……とにかく了解しました。では失礼します」

 

『うむ。三学期に、学校での』

 

 

 

しかし三学期の始業式に、六道リンネは姿を見せなかった。

あくまで急用であり教師を辞めたわけではないが、以降も頻繁に休むようになった。

その理由は、これほどまで深く秘密を共有している達也にも明かせないと言う。

 

「ならばシリウスとは無関係だろうが……また、何かが起きようとしているのか」

 




本作では留学生は雫ではなく別の誰かとなります。
六道の下で成長できる環境が整っているので、彼女と仲のいい雫にとって留学はデメリットにしかならず受ける理由がありません。
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