『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第28話

 

「おう、お前ら。心配かけちまったみてぇだな」

 

病室へと入った一同をベッドに座ったままのレオがのんきに迎え入れる。

入れ替わるように、見舞いに来ていたレオの姉が気を使って席を外した。

 

「元気そうで何よりだ、レオ」

 

「元気元気。もう今晩にでも退院できるってよ」

 

「本当ですか?」

 

「本当にただの検査入院じゃよ。

 運び込まれた当初は僅かに霊体が損傷していたが、すぐに自然治癒する範囲じゃった。

 外傷も軽く腕を痛めた程度。……硬化魔法を使わずになんか硬いもの殴ったじゃろ?」

 

「油断してました。申し訳ねぇっす。

 コートの下にカーボンアーマー着こんでたみたいで」

 

「カーボンアーマーですか?一般人が手に入れられるものでは……」

 

「吸血鬼……一体何者なんでしょうか」

 

「半分は目星がついた。レオの体を調べたおかげでな」

 

「「「半分?」」」

 

「あぁ。吸血鬼とやらは『精神寄生体(パラサイト)』じゃ」

 

「パラサイトだって!?」

 

古式魔法を操る幹比古は聞き覚えがあるようだ。

悪霊やデーモンとも呼ばれる、肉体を持たぬ精神だけの存在。

人の精神に寄生して人間以外の存在に作り変え、支配してしまうという。

 

「そんな恐ろしいものがいるなんて……」

 

「では被害者の『衰弱死』とは」

 

「精気を吸い尽くされた結果じゃな。霊体の損傷はその副作用と見た」

 

「あぁ、敵に捕まれたと思ったら急に力が抜けてよ」

 

「触れるだけで捕食できるということか……いよいよ血液が消えていた理由がわからないな」

 

「それはまぁ今は良かろう。問題は、敵の正体のもう半分を知ることじゃ」

 

「……パラサイトが『誰』に寄生しているのか、ということですね?」

 

「カーボンアーマーを用意できるような輩に憑りついとるわけじゃからな。一般人ではあるまい。

 ついてはレオ。治療を優先し後回しにしていたが、事件についての詳細を語ってもらいたい」

 

「うっす。警部さんに吸血鬼の話を聞いてからは、毎晩街をフラフラしてたんですが……」

 

昨晩は公園を歩いていたところ、途中で異様な闘争の気配を察し近くに吸血鬼がいると確信した。

だがレオは探し出して倒してやろうなどとは思わず、位置情報とメッセージを千葉警部へと送り速やかに退散しようとした。

しかしその際にベンチに寝転がる意識のない女性、七草の関係者である魔法師を見つけてしまった。

脈が弱まっており命の危険があると判断したレオは、救急車を呼ぶべきかと迷っていた隙に背後から突然何者かに襲われた。

 

黒いロングコートと帽子、そして顔を丸ごと覆う白い覆面。明らかに不審な姿であり、これが件の吸血鬼だと確信した。

一撃目で携帯端末を破壊されてしまったが二撃目は手甲型CADで防ぎ、逆に武器を破壊してやった。

しかし吸血鬼は引かず中国拳法のような構えを取り、加速魔法を駆使して接近してきた。

全身硬化魔法を発動していたレオは『これなら容易に倒されることはない』と気を抜いてしまい、あっさり腕を掴まれる。

すると急に力が抜けていくので慌てて反撃して距離を取らせるも、この一瞬でレオは著しく疲弊してしまっていた。

 

「こりゃヤバイかって思ったんだが、そこで吸血鬼が両手を挙げたんだ」

 

「両手を、挙げた?」

 

「『降参する』とか言い出したんだよ」

 

「「「はぁ?」」」

 

「そこからなんか訳わかんねぇことまくしたてられてさ。

 オレも呆然としてたところに乱入者が来て、吸血鬼はそいつから逃げ出したんだ。

 仮面を被った妙な女で、そいつもとんでもねぇ動きだった。間違いなく魔法師だ。

 そのまま吸血鬼と仮面の女は追っかけっこしてどっかに行っちまった。

 そこで警部さんがやってきたってわけだ」

 

「……何それ?」

 

「オレが知りてぇよ」

 

(六道教諭、もしやその仮面の女とは?)

 

(リーナ……いや、アンジー・シリウスの可能性が高いな。

 であれば正体の残り半分はUSNA軍の魔法師ということか)

 

達也は常にリーナを警戒しており、六道も彼女の行動を気に掛けていた。

ハッキングにより彼女の任務の第一目標が『日本国内に潜伏した脱走兵の追跡と処分』に最近変更されたことも当然把握している。

USNA軍の魔法師が何らかの理由でパラサイトに寄生され軍を離脱。パラサイトの事を知ってか知らずかは分からないが、スターズは脱走兵扱いの彼等を追いかけているとすれば流れに納得がいく。

なぜパラサイトがここ日本に来たのかはわからないが。

 

(皆にお伝えすべきでしょうか?)

 

(まだ推測じゃ。それにUSNAが関わっていると知る方が余計な危険が増える。

 何より、今はパラサイトへの対処を優先すべきじゃろう)

 

((了解しました))

 

「西城くん。具体的に吸血鬼は、君に何を言ってきたんだい?」

 

「ん~~……『もう敵意はない』、『非を謝罪する』とか。

 その後の意味がわかんねぇんだよなぁ」

 

「だから、なんて言ったのよ?」

 

 

 

 

「『神の下に案内してくれ』……だったかな?」

 

 

 

「「「「「……はぁ?」」」」」

 

「あと『お前の中に神の気が』とか『やはりこの地に神が』とか……そんなん口走ってた気がする」

 

「……アンタ変な宗教にでもハマってんの?」

 

「ンなわけあるかっ!」

 

なるほど、確かに訳が分からない。

聞かされた者たちも一様に首を傾げている。

 

三人ほどを除いて。

 

 

「………………」

 

(……六道当主?)

(今度は何をしたんですか貴女は)

 

(知らん!知らんて!!USNAの人間に寄生しとるんじゃろ!?

 儂この世界に来てから今日まで一度も日本国外に出ておらん!

 第一高校に来るまでは九島以外は麻酔で眠った患者としか対面しとらんし!)

 

パラサイトが口にしていた『神の気』とは、十中八九『天神武装』だ。

レオは横浜事変にて、六道の強化魔法という扱いにしていたそれを受けている。

そして副作用として肉体と演算能力が強化された。その過程で彼の霊体の一部に、六道の気が混じったのだろう。

 

(儂が作り出したのでも意図して呼び寄せたのでもない!それは間違いない!

 儂自身が関与していれば無意識であろうと流石に気付くし、隠す理由も嘘をつく理由もないじゃろ!?)

 

(パラサイトの発生原因とは無関係……ですが西城君の発言を聞く限りでは)

 

(なるほど、貴女は『おびき寄せてしまった』だけか)

 

(多分……不可抗力で)

 

この世界には達也や美月など、特殊な目や感覚器官をもった魔法師が大勢いる。

だからそう言った者たちに気付かれぬように六道は神の気を押さえているのだが、どうしても残滓は残る。

そして彼女がこの世界に降り立ち日本に暮らすようになって既に半世紀近い。

日本という土地全体に彼女の神気がしみ込んでいてもおかしくはないだろう。

しかもつい先日この世界に『ブック・オブ・ジエンド』まで突き刺してしまった。

そして精神生命体は、同種の存在に敏感だ。

 

「よくわからないが、吸血鬼はその『神』とやらを探しているということか。

 だとしたらその手がかりである西城くんをまた狙ってくるかもしれないね」

 

「上等!今度こそ返り討ちにしてやりますよ!」

 

「病み上がりでしょ。無茶すんじゃないの」

 

「でもだとしたら、猶更早くなんとかしなくちゃ。

 これからレオを狙ってくるとしたら、僕らはもちろん第一高校の生徒みんなが危ないよ」

 

「そうでなくても、犠牲者が増えてく」

 

「……待ち伏せができるなら戦いようもある。

 悪いけど、西城くんを餌に吸血鬼をおびき寄せよう。

 もちろん本部に応援して可能な限りの戦力を集め……どうしました?」

 

いつの間にか六道たちを置いてどんどん話が進んでいた。

そして彼らも六道が黙っていることに気付いたようだ。

 

「いや……その……ぬぅぅ……!」

 

冷や汗をダラダラと流しながら六道は唸る。

レオは既に巻き込まれてしまった。生徒らもパラサイトという脅威を知った。

そして先ほど六道自身が千葉警部に巻き込んだ義務として『全てを話せ』迫ったばかりなのだ。

しかもこのままでは第一高校の生徒や警察官等の更に多くの人間が巻き込まれてしまう。

それに神の存在を確信したパラサイトが捜索を続ければいずれは神に辿り着くだろう。場合によっては大勢の前で。

となれば六道が取るべき行動は一つ。

 

 

 

「わ、儂がその、『神』じゃ……」

 

 

 

「「「「「は?」」」」」

 

関わっている人間が少ないうちに暴露するしかない。

 

「精神生命体からすれば神霊である儂は完全な上位種……存在に気付いたなら勝ち目はないと悟るはず。

 しかし善神寄りの儂から逃げるのではなく面会を求めるとなると、ただの悪霊というわけではないんかなぁ……?」

 

「いや『神』って……新興宗教の教祖か何かやってんですか?」

 

「もしかして吸血鬼とも何が繋がりが……?」

 

「ちゃうわい!儂はいたって善良な野良の仏じゃよ!?」

 

「……ホトケ?」

 

収拾がつかないと判断した達也が携帯を取り出す。

 

「もしもし、閣下。今よろしいでしょうか?」

 

『あぁ構わんよ。何事かね、達也くん』

 

「「「「「!?」」」」」

 

スピーカーモードに切り替えた達也の携帯から老人の声が聞こえた。

 

「え……閣下って……?」

「この声、九校戦で……!?」

「九島烈閣下!?」

 

『おや、周囲に誰かいるのかな?』

 

「自分と妹の友人たちと、その内の一人の兄である警部。そして六道当主です」

 

『ふむ……やらかしたか?』

 

「はい」

 

「なんで儂がやらかした前提で話が進むんじゃあ!!」

 

『実際やらかしたのだろう?』

 

「……はい」

 

『まったく……だから君を『正体不明』にしていたのだがな』

 

「彼らに秘匿をお願いするにも、まずは信じてもらわねば話になりません。

 説得に協力していただきたい」

 

『うむ、引き受けよう。とはいえ小型端末では話もしづらい』

 

「すぐに回線を用意します」

 




原作ではパラサイトが日本に逃げ込んだ理由はジード・ヘイグの手引きでしたが、本作では六道のいつものうっかりとなります。
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