『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第29話

 

レオの見舞いを終えたその日の夜。

六道は一人、レオが襲われたという公園で佇んでいた。

とはいえ完全に一人というわけではなく、離れた場所で達也たち一行と千葉警部が彼女と通信を繋いでいる。

 

『……周辺に人影なし。結界は正常に作用しています』

 

「そいじゃ、始めるぞ」

 

『……全員、腹に力を入れろ』

 

『達也さん?』

 

六道は秘めていた本来の力をほんの少しだけ解放する。

 

 

『『『『『!?!?!?』』』』』

 

 

学校で見せた力とはけた違いな、街どころか国すら消し飛ばすのではないかと錯覚させるほどの力の奔流が結界の内側にいる魔法師たちにダイレクトに伝わる。

例えるなら『天災』。それ以外の表現が見つからない。

 

『ぉ、あ、あぁぁっ!?』

 

『なに、よ!これぇぇっ!?』

 

『光がっ、これは……後光……!?』

 

『精霊が狂喜してる!こんなの人間が出せる力じゃない!!

 ……人間が使っていい力じゃないよ!!』

 

彼等は先ほど病室にて通信機越しに九島烈より説明を受けた。

 

『六道家は第六研究所出身の魔法師などではなく、六道リンネは人間ではない』

『荒れ果てた世を救うために異界より降り立った『仏』である』

 

魔法界の名士でありかつての最強の魔法師、そして十師族の創設者である九島烈が時間を割いてまで直接語ったのだ。

先んじてその事実を知り九島とつながりを持ったという達也もまた彼の言葉を肯定している。

だから世迷い事と否定することなくひとまずは受け入れたのだが、やはり信じ切ることはできずにいた。

だが信じるしかなくなった。

彼女が神か仏かはともかく、『神と呼ぶしかない力の持ち主』であることは嫌でも理解させられた。

特に霊的感知能力に優れた美月と幹比古には刺激が強すぎたようだ。

 

「……達也、来たようじゃぞ」

 

『っ、確かに、結界を突破してきた個体を確認した。

 数は1、2……多いな』

 

六道の放つ力は結界により阻害され、その外側には僅かな力しか漏れていない。

だが敏感なパラサイトならばその中に混じったわずかな神気に気付くだろうという予想は的中したようだ。

覆面とコートで全身を隠した異様な姿の者たちが六道の前に次々と現れ。

 

 

「……神よ……!」

 

 

一斉に跪いた。

 

『レオ、奴らか?』

 

『あぁ、オレとやり合ったのは白一色の覆面の奴だ』

 

「お主らが儂を探していると聞いた。敵意は無いと考えてよいか?」

 

「無論」

 

「探らせてもらうぞ?」

 

「御意」

 

先頭にいた一人が帽子を取り頭を差し出すと、六道はその上に掌を乗せる。

そして相手の記憶を読む。ここに来るまでの道のりと、彼らの目的を。

 

「…………理解した。よかろう、お主らは儂が保護する」

 

『『『『『!?』』』』』

「ありがたき幸せ」

 

パラサイト……吸血鬼は人々を襲いいくつもの命を奪った、その行いは悪であるはずだ。

予め六道から『受け入れることになるかもしれない』とは聞いていたが、それでも驚きは隠せない。

 

パンッ

 

六道が掌を叩きつけると、彼女の前に妙な形をした大きな人形が生み出される。

 

「これは『転神体』……魂の受け皿となる道具じゃ。

 儂は無為に犠牲を出すことも、人の世を騒がすことも望まぬ。

 憑りついている者たちも解放してやりたい。よってお主らを一度こちらに移す」

 

死神の世界の隠密機動が所有する霊具の一つ。

本来は斬魄刀の本体を転写して強制的に具現化するためのものだ。

所有者に合わせて成長する斬魄刀の本体は千差万別。

そのあらゆる姿に適応できるこの霊具ならば、霊体の詳細がわからぬパラサイトたちであろうとその受け皿になれるはずだ。

ただしその制限時間は三日間。

 

「その間にお主らの意見も聞き入れ、最適な義骸を用意する。

 儂を信じ、命を預けられるか?」

 

「「「「「ハッ!」」」」」

 

「わかった。では……」

 

『六道当主、通信を傍受。動きがありました』

 

「どちらか?」

 

『両方です』

 

「好都合じゃな。……では、少し待つとしよう」

 

六道の力は結界が阻んでいるが、魔法師ならば六道の力を抑え込むほどの強固な結界の存在そのものに気付く。

異常を察知し結界に飛び込んできた集団はその内側に渦巻く力の奔流に尻込みし、しかしその原因を調べるために『軍人』として果敢に突き進む。

 

そして結界の中心部、公園の広場に辿り着いた『アンジー・シリウス』と『スターズ』の精鋭たちは。

 

「ようやく来たか」

 

処分すべき脱走兵たちを後ろに従え、嵐のような力を放ち続ける六道リンネと会合した。

突然の離反から始まった不可解な一連の事件の黒幕が六道であると誤解してもおかしくない状況だ。

スターズの魔法師たちは一斉にCADを向けるが。

 

 

「そう逸るな。しばし待て」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

全員の魔法が発動前に全てキャンセルされた。

六道が使ったのは『術式解体』と呼ばれる技法であり、強大なサイオンの塊をぶつけることで起動式と魔法を吹き飛ばすという技。

彼等もその技の存在は知っているだろうが、まさか本来は圧縮し弾丸として放つはずのサイオンを無造作で全周囲に高密度で放出したなどと気づくはずがあるまい。

アンジー・シリウスの『仮装行列』も解除されてしまい、気付いた彼女は慌てて再び魔法を発動しようとしたが。

 

「う……ぐ……!?」

 

「お主らにもわかるようにやってやる。よく見ておけ」

 

同時にかけられた圧で、全員身動きが取れなくなっていた。

困惑するスターズを放置し、六道が彼等に見せつけるように転神体を前に構える。

そして札を一枚取り出し人形の頭部に張り付け、片手で印を組む。

 

すると彼女の傍にいる覆面たちの体から白い靄が立ち上り、靄が完全に抜け出たところで全員が力なく崩れ落ちる。

靄は空中で一つの塊となり、転神体の中へと入る。

 

「「「「「……!?」」」」」

 

『…………』

 

「ふむ、そうなるか。……不具合はないか?」

 

『……』

 

靄が入り込んだ転神体は姿を変え人の形となったが、目や鼻がなく輪郭がぼやけており、全身から淡い光を放っている。

元々不定形であったためか、憑りついていた人間たちの残滓が表面に出て人型になっているだけのようだ。

 

「さて、見たな?では儂らは失礼する。

 今のところお主らの誘いに乗るつもりはない。

 これらを連れて、とっとと国へ帰れ」

 

「っ!?」

 

彼女らの驚愕は当人に計画が漏れていたことか。

それとも六道と妙な人影が音もなく姿を消したことか。

 

「ぅはっ……はぁ、はぁ……!」

 

「……痕跡、ありません。完全にロストしました……!」

 

六道が消えると同時に圧から解放されたスターズは、しかし六道の魔法の痕跡すら見つけられない。

同時に結界も解除されたようだ。やがてここにも人が集まってくる。

彼女らは追跡を断念し、放置された意識のない脱走兵たちを回収して撤退していった。

 

 

 

 

「……マジで、消えた……」

 

「疑似的に、じゃない。本当の空間跳躍だって……!?」

 

「俺たちも撤収するぞ。気になるなら病院で直接聞けばいい」

 

「は、はい」

 

留まっていれば今度は自分たちが発見されるリスクが増すだけと達也が促す。

そして一行は『隠れていた第三勢力』に気付かれることなく、公園を後にした。

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