『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第27話

レオが運び込まれたという六道系列の病院に達也と友人たちが駆け込む。

どうやら大事ではないらしく、検査入院の側面が強いそうだ。

安心した一行はゆっくりとレオの病室に向かうと扉の前に人影があった。

 

「どういうことですか!?」

 

「口にせねばわからんか?」

 

後ろに十文字を立たせた七草が声を荒げているが、対する六道は冷めた眼で彼女を見下ろしている。

 

「……何があったの。和兄貴。……いやホントに何があったの?」

 

「う、うぅぅ……ゲホッ」

 

エリカは廊下の脇に転がる、ボッコボコにされた千葉警部に話しかける。

息も絶え絶えに彼が語るにはレオは昨晩、とある暴漢に襲われていた七草の関係者の魔法師を庇って負傷したのだという。

よって七草は彼にお礼を言うためにとこの病院にやってきたのだが。

 

「それだけなら六道教諭が阻むとは思えませんが」

 

「そうだよ。七草のお嬢さんと十文字くんは西城くんに事件の聞き取り調査をしようとしたんだ。

 十師族の権威を振るい、僕ら警察に席を外させてね」

 

そこに六道が待ったをかけた。

彼女は医者で、この病院の主で、十師族最大勢力の当主。

例え七草と十文字が揃おうと彼女の決定を覆すことはできない。まだ当主の候補でしかない未成年なら猶更だ。

 

「犯罪に対処するのは警察の仕事じゃ。

 彼らと協力ができぬというなら儂も協力はできぬ」

 

「『吸血鬼』に、身内が襲われたのです。

 私には知る権利と、犯人を捕らえる義務があります」

 

「ならばなぜ十文字より先に儂に話を持ち掛けなんだ?」

 

「っ、それは……」

 

「弘一なら、儂が学園を離れがちだった理由を把握しておらぬはずがない。

 そして貴様も奴から聞いているはずじゃ。

 弘一の命令じゃろうから同情はするがな……部下を見捨てた貴様らには権利や義務以前に、彼らの身内を語る資格すらない」

 

「……わたし、は……!」

 

「よせ七草。……失礼する」

 

十文字に促され、七草は俯き足早に立ち去った。

彼女は通り過ぎる際に達也たちから向けられた視線に応じる余裕すらなかったようで、代わりにその後ろの十文字が目線を返す。

二人を見送った後で、やってきた生徒たちの顔が六道の方へと向く。

 

「……えーと、結局何がどうなってるの?」

 

「それに、『吸血鬼』って……」

 

「友人が巻き込まれたんじゃ。お主らには知る権利があろう。

 ……まぁ、巻き込んだのはそこのおまわりさんじゃがな」

 

「は、ハハハハ……」

 

「……なんとなく察しました。守秘義務は守ります。

 自分たちにも詳しく説明していただきたい」

 

「……全て語るぞ。よろしいな?」

 

「は、ははは…………はい……」

 

達也が見渡すと、深雪や友人たちが頷いた。千葉警部にも確認したところで六道が語り始める。

 

ここしばらく六道が第一高校を頻繁に離れていたのは、都内にて発生していた連続変死事件に対処するためだ。

現時点でレオを除き被害者は7人。死因は衰弱死。

かすり傷以外の外傷は一切ないが被害者は血液の1割が失われていた。

 

この事件を担当していた千葉警部は、横浜での伝手を利用して六道に協力を求めた。

彼女に事件の犠牲者の蘇生を依頼したのだ。

遺体の外傷がほとんどないのなら、死後ある程度時間が経過していても蘇生が間に合うかもしれないと話を持ち掛けた。

 

安易に蘇生に応じるべきではないと六道も理解はしている。

だが事故ではなく事件、そして被害者に一切の非がなく、蘇生した者から何か情報が得られれば事件解決につながるだろうと引き受けた。

 

しかしその蘇生は想定よりもはるかに難航した。時間が経過していたことだけが理由ではない。

遺体は綺麗だが残された霊体が著しく損傷していることが判明したためだ。

 

「いまだに被害者は全員この病院じゃ。

 入院させた体を装って、時間をかけて蘇生に取り組んでおる。

 つまり被害者はまだ誰も目を覚ましておらず彼等から得られた情報はない。

 というかあんだけ霊体が損傷しとると、蘇生しても事件の記憶があいまいになっとる可能性が高いがな」

 

「なるほど、そちらの対処のために六道教諭は時間を割いておられたのですね」

 

「そしてなぜか被害者の血が無くなってるから、犯人を『吸血鬼』と呼んでいるのですか」

 

「そうなる。碌な手がかりもないまま犠牲者はどんどん増えていく。

 なんで、警察が焦る気持ちはわかるんじゃがな……」

 

「街での調査中に偶然出会った西城くんに、俺が話をしたんだ」

 

レオは頻繁に夜の街に出かけており人と地理に詳しい。横浜事変で人格も能力も信頼できる。

だから何か情報が得られるかもと事件の秘密を明かしたところ、彼が自分から協力を申し出た。

千葉警部はその提案を受け入れた。無論、六道に無断で。

よって事件の後で彼がレオを巻き込んだと知った六道は、容赦なく千葉警部をボコボコにしたわけだ。

 

「レオの被害がほぼなく、レオ自身が言い出したのでなければ、もう少し苛烈に仕置きしとるところじゃよ」

 

「ということはようやく、レオという事件の当事者から話が聞けることになるわけですか。

 ……先輩方が強く面会を望むわけだ」

 

「どういうことですか、お兄様?」

 

「被害者はこの病院にいる者だけではないということさ。

 ……レオは誰を庇ったという話だった?」

 

「七草の、関係者?」

 

「正解じゃ。関東の守護を担当する七草弘一は事件を独力で解決しようと水面下で行動を続けておる。

 レオが守った者も意識も戻らぬというのに強引に引き取って行きおったわ。

 縄張りを荒らされて躍起になっているか、手柄の独り占めを狙っているか……いずれにしてもくだらん意地じゃ。

 そして儂の協力を得られぬということは?」

 

「……七草の魔法師たちは、死んだまま生き返れなかった」

 

「でもどうして七草の当主は、六道教諭にお願いしなかったんでしょうか?」

 

「七草所縁の魔法師ということは、七草の魔法を習得している魔法師ということじゃ。

 そして儂が死者を蘇生するには対象の遺体と霊体を調べ尽くさねばならん」

 

「つまり、七草家の魔法が六道教諭に漏れることを嫌った……?

 部下の命よりも……!?」

 

「十師族はどいつもこいつもそういう輩じゃからな。

 特に七草弘一はその傾向が強く、故に儂は奴を侮蔑する。

 そのせいで真由美嬢ちゃんの方にもちぃと当たりが強くなってしまうんじゃ。

 嬢ちゃん自身はまとも寄りなんで可哀そうじゃが、あ奴は弘一の意向に逆らえぬからな。

 そんで被害者には一つの共通点がある。全員が魔法師または魔法師の資質を持つ者じゃった」

 

「犯人は、魔法師を狙っていると?」

 

「うむ。もはやお主らにも他人事ではない。

 今までは事件自体は警察に任せていたが生徒が巻き込まれたんじゃ。儂も本気で解決に動く。

 そのためにもレオから話を聞かねばならぬ。……同席するか?」

 

「「「はい!」」」

 

「ん、よし。では行くぞ」

 

六道は決意の籠った眼で頷く子供らを引き連れ、レオがいる病室への扉を開けた。

 




犠牲者の蘇生は分体で対応することもできたんですが、今のところ蘇生ができるのは当主である六道リンネだけということになっているので、病院と学校の二つを一人で両立することはできませんでした。
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