『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第30話

 

「六道教諭。お話があります」

 

一夜が明け翌日。

第一高校に出勤してきた六道は、すぐに七草に呼び止められる。

 

「これから昼休みじゃろ?儂は午後の授業の準備もあるんじゃが?」

 

「私の権限で、そちらは自習とさせていただきました」

 

「卒業間近の『元』生徒会長の振る舞いとしては横暴すぎぬか?」

 

「十師族の一人としてです」

 

どうあっても譲るつもりはない七草に、この展開を予想できていた六道は苦笑する。

 

「儂の部屋でいいか?」

 

「いえ、生徒指導室にて。十文字くんが待っています」

 

「ん、わかった」

 

大人しくついていくと、七草の言う通り既に十文字が待機していた。

他には誰もいない。二人が入ってきたところで十文字が障壁魔法を展開した。

 

「さて、なんの話……と聞くまでもないか。昨晩の件じゃろ?」

 

「この会話は全て記録させていただいています。

 内容によっては……我々は、貴女を告発せねばなりません」

 

「げらげらげら。できもしないことを口にするな。脅しにもならんぞ」

 

六道たちはスターズだけではなく、七草の魔法師もまた結界を超えてきたことを把握していた。

そして彼らが一幕を盗み見ていたことも。

 

「まぁお主らも当事者じゃしな。

 知りたいと望み、知る覚悟があるなら全て語ってやる。

 昨晩儂が相対していた魔法師集団はUSNAのアンジー・シリウスとスターズ。

 そして吸血鬼はUSNA軍の脱走兵じゃ」

 

「「!?」」

 

「発端は昨年の11月までさかのぼる」

 

アメリカのダラスにて『余剰次元理論に基づくマイクロブラックホール生成・蒸発実験』が行われた。

簡単に言えば『極小のブラックホールを人工的に作り出してそこからエネルギーを取り出す』ことを目的とした実験である。

では『なぜブラックホールを作ることがエネルギーを取り出すことに繋がるのか』という話だが、その原理は『この世界は薄い次元の壁に覆われる形で存在しており、壁の向こう側には魔法的なエネルギーが満ちている』という仮説を基にしている。

この壁を形成しているのが重力であり、であれば『一時的に超重力を発生させることで壁に穴ができて、そこからエネルギーを取り出せるのでは』と魔法学者たちは考えていた。

 

そして実験により、確かに次元の穴のようなものが生じた。

その穴を通じてこの世界にやってきたのが精神生命体『パラサイト』だ。

 

元は一つだったらしい彼はこの世界に来て細かく分裂し、彼等となった。

彼等がこの世界で生き延び活動するには肉体を持たねばならず、だから実験に居合わせたUSNA軍の魔法師たちに憑りついた。

そして彼らは軍から逃げ出し脱走兵となった。生き延びるために。

 

「魔法師、あるいはその素質を持つ者を襲ったのは自己保全のためじゃ。

 己の分体を憑依させ、増殖する。そうやって彼らは自分の仲間を増やす。

 憑依に失敗した被害者の血が失われていたのは増殖の過程で対象の血液を消費するからじゃな」

 

「何故、そこまで詳しいのですか……!?」

 

「保護した当人から聞いたからな」

 

「っ、吸血鬼を……パラサイトを匿っているという報告は本当なのですか!?

 どうしてそのようなことを!即刻処分すべきでしょう!」

 

「望まずこの世界に連れてこられた彼等もまた被害者であろう。

 彼らの行いに悪意はなく純粋な生存本能。人間に責める資格はあるまいよ。

 儂は彼等と和解し、これ以上の犠牲が出ぬ方法を確立した。手打ちとするには十分じゃ。

 アメリカ側を自業自得として除外すれば、幸いにも日本での死者は出ておらんしな」

 

「……何を、おっしゃっているのですか。死者なら」

 

「『結果的に死者はゼロ』。表向きはそうなっておるじゃろう?」

 

「……!?」

 

一般人の犠牲者は、現在六道が蘇生に当たっている。

事態を引き起こしたパラサイトを保護し詳細な情報を得たことで治療も進み、全員が間もなく目覚めるだろう。

そして他の犠牲者はいない。

七草家当主である弘一が、七草の魔法師の犠牲者を隠蔽して『いないことにしてしまった』。

 

「ほかならぬお主ら自身が機会を手放した。

 今更掌を返しても無駄じゃぞ。七草に彼らを糾弾する資格はもはやない」

 

「っ……」

 

言葉を失い俯いてしまった七草の肩を叩き、十文字が後を引き継ぐ。

 

「なぜ吸血鬼……パラサイトとやらは、貴女のところへ?」

 

「儂は大陰陽師の資格も持つ。現代魔法も使えるが、どちらかと言えば古式魔法の使い手なんじゃ。

 霊体の扱いにかけて儂の右に出るものはこの世におらぬ。

 彼らは儂の能力を感じ取り、己の生存のためにはその庇護下に入るのが最良と判断し、この日本へと来た。

 故に日本での事件は儂にも責任の一端がある。

 パラサイトたちの保護のみならず、蘇生した被害者たちにも可能な限り報いるつもりじゃ」

 

「七草の魔法師が、貴女の強大な力を目の当たりにしたと聞く。

 力を見せたのは連中を惹き寄せるために?」

 

「いかにも。パラサイトたちに加え、それを追うスターズをもおびき寄せるため一計を案じた。

 パラサイトを剥がしたUSNA軍の魔法師たちを回収してもらわねばならんからな。

 他の魔法師や国防軍に捕らわれれば余計な面倒を産む」

 

「何故だ。うまくすればアメリカに対する強力なカードに……いやまさか。

 スターズに対し、貴女は『誘いに乗るつもりはない』と言ったそうだが」

 

「あぁ。アメリカは儂を引き抜きたいらしい。

 留学生としてやってきた『アンジェリーナ・クドウ・シールズ』はその使者じゃ。

 しかし中々向こうから言い出せぬ状況であったからな。

 あの場できっぱりと断った方が良かろうと判断した」

 

「……事の顛末から、アメリカに味方するつもりでないとは理解できる。

 だが貴女が日本にこだわりがないという噂は我々も聞き及んでいる。

 これは事実無根と信じてよいか?」

 

「いや、その噂自体は間違いなく事実じゃよ。

 儂が日本におるのは、今のところ一番暮らしやすいのがこの国だからというだけじゃ。

 しかしここが暮らしにくくなったら……どうしようかの?」

 

「…………」

 

十文字は二の句が継げなくなる。

これ以上糾弾して事態を大きくし機嫌を損ねてしまえば、彼女はこの国を去ってしまうかもしれない。

横浜事変を経て国内の崇敬を集める彼女の喪失はあまりに痛手であり、それどころか仮に敵に回ればどれほどの脅威となるか。

昨晩六道の力を感じた七草の配下たちは『アレは人間じゃない。人間が逆らえる相手ではない』と口を揃えて今も怯えている。

俄かには信じがたいが、それほどの実力者であるならば猶更だ。

 

「さて、まだ何か聞きたいことはあるか?」

 

「……いや、今のところは」

 

「そうか。また何か疑問があれば尋ねて構わん。

 パラサイトたちの顛末も、彼らが落ち着いたら伝えよう」

 

六道は席を立ち、さっさと退出してしまう。

それでも七草は立ち上がることができず、十文字はその隣で座ったまま待ち続けた。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「……なによ、それ」

 

第一高校の、とある人気のないエリアにて。

何も知らぬという体を装った深雪が『六道教諭から頼まれた』と言って渡してきた端末を握り、リーナは震える。

七草の動きを読んでいた六道は十文字の結界すら貫く通信機を持ち込み、生徒指導室での会話をリーナへと盗聴させていたのだ。

 

「私はもう、4人も殺したのに……これ以上手を出すなって言うの!?

 全部『自業自得』ですって!?」

 

それは彼女が六道篭絡の任務を与えられる前の、アメリカでの話。

精神寄生生命体なんてものの存在を知らずにただ『軍紀に逆らった裏切者』として、彼女は仲間を処断してしまった。

パラサイトに憑依されていた者たちは無事に回収できたが未だ意識は戻らない。

そして目覚めたとしても以前のようには戻れないだろう。パラサイトに操られていたとは言え、軍人であるはずの彼らはアメリカで守るべき国民を幾人も殺している。記憶が残っていれば罪の意識にさいなまれるかもしれない。

軍の研究機関もパラサイトという未知の存在を調べるための『実験体』として、彼らの体を切り刻むだろう。

 

「納得できないわよ……できるわけないじゃない……!」

 

脱走兵は全て確保に成功した。

だが六道の勧誘は難しく、少なくとも実力行使は不可能と昨晩思い知らされた。

こんな物を送りつけて来たのだから正体も任務も全てバレていると見ていい。

リーナの今後の計画は根本的から見直されることになるだろう。撤収命令が下る可能性すらある。

 

だがリーナは圧倒的実力差を思い知らされた今でさえ『このままでは終われない』と、胸に暗い炎を宿らせていた。

 

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